西住家の使用人   作:青葉白

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 どんな馬鹿でも真実を語ることはできるが、うまく嘘をつくことは、かなり頭の働く人間でなければできない。



4話

「あら?教室の前に誰かいますよ?」

「ん、ほんとだ」

 

 華が疑問を投げかけ、確かにその通りだと沙織が反応を見せる。

 食事を終え、教室に戻っている途中だった。

 みほの教室の前に、3つの人影が威圧感みたいなものを発しながら仁王立ちしている。

 桜は、そのうちの1人の顔に見覚えがあったし、他の2人も写真で見たことがあった。

 

「…生徒会の方ですね」

 

 生徒会長の角谷杏さん。副会長の小山柚子さん。そして、広報の河島桃だ。

 尤も、桃に関しては桜も、思ってたのとなんか違う、という感想を抱いていたのだが。

 

 というのも、杏以外の生徒会メンバーについては、杏の携帯に保存されていた写真で顔を確認したくらいである。あとは、簡単にどんな人物か杏の印象を聞いただけ。つまり、実際に会うのははじめてだった。

 

 まぁ、どんな説明を聞いたか、その詳細は置いておくとして、少なくとも扉の前で仁王立ちする桃の姿は、如何にも「デキる女性」という感じで、融通の利かない生真面目な学級委員長という印象を受けた。これがもう少し年齢を重ねていれば、バリバリのキャリアウーマンだとか、社長秘書だとかに例えたところである。桜の苦手なタイプだ。

 とにもかくにも、杏の説明にどれだけ個人の主観が含まれていたのか分からない。分からないが、少なくとも桜には、とても事前に聞いていたような人物には思えなかった。杏の、一言で言うなら発泡スチロールみたいな奴、という評価は、てんで的外れのように思えて仕方がない。発泡スチロールなんて、淡々とした顔でビリビリに破いてしまいそうな怖さがあった。

 

 それは、もしかすると気のせいだったかもしれないが、きらん、と桃の片眼鏡(モノクル)が光って、そして、桜たちの方へぐるん、と勢いよく視線を向けられた。

 そして、つかつかつか、と桃が代表するかのように歩いて近づいてくる。杏が、あ、と何か言いかけたのが見えた。

 

 並んでみると、遠目に見たよりは大きく感じなかったが、それでも女子にしては背が高い方だろう。だいたいまほと同じくらい。悲しいかな、桜よりも少し高いようだった。

 

「西住みほだな」

 

 その声音は、本当に同じ学生かと思うくらい冷たいものだった。ともすれば、見下されていると感じたかもしれない。しほが公人として使う声音に近いものがあった。

 そのあまりの迫力に、桜の警戒のレベルが上がる。自然とみほを庇うように前に立った。

 すると、ますます桃の視線が鋭くなり、つられて桜の表情も険しくなる。一触即発という空気があたりを漂った。

 

「何のご用でしょうか」

「…なんだ、お前は」

 

 桜が訝しむような口調で尋ねると、不快感を隠さない調子で桃が言葉を返した。

 

 ほとんど背丈の変わらない二人が(正確には桜の方が少し小さい)、剣呑な雰囲気の中睨みあっていた。

 片や横暴なことで有名な生徒会の役員で、片や転校してきたばかりの華奢でお淑やかと評判の大和撫子である。しかも、一段と大人しそうな見た目の少女を庇っているという立ち位置であれば、どちらが悪役かということは誰の目にも瞭然だった。

 

 それを見て、華だけは少し、()()()()()()()()()()()()()()()、と内心わくわくとしていたが、至って常識人な沙織や柚子はどうしたものかと慌てていたし、杏は、何をしてるんだあいつらは、と軽く胃が痛くなるのを感じていた。残念ながら、このあともっと痛くなる。

 

 杏が桃に伝えていないのは、西住みほが黒森峰を転校した詳しい理由と、桜が男であるという2点のみだ。つまり、桜が()()()()()味方であり、不興を買わないほうが賢いということは、いくら桃だって理解しているはずであった。尤も、ハリネズミのような性格の桃のことだ。自分を強く見せようとするのはいつものことだし、生徒に対して高圧的に接するきらいがあった。この事態を予想できなかったのは杏の失敗だったとも言える。

