インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
それとは別に、実は少しだけ考えた事があります。
近いうちに必ず練り込む予定なのでお楽しみに。
目の前の空中を縦横無尽に駆けるヅダに、一夏は完全に目を奪われていた。
ISとは、乗る者次第ではあそこまで自由な動きが出来るのかと。
けれど、それ以上の感動が彼の心を覆い尽くす。
(青い軌跡がアリーナ中に描かれて……まるでデュバルが風になったみたいだ……)
青い疾風。
今のデュバルを見て、その言葉が真っ先に頭に浮かんだ。
「あ…あれ?」
自分の顔が燃えるように熱い。
心臓もさっきからドクドクと激しく鼓動している。
デュバルから目が離せない。
彼女の存在に夢中になっている。
何度も空中で軌道を変え、時には渦を巻くような動きも見せる。
今、初めて一夏は束の気持ちをほんの少しだけ理解した。
(こんなにも気持ちよさそうに空を飛ぶなんて……束さんが夢中になるのも分かるような気がするな……)
神話の時代から、全ての人類がずっと夢見てきた『空を飛ぶ』という行為。
これまでに幾多の人物達が挑戦し、そして破れていった。
その中の一握りの天才が、遂に人類が『空飛ぶ翼』を生み出した。
だが、それで人類の挑戦は終わらなかった。
もっと早く。もっと自由に。もっと優雅に。
更なる高みを目指す人類の飽くなき挑戦の果て、遂に一人の少女が自由なる翼を生み出す事に成功する。
『無限の成層圏』という名の翼を。
「は…ははは……」
未だにデュバルはアリーナの中を飛び回っている。
それを見て、一夏は頭を押さえながら笑いを堪えた。
「ったく……そんなにも気持ちよさそうに飛ばれたりしたら…こっちも『やってやろう』って気になっちまうじゃねぇか……!」
最初は半ば流される形でIS学園へと入学をした。
だが、ここで初めて知る事になった、幼馴染達の知られざる顔。
ソンネンの胸の中に秘められた真っ赤な情熱。
まるで流星のように駆けるデュバルの姿。
それらを目の前で見せつけられて何も感じないような、そんな大人しい男では決してなかった。
「やってやるよ…! こうなったら、俺だってとことんまでやってやる! 俺もお前達みたいになってやる!」
周りの環境に気圧されていた少年はもういない。
幼馴染の少女達の『熱』が、一夏の心にも火を着けたのだ。
そこへ、自由機動を終えたデュバルが静かに戻ってきていた。
「どうだった? 私の飛行は」
「めちゃくちゃ凄かったぜ! マジで感動した!」
「そ…そうか?」
「あぁ! これからは俺も頑張るからさ、色々と教えてくれよな!」
「フッ…当然だ! 言っておくが、私の教えは厳しいぞ?」
「そんなのは受験勉強の時から知ってるよ」
「それもそうだったな。では、そろそろ戻るか」
「分かった!」
二回目となると少しはコツを掴んだのか、一夏はデュバルの手を取らずに宙に浮くことが出来た。
そのまま、彼女の後ろを着いていく形でピットへと戻っていった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
何事も無くピットへと戻ってきた二人だったが、一夏の事は全く眼中になしと言った感じで、セシリアと箒と楯無の三人にいきなりの質問攻めにあったデュバル。
機体を解除する間もなく、三人娘の圧力に押されていた。
「ジャ…ジャンさんっ!? 先程のあの超人的な飛行テクはなんなんですのっ!?」
「一体いつの間に、あそこまでの実力を身に着けていたんだっ!? 幾らなんでも成長し過ぎなのではないかッ!?」
「あんな技術、どこで習得をしたのッ!? それとも……」
「ま…待ってくれ! いきなり言われても困る! まずはヅダを解除させてくれないかっ!? 質問ならば、その後でちゃんと答えるから!」
三人を手で静止させながら、デュバルはようやく機体を解除することが出来た。
「まず、セシリアと楯無先輩の質問に関してだが…別に私は誰の教えなど受けていない。というか、そんなにも凄い事だったのか?」
「凄いなんてもんじゃないですわ!
