ハイスクール・フリート ルパン三世暗殺指令 作:サイレント・レイ
――― 東京 ―――
ルパンによって『晴風』を連れ去ってからの数日間の東京……厳密に言えば、日本沈降で東京の殆どが水没しつつあるにも関わらず移転の気配(更に言うと遷都も…)が全く無い行政の中枢である霞ヶ関は嘗てない程に緊張に包まれていた。
その震源地なのは、東京都の治安を維持する警視庁の2代目本部………西暦1980年に竣工した三角柱型の建築物・警視庁本部庁舎(通称:桜田門)であった。
軍事クーデターか爆弾テロぐらいでしか異変が起きない筈の警視庁本部庁舎で起きていたのは、大多数のブルーマーメイド達が警視庁本部庁舎を24時間体勢で半包囲していた。
『還せ!!! 還せ!!! 還せ!!!…』
銃火器処か小型艦艇をも持ち出しているブルーマーメイド達が怒号で求めているのは、真雪と真霜の宗谷親子の不正逮捕(何故かブルーマーメイド内では“拘束”が“逮捕”に刷り変わっていた)に対する抗議と2人の解放であった。
彼女達の感情は極限に達していて、交代制での24時間ぶっ通しでなのは当然ながら、一部の者達は現在夜中である事をつけ込んで、人がいるだろう部屋目掛けて海上用の大型探照灯で照らす嫌がらせを行っていた。
対する警察側も当然何もしていない訳がなく、警視総監直轄の船にして海軍から払い下げられた大淀級軽巡洋二番艦『仁淀』(元々潜水艦隊旗艦向けに船体のほぼ後ろ半分に及ぶ小型飛行船用格納庫を大型CICに改造した日本海軍初の戦略指揮統制艦、一時連合艦隊旗艦も務めていた)以下の警視庁所属の警備艇群を呼び寄せ、警視庁本部庁舎前の埠頭に設置したバリケードの直ぐ後ろにフル装備の機動隊が多重の人垣を構成してブルーマーメイドの襲撃を備えさせていた。
現在はブルーマーメイドが抗議運動の名を借りた嫌がらせ行為のみを行い、警察も機動隊に行動の自重を厳命していたので膠着状態であったが、ブルーマーメイドと警察双方が都内だけでなく県外からも増援を呼び寄せていた為に両陣営揃って時間経過に合わせて人が増えていたので、誰がどう見ても武力衝突の可能性が否応無く高まり続けていた。
更に質が悪いのは、此れだけの騒ぎの放送局全て(+それなりの海外のも)が見逃さずに警視庁本部庁舎上空に報道飛行船を派遣、24時間体勢でのトップニュースとして報道し続けていて、一部が不安を煽るかの様な報道をした為に、日本全土でブルーマーメイドと警察の武力衝突に不安を感じていて、多くの都民が貯蓄の為の買い出しや東京都からの脱出を
幸いなのは、警視庁に業務代行を打診されて出動した陸海軍によって間違った報道をするメディアや個人動画サイトへの抗議や削除が行われていて、武力衝突防止目的で警視庁本部庁舎へ陸戦隊を乗艦させた駆逐艦や海防艦を多数派遣する事が決まって、それ等は間も無く到着する筈であった。
「……此れで本当に良かったのですか…」
そんなブルーマーメイドと機動隊の一触即発状態な光景を、警視庁に隣接する警察庁の自分の執務室で、浄園が不安げに見つめながら溜め息を吐いた。
「心配いりませんよ、浄園警察長官。
我々警察がまごう事なき正当、日本で言う
そんな浄園の後ろのソファーに座っているジャンは、彼に気にしないようにと言ったが、浄園は振り向きながら内心で「違う」と言っていた。
元々警察内部では鳩派に属している浄園は、ジャンから提示された対ショットシェル作戦での、銭形が知らない(筈)裏の企みを危惧していたからだ。
そもそもの始まりである銭形のルパン三世専従捜査からの解任、此れは何十年も掛かってもルパンを逮捕出来ない事からの罰人事も確かにあったが、その代わりとして
「しかもですよ、予想外のRATtウィルスの再出現でルパンが急遽『大和』から『武蔵』を盗むのを変えましたが、アレ等は結果的に更なる慈雨をもたらす事になったじゃありませんか」
「ええ、先ずはお陰様でルパン達を妨害しかねぬブルーマーメイドの安全監督室の宗谷真霜を母・真雪共々捕縛出来ましたしね」
更に陸海軍各々の高官2人もソファーに掛けて笑っていて、此の警察の企みに秘密裏に軍部が協力しているのを表していた。
尚、彼等はルパン達の行為から真霜の冤罪覚悟の逮捕拘束は予定通りだったが、強奪するのを『大和』から『武蔵』に変えていなければ真雪ではなく呉女子海洋学校の校長が何らかの後乗せ理由で逮捕されていた筈であった。
「哨戒に出ていた我が軍の潜水艦の報告によりますと、ブルーマーメイドの対応が遅れた為に、横須賀女子海洋学校所属の戦艦『比叡』(原艦種は“大型直接教導艦”だが反感と嫌がらせから旧艦種を使っている)がチューク諸島(旧名“トラック諸島”)を襲撃、諸島内の船舶の大半が大破か沈没し地上施設にも大損害が出たそうです」
「他にも横須賀女子海洋学校の所属艦艇が船舶の無差別攻撃をしているので、内外から殺到する抗議にてんてこ舞いになってるそうですよ」
「我々の狙い通り、ブルーマーメイドは機能不全に陥ってますな。
此れで我々の計画も順調に進む事でしょう」
「そう言えば、宗谷親子はどうしているのです?」
『比叡』のチューク諸島襲撃等、本来なら怒るべき筈と思うのだが、彼等はブルーマーメイドへの嫌悪からそれ等への醜態に笑い合っていた中で、ジャンが何の気なしに気になった宗谷親子を尋ねたら、白馬がノートパソコンを取り出して起動してからの操作を行ってからジャン(達)に画面に映るを見せた。
『…何をもって、ルパンが殺人を犯したと決めつけた!?