 杏は、もっときつく言い含めておくべきだった、と後悔した。一人先行させたのも失敗だった。

 

 ちなみに、桜の件について敢えて話をしなかったのは、桃に隠し事が向かないと判断したためであるが(桃の失態で桜の性別がバレるという未来がありありと想像できた)、みほの転校の理由を教えなかったのは、その境遇を知った桃が情に絆されてしまうことを恐れてのことだった。短絡的で直情的で、癇癪持ちのとんでもない阿呆だが、そういう真っ直ぐさは杏も嫌いではない。そういう所に、少なからず杏も救われてきたのだ。ただ、折角決意したところを隣で騒いで掻き乱されては堪らない、というのも事実だった。

 

「かーしま、下がれ」

「はっ!」

 

 杏が言うと、意外なほどあっさりと桃が横に退いて、のっしのっしと杏と柚子が近づいてくるのが見えた。

 顔を合わせたのは久しぶりだが、やはり小さいな、というのが桜が杏に受ける印象だ。

 

「いやぁ、悪かったね、うちの河嶋が」

 

 へにゃあ、と笑いながら杏が言う。謝っているのだか、からかっているのだか、いまいち判断のつかない飄々とした口調だった。西住の家ではもう少し堅い口調だった気もするが、たぶんこちらが素の口調なのだろう。演技とも少し違う、相手に合わせた口調というやつだ。

 敢えて、桜はそれをしなかった。

 

「私、犬の散歩は手綱(リード)を手放さないのが、最低限のマナーだと思うんですよね」

「だからごめんってば。許してよ」

 

 思わず語気が強くなった桜に対し、杏の飄々とした態度は変わらない。まぁ、ここで突然弱腰になっても不自然だし、杏にすれば部下(かわしま)の前ということもあった。

 すると、きょとん、とした顔で桃が言葉を挟んだ。

 

「…会長、この少女はどうして突然散歩の話を?」

 

 声は大きくなかったので、聞こえたのは杏と桜だけだったかもしれない。沙織や華にも声が届いていたら、桃のこれまで作ってきたイメージは台無しだった。

 その瞬間、桜も桃を警戒する気持ちが薄れ、杏の言っていたことが何となく分かったような気がした。

 言ってしまえば、杏の話した「残念なやつ」、という言葉の表現がしっくりきたのだ。しっかり者だとか、怖い相手という印象がきれいさっぱり霧散していくのを感じる。発泡スチロールという表現も、なんとなく理解できた。色を塗れば立派なコンクリ塀に見せることもできるが、少し近寄ればハリボテであると簡単にバレる。

 

 杏を見ると、笑っているのは確かだが、その表情の中に疲労のようなものがうっすらと感じられて、桜は少しだけ杏のことを気の毒に思った。

 

「心中お察しします」

「分かってくれるかい?」

 

 すっかり毒気を抜かれた桜が、杏のことを慮るような発言をすると、幾ばくか真剣なトーンで言葉が返された。

 しかし、桃の反応は芳しくない。

 桜と杏が分かり合っているなか、それでも彼女らが自分のことについて話しているとは夢にも思っていない桃である。挙げ句、会長は犬好きだったのだろうか、知らなかった、などということを考え始める始末だ。

 

「「はぁ」」

 

 何も分かっていなさそうな桃の様子を見て、杏と桜は二人揃ってため息を吐いた。

 

 すると、くい、くい、と制服の裾を引っ張られた。

 誰かと思えば、当然みほである。

 

「桜ちゃん、その人と知り合いなの?」

 

 それは、あまりに予想外な質問だった。

 桜から間抜けな声が漏れる。

 

「へ?」

「なんだか、仲良しそうに見えたから。お友達?」

 

 真ん丸の可愛らしい目を上目遣いにして、まっすぐと桜に向ける。じぃーっ、という効果音が聞こえるくらいに見つめられた。お友達だったら紹介して?という声が聞こえるようだった。

 

