「いっでがみ殿―っ!」
わはーっ、という効果音を頭に付けたくなるような満面の笑顔を浮かべて、優花里はぶんぶんぶんと勢いよく手を振った。これを仮にクラスメイトが見たなら、あまりのキャラクター性の違いに双子かドッペルゲンガーを疑っただろう。
その視線の先には、当然ながらと言うべきか、桜がいる。
桜は、すこしばかり疲れたような表情を浮かべていた。
結局、昨日は、あれから優花里が満足するまで往来で抱きつかれ続けた桜だったが、夜になっても優花里の体の柔らかさだとか、髪から香るいい匂いだとかが思い出されて、一向に寝付くことができなかったのである。
気休めとばかりに、滝行の如くシャワーを頭から浴び続けて、せめて鼻の奥に残る優花里の匂いだけでも忘れようとしたが、温度設定を上げすぎたのが良くなったのだろう、早々にのぼせてしまい、余計に具合を悪くしてしまった。
寝起きの調子は最悪だったと言っていい。
それでも、いつもと同じ時間に起きて、みほの朝食や着替えを準備したのだから、桜の使用人としての意地というか、矜持は大したものである。
「…おはようございます、秋山さん」
「おはようございますっ!井手上殿っ!」
元気いっぱいの挨拶をする優花里。
さて、問題である。彼女は今、どこにいるのだろうか。
くいくい、と桜の制服の裾が引っ張られた。
「どちらさま?」
みほが可愛らしく、こてん、と首をかしげて桜に尋ねる。
正解は、桜とみほの通学路だ。
より正確には、マンションの出入り口のすぐ外である。
ともすれば、ストーカーか何かと間違えられも文句は言えない。
みほからすれば、全く見知らぬ女子が出待ちをしていたような状況だ。
尤も、黒森峰では少なからず遭遇した事態ではあったのだが。アイドルかスターのような扱いを受けていたのは、今は昔のお話である。
「彼女は、秋山優花里さん。私のクラスメイトですよ」
「西住みほ殿ですよねっ!はじめまして、秋山優花里と申します」
びしぃ!と敬礼をする。まるで軍人のようだった。
それにしても、だ。人見知りの設定は、はて、どこへ行ったのだろうか。昨日のおずおずとした態度や雰囲気は皆無である。人好きのする笑顔を浮かべ、ハキハキと喋っていた。
「ふぅん、この人か…」
「おじょ…みほさん?」
みほが何事かをつぶやいた。しかし、それは桜の耳には届かなかったらしい。
みほはとことこと歩いていって、優花里に近づいた。
そして、ゆっくりと右手を差し出した。
当然だが、握りこぶしの形ではない。パーの形に手のひらは開かれている。
尤も、心はこれっぽっちも開かれていないのだが。
「はじめまして。桜ちゃんの『幼馴染』の西住みほです」
ん?気のせいか。
桜には、みほが「幼馴染」という単語を言った時、少しばかり強調するような言い方だったように感じられた。
一体どんな表情をしているのか、桜からは窺い知ることができない。当然だ。桜からは、みほの後ろ姿しか見えないのだから。
しかし、みほのことだ。きっと、いつものように朗らかな顔で笑いかけているに違いないと思った。
実際、みほは完璧な笑顔を浮かべていた。
口も目も眉の形も、すべてお手本のような笑みの形だ。
100点満点である。
ところで、これは全く関係のないことだが、笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である。
いや、全く関係のないことだが。
「どうもどうも。井手上殿の『クラスメイト』の秋山優花里です」
(いや、それ既に紹介済みですけど!?)
