インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
まぁ…大方の予想通りの反応をします。
ソンネンの勝利で試合は終わり、彼女は疲れた様子なんて見せないままピットへと戻ってきた。
そんな彼女を出迎えたのは、幼馴染達と同じ部隊の仲間達、新たに出来た親友たちの労いの言葉だった。
「やったなソンネン! いやぁ~…マジで凄かったぜ!」
「お前ならば必ず勝てると信じていたぞ! しかし、まさかソンネンがあれ程の実力を隠し持っているとは思わなかった! 本気で感服した!」
「へへ…まぁな」
一夏と箒のストレートな言葉に、少し照れながら頬を掻く。
普段から余り褒められ慣れていないから、こんな時にどんなリアクションをすればいいのか分からないのだ。
「ソンソン! やったね~!」
「うん…あの重厚な機体で、あそこまで軽快に動けるなんで思わなかった」
「あいつとオレは一心同体だからな」
本音と簪の言葉にも普通に答えているが、その顔はニコニコ笑顔になっている。
なんだかんだ言って嬉しいのだろう。
「お見事でした、ソンネン少佐」
「あんがとよ、モニク」
「でも、無茶するところは相変わらずですね。最後の一撃、機体に相当な負荷が掛かってたんじゃないんですか?」
「そうしなきゃヤバかったんだから、しゃーねーだろ? セシリアがそれだけの強敵だったって事だ」
「そーですか」
セシリアの事を褒めるような言葉に、頬を膨らませてそっぽを向くモニク。
昔から憧れていた人物が別の人間を褒めた事に嫉妬しているのだろう。
「ンなわけだからよ、いっちょ修復と整備…頼むわ。オリヴァー」
「了解です。そもそも、あの連続射撃の方法を提示したのはボクでしからね。この展開は予想出来てました。予備のパーツを使えばショベルアームはどうにかなるだろうし、整備の方もそこまで時間は掛からないと思います」
「そっか。ソイツはなによりだぜ」
自分でも相当に無茶をした自覚があったので、少しだけ心配していたが、専門家から大丈夫と言われたので、心の中で密かに胸を撫で下ろしていた。
「ソンネン少佐」
「よぉ…カスペン大佐。どうだった? オレさまの試合はよ」
「見事としか言いようがない試合だった。流石は我がジオン軍の誇る最強の戦車兵だな。久し振りに貴官が戦う姿を見て、私もなんだか心が熱くなるのを感じたよ」
「ドイツ代表サマにそう言って貰えて光栄だぜ」
勝利したソンネンを労うように、カスペンは手を差し出して握手をした。
「改めて確信したよ。少佐は間違いなく、来たるべき決戦の折には必要不可欠の人材だ。これからも、よろしく頼むぞ」
「こっちこそな。あんたがオレ達に期待しているように、オレ達だってアンタに期待してるんだぜ?」
「ならば、その期待に全力で応えなければな。大隊長として、生徒会長として、国家代表として」
その小さな背中に数多くの物を背負ってはいるが、それを重荷に感じたことは一度も無い。
自分には頼りになる仲間がいて、だからこそ戦えるのだ。
「噂話は嘘じゃなかったって事だな。本当に凄かったぜ。少佐殿」
「アンタがそれを言うのかよ? 聞いてるぜ? 例の『大蛇』も相当にヤバいらしいじゃねぇか」
「おう。近いうちに必ず見せる機会はあるだろうから、その時を楽しみに待ってな」
似た者同士なのか、ニカッと笑い合いながら拳をコンと軽くぶつけ合うアレクとソンネン。
『大蛇』と『狼』の連携なんて、敵からしたら恐怖でしかないだろう。
「デュ…デュバル少佐……あれがソンネン少佐の実力なんスか…?」
「そうだ。あいつは例え、どのような状況に陥ろうとも最後の一瞬一秒まで決して勝利を諦めない。あんな性格をしているから誤解されがちだが、実はソンネンの奴が603技術試験隊の中で最も冷静沈着なんだぞ?」
「マジっすか……」
「だからこそ、頼りになるんだよな~」
「なんか…それは分かる気がする……」
前世でも少ししか交流が無かったワシヤだが、だからこそ色眼鏡無しでソンネンの凄さを実感できた。
一方、デュバルとヴェルナーは元々から彼女の凄さを知っていたから、そこまで驚きはしなかった。
