インフィニット・ストラトス IS IGLOO   作:とんこつラーメン

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一日の気温の差が激しくて体がキツいです……。

けど、ここでめげる訳にはいかないので、気合入れて頑張ります。

はぁ……ジオン軍に入ってザクに乗りたい…。

グフやドムやゲルググにも乗りたい……。







0.01秒の世界

 ヅダを纏ったデュバルがステージに出た途端、目にも止まらぬ程の超スピードで飛んでいき、一筋の青い流星のように空中を駆けていった。

 余りにも突然な事に、一夏は白式を纏ったまま棒立ちになりポカーンとなっていた。

 

「……はっ!? い…いやいや! 幾らなんでも最初から飛ばし過ぎだっての! ついていけねーよッ!?」

 

 一夏の必死の訴えも、デュバルには全く聞こえていないようで、目の前ではヅダが縦横無尽に飛び回っている。

 

「な…なんなんですのっ!? あの有り得ないレベルのスピードはっ!?」

「あ…あれがデュバルの機体の性能なのか…!?」

「し…信じられないわ……。一体どんなエンジンを搭載すれば、あんな化け物染みた速度を叩き出せるのよ……」

 

 代表候補生のセシリアや国家代表の楯無でさえも冷静さを失って冷や汗を掻いて、箒に至っては顔が完全に引き攣っていた。

 この中で彼女だけが知っている。デュバルは今でも剣を続けている事を。

 見ただけで理解してしまう。

 あんな超スピードから放たれる剣技がどれ程の威力を発揮するのかを。

 

(成る程…デュバルが自信満々になるのも頷ける…。あんな速さで剣を繰り出されたら、大抵のISは一撃で撃墜されるんじゃないのか…?)

 

 変な小細工なんて必要ない。

 強い武器もまた必要ない。

 ヅダとデュバルにとって、あの『速度』こそが最大最強の武器なのだ。

 

「お…織斑先生……」

「どうした? 山田先生」

「デュ…デュバルさんって何者なんですか? あんな速度を出すISを軽々と制御するなんて…並の選手じゃ絶対に不可能ですよ?」

「かもしれんな。まぁ…ヅダを見ること自体は今日が初めてではないから、お前達ほどの驚きは無いが……」

「「「「「えぇっ!?」」」」」

 

 千冬のまさかの発言に、何も知らない者達は思わず彼女の方に注目する。

 

「それよりも織斑。とっととお前も後を追わんか。いつまでデュバルを待たせる気だ?」

「そう言われても……どうやって飛べばいいんだよ?」

「イメージするんだ」

「イメージ?」

 

 ここでカスペンが先輩らしく教えてくれた。

 彼女も分かっているのだ。

 偶にはこうして先輩風を吹かさないと、本気で皆からマスコット扱いされてしまうと。

 

「そうだ。形は何でもいい。君自身が想像しやすいように自分が宙に浮くことをイメージしてみろ」

「俺が宙に浮く……」

 

 少しでも精神を集中させる為に、一夏は目を閉じて頭の中で想像してみる。

 自分が空を飛ぶ光景を。『空を飛ぶ』という行為を。

 

(……『アレ』でも想像してみるか?)

 

 彼が言う『アレ』とは、世界的に大人気なボールなドラゴンの漫画の事である。

 

「…………お?」

 

 ふと、自分の両足が床から離れていることに気が付いた。

 いつの間にかISを浮遊させることに成功していたようだ。

 

「出来たようだな。そこまで出来れば、後は前に進んでからデュバルの待つステージに向かうだけだ」

「お…おう……やってみる」

 

 非常にスローではあるが、確実に前へと進み、一夏はステージへと向かって行った。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 一夏がデュバルの元へ行った後、恐る恐るセシリアが千冬に尋ねた。

 

「あ…あの…織斑先生?」

「どうした?」

「先程、ジャンさんの専用機の事を知っているように聞こえましたけど…」

「正確には違うな。私が知っているのは、ヅダの同型機だ」

「あ…あれと同型の機体が存在するんですのッ!?」

 