不思議なことに、優花里も自己紹介をし返した。何回自己紹介をするつもりだろう。
それはそれとして、優花里も「クラスメイト」という単語を強調したような気がしたのだが、それも気のせいだろうか。桜にはまったくわからなかった。
にこにこと笑顔で握手に応じる優花里。ぎゅっと、握り返された。
優花里は、もともとは戦車道の大ファンである。当然、みほのことも知っていた。高校戦車道の強豪、黒森峰の元副隊長にして、西住流家元の娘。そんなみほは、当然、優花里にとっては憧れの相手だった。テレビは録画してあるし、雑誌は穴が空くほど読み込んだ。それこそ、優花里にとってのアイドルかスターが西住みほである。
これが、桜と出会う前であれば、優花里の心の支えは、彼女になっていたかもしれない。なにせ、憧れの人が転校してきて、チームメイトとして一緒に戦うのだ。夢に思い描かなかったか、と言えば嘘になる。
しかし、偶然とはいえ、優花里の鬱屈した心を救ったのは桜なのである。
憧れのスター選手と生まれて初めてできた友達。どちらに懐くかと言えば、当然後者だった。
「「仲良くしようね(しましょうね)」」
手を離したのは、全くの同時だった。
そして、みほはくるりと体ごと後ろを振り返り、優花里はにこにことした笑顔のままつかつかと桜のいる方へ近づいてくる。
そして、訳が分からないまま突っ立っている桜の腕を掴み、自分の腕を絡ませた。
それは、まるで異性のカップルが腕を組んで歩く時のような距離感で、ふに、ふに、とそれなりに大きな胸が桜の腕に当たってしまう。
桜は頭が沸騰しそうになった。
「なっ!なっ!なぁーっ!?」
みほが奇声を発する。
ばびゅーん、と2人の近くまで飛んできて、腕と腕の間に手の平を挟み込む。そして、ぐいいいっ、っと2人が離れるようにそれぞれの体を力任せに押しのけた。
桜の想像していた以上に、みほは力が強かった。
「何をやってるのかな!?かなっ!?」
2人の間に入り込んで、みほは優花里に詰め寄った。
「はて、なにか?」
「何かじゃないよっ!腕っ!腕を組むなんて、何?どういう関係!?」
「どうもこうも。仲のいい友人同士ならば普通のことでしょう?」
普通じゃない。
桜がそう叫びたくなったのも仕方のないことである。
しかし、悲しいかな。
これまで仲のよい友人のいなかった優花里は、他人との距離の詰め方がよく分かっていないのだ。ともすれば、仲のいい『異性の』友人とならば不自然でない行為も、同性の友人同士がする当たり前の行為として誤解し得るのだった。
そんなことあるか?と言われるかもしれないが、実際にあったのだから仕方ない。
優花里は、全く何を言われているのか分からない。そんな顔で小首を傾げた。
「ダメなの!あなたは桜ちゃんに近づいたらダメ!」
「そんなぁ!?横暴ですよぉ!」
「ダメったら、ダメー!!桜ちゃんはわたしのなの!わたしの、桜ちゃんなんだから!」
「ズルいですっ!井手上殿独占禁止法の施行を求めます!」
みほが両手を広げて、優花里が桜に近づけないようガードする。
優花里は、前後左右、フェイントをかけながら桜に近づこうとするが、みほのディフェンスは突破できないようだった。
「あ、あのぅ、そろそろ行かないと学校に遅刻しますよ?」
ようやく脳が正常に戻ったらしい桜が、見かねて声をかける。しかし、一向にふたりの動きは止まる様子が見られなかった。桜をゴールに見立て、終わりのない、というかルール無用の1on1が繰り広げられる。やがて、いくら言っても無駄ということに気づいた桜は、調子が悪いこともあって、スカートを押さえながらその場にしゃがみこんだ。立っているのに疲れたのである。
果たして、このボールのないバスケットはいつまで続くのだろうか。
いくらなんでも体力が無尽蔵ということはないだろうが、さて、『