遺体全ての殺され方や推定される犯人の体格は、ルパンだけでなく次元や五ェ門のとは不一致であるのは簡単に分かったんだぞ!!
ブルーマーメイドの正規隊員達の殺しはルパン達でない事は司法解剖で立証されたんだ!』
『仇討ちとかしたくての感情的な事で銃火器の無制限使用を命じたんだろうが、此のお陰で無関係な人達が多数負傷したんだぞ!!』
映像の中で典型的な取調室で上着を脱いでネクタイを外している真霜が、刑事2人から取り調べを受けていたが、刑事2人は追い詰める為の資料各種を出しているのは兎も角として、怒鳴りながら机を叩く等の外部に漏れたら確実に訴えからの敗訴確定のヤバい手法も行っていた。
『私を騙った何者かが銃火器無制限使用を命じたのです!!
そもそも私は正規隊員が複数殺された報告を受け取ってない!』
『ふざけるな!!!
どうやって外部からブルーマーメイドの通信に偽報を入れれるんだ!?』
『ルパンが私の声を真似ているんでしょ!!
それ以外でもルパンなら何らかの方法で出来るでしょう!?』
『何でもかんでもルパンにするな!!!
監視カメラを全て確認してもルパンはやっていない!』
尤も、普通の人間なら刑事2人のやり方に心が折れて唯々諾々になっていた可能性が高かったが、そうならない真霜は怒鳴り返しての反論を
続け、時折刑事のどちらかと睨み合いをしていた。
「流石は宗谷真雪の長女として母の才能を強く遺伝していますね。
母親の七光りだけで今の地位を得ていなさそうだ」
「だからこそ、彼女を野放しにしたらルパンの『武蔵』強奪を阻止する可能性があります」
ジャンは白馬と共に真霜の強靭な精神だげなく、彼女なりにオーシャンモール・四国沖店の裏で起きていた事を鑑みている事に感心していた。
尚、ほぼ無理矢理に真霜に不手際を認めさせようとしていたが、実際の処はショットシェルが工作員達を逃す為に真霜を騙って銃火器無制限使用を出す事でルパン達を囮にする為に出したモノである事と見抜いていた。
尤も真霜を演じたのが誰で、ブルーマーメイドの通信に割り込んだ手法までは分からなかったが…
「ですが、そろそろ宗谷親子を拘束しておくのは難しくなります。
ブルーマーメイドが2人の為の弁護士を急派すると通達してきました」
「弁護士派遣は拒否すればそれまでですが、武力行使とまではいかないと思いますが、ブルーマーメイドが宗谷親子奪還の為に過激な手段にでるのが考えられます」
「況してや、我々の記者会見がブルーマーメイドの妨害で未だに出来ていないのですからね」
「なんとしても抑え込みましょう。
真雪は兎も角………いや、あの人も野放しは危険かもしれませんが、せめて真霜はルパンが『武蔵』を強奪するまでに抑えておきましょう」
ジャンの意見に白馬達3人は揃って頷いたが、浄園だけは溜息を吐いて同意した。
「…そう言えば真雪女史にはどうしているのですか?」
浄園は真雪が不意に気になって白馬に尋ねたら、当の白馬は答える前に大きな溜息を吐いた。
真雪は真雪で、不二子が教官として横須賀女子海洋学校にいた事で取り調べを受けている筈であった。
「それが、彼女は完全黙秘状態です。
だから取り調べを当面中止として警視庁内の留置場に入れてますが、基本的に四六時中壁に向かって座り続けているだけだ」
「まさか、食事を与えていない事はないな!?」
浄園は、ある意味で真霜より厄介な存在である真雪に対して過激な仕打ちをしてないかを疑って思わず怒鳴ったが、白馬は両掌を翳しながら顔を左右に激しく振った。
「まさか、ちゃんと必要分量のまともな食事は出す事は厳命している。
だが、真雪は出した食事に一切手を着けてないんだ」
「食事を、取らない?」
「毒を盛られたと思っているのではないのですか?」
「否、聞いた処だと罪悪感の極みで拒食症を起こしているのかもしれないぞ」
「長娘よりも精神が弱いですね。
どうやら真雪が早期に第一線から退いたのは、気力低下が原因みたいですな」
陸軍高官が海軍高官と共に真雪を笑っていたが、浄園は内心で彼女の事を疑っていた。
「予想よりも簡単に事が成りそうですね」
「ええ、政治工作も順調だそうです」
「間もなく、我々は明治以来の栄光を取り戻せますな」
「多忙を極める前に、ゴルフでも1つどうでしょう?」
「それは実に良いですね…」
白馬達が邪に笑っているのに、浄園は大きな溜息を吐いた。
――― 同・警視庁 ―――