 桜は、そんなみほの仕草を、可愛いなぁ、地上に舞い降りた天使かな?こんな可愛い人のお世話ができる自分は世界で一番の幸せ者なんじゃないかな?と益体もないことを考えながらも、杏に対して随分と親しげに話しかけてしまった失敗に今更ながら気がついた。桜は転校生であり、杏は在校生、それもひとつ学年の違う相手で、そのうえ生徒会長だ。軽口を叩くにしては、相手が悪い。

 

「えと、これは」

 

 桜は盛大に焦った。

 まさか生徒会長と談合が行われているなどと、みほに疑われてはたまらない。

 桜は所詮みほのお世話係で、杏の事情も聞いているから力になってあげたいとは考えているが、何においても優先されるべきはみほ自身の意思である。余計な疑いのせいでみほの選択に影響を与えてはいけないし、万が一嫌われたりしたらこの世の終わりだ。

 

 これでみほは馬鹿ではない。寧ろ、察しはいい方だ。普段は細かいことを気にしていないというだけである。そうでなければ、戦車隊を率いるなんて、とてもやってられないだろう。

 

 桜は、見た目にはにこにこと笑顔を浮かべているが、内心では思考回路がオーバーヒートするほどの勢いで言い訳を探していた。尤も、桜はあまりアドリブの得意な方ではないし、みほに嫌われるかもしれないという心配があっては、いつも以上に思考は空回りをした。

 

「いやぁ、井手上ちゃんとは、この前廊下で話したんだよ。生徒会だから、転入生のことは知ってたし。色々と相談事もあったみたいだし。ね、井手上ちゃん」

 

 さらりとそれらしいことを杏が語った。焦った様子もなく、実に自然な振る舞いのままである。ともすれば、本当にそんなことがあったかもしれないと桜が錯覚するほどに。

 桜と杏は、桜が転入してきてからは一度として会っていない。西住の家で会ったきりで、あとは何度かメールをしたくらいだ。電話で話したことも皆無である。

 

 桜には、杏の意図するところは理解できていないが、自分でうまい言い訳が思いつくわけでもない。ましてや、これを否定することも余計にみほの杏たちへの疑念を深めることになってしまうと考えた。

 桜は、杏の騙り(たすけぶね)に乗っかることにした。

 

「あ、はい」

「そのあとはどう?学校には慣れた?」

「お、おかげさまで」

 

 そいつはよかった。そんなことを言って、杏は笑いながら何度か小さく頷いた。

 あまりに堂に入った演技であり、杏の言葉を疑うものは誰もいないだろう。実際には、本当のことなんてひとつも話していないというのに。桜は流されるままである。

 

 それにしても、だ。西住の家での一件からも分かりきっていたことではあるが、杏のそれは並大抵の度胸ではない。一組織の長ともなると、これくらいの胆力がなければやっていけないのだろうか。桜は、見習いたいと思うと同時に、真似できたら全うな高校生としてはダメなんじゃないか、と複雑な感情を抱いた。

 

 杏が聞けば、なんだかんだ涼しい顔をして女子校に紛れ込める井手上ちゃんには言われたくないかなぁ、と言ったに違いない。その原因のひとつが自分にあることは棚にあげて。

 

 尤も、杏の肝が座っているからといって、その内心が平静であるとも限らないのであるが。

 

「それで、本題なんだけど。井手上ちゃんの後ろにいるのが、西住ちゃん。そうだよね」

「え、えと。西住みほです」

「角谷杏です。よろしくね、西住ちゃん」

 

 杏は、ますます笑みを深くして、みほに向けて右手を差し出した。

 流石にこの流れでみほを庇い続けるのも失礼に見えると思い、桜はそっと脇に避ける。すると、おずおずとみほが杏の手を握った。

 

「ええっと。よろしく、お願いします」

 

 どこか、相手の反応を伺うような()()()()()仕草である。みほの表情に笑顔はなかった。

 しかし、それも仕方ない。みほからすれば、全くの初対面の相手であるし、何より杏は先輩で生徒会長だ。そのうえ、何やら自分を目当てに待たれていたと気づいてしまっては、全くの無用心というわけにもいかなかった。

 