 そこで千冬はカスペンとモニク、ワシヤの三人に目配せをした。

 

「そう言えば、まだ皆には話していなかったな。ヅダはそもそも、量産を前提に開発された機体だぞ?」

「「「「りょ…量産っ!?」」」」

 

 またもやビックリ。

 あんな速度を出す機体を量産などと、普通に考えても正気の沙汰ではない。

 

「正しくは『量産試作機』だがな。デュバル少佐の搭乗しているのは『一番機』なんだ」

「って事は…二番機以降も存在していると…?」

「勿論だとも。なぁ…キャデラック特務大尉? ワシヤ中尉?」

「「「「え?」」」」

「まぁ……」

「たはは……」

 

 モニクは気恥ずかしそうに眼を逸らし、ワシヤは苦笑いを浮かべながら後頭部を右手で掻いた。

 その反応だけで分かる。この二人もまた『ヅダ』を持っている事を。

 

「キャデラックとワシヤの二人はドイツにいる頃にヅダを受領している。その試運転を私やカスペンも間近で見ている」

「因みに、ワシヤ中尉の機体が二番機で、キャデラック特務大尉の機体が三番機だ」

「そーゆーことよ。ほら」

「にゃはは……」

 

 ワシヤとモニクが胸元から、それぞれデュバルが持っていた物と同じ羽飾りを取り出した。

 違うところがあるとすれば、ワシヤの物には『2』と書かれていて、モニクのには『3』と書かれていた事だ。

 

「お…お二人の機体も、あんな速度を出せるんですか…?」

「まさか。デュバル少佐の一番機が特別なんですよ。私達とあの人とじゃ実力が違い過ぎるし」

「オレ達の機体と違って、少佐の一番機は出力が1.5倍あるって言ってたっけ」

「それでも十分過ぎる高性能機だと思うんですけど……」

 

 さも当たり前のように言ってのけた二人だが、目の前で飛び回っているヅダの出力を0.5倍マイナスしても、相当な化け物であることは誰でも分かる。

 単純な疑問として聞いてみた真耶であったが、聞いてから普通に後悔していた。

 

「そもそも、あれ程の機体を仮に量産できたとして、操縦者を育てるのにかなり苦労しそうよね……」

「そうかしら?」

「オレは、何回かシミュレーターで訓練してから実機に乗ったけど、そこまで難しくは感じなかったな~」

「私に至ってはぶっつけ本番だったし」

「…それは二人が普通に凄いだけなんじゃ……」

「「そうかな~?」」

 

 デュバルやソンネン、ヴェルナーやカスペンの影に埋もれがちだが、モニクとワシヤも相当な天才なんじゃと今更ながら思ってしまった楯無。

 今年の新入生はどうなっているのだろうか。

 

「ま、深く考えたら負けだと思うぞ?」

「最後はヴェルナーちゃんが締めるのね……」

 

 ある意味、真理を突いた一言だった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 一夏は必死にデュバルの元へと急いでいた。

 本人的には頑張っているつもりなのだが、両手をクロールするように動かしているで、傍から見ているとかなり滑稽だった。

 やっている事は完全に空中遊泳になっていたから。

 

「デュ…デュバルー! ちょっと早過ぎだっつーの!」

「む…そうか?」

「そうだよ!」

 

 一夏に言われて急停止をする。

 かなりの速度からの停止の筈だが、デュバルはヅダの全身に設けられたアポジモーターを駆使して器用に止まってみせた。

 

「済まなかった。久し振りだったんでな、柄にもなく興奮してしまっていたようだ」

「いつも冷静なデュバルが興奮するとか珍しいな」

「私だって人間なんだ。興奮だってするさ」

「それもそっか」

 

 普段から大人びた彼女の姿しか知らない一夏にとって、今のデュバルの姿はかなり新鮮で、同時に彼女もまた自分達と同じ子供なんだと感じて親近感を抱いた。

 

「では、本格的に空中での姿勢制御の軽いレクチャーを始めるか。余り時間も無い事だし、今日は基本的な事しか教えられないが」

「それでも十分だよ」

「分かった。では、まずは空を飛ぶという状況に慣れよう」

 