あ、ソフトクリーム。
◆
その後の登校の風景も、筆舌に尽くしがたいものだった。
優花里は事あるごとに桜に引っ付こうとして、みほに遮られるを繰り返した。
終いには路上で喧嘩になりそうだったため、見かねた桜が仲裁に入り、手をつなぐことで一旦は収まった。右手がみほで、左手が優花里である。
優花里はるんるん気分での登校となったが、みほは依然として不機嫌な様子を隠すことはなかった。らしくもない半眼で、常に優花里のことをにらみ続けていた。
仲良く手を繋いでの登校はみほの教室の前まで続き、いざ別れる、という段階になって、「桜ちゃんと離れたくない」「わたしも桜ちゃんの教室に行く」とみほが駄々をこねはじめた。
桜がどれだけあやそうとしても収まらないので、無理くり沙織と華が抱えて教室の中に運んでいった。
「ようやくふたりきりですねっ!井手上殿」
満面の笑みで優花里が言う。
そうですね。とは、答えたくなかった。
答えてしまうと、優花里のことを受け入れたように思われて、さらに暴走しそうに思えたからだ。
桜にしてみれば、どうしてこうなった。としか言いようがなかった。
当然だ。桜には、優花里が
確かに、杏の用意してくれた台本は逸脱したが、こんなことになるとは全くの予想外である。
「えへーっ、井手上殿ぉー」
鉄板の上で溶けたバターみたいな表情で桜にしなだれかかる。
(なんだこれ?………なんだこれ?)
筋金入りの演技力のおかげで、依然、顔だけは笑顔を保っている。きっと、端からは分からないだろう。
しかし、心の声は、困惑でいっぱいだった。
いや、優花里は可愛い女の子だし、嫌われるよりかは好かれる方がいいに決まっている。好意を向けられるのは、そう悪い気分ではなかった。
しかし、こうも引っ付かれてしまうと、そのうち男ということがバレるのではないかと内心ではひやひやするものだ。ぱっと見では少女かもしれないが、正真正銘、体は男なのである。ないものはないし、付いてるものは付いている。反応は正常だ。
それに、何より、みほからの「ふぅん、その女の方がいいんだぁ」みたいな視線を向けられることに堪えられなかった。
さて、みほがいなくなると、ますます優花里は桜にべったりになった。
それは、例えば、国語の授業で。
「先生!教科書を忘れたので、井手上さんに教科書を見せてもらってもいいでしょうか!」
「ええと、秋山さん?井手上さんとは、席が遠いでしょう?隣の席の人に見せてもらいなさい」
「いえ、私が席を移るので心配はいりませんっ!」
「…そういう問題ではないのですが」
それは、例えば、美術の授業で。
「あの、秋山さん。…あまり、私の方を見つめないで欲しいのですが」
「お気になさらず」
「その、私ではなく、課題の石膏像を見てください。絵が書けないでしょう?」
「お気になさらず」
「え、いや、あの…」
それは、例えば、休み時間。
「井手上殿、どちらに?」
「あ、その、お手洗いに…」
「では、一緒に参りましょうか!」
「いやぁ、出来ればひとりで行きたいなぁ、なんて…」
「さぁさぁさぁ、参りましょう参りましょう」
「いや、あの、ほんとに…っ!」
桜は、たった一日で疲労困憊になる有り様だった。
◆
「井手上殿―!一緒にお昼を食べましょう!」
当然のように、お昼の時間にも優花里は桜に声をかけてきた。
それも、学食まで追いかけてきて、だ。
桜は片手で頭を押さえて、はぁ、と小さくため息を吐いた。
授業が終わるとほぼ同時、クラスで作ってきたイメージも忘れて、全力ダッシュで逃げ出したはずなのだが。
ぽかーん、という顔で優花里のことを眺める沙織と華。
みほに至っては、「がるるるるる」と、人の言葉を忘れたかのように唸り声をあげ、優花里のことを威嚇する始末だった。
