インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
けど、ここで気合を入れないと後々で後悔しそうな気がするので、なんとか頑張ります。
そんな訳で、新年一発目はこの作品です。
べ…別にテレビで放送されたガンダムNTに影響を受けたわけじゃないんだからね!
一進一退の攻防。
傍から見ていれば、そのように見えてしまう程の激闘。
実際、観客席で試合を観戦していた生徒達は、頬を伝う汗にすら気が付かない程に試合を見ることに集中していた。
「あの戦車みたいのに乗ってるソンネンさんってさ…足が不自由…なんだよね?」
「うん…そう聞いてるけど……」
「それなのに…あんな凄い試合をしてるの……?」
「信じられないよね……」
そもそもな話、脚が動かないのにIS学園にいること自体が全体未聞なのに、入学早々に代表候補生と試合をするなんて有り得ない。
少なくとも、良い意味でも悪い意味でも常識的な感覚を持っている少女達からすれば、目の前で繰り広げられている光景は非現実的だった。
「「「「…………」」」」
試合開始当初はISの試合が見られるという興奮でアリーナ全体が歓声に包まれていたが、今は逆にシーン…という擬音が見えそうな程に静寂に包まれている。
まるで、試合をしている二人の緊張がそのまま彼女達に感染してしまったかのように。
この試合、一体どっちが勝つのかは全く分らない。
当初の下馬評を試合開始数秒でひっくり返してみせた少女が目の前にいるから。
そんな彼女達にも一つだけハッキリと分かっている事がある。
それは、この試合がどのような形で終わろうとも、確実に自分達の常識はもう二度と通用しなくなるということだ。
駆動音と爆音。
この二つが鳴り響く中、二人の試合は佳境を迎えようとしていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
(セシリアの奴…一気に動きにキレが出てきやがったな……)
二丁あったマシンガンのうちの一丁を破壊されてから、ソンネンは一度も被弾をしていない。
それ自体は何も問題は無いのだが、同時に攻撃をする隙もまた少なくなってきていた。
(射程距離はこっちの方が上だが…実弾とレーザーでは発射速度が違う。そこはこっちの腕でカバーすればいいだけの話だが、一番の問題は空中を高速移動しながら的確に狙撃をしてきてるって点だ。こりゃあ…オレも気合を入れ直さなきゃダメかな?)
冷静に状況を分析しながらも、その脳内にはアドレナリンがさっきから分泌されまくっていた。
興奮状態にあるにも関わらず、頭の方は常に冷静であり続ける。
歴戦の戦車兵だからこそ可能な芸当だった。
とある貴族主義の眼帯男風に言えば、今のソンネンは見事に『自分の感情を制御出来ている』と言える。
(まさか…デメジエールさんに広範囲攻撃を可能にする方法があったなんて! これではオールレンジ攻撃を可能とするビット兵器は却って不利になる!)
一方のセシリアも、視線をずっとソンネンに向けながら引き金を引き続けつつ、先程の散弾によって二基のビットが同時に破壊されたことに衝撃を隠せないでいる。
(これまでに使用したのは『通常榴弾』と『対空用榴散弾』の二種類……ほぼ間違いなく、他にも数多くの弾種があることは確実! 私は完全にビット射出のタイミングを見誤った! 戦況だけじゃなく、精神的にも私は追い詰められている!)
例えるなら、今の状況はカードゲームのようなもの。
自分の切り札を出して、これで…と思いきや、向こうの手札から思わぬカードが飛び出してきて逆に不利に陥ってしまう。
しかも、これにより疑心暗鬼状態になってしまい、向こうの手札がどれぐらいあるのか、そんな効果を持っているのか、それが全く分らないようになってしまった。
(冷静になるのよ、セシリア・オルコット! ここで懊悩すれば、それこそデメジエールさんの思う壺! 彼女の程の人が私の今の心境を計算に入れていない筈がない!)
頭の中はさっきからグルグルとしていても、奇跡的に射線が全くぶれていない。
彼女は知らないが、その点もソンネンは非常に高く評価していた。
(なにより、向こうは実弾でこちらはレーザー! 長期戦になればなる程、不利になるのはこっち! エネルギー切れで負けるなんて無様を晒すぐらいならば…思い切って!!)
ソンネンの周囲を飛び回っていたビットに帰還命令を出して収納。
その後に、いきなりセシリアはソンネンに向かって突撃を仕掛けてきた!