 そして杏も、おや、と思った。

 桃に対する桜の第一印象ではないが、これでは聞いていた話と違う反応だ。

 

 桜やしほから聞いていたみほの性格は、快活で、ともすれば奔放とも呼べるほどであると聞いていた。曰く、小学生がそのまま高校生になったようである、と。とりわけ、初対面での距離感の詰め方は、物怖じとか人見知りという概念を(しほ)のお腹の中に忘れてきたと言われるほどだった。事実、大洗に転入してすぐにクラスに馴染み、その日のうちにクラスの大半と連絡先を交換したというのだから大したものである。噂は杏の耳まで聞こえてきた。

 

 さて、どうしたものか。そんなみほに()()警戒されたのだ。

 杏は、どのように話を切り出したものか迷ってしまった。

 

 当初は、正面から策を弄せずお願いをしようと思っていた。

 しほから頼まれているということもあるし、あまり強引にことを進めるのは心象もよろしくない。無理を言っても、モチベーションは上がらないと思われた。ただ戦車道を復活させればいいという問題ではないのである。やるからには、本気になってもらう必要があった。

 しかし、こうも警戒をされてしまっては、単なるお願いでは弱いのではないか、と思い直しているのが現在だ。

 

 思えば、桃の態度もよくなかった。桜と剣呑な雰囲気になってしまったのは間違いなくマイナスポイントだ。もしかすると、みほには悪い印象を与えたかもしれない。

 尤も、最初からそれを予測できなかった自分が悪いのだし、間違っても桜に文句を言うつもりはなかった。桃は、もう何というか今更だ。飼い犬の罪は、飼い主の責任である。

 

 すると、あえて露悪的に振る舞うということも考えた。

 既に生徒会は横暴な組織という一般生徒からのイメージもある。桃の態度からも自然に映るだろう。脅迫とまではいかないが、無理やりやらされている、という逃げ道を作ってやったほうがうまくいく場合もある。特に「家」という柵を気にする相手なら有効に思えた。

 ただ、程度を間違えてしまえば、桜に嫌われるという心配があった。そうなったとき、みほが戦車道をすると言っても、反対をしたり、最悪しほに連絡をして連れ戻させたり、といった事態にもなりかねない。ともすれば、本人に嫌われるよりも厄介だ。

 

 杏は、ますます胃がキリキリと痛くなってきた。

 桃や柚子の前だから不敵に笑っていられるが、本音を言えば、今すぐに全部を投げ出したい気分である。よりにもよって、なんで今年なんだ。廃校の話も、来年や去年だったらよかったのに。とんだ貧乏くじだ。そんな悪態を我慢していた。これは今日に始まった話ではないが。

 

 当然ながら、そんな内心は、おくびにも出さない。

 角谷杏は、虚勢を張るのは大得意なのである。

 

「そんなに緊張しないでよ。ちょっとお願いしたいことがあるだけなんだから」

 

 自分で言ってて、無茶を言ってるなぁ、という自覚はあった。

 果たして、杏の選んだ手段はお願いをするという当初の方針を踏襲するものだった。

 ただし、ばか正直にお願いをするのでは芸がない。一捻りを加えるつもりだ。

 

 西住みほは、子供である。

 それは、しほや桜の評価だった。

 杏は西住みほをよく知らないが、二人ほど西住みほに詳しい人間は、他には姉の西住まほくらいしかいないだろう。世界で西住みほに最も詳しい三人のうち二人が意見を揃えたのだから、きっと間違いはないと判断した。

 

 杏は、西住みほを子供と見立てて、どうすれば戦車道を進んでやるだろうかと考えた。

 

 幸い、杏には子供をノせる手段に心当たりがあった。

 というのも、ごく身近に、子供のまま大人になったという人物がいることに気がついたからだ。

 

 言わずもがな、河嶋桃である。

 必ずしも同じというわけではないだろうが(むしろ同じであっては困る)、傾向が似ているのなら、イメージはしやすい。桃を動かすのは簡単だ。

 つまり、挑発するか、おだてるか、である。

 尤も、桃と杏の関係性に限れば、それは陶酔の域であるから、大抵指示ひとつで素直に動いてくれる。偶にうまくいかないのは、桃の暴走か、桃の阿呆さを計算しきれないときがあるからだ。しかし、最初から桃が従順だったかといえば、そんなことはない。昔を思い返せば、そういえばそんな風に操縦していた。