 徐にデュバルは一夏の手を掴み、そのままゆっくりと引っ張るように進みだした。

 

「これは当たり前の事だが、アニメや漫画のように人間に空を飛ぶ能力なんてものは無い。だが、ISを使えば話は別になってくる」

「あ…あぁ……。こうしてる今でも現実感がねぇよ…自分が空を飛んでるだなんて……」

「それが普通だ。そもそも、生身では絶対に不可能な事を頭の中でイメージしろというんだ。それは相当に困難な筈だ」

「…デュバルは何をイメージしてるんだ?」

「私か? そうだな……」

 

 転生してから幾年月が経過しても、未だにMSに乗って宇宙空間を飛び回っていた感覚は体に染み付いている。

 その時の経験がIS操縦にも大きく活かされていて、それこそがデュバルがISの操縦を早熟出来た最大の理由の一つでもあるのだ。

 因みに、他の理由は単純にデュバルにはIS操縦者としての天性の才能があった。

 それに関しては他の面々も同じだが。

 

「…水中…かな」

「水中?」

「あぁ。よく宇宙飛行士の人達も水中訓練をするというだろう? それと同じさ。空中も宇宙も水中も、上下左右に足場が無い事は共通しているからな。そもそも、ISの本来の使用用途は空間活動用のパワードスーツなのだから、似たようなイメージで問題は無いと思うぞ」

「そっか……なら、水中を泳いでいるような感じでいいって事なのか?」

「慣れるまでは、それでいいと思うぞ」

「よ…よし……!」

 

 まだ恐怖の方が勝っているが、このままではいけないとも分かっている為、一夏は思い切って手を離して一人で空中に浮かんだ。

 

「水中…水中……」

 

 頭の中で必死に海やプールで潜水をしていた時の事を思い出す。

 すると、徐々にではあるが一夏の姿勢が安定し始めた。

 

「いいぞ。その調子だ」

「よ…よし…!」

 

 まずは感覚を掴む事こそが最優先。

 無理をせずに一歩一歩前と前進していけばいい。

 そう自分に言い聞かせてから、一夏は自分の身体を真っ直ぐにしていく。

 

「そのままの状態でジッとしていられれば上等だ。が、無理をしなくてもいいぞ。まだ始まったばかりなのだからな。時間はたっぷりとあるんだ。ここで急ぎ足になっても仕方がない。という訳で、一旦下に降りようか」

 

 一夏の体を掴んでから、これまたゆっくりと地面に降りてゆく。

 自分の足が地に着いた途端、一夏は大きく息を吐いて胸を撫で下ろした。

 

「ふぅ……人間って、地面無じゃ生きられないんだな…」

「妙に納得するような事を言うな……」

「実際にそう思ったんだから仕方ないだろ?」

「ふっ…そうだな」

 

 掴んでいた手を離してから、デュバルは再び宙に浮く。

 傍で見ても非常に自然な動作で、自分と同じ新入生とは思えなかった。

 

「では、最後に面白いものを見せてやろう」

「面白いもの?」

「このヅダの真の速度だ。ある意味、動体視力の良い訓練にはなるかもな。では……いくぞ!!」

 

 次の瞬間、デュバルの姿が目の前から掻き消えた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 ステージで仲睦まじく空中訓練をしていた二人を見て、箒は激しく目を血走らせていた。

 

「は…はは…これは訓練…訓練なんだ…そうだ……!」

「ほ…箒さん? お気持ちは非常によく分かりますけど、ここは落ち着いて…ね?」

「何を言っているんだセシリア…私は至って冷静だぞ? ははは……」

「その顔で言われても説得力が無いですわ……」

 

 なんて言いつつも、自分もまたソンネンが別の誰かと二人っきりで訓練なんてしていたら、今の箒と全く同じ顔になるだろうと思っていた。

 

「けど、最初にしては上々みたいですね、織斑君。初心者の子は空中に浮くだけでも一苦労してるのに」

「アイツのイメージ力が強かったのと、デュバルの指導力が高かったお蔭だろう。昔から、デュバルは誰かにものを教えるのが上手だったからな」

 

