インフィニット・ストラトス IS IGLOO   作:とんこつラーメン

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今回、やっと一夏の機体が到着します。

と言っても、余り活躍の機会は無いでしょうが。












そして、英国少女は扉を開く

 試合があった次の日の朝。

 いつものようにセシリアはソンネンの朝の支度を手伝っていた。

 が、今朝の彼女はどうもこれまでとは違っていた。

 簡単に言えば、妙に機嫌がいいのだ。

 激戦だったとはいえ、結果としてセシリアは試合に負けた。

 ならば、大なり小なり落ち込んだりするのが普通であるが、彼女の場合は鼻歌交じりにベッドに座っているソンネンの髪を櫛で梳いている。

 

「なんか朝から機嫌がいいな。どうしたんだ?」

「そ…そうですか? 私はいつも通りでしてよ?」

「そっか~? まぁ…お前がそう言うんなら、それでいいけどよ」

 

 特に深く気にする事も無く、ソンネンは再び前を向いた。

 だからこそ気が付かない。セシリアの顔が緩みきっている事に。

 

(今日もデメジエールさんの髪はなんて素晴らしい触り心地なのかしら…。全く櫛に引っかからないで簡単に梳けていく……。今の私は間違いなく、学園一の幸せ者ですわ…♡)

 

 それは流石に大げさすぎだ。

 だが、誰もツッコむ者がいないので普通にスルーされる。

 

「そういや、セシリアは昨日の疲れは残ってないか?」

「私ならば大丈夫ですわ。デメジエールさんはいかがですか?」

「こっちも問題無しだ。寧ろ、いい具合に熟睡出来て気分爽快だよ」

「それは何よりですわ」

 

 昨晩、ソンネンが熟睡出来た事はセシリア自身が一番よく知っていた。

 何故なら、彼女の事を半ば抱き枕のようにして眠っていても、ソンネンは全く起きる気配が無かったから。

 このお貴族様、完全に調子に乗っている。

 

(…はっ!? いつもならば、この後はデメジエールさんのお着替えを手伝う事になって……あうっ!? は…鼻血が……)

 

 今まではそんな事無かったのに、初恋の相手だと完全に意識し始めた途端、ソンネンのあられもない姿を思い出して興奮が止まらなくなりそうになる。

 このままでは色んな意味でヤバいと思ったセシリアは、咄嗟に近くにあったティッシュを丸めてから鼻に突っ込んだ。

 

「……どうした?」

「ちょっと鼻づまりが……」

「……そっか」

 

 なんとか誤魔化せた。

 だが、これが通用するのはソンネンだけだという事も忘れてはいけない。

 少なくとも、他のメンバーの場合は絶対に追求される。

 特にデュバルとヴェルナーの二人は。

 

 その後、ちゃんとソンネンの着替えを手伝ったセシリアであったが、興奮が臨界状態寸前まで高まり、何度もティッシュを押し出して鼻血が出そうになったらしい。

 セシリア・オルコット。朝から既に瀕死である。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 まだ修理されていないヒルドルブの待機形態である車椅子に乗って教室へと向かう。

 これまたいつものように、セシリアが後ろから車椅子を押している。

 他の生徒達からしても、もう完全に見慣れた光景になっている。

 セシリアがドヤ顔になっている事を除けば。

 

「気のせいかもしれないけどよ、周囲から視線を感じないか?」

「昨日、あれだけの試合をしたのですから、注目されても不思議じゃありませんわ」

「そういうもんかね?」

 

 ソンネンからすれば、思い切り暴れただけなのだから、どうして彼女達が自分達を見るのか本当に理解出来ていない。

 

(二つ名を持つジオンのエースパイロット達も、こんな気分だったのかね…? 赤い彗星とか、真紅の稲妻とか、ソロモンの白狼とか)

 

 他にも数多くの異名持ちのエース達がいるが、実際に会った事は無いので人柄などは全く知らない。

 特に興味が無かったのも大きな理由の一つだが。

 

「それよりも、少し急ごうぜ。きっと、他の連中も教室に行ってる筈だし」

「そうですわね」

 

 ほんの少しだけ速度を上げてから教室へと急ぐ。

 そして、教室へと到着して扉を開けると……?

 

「おはよう! ソンネンさん! オルコットさん!」

「いや~! 昨日の試合は本当に凄かったね~!」

「私達みんな、興奮しまくったんだよ~!」

「マジで一組でよかった~!」

 

 入った途端にクラスメイト達からの挨拶ラッシュ。

 余りにもいきなりな事に目が点になる二人。

 どうしたらいいかと思って周囲を見渡すと、いつもの面々が見えたのでそこに急ぐことに。

 

「おいおい…あれは一体何なんだよ?」

「決まってるじゃないですか。昨日の試合で一気に増えた少佐とセシリアさんのファンですよ」

「はぁ?」

「私達のファン…ですか?」

 

 代表候補生として、セシリアも祖国には少なからずファンが存在しているが、それでもこれはいきなり過ぎて驚いた。

 ソンネンも、これまでにファンなんて洒落たものなんていたことが無いので、思わず頭が真っ白に。

 

「ソンネンに限って言えば、今に始まった事じゃないけどな」

「あぁ? それはどーゆーことだ?」

「お前達は知らないかもだけど、ソンネンにデュバル、ヴェルナーの三人は中学の時から凄く人気があって、校内で密かにファンクラブが結成されてたぐらいなんだぞ?」

「「「……へ?」」」

 

 ソンネンだけでなく、何故か二人にも話が飛び火した。

 知らぬは本人ばかり也。完全に初耳な情報だった。

 