寧ろ、セシリアには悪いが、ソンネンが勝利することはある種の確定事項であるとさえ思っていたほどだ。
そして、少し離れた場所から眺めていた楯無と虚が最も驚きを隠せないでいた。
「まさか…あれ程の実力を隠し持っていたなんてね……」
「機体の性能も相当ですが、それを手足のように操ってみせたソンネンさんの実力が桁違いです」
「そうね…正直、私でも勝てる自信が無いわ……」
楯無も決して弱くは無いが、それでも矢張り経験が違い過ぎる。
だからこそ理解する。もしもソンネンと試合をする事になったら、自分の持つ全てを賭けないと勝ち目はないと。
「傍から見てると、清楚な和風美少女なのにねぇ……」
「人は見かけによらない…を如実に表していますね。つい先程まで、あんなにも激しく荒々しい試合をしていたとは思えません」
「全くね。こうなると、他の子達の実力も気になってくるわ。ソンネンさんやヴェルナーちゃんとか……」
「お嬢様が一番気になっているのは、ホルバインさんの事じゃないんですか?」
「な…何を言っているのかしらッ!? そんな事ある訳ないじゃない!」
「そこで動揺している時点で『イエス』と言っているようなものですよ?」
「うぐ…!」
従者とは言えども、虚の方が何枚も上手だった。
「ソンネン」
「あね…じゃなくて、織斑先生。どうだったよ?」
「まずはおめでとうと言わせて貰おう。本当に見事だった。身内贔屓かもしれんが、正直お前が負けるとは思っていなかった。ソンネンならば、たとえ相手が代表候補生であろうとも必ず勝つと信じていた」
「お…おぅ……あんがとよ」
またもや苦手な実直な褒め言葉。
照れ隠しで頬を掻きつつ視線を逸らす。
無論、其処で何も感じない千冬他ではなかった。
(照れるソンネン…可愛いなぁ……抱き着いてもいいだろうか?)
ダメに決まっている。
(ソ…ソンネンめ…! いつの間に、そんな色香のある顔が出来るようになったのだ…! くっ…思い切り抱き着いて、その胸に顔を埋めたい…!)
あの姉にして、この妹あり…かもしれない。
やっぱり束と箒は姉妹だった。
(ソンネン少佐…計算してやっていたら最低ですけど、天然だったらもっと最低です。だって、こんなにも私の心をかき乱すんですから……)
モニク。お前もか。
「お見事でした、ソンネンさん! 私も、ソンネンさんが絶対に勝って信じてましたよ!」
「ありがとよ、山田先生。今度は全力のアンタとも試合がしたいな」
「私もです! その時は本気でいきますね!」
「あぁ! 楽しみにしてるぜ!」
教師と生徒なのに、本当に仲がいい真耶とソンネン。
一番の強敵は最も身近にいるかもしれない。
「それでだな…ソンネン。実は先程の試合、録画をしていてな。それをIS委員会の方に試しに提出してみようと思うんだが…構わないだろうか?」
「IS委員会に? オレは別に構わねぇけどよ…またなんで?」
「なに、少しでもお前の可能性を広げたいと思ってな」
「可能性…ね」
なんとなく千冬の言おうとしていることが理解出来た。
唯でさえ足が不自由な自分だ。
今はまだいいとして、成人してから就職などをどうするべきかをちゃんと考えておかないといけない。
このご時世、身体障害者でも仕事は有りはするが、それでも難しい事には変わりなかった。
「織斑先生。お話し中で済みませんが、少しいいですか?」
「どうした、マイ」
「ヒルドルブの修復と整備をしている間、ソンネン少佐用に別の車椅子を用意して貰うことは可能でしょうか?」
「その事か。任せておけ。代替の車椅子は私の方で手配をしておく。あれ程の試合を見せてくれた相手を学園側も無下にはしないだろう」
「ありがとうございます」
「あんがとよ」
仲間達と話しながら、ソンネンはふと、セシリアが戻っていった反対側のピットを見た。
(今頃、アイツはどうしてるのかね……)
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
試合が終わり、セシリアは一人でシャワーを浴びていた。
その顔は未だに赤く染まっており、息遣いも荒かった。
