愛と真実の悪を貫く!!   作:柴猫侍

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◓前回のあらすじ

レッド「レッドは オーロラビームを おぼえたそうにしている……」

コスモス「それよりも船が浮いている件について」


№011:銀に集う

 

―――時はほんの少しだけ遡る。

 

 

 

 彼にとって、海と空の境目など無きに等しかった。

 

 空を泳ぎ、海を()ぶ。

 

 その(しろがね)の姿は、さながら雲であり太陽であった。

 

 陽光が届かぬ深海を照らす白銀は、今、その体を地上へと晒している。

 

「―――ルギア」

 

 ()を目の前にしたコスモスは自然とその名を口にしていた。

 ジョウト地方に伝わる伝説のポケモン、ルギア。

 海の神と呼ばれるポケモンであり、潜水に特化した翼を羽ばたかせれば、嵐を40日も巻き起こすとさえ言われている。その強大な力故、普段は深い海の底に暮らしているとも。

 

 そんな海神が今、こうして目の前に悠々と姿を現していた。

 

(伝説の……ポケモン)

 

 気づけば圧巻していた。

 海も空も統べるような圧倒的存在感に。

 先ほどまで無我夢中で空を撮っていた乗客も、今や撮影を忘れてルギアに目を―――そして心を奪われていた。

 

 しかし、その感動も足元に走る激震で忘れ去られることとなる。

 

「な、なんだ!?」

「船が……浮いてる!」

「きゃあああ!」

 

 轟音と悲鳴が響く中、ルギアの体よりも遥かに巨大な船体が宙に浮かび始める。

 これには野次馬だった者たちも命の危険を感じ取り、我先にと逃げだし始めるが、海と平行でなくやや傾いて浮上していたためか、地面があっという間に傾斜に変貌した。

 

「ルカリオ!」

 

 怒号に似た声を上げ、滑り落ちそうになる自身を掴まらせるコスモス。

 しかし、その真横を見慣れた人影が通り過ぎていった。

 

「いやあああ!!」

「!」

 

 被っていた麦わら帽子が脱げる勢いで滑落するリーキ。

 船体が傾いている以上、安全のために設けられている欄干を飛び越えて海に落ちる姿は想像に難くなかった。

 

 

 

 助ける? ―――無理だ。

 

 武勇伝になるのでは? ―――自分の命が最優先。

 

 助けた時のメリットは? ―――デメリットが大きすぎる。

 

 

 

 と、いつも通りの打算的で合理性を求める思考を巡らせる中、コスモスの視界は線のように映っていた。

 

「バウッ!?」

「っ……チッ!!」

 

 正気に返った時にはルカリオの手を振り払い、落ちていくリーキへと手を伸ばしていた。

 

 柄にもない大博打に出てしまったものだ。彼女一人助けたところで自分が死んでは野望もなにも潰えてしまうというのに。

 

 それでも体が動いてしまった。

 最早退くに退けない状況となった今、やるならば現状の打破しかない。

 

「手を伸ばして!!」

「コスモスさ……!」

「早くっ!!」

「っ……!」

 

 半ばやけくそになるコスモスの怒鳴り声に応じるリーキは精一杯手を伸ばす。

 あとちょっと―――そのようなもどかしい距離感を数度経た後、二人はようやく手を取り合った。

 しかし、その時すでにリーキの体は半分船の外へと放り出されていたではないか。

 全身に襲い掛かる浮遊感に、今にも気を失ってしまいそうなリーキであったが、その意識を繋ぎ止めたのは他でもない。ガクンと体に伝わる衝撃と、しっかりと握ったままのコスモスの手の感触であった。

 

「くうっ……!」

「コスモスさん……!?」

「なんで私がこんな……!」

 