「どうどう、みほさん。どうどうどう」
どうにかこうにか、みほのことをなだめすかして、席に座らせる。
5人ということなので、2人と3人に分かれて、対面で座ることになった。
片方は沙織と華。もう一方が、桜を真ん中にして、みほと優花里で左右を囲う。
「はい、井手上殿。あーん」
「あ、ズルい!ほら、桜ちゃん。あーん!」
みほと優花里が、それぞれスプーンとか箸とかで、桜にご飯を食べさせようとする。
桜としては、勘弁してくれ。というのが本音だった。
「あの、そんなことをしていただかなくても、自分で食べられますので…」
「わたしのごはんが食べられないの!?」
「いや、みほさんのお弁当、作ったの私ですし…」
みほは、酔っぱらった会社の上司みたいだった。
「ふふん。その点、私のごはんは学食ですから。はい、井手上殿」
「ですから、ひとりで食べられますって」
口を尖らせるみほ。一方、優花里の表情は笑顔のまま変わらないが、一向に箸がどけられる様子はない。一口大のから揚げが桜の視界に浮かんでいた。
「いやあ、これはこれは。桜、モテモテですなぁ」
「揶揄わないでください」
にやにやと楽しそうにしているのは沙織だ。普段からモテ道だなんだと言っているだけあって、こういう話題には食いつきがいいようだ。
華のように、目の前の料理にだけ喰いついていればいいのに、と思わずにはいられない。
「それにしても、ええっと、秋山さんだっけ?私たち以外にも、ちゃんとクラスにも仲のいい子がいたんだね。安心したよー」
ぐるぐると納豆をかき混ぜながら、沙織が言う。桜としては、優花里と仲良くなったという自覚はなかった。一方的に懐かれた、というだけである。
そもそも、広く浅く。特定の相手をつくらないのが、大洗での桜の処世術だ(勿論、みほは除く)。どうせ本当のことは明かせないのだから、仲良くなったところで高校にいる短い間だけの付き合いになる。卒業をした後で連絡を取り合うこともないだろう。深入りするのも馬鹿らしい。
「はい、井手上殿」
「桜ちゃん!あーん!」
だから、こんな事態は桜の想定外なのである。
「「どっちを食べるの(んですか)!?」」
声を揃えて、優花里とみほが迫る。左右両方から食べ物が差し出されても、桜としては困るしかなかった。
「自分の分で精一杯です!」
桜が叫ぶ。すると、華が、ぴんっと手を高く伸ばした。
食べられないなら、私が食べます。そういう意思表示だった。
◆
「いやぁ、やっちゃったねぇ、井手上ちゃん」
午後の授業は、1回目の戦車道の時間だった。
集まった生徒は、全部で22人。尤も、桜も予め知っていたことなので、驚くことはなかった。
初回の授業では、履修する生徒同士の顔合わせと、戦車の捜索が行われることになった。
当然のことながら、何も手掛かりがない、と杏が正直に言ってしまったものだから、生徒たちからは不満の声があがる。しかし、肝心のみほだけが、「学校探検楽しそう!」とテンションを上げたので、他の生徒たちもそれ以上何かを言うことはできなかった。
さて、みほたちが戦車の捜索をしている間のことだ。
生徒会室には、杏と柚子と桜、いつもの3人が揃っていた。
当然のように桜も戦車の捜索には誘われたが、やることがあるから、と血の涙を流しつつも断るしかなかった。杏たちに呼ばれている、と言われては、流石のみほも我儘を言うことはできなかったのである。
ちなみに本来の生徒会役員である桃は、倉庫の前で監督役のようなことをしていた。戦車道は授業の一環ということになっている。最低でも一人は責任者が現場にいないとだめだろう、ということになった。
ぽつねん、と一人残されて、捨てられた子犬のような目を杏に向けていたことが、桜にはひどく印象的だった。
閑話休題。
「すみませんでした。折角、角谷会長が準備してくれたのに」