(まだ…試合の時の興奮が抜け切れませんわ……。今までに色んな人と試合をしてきたけれど、あんなにも昂ぶって心躍る試合は初めてだった……)
頭によぎるのは、試合中のソンネンの姿と、日常生活でよく見ている彼女の顔。
分厚い装甲に隠れていても、セシリアには見えていた。
ソンネンが目をギラギラとさせながら、ずっと笑っていた事を。
「デメジエールさん…デメジエールさん…デメジエールさん…デメジエールさん…♡」
もうセシリアの頭の中はソンネンの事で一杯。
これが自分の初恋であることは自覚していたが、まさか、これ程までに夢中になるとは思わなかった。
ちゃんと汗を流さないといけないと理解はしていても、心臓の鼓動は早くなるばかり。
早くソンネンに会いたい。その笑顔を見たい。抱き着きたい。
「私…貴女に恋してますわ……デメジエールさん……愛しの人…♡」
この想いはもう止められない。
今から、部屋に戻る時が楽しみで仕方が無かった。
この日、少女達に非常に強力なライバルが誕生した。
本気で恋する乙女は誰にも止められない。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その日の夜。
少しでも試合の疲れが取れるようにと、二人は学生寮の自室にてのんびりと過ごしていた。
既に二人とも汗は流していて、お互いに寝間着状態になっている。
「こうして目を瞑っただけで、今日の試合を鮮明に思い出せる。本当に楽しかったよなぁ~…セシリア」
「そうですわね。本当に…本当に楽しい試合でしたわ……」
ソンネンの方は放課後の試合を思い出して感慨に耽っていたが、セシリアの場合はそうではない。
ベットの上で悠々と寝転がっているソンネンの姿にキュンキュン状態だった。
「明日にはヒルドルブを整備と修復しないとなぁ……」
「私のブルー・ティアーズもですわ。予備のビットに交換して、それから……」
と、ここで会話が途切れる。
気が付くと、ソンネンが静かな寝息を立てながら眠っていた。
「すー…すー…」
完全に熟睡しているようで、試しにセシリアが近づいても全く起きる気配が無い。
その無防備な姿にふと、セシリアの中で悪戯心が芽生えた。
(こ…これだけぐっすりと眠っているのなら…もっと近づいても大丈夫なのでは…? いえ、それどころか、いっそのこと……)
声を出さず、セシリアは静かにソンネンが寝ているベットに体を乗せて、そのまま横になってから彼女に並んだ。
俗にいう『添い寝』に近い状態になった。
(デ…デメジエールさんのお顔がこんなにも近くに! なんて美しい寝顔なんですの……。睫毛も長くて…肌もお綺麗で…髪も高級絹糸のようで……)
本人無自覚のまま、セシリアは寝ているソンネンの頬や髪を撫でていた。
それでもまだソンネンは爆睡中。
(なんて可愛らしい唇なのかしら……)
うっとりとしながら顔を近づけていく。
だが、寸前の所で我に返る。
(な…何をしていますのセシリア・オルコット! いかにデメジエールさんが可愛らしくて美しい女性であっても、寝込みを襲うような真似は貴族以前に人間として最低ですわよッ!?)
ギリギリのところで最後の一線だけは越えずに済んだ。
だからと言って、彼女の中の燃えるような恋心は全く収まってはいないのだが。
(それに…キスはまだ早いですわ……。この想いすらまだ伝えていないのに……)
もしも告白したら、ソンネンはなんて答えるだろうか。
全く想像が出来ないだけに、そこには僅かな恐怖心も生まれる。
(…キスは無理でも、せめて…このままでいる事は許してくださいまし……)
セシリアは自分とソンネンの体に一枚のシーツを被せ、リモコンにて部屋の電気を消した。
愛しの人に寄り添うように寝ているセシリアの顔は、とても幸せそうだった。
余談だが、次の日の朝にセシリアと一緒に寝ている事に気が付いても、ソンネンは皆が期待しているようなリアクションはしなかった。
至って冷静に『どうしてセシリアと一緒に寝てるんだ?』としか思わなかった。
皆はそれぞれの反応をし、セシリアは完全に恋に目覚めました。
一緒の部屋であることもあって、ここから一気に燃えあがるでしょう。