「どっちとも、数ある国家代表でも一握り…モンドグロッソでのヴァルキリー受賞者達しか出来ないような超絶技なのよッ!?」
「そ…そうだったのか……こっちとしては、自分が思い描いたように飛んだだけたっだのだがな……」
まさか、自分がそんなにも凄い事を無意識の内にしていたとは全く思わなかったデュバルは、困惑しながら頬をポリポリと掻いた。
「ククク……それでこそ、私の知るジャン・リュック・デュバル少佐だ。無自覚の天才ほど恐ろしい物は無い」
「少佐の場合は、ヅダと出会った事で才能が開花したって感じですけどね」
「どれだけ頑張っても、デュバル少佐以上にヅダを操る事は難しいからな~」
オロオロとしているデュバルを見て、失礼だと分っていても込み上げてくる笑いを我慢出来ないカスペンと、同じヅダに乗っているからこそ、デュバルの凄さを他の者達以上に理解出来るモニクとワシヤ。
普段の彼女を知っている者からすれば、こんな姿を見られることは非常に珍しかった。
「…で、どうだったよ千冬さん…じゃなくて、織斑先生。実際に目の前でデュバルの奴の飛行を見て」
「正直に言って…圧倒されたよ。仮に私がヅダに乗っても、デュバルと同じ動きは絶対に出来ないだろう。いや…そうじゃないな。暮桜に乗っていても不可能だったに違いない。踏み込みの速度にならば自信があったのだがな……」
「私も驚きました…。あんなのを委員会の人間達が見たら、即座にどこかの国の代表にしようと動き出しますよ…」
「本人は、それを望まないだろうけどな。でも…そんな風に言ってくれて嬉しいよ。ありがとな」
ニヒヒ…と笑って見せるヴェルナー。
やっぱり、仲間が褒められて嬉しかったのだろう。
「皆さんじゃないですけど、デュバルさんは一体どこであんなにも凄い技術を身に着けたんでしょうか…?」
「それはまぁ…アレじゃねぇの? ソンネンと一緒」
「と言うと…?」
「『努力』と『才能』だよ」
「やっぱり、そこに行きつくんですね……」
「それと、オレの爺さんが昔…こんな事を言ってた。『俺の敵は大体は俺だ』ってな」
「自分の敵は自分…」
「デュバルも同じだよ。自分と言う名の敵に勝ち続けてきたから、今の自分になれたんだ。アンタ等だってそうだろ?」
教師二人を真っ直ぐに見つめるヴェルナー。
汚れなんて全く無い純粋は瞳に見つめられて、彼女達も素直に答えざる負えなかった。
「…そうだな。何もおかしなことじゃない。誰もが一度は通る道だったな」
「今のデュバルさんは、あの頃の私達と同じなんですね……」
まだ自分達が訓練生だった頃を思い出す。
なにもかもが全て真新しく、日に日に自分が成長している実感がして夢中で訓練に勤しんでいた。
(デュバル…約束しよう。これからも私はお前達の事を全力で応援し続けるとな。だから、お前はお前が進みたい道を全力で駆け抜けろ)
少女達のやるべき事が『進む事』ならば、大人である自分のすべきことは『支える事』。
千冬の決意が更に強く固まった。同時に、シスコン具合も更に増した。
「ところで織斑。初めてのISの飛行はどうだった? お前の言葉で構わん、感想を聞かせろ」
「感想…か」
いつの間にかISを解除して傍まで来ていた一夏へ向けて話を振る千冬。
自分の顎に手を当ててから考えたが、さっき抱いた言葉をそのまま口に出す事にした。
それこそが、今の自分の最も素直な感想だと思ったから。
「最初は怖かったよ。空を飛ぶなんてこと、マジで生まれて初めてだったからな。けど、デュバルの飛んでる姿を見て気持ちが変わった」
「ほぅ…?」
「いつの日か、俺もアイツみたいに自由に空を飛んでみたい。デュバルに追いつく…ことは難しいかもだけど、その背中を追い駆けられるぐらいにはなりたいと思った」
「…デュバルがいる場所は遠いぞ? ある意味、私よりも高みにいるかもしれん」
「望むところさ。目標なんて、高ければ高い方が目指し甲斐がある」
明らかに一夏の顔つきが変わった。
おぼろげながらも目標を見つけ、其処へと向かって歩く決意をした顔。
若い頃、誰もが一度は必ずする顔だ。
「それじゃあ織斑君。これをどうぞ」
「うぉっ!? な…なんだ? このめっちゃ分厚い本は?」
徐に真耶から手渡されたのは、とてつもない分厚さを誇る本だった。
六法全書の真っ青なサイズで、本と言うよりは鈍器に近い。
「ISに関する規則などが書かれた本です。よく読んでおいてくださいね」
「分からない所は同室のマイに聞けば教えてくれるだろう。アイツの知識は相当だからな」
「そうだな。その時は遠慮なく頼る事にするよ」
普通に部屋に持ち帰るだけでもトレーニングになりそうな分厚さの本だが、これもまた自分の為だと割り切って頑張る事にする。
「それと、織斑君のISは他の皆さんの機体と同様に待機形態になっています。呼び出そうと思えばいつでも呼び出せますが、許可されていない場所以外での展開は校則違反になるので注意してくださいね?」
「はい。気を付けます」
校舎内でISを展開する事なんてそうそう無いとは思うが、それでも念には念を入れておく。
お約束と言われればそれまでだが、教師としての立場上、言わなければいけないのだ。
「今日はもうこの辺でいいだろう。お前も着替えた後に寮に戻って休め。そして、そこの三人! そろそろデュバルの事を開放してやれ! 明らかに困っているだろうが!」
千冬の言葉でようやく質問攻めから解放されたデュバル。
今後はもう少しだけ自重しようと反省したのであった。
「あ…ありがとうございます…織斑先生……」
「教師として当然の事をしたまでだ」
なんて大人ぶった顔をしているが、その心の中は……?
(よっし! デュバルにお姉ちゃんらしいところを見せられた! ふふふ…私もやれば出来るじゃないか……)
相も変わらずシスコン全開であった。
本当は、ここから自然な感じで頭ナデナデからハグまでしたかったが、皆が見ている場でそれはヤバいと判断したのか、断腸の思いで我慢をした。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
一方、その頃。
ヒルドルブの修復作業をしていたオリヴァーと、その手伝いをしていた簪&本音。
そして、それに付き添っていたソンネンとアレクはというと…?
「な~んか、向こうの方が妙に賑やかじゃねぇか?」
「大方、一夏の専用機を見て興奮でもしてんじゃねぇか?」
「ボクとしては、デュバル少佐のヅダの性能を見て驚いてるって予想しますけど……」
「デュバルさんの専用機…私も見てみたいな」
「でゅっちーのISってどんなのなんだろ~ね~?」
のんびりとしながらも和気藹々、ほんわかとした空気の中で作業をやっていた。
整備室なんて油臭そうな場所であるにも拘らず、不思議と汚さが強調されないのは、この場に見目麗しい美少女達が揃っているからか。
こうして、色々と騒がしかった放課後の時間は過ぎていったのだった。
本当ならば、次回は原作通りに授業のお話なんでしょうが、どうしても書きたい話が出来たので、次回はオリジナルの話になるかもです。
簡単に言うと、この作品にマスコットを追加します。
そう…ジオン軍の誇る『超量産型MS』を。