「自棄になっちまったかぁぁっ!?」
「まさか! そんな事はありませんわ! ただ……」
マシンガンで弾幕を張って接近を阻止しようと試みるが、一丁だけでは余りにも薄い。
体を器用に捻りながら弾を避け、セシリアは高速でソンネンの横を通り過ぎて行った。
「成る程…そういうことかよ!」
一瞬でセシリアの企みを見抜いたソンネンは、地面スレスレの所まで降下しながら、銃身だけは自分の方を向いているセシリアに向かってマシンガンで迎撃を試みる。
「これで!!」
「させるかよ!!」
マシンガンの弾が僅かに命中し、発車直前でセシリアの斜角をずらす事に成功。
レーザーはヒルドルブの肩の斜め上を通過して壁にぶつかった。
「「まだまだ!!」」
しかし、そこで終わらないのがこの二人。
その状態でソンネンとセシリアは、円を描くようにしながらの銃撃戦を繰り広げ始めたのだ。
ソンネンは知らないが、これは『サークル・ロンド』と呼ばれる高等技術で、それを自然体でやってのける彼女の才能は、見る者が見れば凄まじいの一言に尽きた。
「流石はデメジエールさんですわね! まさか、ダンスの才能までお有りになるなんて!」
「お褒め頂いて光栄だよ! まだまだ
マシンガンの弾がセシリアの頬を掠り、一筋のレーザーが分厚い装甲を掠る。
後にこの試合を見た生徒達の一人はこう語っている。
『こんなの、絶対に新入生同士の試合じゃない』…と。
(向こうが降りてきたお蔭で戦いやすく放ったが…このままじゃジリ貧だな…ならば!)
(斜角を平行にすれば或いは…と思っていたけれど、流石はデメジエールさんですわね! このままじゃ私がの方が先にSEが無くなる! それなら!)
((ここで決める!!))
延々と回っていた動きが一瞬だけ静止して、セシリアのライフルが確かにヒルドルブの胴体を捉えた。
(あの巨体ならば、本体を安定させて砲身をこちらを向けさせるまでにかなりの時間が掛かる筈! これで……えっ!?)
だが、スコープ越しに見えたのはセシリアが全く予想もしていない光景だった。
(う…嘘でしょうっ!? 本来ならば作業用、もしくは近接用に使う筈のサブアームを
ヒルドルブには姿勢安定用や近接攻撃用に、本来の両腕の他に『ショベル・アーム』が存在している。
通常は主砲発射時に反動を少しでも抑える為に用いられているのだが、ソンネンはあろうことか、それを地面に突き立ててから、それを支点にしてヒルドルブを無理矢理に急旋回させた。
当然、そんな使い方をすればショベル・アームにも多大な負担が掛かるが、そんなのはソンネン自身も承知の上だった。
(すまねぇな…相棒! だが頼む! なんとか持ち堪えてくれ!!)
鋼鉄の巨体をたった一本のアームで支えているせいで、所々から金属が引きちぎれそうな音が聞こえてくる。
ヒルドルブのキャタピラは地面から完全に浮いていて、その姿はまるでウィリー走行でもしているかのよう。
そんな状態、ほんの一瞬の僅かな時間を使って狙いを定めた。
「
「やらせませんわ!!!」
発射はほぼ同時…に見えたが、コンマ数秒だけソンネンの方が早かった。
しかし、レーザーの方が速度は上。
これは相打ちか? 誰もがそう思っていたが、ここでまた意外な結果を全員に見せる事になった。
「なっ!?」
「へへ……」
なんと、発射の反動でショベル・アームが引き千切れ、ヒルドルブは激しく地面に着地した。
そうすることで、レーザーは機体の頭上を通り過ぎていき、逆に発射された砲弾は不安定な状態だったせいか、セシリアの胴体ではなくてレーザーライフルに向かって飛んでいた。
(しまっ……!)
発射の体勢のままだったセシリアに避ける術など無く、この最大の一撃は彼女のメインウェポンであったライフルに直撃、破壊した。
「あぁぁあぁぁあぁぁっ!?」
ライフルが爆発したことでセシリアが吹き飛ばされ、一気に壁際まで追い詰められる。
それによってSEもかなり減ってしまったが、それでも辛うじて戦闘継続可能なぐらいには残っていた。
(ライフルが破壊されてしまった以上、残っているのは近接用ショートブレードの『インターセプター』とミサイルビットだけ……。デメジエールさん相手に不利は否めませんけど、それでもやるだけの事は……え?)