桜が頭を下げる。
さて、生徒会室にこもり、3人で何をしているかと言うと、昨日の優花里との一件を報告していたのだった。加えて、午前中の優花里の様子。つまりは、想定以上に懐かれて困っている、ということを説明していた。
「いやいや、いいって。いいって。こっちも言ってみただけで、本当に台本を覚えられるなんて思ってなかったし。むしろ、よく覚えたなぁ、ってくらいだよ」
桜は頭を下げているが、杏にも柚子にも桜を責めるつもりはなかった。
そもそもが、会話のパターンを全て予習して挑むなど無理があったのだ。当然ながら、パターンの中に筋トレの話題などなかった。
「そもそも秋山ちゃんのパーソナルデータが不足してたからね。所詮は結果論。台本通りやったところで、同じことになったかもしれないし、もっとひどいことになったかもしれない。ま、戦車道には前向きみたいだし、結果オーライじゃない?井手上ちゃんがうまく手綱を握ってさえくれれば」
すると、桜は露骨に嫌な顔をした。
「それができるなら、こんなことにはなってませんよ」
「そりゃそっか」
桜が疲れている原因の9割は、優花里だ。
思考が理解できない、というのもそうだが、一番に頭を悩ませているのは、みほとの関係性である。こればかりは、言って聞かせたところで改善できるとも思えなかった。
「せめて、みほお嬢様と仲良くしてくれれば…」
優花里としてはそんなつもりはないのかもしれないが、優花里が桜にべったりの様子を見せると、決まってみほは不機嫌になるのだ。マウントを取っているというか、煽られているような気分になるそうだ。すると、当然、みほと優花里は喧嘩になる。
どちらも感情を隠すことには長けていない。寧ろ、素直に表現してしまう性質だ。おかげで、ふたりのギスギスした雰囲気は、どんな馬鹿にも感じ取れるほどだった(桃でも察する程だと言えば、その程度が伝わるだろうか)。
「それ、正直、意外だったよ」
「何がですか?」
杏が椅子に深く座り込んで、しみじみと呟いた。
「西住ちゃんだよ。存外、井手上ちゃんの一人相撲ではなかったんだねぇ」
てっきり杏は、桜ばかりがみほに執着しているのだと思っていた。みほは、まぁ、特別な感情は抱いていないのだろうと。しかし、みほの優花里への態度を聞く限り、そんなことはなかったらしい。寧ろ、かなり独占欲は強いようだった。
(まぁ、考えてみれば、当然か。幼い頃からずっと一緒にいて、自分を絶対に肯定してくれる相手。そういう感情は抜きにしても、手放したくはないよねぇ)
ましてや、みほの精神性は子供っぽいと聞いていたし、実際に話した感じでもその通りだと思った。みほの桜への感情は測りかねているところだが、仮にそれが、他人にお気に入りの玩具を触られたくない、という感情に近いのだとすれば、理解もできる。
「大事に思っていただける、というのは、個人的には嬉しいものですが。…あの空気に挟まれるのは、なんとも」
思い出しただけでも、胃がきりきりと痛みだす。
そのうち、近所の内科に通いつめることになるかもしれない。
「けどまぁ、仲良くやってもらわないとねぇ。一緒の戦車に乗るのに、ふたりの仲が悪いってのもねぇ」
「え?」
柚子が疑問の声をあげた。
「秋山さんと西住さんを同じ戦車に乗せる気なんですか?」
「そりゃあねぇ。他に選択肢もないし」
そう言って、杏は一枚の紙を取りだし、机の上に転がっていたペンに手を伸ばした。
かりかりと名前らしきものを書きながら、それらをぐるぐると丸で囲んでいく。
「一年生が、確か6人。さっきの様子を見る限り、仲良しグループって感じだねぇ。ここでひとつ。それと、珍妙な格好をしてたのが4人。ここは、クラスも一緒だし、下宿も一緒。ふたつめ。あとは、バレー部か。ここも一緒がいいねぇ。ってことでみっつ。さて、小山。このグループのどこかに、秋山ちゃんを混ぜるのはどう思う?」