 そこでふと千冬は妄想をする。

 大人になったデュバルが、自分と同じようなスーツを着て教壇に立つ姿を。

 

「うん…あり寄りのありだな」

「え?」

 

 そこは深くはツッコまない方が賢明である。

 

「二人が地面に降りたな。今日は取り敢えず、ここで終了するようだ」

「けど、デュバルさんだけまた飛び出してるけど……」

 

 彼女が何をしようとしているのかサッパリだったが、ただ一人だけ…ヴェルナーだけがその真意を理解していた。

 

「どうやら、最後に皆に向かってデモンストレーションをするみたいだぞ」

「デモン……」

「ストレーション…?」

 

 一体何をするというのか。

 そう思いながらデュバルの姿を目で追っていると、いきなり彼女の姿が消えてしまった。

 

「き…消えたッ!?」

「ど…どこに行きましたのッ!?」

「あ…あそこよ!」

 

 あろうことか、一秒も掛からずに地面すれすれの場所からアリーナの一番上まで昇っていた。

 この中の誰一人として、昇っていく様子を目撃できなかった。あの千冬でさえ。

 

「恐らく…瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使ったな」

「瞬時加速っ!? だとしても早すぎますわ!」

「ヅダだから…なんでしょうね……」

「でしょうね。しかも、まだ終わらないみたいよ?」

 

 上空で一時停止していたかと思ったら、今度は慣性の法則に真っ向から喧嘩を売るように、急停止からの急加速、其処から更に急停止を繰り返していく。

 

「今度は『個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)』ですってっ!?」

「国家代表でも一握りの…ヴァルキリー受賞者しか使えないと言われている技を、ああも簡単にッ!?」

 

 更には、まるで螺旋を描くかのような機動で超高速移動を披露してみせた。

 

「『螺旋機動瞬時加速(スパイラル・イグニッション・ブースト)』までっ!?」

「し…信じられない……」

「あれ程の動きをしているのに全く体がぶれていない……。まるで、本当に空中で舞い踊っているようですわ……」

 

 もう、何を見せられても驚かない。

 本人は無我夢中で飛ばしているだけだが、知るものが見れば目玉が飛び出るような技ばかり。

 もしもこの光景を関係者が見ていれば、一発で各国からスカウトの嵐になるだろう。

 

(よもや…デュバルがここまでの実力を秘めていたとは…。昔からソンネンと共に凄いとは思っていたが……)

 

 嘗ては世界の頂点に君臨した千冬でさえも驚きを隠せない。

 あんな動き、自分でも出来るかどうか分からないからだ。

 

「専用のハイパーセンサーを用いても姿を捉えきれるかどうか……」

「難しいでしょうね……会長」

「なんだ?」

 

 怪訝な顔をしながら、隣で満足そうにしているカスペンを見る楯無。

 暗部として、副会長として、国家代表としてどうしても聞いておきたかった。

 

「あれが…彼女の真の実力なんですか?」

「そんな訳がないだろう。あんなもの、彼女にとっては真の実力のほんの一部に過ぎないよ」

「じょ…冗談ですよね?」

「私は仲間に関して冗談を言うような人間ではないよ」

 

 これは納得するしかない。納得せざる負えない。

 デュバルがたった一人で亡国機業の最高幹部の一人を追い詰めたという事実を。

 国家代表クラスなんて生温い。間違いなく、世界最高峰レベルだ。

 もし仮にデュバルがどこかの国の代表にでもなれば、優勝は確定したも同然だろう。

 下手をすれば完全な出来レース。しかも、まだ彼女は発展途上。

 ここから更に、どこまで高みへと昇っていくつもりなのか。

 

「思いっ切り飛ばして満足したみたいだな。一夏の傍まで降りていくぞ」

 

 あんなにも人間離れした動きを披露しながらも、全く疲れた様子も無く降りていく。

 603メンバー以外の面々は、驚き疲れてしまったのか。

 黙ってその光景を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 




次回、ようやくヅダのお披露目会終了。

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