セシリアは自分の目を疑った。
自分目掛けて、一発の砲弾が目の前にあったのだ。
スローモーションのようにゆっくりと見える砲弾。
信じられなかった。
どれだけソンネンが優れた戦士であっても、砲弾の装填時間まではどうしようもない。
自分で操作をし、それによって機体が次弾を装填する。
どれだけ早くても1~2秒。遅くても3~4秒ぐらいの時間は掛かる筈。
だがしかし、今回のは一秒も経っていないにも拘らず次の弾が発射されていた。
本当に何をどうしたのか分らない。
だが、セシリアは不思議とどうでもよくなっていた。
それどころか、何故か笑みまで浮かべていた。
(あぁ……これが敗北…なんですのね……)
砲弾は直撃し、ブルー・ティアーズのSEは完全にゼロになった。
【ブルー・ティアーズ、エンプティー! 勝者…デメジエール・ソンネン!】
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「悪かったな…相棒。後で技術屋に頼んで修理して貰うからよ」
試合終了し、ソンネンはヒルドルブを待機形態である車椅子に戻してから、所々が汚れてしまっている相棒を軽く叩いてから慰めた。
「さて…と」
車椅子を動かして倒れているセシリアの元まで向かう。
彼女もまたSEが切れた事で専用機が強制解除されていた。
「大丈夫か?」
「えぇ…なんとか」
「そっか。そいつはよかった。あの一撃でお前の綺麗な肌に傷でもつけたら大変だったからな」
「全く…貴女って人は……」
試合に負けたにも関わらず、セシリアの顔はとても晴れやかだった。
今までに抱えていたものが無くなり、背中が軽くなったかのように。
「最後の一撃…あれは何だったんですの? あのリロード速度は……」
「あれな。着地の反動で無理矢理に装填した」
「はい?」
一瞬、我が耳を疑った。
反動で装填した? 無理矢理?
「昔は不可能だったけど、どうもITになってから構造上、理論的には出来るって言われててな。ずっと前にヒルドルブでウィリーはしたことはあったから、その感じでやれば行けるかなーって思って。ダメ元でやったら、なんかできた」
「…狙いはどうやって定めたんですの? 本当に一瞬だったでしょう?」
「んなもん勘だ。勘」
「か…勘……」
そんな生易しい次元の話じゃない。
文字通り、着地をした一瞬で完璧に標準を合わせるなんて、そんなのは国家代表だって不可能だ。
少なくとも、セシリアはそう思っている。
「まぁ…自分でも褒められたことじゃないとは思ってるよ。やろうと思えば出来るとはいえ、自分の相棒に負担を掛けさせてまでする事じゃねぇよな。実際、あれはヒルドルブ自体にも多大な負担を掛けるから、一度の試合で一回が限界だし、同じ弾種しか連射は不可能だしな。ジョーカー…って割には使い勝手は良くないんだよなぁ~……」
間違いなく、生前以上にヒルドルブを酷使している。
そうしなければならない状況に追い詰められている時点で、ソンネンは自分を戒め、これからも訓練に励む事を決意するのだった。
「けど、そんな判断をオレにさせる程にセシリアは強かったって事だ。お前と試合が出来て楽しかったぜ」
「えぇ…こちらこそ。生まれて初めて、ISの試合を心から楽しんだような気がしますわ……」
ソンネンが差し出した手を掴んでからセシリアは立ち上がり、改めて二人は暑い握手を交わす。
そこでようやく、観客席にいた生徒達が一斉に拍手をし始めた。
一部の生徒に至っては感動の余り、立ち上がって涙ぐんでいる者もいた。
「うぉっ!? お…驚いた……」
「ビックリしましたわね……」
図らずも同じ部屋に住んでいる者同士で試合ではあったが、これで互いに遺恨が残るような事は無いだろう。
寧ろ、この試合を通じて二人の絆はより強固なものとなっていくだろう。
セシリアの方は特に……。
ヒルドルブの切り札とは、限定条件下での『連続発射』でした。
地味に強力ではありますが、使い勝手は最悪です。
その分、命中した時の爽快感は抜群。
次回は試合後の話。
原作キャラ達は何を思ったのでしょうか?