 

 杏は、いくつか頭の中でパターンを考えて、最も穏当に済みそうなパターンを選択した。つまりは、おだてる、ということである。

 それはこんな感じだった。

 

 実は大洗女子学園では、20年も前に戦車道をやっていたという実績があるが、今ではすっかり廃れてしまった。しかし、文科省から数年後の戦車道の世界大会に向けて、全国の高校や大学に戦車道に力を入れるよう要請があった。協力すれば、支援もあるということで復活させようと考えているが、当然ながら戦車道の経験者は大洗にはほとんどいない。さて、困ったぞ。というところに転校してきたのが西住みほである。最初は指導をお願いできないかと思い、みほの経歴やら、過去の試合の記録やらを調べ漁った。すると、当初の目的を忘れてすっかりとファンになってしまったのだ。特に桃などは繰り返し繰り返しみほの試合のビデオを見るような有様で、今日も緊張やら興奮やらでおかしな態度をとってしまったらしい。大変申し訳ない。しかし、どうかお願いを聞いてもらえるなら、戦車道の授業を取ってもらえないか。是非是非、一緒に戦車道をやってもらえないか。私たちにはあなたしか考えられないのだ。

 

 とまぁ、要約するとそんなことを話した。

 特に、あの時の試合がどうだとか、あの作戦は見事だった。あなたが考えたのか、素晴らしい。とか。そんな風に褒め称すと、みほは頗る機嫌をよくして、すすんで試合の解説をはじめたりした。突然のことに沙織や華はぽかんとしている。桃や柚子も同様だった。

 

 そして、杏の奇特なところは、これをまったくのアドリブで話しているということだった。おだてると決めたこともついさっきのことだから、当然と言えば当然のことである。しかし、それが嘘だと分かっている桜にも、まるで杏が本当にみほのファンであるように思えてきた。

 自分は戦車道については素人だから。そんな前置きで、試合や戦術については詳しく語らない。キーワードだけをあげつらって、さも見入ったように熱く語るが、実際に詳しい情景を話しているのはみほだ。うまいやり口であると感心した。

 

 結局、予鈴が鳴るまでの間、みほは自慢げに話し続け、杏は適度に合いの手や称賛を挟んで盛り上げた。みほも最後にはすっかりと警戒心を無くした顔で手を振って、詳しい話はまた今度、とごく自然に了承を取り付けたような雰囲気を作り、杏たちは三年生の教室に帰っていった。

 

 嵐のような出来事も、過ぎ去ってしまえば静かな時間が生まれる。

 杏たちの後ろ姿が見えなくなった頃、すっかり生徒の少なくなった廊下で、みほが桜の方へからだを向けた。その表情は、花が咲いたような笑顔だった。

 

「いい人たちだったねっ!」

 

 ◆

 

 その夜、桜はしほに一通のメールを送った。

 

『無事、お嬢様は戦車道を再開されることになりました。』

 

 しほからは、ありがとうございます。

 非常に短いメールだけが届けられたが、受信した時刻を見て、しほの逡巡した様子が思い浮かばれ微笑ましくなった。もっと沢山のことを書こうとしたが、送る直前に書き直したのだと思われる。

 しほも桜も、互いの生活習慣はだいたい把握している。メールを受信したのは、桜がそろそろ眠ろうとベッドに入った頃だった。

 




おまけ

あんず「それじゃあ、河島。明日までにこの辺のビデオを全部見ておくよーに」
もも「え、え?」
あんず「それと、西住ちゃんに喧嘩売るの禁止ね。河島は西住ちゃんの大ファンっていう設定になったから」
もも「か、かいちょう?」
あんず「小山ー。河島が逃げ出さないように見張っててね」
ゆず「分かりました」
もも「ゆずちゃあん!?」

 次の日、みほにサインをねだる桃の姿があった。
 サインは、額縁に入れて桃の自室に飾られている。

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