「いや…前にも何回か言ってたと思うけど?」

「完全に冗談だと思ってた……」

「同じく。まさか、本当に実在していたとは……」

「IS学園内でもソンネンのファンクラブが生まれたりして」

「いや…それは普通に勘弁してくれ……」

 

 自分はそんなにも憧れられるような人間じゃない。

 荒くれて、自由気ままに戦車を乗りこなすだけの人間だ。

 少なくとも、自分に憧れられるような要素があるとは到底思えなかった。

 

「というか、少佐の場合は戦車に乗ってた頃から、かなり人気は有りましたよ?」

「え? マジで?」

「マジです。他の事には鋭い癖に、自分の事になると鈍感になるんですね」

 

 少し冷たい言い方かもしれないが、モニカもまたソンネンに強い憧れを抱いていた人間の一人なので、自分の凄さを理解していないのはもどかしくもあった。

 

「もうその話はいいよ。それよりも、オリヴァー」

「はい?」

「ヒルドルブの修理は今日の放課後からするんだろ?」

「その予定です」

「なら、その時に代わりの車椅子と交換するのか?」

「みたいですね。山田先生が用意をしておくと言っていました」

「そいつは助かるぜ」

 

 車椅子が無いと、ソンネンは本当に何も出来ない。

 今ならばセシリアが自ら足になると言い出しそうだが。

 

「実は、私もマイマイのお手伝いをするんだよ~」

「本音もか? いいのか?」

「構いませんよ。この間の事で本音さんの腕が確かなのは証明されてますし、こっちとしても願ったり叶ったりです」

「お前がそこまで言うんなら、こっちとしては何も文句は無いけどよ……」

 

 技術士官であったオリヴァーにそこまで言わせるという事は、本音もまた将来有望な人間の一人なのかもしれない。

 能ある鷹は何とやら…である。

 

「こりゃ、少なくとも今日一日はソンネン少佐とオルコットさんフィーバーになりそうだな。それはそれで面白そうだけど」

「ワシヤ中尉…テメェ…完全に他人事かよ」

「オレ…面白い事が大好きなもんで」

「ドヤ顔で言うな。なんか殴りたくなる」

「酷ッ!?」

 

 そうこう話している内に予鈴が鳴って、全員が一斉に席に向かって行った。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 朝のSHRが始まり、教室に千冬と真耶が入ってきた。

 ルーチンワークと化している挨拶から始まり、千冬が教壇に立った。

 

「諸君、おはよう。まずは、昨日の試合に事について話しておこう」

 

 いきなりド直球な話が飛び出してきた。

 生徒達は緊張した面持ちで次のセリフを待っている。

 

「昨日の放課後に繰り広げられた試合によって、ソンネンの実力が良く理解出来たと思う。その上で改めて問おう。ソンネンのクラス代表に異論がある者はいるか?」

「「「「「「いません!!!!」」」」」」

「よろしい」

 

 完全な満場一致。

 今や誰も、ソンネンに対して懸念している者はいない。

 寧ろ、その人気と支持率は爆発的に上昇していた。

 

「では、正式にソンネンが一組のクラス代表という事にする。いいな?」

「「「「「「はい!!!」」」」」」

(…試合の事ばかり考えてて、クラス代表の件を完全に忘れてたぜ……)

 

 正直、面倒くさい事この上ないが、それでも決まった以上はそれに従う。

 元軍人故の気質が、話を必要以上に混乱させずに済ませていた。

 

「それから…マイ」

「はい」

「ソンネンの代わりの車椅子が今朝、用意できた。これでいつでもヒルドルブの修理が可能だ」

「ありがとうございます」

「もう届いたのか…スゲェな。あんがとよ」

「なに、これぐらいならばお安い御用だ」

 

 などと、普通を装っているが、心の中は違った。

 

(ようやくお姉ちゃんらしいことが出来た! よし…この調子で頑張らねば!)

 

 見えない所でガッツポーズをしていた。

 何気に公私混同が多くなっているが、本当に大丈夫なのだろうか?

 

「それと、もう一つ報告することがある。織斑」

「今度は俺?」

「前にお前に専用機が用意される話をしたのを覚えているか?」

「そういや、そんなのがあったような……」

「今日の放課後に、そのISが搬入されてくるそうだ」

「おぉ……」

 

 別に待っていたわけではないが、それでも実際に来るとなると、少なからず興奮はしてしまう。

 だって、男だから。

 

「なので、放課後になったら昨日と同じ第三アリーナのピットに来い。そこで各種設定などを行う事にする。いいな?」

「わ…分かりました」

 

 一体どんな事をするのか全く想像もできない。

 そもそも、自分にちゃんとISを乗りこなす事が出来るのだろうか?

 少しでも不安が出てくると、噴水のように湧き出てくる。

 

「不安か?」

「ま…まぁな。初めてだしな……」

「それなら、デュバル達に付き添って貰えよ。あいつ等なら二つ返事で付き合ってくれるぞ」

 

 後ろの席にいるソンネンが小声で一夏の事を励ましてくれた。

 そのお蔭で少しだけ表情に元気が戻ったが、同時に一番後ろにいるセシリアとモニクから殺気を飛ばされる事になる。

 一夏の受難はまだまだ続く事になりそうだ。

 

「では、これで朝のSHRを終了する。日直」

「起立!」

 

 こうして、一夏にもようやく専用機が届く事になった。

 だが、まだ彼も、他の生徒達も知らない。

 今日の主役は別にいる事を。

 

 

 

 

 

 

 

 




まずは触りだけ。

次回は…今更言うまでもありませんが、白式のお披露目です。

でも、この作品において、普通に白式の登場だけで終わらせるわけがありません。

次の本当の主役は、まだ原作キャラ達には見せていない『神速のゴーストファイター』です。



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