「交代の時間です!」
「ご苦労です!」
警視庁の地下(?)に作られた留置場………その区画の一際奥で婦警2人が敬礼をし合って監視役の引き継ぎが行われている前にある牢の中で、白馬の言った通りに真雪が奥の壁に向かって座っていた。
「…どうですか?」
「相変わらずよ。
あっでも、やっぱり寒いらしく、たまに咳やく
「まぁ、よりにもよって此の檻ですからね」
婦警2人は苦笑し合っていたのは、真雪のいる牢は対ルパン三世用に銭形が設計した特別製のであったからだ。
此の牢の特徴は2つ、1つ目は“監視カメラが無い”………此れはプライバシー云々ではなく、ルパン(いれば“達”)が脱走を気付かれない様に監視カメラを細工するのが多々ある上に牢の前に銭形が四六時中監視し続ける事(だから監視役として婦警がいる)を前提としている為に無い。
2つ目は“1年365日季節や気候の影響を受ける事なく気温が寒い”………大体察すれるが、寒くする事でピッキングをミスりやすくする狙いであり、銭形が言うには効果を高める為にルパンは裸当然の状態にするつもりらしい。
まぁ兎にも角にも言えるのは此の特別牢は銭形の威信を込めての設計品なのだが、肝心のルパンはまだ此の特別牢に入った事がなければ使われた事自体が無く、真雪が要注意人物である事もあって入獄者第1号となったのだ。
「…あ!
寒いのに、せめて上着ぐらいは着ればいいのにね」
「まぁ強要させる訳にはいかないでしょう。
それじゃあ、私は行きますので」
「ご苦労様です!」
寒さからか真雪が咳を2回もしたので、婦警の1人はさっさと留置場から出ていって、交代要員の婦警は牢の前に立った。
完全に人の気配が無くなったのを察すると、婦警は右足で2回足踏みをして、真雪も右太股を2回叩いて答えた。
婦警は右足先で床を軽く掻いたり叩くをやり始め、それが終わって少し間をおくと真雪が右太股をパーかグーで叩き出した…
「ー・ーー・ー・・・・・ー・・ー・ー・ー・・・ーー・ー・ーーー・ー・・ーー・ー・・ー・ーー・・・・ー・ー・ーー・ーー・ーー・ー・ー・ーーーー・ーー・・ーーーーー・ー・・・・・ー」
(訳:ルパンは『武蔵』でショットシェルを狙う)
「ー・ーー・ー・・・・・ー・・ー・ー・・・ー・・・ー・ーー・ーー・ー・ー・ーー・・・ー・・・ー・ーー・ーーー・・・ーー・・・ー・・・・ー・・・・ーー・・ー・ーーー・・ーー・・・・・ーー・・」
(訳:ルパンが警察と手を組んだ可能性は?)
「ー・ーー・ー、ー・ー・ー・ーー・ー・・・ー・ーー・ー・ーー・・・ー・・・・ーーー・・・・ー・・―・・ー・・・ー・・・ー・ー・ー・・ー・」
(訳:警察だけでなく陸海軍も)
「・ーーー・・ーーー・・・・・ーー・・ーーーーー・・ー・ー・・ー・・・・・ーー・・」
(訳:政府への動きは?)
「ーー・ーーー・ーー・」
(訳:ある)
「ーー・・ーー・ー・・・ーー・・ーー・・・ー・ー・・ーー・ー・・・ーー・・ーー・・・・ーー・ー・ー・ーーー・ー・ー・・ーー・ーーー」
(訳:引き続き情報採取を)
「ーー・ーー・・ー・・ー・・ー」
(訳:了解)
感想やご意見等を御待ちしています。
今回で警察の裏の企みが少し見えましたが、本作での警察とブルーマーメイドの対立が表面化しそうですが、それに関してホワイトドルフィンの事が書けそうにありません。
と言うのも、組織的にはブルーマーメイドに協力しているホワイトドルフィンですが、警察や陸海軍とは交換研修がよく行われる程に良好な関係を築いる為、今回の対立でどっち付かずに右往左往しているとしています。
貴方にとってのルパン三世は?
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1世たる“山田康雄”
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2世たる“古川登志夫”
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3世たる“栗田貫一”
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実写版1世たる“目黒裕樹”
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実写版2世たる“小栗旬”