「ええっと。ちょっと、難しそうですね。井手上さんの話を聞く限り、秋山さんはあまり、出来上がった空気に馴染めるタイプではないと思います。それに、彼女たちは彼女たちで、その、濃いですから」
柚子は、先ほどの倉庫内での顔合わせの時間を思い出していた。
言葉を選んだが、控えめに言っても、変わり者の集まりとしか言いようがない。特にバレー部と歴女。風紀委員のように、服装についてガミガミ言うつもりはないが、あの恰好のまま普段の学校生活を送っているのだとすれば、正気の沙汰とは思えなかった。
「私も、概ね小山の意見に賛成だね。どこに混ぜても、試合の間、戦車に乗るくらいのことはできると思う。だけど、これから大会までの間、チームで行動することが増える、と考えた場合、それはどっちにとってもよくない。最悪、離脱者が出るかもね。その点、西住ちゃんのところは、まだマシと言える」
「マシ、ですか?」
杏の言葉に、柚子が首を傾げる。
「あそこは、仲良くなってまだ数日。その上、秋山ちゃんと学年も一緒だ。まぁ、武部ちゃんと五十鈴ちゃんは元から仲がよかったみたいだけど、そこに西住ちゃんが混ざっても上手くやれてる、ってのは大きい。他ほど、出来上がってるわけじゃないし、数もまだ3人。グループ、ってほどの集まりじゃない」
「そうですね。武部さんも五十鈴さんも、懐の大きい方ですから、受け入れてくれる可能性は高いと思います」
杏の見立てに、桜が同意する。実際、昼の学食でも、優花里とみほの様子に驚いてはいたが、悪い感情は持っていないようだった。華に至っては、いつ殴り合いが始まるのか楽しみにしていた気配がある。
うんうん、と杏が満足そうに繰り返し頷いた。
「だから、問題は、井手上ちゃん関連なんだよね。ここで険悪になるとは、予想外だった。なんとか、今日のレクリエーションで仲良くなってくれるといいんだけど…。最悪の場合は、うちのチームに引き込むしかないかなぁ」
生徒会チームもみほと同じく3人だ。数だけで言えば、優花里を加えて4人というのもありだろう。下手に仲の悪い二人を同乗させるよりはマシなようにも思える。
しかし、杏としては、あまり自分たちと関わりを深める生徒を作りたくなかった。
というのも、戦車に乗せるだけならまだしも、先述した通り、自然とチームで一緒に行動することが増えると杏は考えているからだ。自分たちと一緒に行動するということは、秘密を共有してもらうことが必要になる。
それは、杏たちにとってはリスクであるし、優花里にとっては大きな負担だ。最悪の場合、心に傷を残しかねない。
「できれば、西住ちゃんのところにお願いしたいんだけどなぁ」
当初は、みほの高いコミュニケーション能力に期待していたのだが、こうなっては、寧ろマイナス要素である。もしもの話をしても仕方がないが、みほが大人しい性格だったなら、こんなことで不和は起こらなかったに違いない。
いっそ、騒動の種である桜を学校から追い出してしまうということも考えた。桜を取り合って喧嘩をするのなら、横合いから取り上げてしまえば、ふたりの喧嘩は収まるのかもしれない。しかし、その場合は、一緒にみほも出て行ってしまうだろう。それでは本末転倒だ。
どこかで都合よく、ふたりが仲良くなる世界はないものか。
もしもそんな世界があるのなら、その世界の自分にアドバイスを訊ねたいと思う杏だった。
おまけ
みほ「……」
ゆかり「……」
みほ「…なんでいるの?」
ゆかり「…いたら悪いですか?」
みほ「……」
ゆかり「……」
さおり「ふたりとも仲良くしてよーっ!?」
一番不憫なのは、もしかすると、ふたりの面倒を押し付けられた沙織かもしれなかった。