 恨めしそうに悪態を吐くコスモス。

 彼女は今、片手で欄干に掴まり、もう片方の手でリーキを掴んでいるという絶体絶命の危機に瀕していた。

 少しでも力を緩めれば、リーキどころか自身の命さえも危うい。

 まったくもって非合理だ。ルカリオの手を振り払い、救出に向かった過去の自分が恨めしくて仕方がない。

 

 視線を上げればルカリオが降りてくる姿が窺える。

 が、コスモス自身自分ともう一人を支えていられる時間が、彼の救出を待つまでの間持たないことは察していた。

 

「飛べるポケモンは……!」

「え……!?」

「飛べるポケモンは持ってるかと聞いてるんです!」

「わ、わたしは持ってなくて……!」

「じゃあ、私のベルトのボールを開けて! 早く!」

「う、うん……!」

 

 両手が塞がっているコスモスと違い、辛うじて片手が空いているリーキは、宙づりに等しい不安定な状況の中、死に物狂いで言われたボールの開閉スイッチに触れた。

 飛び出てきたポケモンは、二人を容易く持ち上げられる―――はずもなさそうなズバットだ。

 

 これにはリーキも面食らったように言葉を失ってしまう。

 

「ズ、ズバット……!?」

「私たちを持ち上げて!」

「えぇ!?」

 

 そもそも持ち上げる手も足もないではないか―――と思った矢先の指示だった。

 仰天するリーキを横目に、言われるがままコスモスの襟の裏に噛み付き、翼と呼ぶには心もとない翼膜を必死にはばたかせる。

 あくまでこれは延命措置。本命はやはりルカリオだが、それまでに自分たちが落ちては元も子もないのだ。

 

 ズバットの頑張りもあり、手に掛かる負担が楽になる―――気がしたのは一瞬だけ。

 やはり無理があったのか、最初の内は感じ取れた浮遊感も、すでにないに等しい状態へと戻ってしまっている。

 

「ぅぅう……!!」

「コ、コスモスさん……わ、わたしのことはもう……! 貴方だけでも……っ!」

「面倒なので拒否します!」

「面倒っ!?」

 

 コスモスだけでも、と自己犠牲から発した言葉を、あろうことか「面倒」と一刀両断されたリーキ。断るにしても違う答え方があるだろうと思った彼女であったが、こちらに見向きもせずルカリオに視線を向けるコスモスの瞳に、続ける言葉を見失ってしまった。

 真っすぐ―――ひたすらに真っすぐな瞳だ。

 他の何事も眼中にはない。ただ自分の為そうとする事柄以外、目に入らない―――いや、入れないという強い意志を感じさせる。

 

「っ、ぁぁあああ!!」

 

 既に限界寸前の腕に力を込め、二人分の体を引き上げようと試みる。

 腕や肩から嫌な音が聞こえてくるが、それさえも厭わず力を振り絞るコスモスからは、まさしく決死の気迫というものを感じ取れた。

 

 そんな主の気迫を間近で目にしていたズバット。

 すると、突然彼の体に異変が起こった。

 ブルブルと体を震わせるズバットは、みるみるうちに眩い光を放ち始める。小さかった体は時間と共に一回りも二回りも大きくなり、体形さえも元の姿から大きく変貌させるに至っていた。

 

「こ、これは……!」

 

 直に見られないコスモスに対し、一部始終を目の当たりにしていたリーキは、その変化に目を見開いていた。

 

「ズバットが……ゴルバットに!?」

 

 進化。それはポケモンの身にもたらされる神秘の変態。

 ある程度成長、あるいは特定の条件を満たしたポケモンが、今とは全く違う姿へと変わる現象だが、目の前で繰り広げられたのはまさにそれだった。

 ズバットの時よりも大きくなった翼を羽ばたかせれば、力尽きる寸前であったコスモスの体があっという間に引き上げられていく。

 

 そうなれば後はとんとん拍子だ。

 軽快な身のこなしで降りてきたルカリオが、すぐさまコスモスとリーキの二人を引き上げる。

 

「まぷっ!」

「ひゃん! た……助かった……?」

「ひっひっふー……ひっひっふー……!」

「何を産もうとしてるんですか、コスモスさん!?」

 

 引き上げられた先で息せき切るコスモス。

 未だゴルバットの支えがあるからこそ立てている彼女だが、体力だけで言えばすぐにでも倒れてしまいかねない程に疲弊してしまっている。

 

「と、とにかく安全な場所に……」

 

 と、リーキは言うものの、宙を泳ぐ船と化した旅客船に安全な場所など無くなっていた。

 もしもこのまま海面に叩きつけられでもしたら、衝撃で船が壊れ―――その先を考えた途端、ただでさえ血色が悪かったリーキの顔が青ざめる。

 

「ル……」

「ル?」

「ルギアを……捕まえます」

「えぇ!?」

 

 突拍子のない提案には、リーキも仰天せざるを得なかった。

 

「ル、ルギアを捕まえるって……伝説のポケモンですよ!?」

「ルギアが船を浮かせているなら、ルギアに指示を出せば下してくれる……違いますか?」

「た、確かにそれも道理ですけれど……捕まえるとなると……!」

 

 伝説のポケモンを捕まえるなど、並大抵の難易度では済まない。

 伝説が伝説と呼ばれる所以は、その強さに起因する。隔絶した強さや能力があるからこそ、太古の人々は彼らを伝説と謳い、あるいは神として崇めてきたのだ。

 それこそ万全の準備を整えた四天王やチャンピオンクラスでなければ、恐らくルギアを捕まえることはできない。

 

「それでも……やるしかない」

「!」

 

 びっしょりを汗を掻いたコスモスの表情は真剣そのもの。

その表情を見るやリーキは、自分の考えが無理だなんだと否定するものばかりだったと反省した。

 そうだ、やるしかない。一縷の望みを掛けて神を手中に収める。現状を穏便に解決するには、それより他に手段はない。

 

「……わかりました。それしか方法がないのなら!」

 

 リーキはコスモスの訴えを首肯した。

 そもそも彼女は命の恩人なのだ。こんな絶体絶命の事態を前に、彼女が為し遂げたいことがあるというのならば、進んで手を貸すのが義理というものではないのか。

 腹を括ったリーキの面持ちに、コスモスはフッと笑みを零す。

 

(これでルギアをゲットできるなら儲けもの……ジム制覇、リーグ優勝、チャンピオン就任! イイ感じ……)

 

―――打算的な考えが先行しているのはご愛敬。

 

 だがしかし、現状打破にはルギアを捕獲し懐柔するしかない点については確かであった。

 旅客全員を飛べるポケモンやエスパーポケモンで運び出すには相応の時間がかかる。それまでルギアが船を浮かせたままで居てくれる保障など、どこにもないのだ。

 

 伝説を手に入れ、大事件を解決。

 未来のチャンピオンの武勇伝に相応しい経歴ではないか!

 

 と、前向きに考えていたコスモスであったが、不意を衝くように激震が船体を襲った。

 

「あ」

「あ」

「クワンヌッ!?」

 

 手に力が入らないコスモスどころか、余りの衝撃にリーキとルカリオすらも、船体から投げ飛ばされる。

 

「きゃあああ!!?」

「ぐぇ……」

「コスモスさぁ―――んッ!!?」

 

 重力に引かれて墜落するリーキとルカリオに対し、コスモスは必至にはばたくゴルバットにより宙づりにされる。

 が、ゴルバットが掴んでいる場所が悪かった。

 端的に言えば、首つりに近い状態になっている。みるみるうちに顔が真っ赤になっていくコスモスは、最早捕獲どころの話ではない状態だった。

 

 ただ命の危険で言えばリーキとルカリオも同じどころか、もっと危うい。

 一分もしない内に体は海面に叩きつけられる。少なくとも大怪我。一歩間違えれば―――死。

 

「ひぃ!!」

 

 恐怖の余り目を閉じる。

 願わくば、痛みが一瞬で済んでくれますように―――淡い願いだとしりながらも神頼みせずにいられないリーキは、手を組んでは何度も何度も心の中で唱えた。

 

「……あれ?」

 

 落ちない。

 一向に落ちないのだ。

 気づけば妙な浮遊感に包まれており、あれだけ体を吹き付けていた風も感じない。

 恐る恐る目を開いてみる。感覚が恐怖で狂っているだけかとも考えたリーキであったが、いざ辺りを見渡してみても、放り出されてすぐ下の辺りで景色が止まっていた。

 

「これは一体……?」

 

 隣のルカリオも同様に、未知の力で宙に浮いていた。

 吹き荒れる暴風雨の中、どこにも吹き飛ばされないしっかりとした安定感を覚えさせる力には、リーキやルカリオも目を白黒とさせる。

 

「……あっ! コスモスさんが!」

「バウッ! バウバウッ!」

「ぐぇ……」

 

 茫然と居られるのもそこまでだった。

 さすがは進化しただけあって力強いゴルバットにより、コスモスは船まで運ばれていたものの、その間首つり状態になっていた事実は拭えず、今も顔面蒼白だ。

 なんとか彼女の下へ戻ろうとするものの、超常的な力で浮かんでいる今、思うように船へと体は進んでくれない。せめて支えている当事者が分かればいいものの、今はそれさえ分からないのだ。

 

「あ、そうだ! お願いゴルバットさん! わたしたち……を……?」

 

 リーキの声を遮るように風が薙ぐ。

 真後ろで響いた突風はかなりの勢いだった。

 それこそ、大きなポケモンが翼を羽ばたかせたような音が耳を劈いた。

 

「え?」

「グォー!」

「きゃあああ!? リザードン!?」

 

 かえんポケモン、リザードン。

 リザードの進化形であり、翼が生え、大空を自由自在に飛ぶことが叶った火竜だ。

 普段ならば、ここ辺りに生息地はないと冷静な判断を下せるリーキであったが、立て続けに命を落としかねない状況に陥った今、ただただ驚くことしかできない。

 

 サンドのように身を丸まらせて守りを固めるリーキ。

 だが、リザードンは彼女たちを小脇に抱える形で船まで運搬する。

 

「ワフッ」

「グォウ」

 

 運ばれるルカリオは、特段警戒する様子も見せず、恩に着ると言わんばかりの鳴き声を上げ、リザードンも応じてニヤリと口角を上げた。

 まるで知り合いであるかのような振る舞いには、ビクビクと身を震わせていたリーキも首をかしげる。

 

「し、知り合いなんですか……?」

「恐らくは……先生のリザードンです」

「コスモスさん! 大丈夫でしたか?!」

「川の中で踊ってるルンパッパにつられて踊りかけたけど大丈夫」

「それ大丈夫じゃないですよね!? 引きずられかけてましたよね!?」

 

 危うく三途の川を渡りかけたコスモスであったが回復したようだ。

 と、自分の容態はともかく、コスモスは救援に来てくれたリザードンの様子が気がかりであった。

 訴えるような眼差しを送っては、鋭い爪で自身の背中を指さす。

 

 さながら「乗れ」と言わんばかりだ。

 

「……助けに来た、だけではないと?」

「グォウ」

「……」

「コスモスさん?」

 

 顎を抱えて唸るコスモスにリーキが声をかける。

 並々ならぬ事情を抱えていると思しきリザードンであるが、その真意を理解するには、主であるレッド以外では難しい話であった。

 しかし、

 

「……なるほど。そういうことですか」

「コスモスさん? 何か分かったんですか?」

「リザードンに乗りましょう」

「え……ひゃあ!」

 

 リーキを抱きかかえて飛び出したコスモス。

 それを難なくキャッチするリザードンは、慣れた手つきで彼女たちを背中へと移した。

 ある地方では空の移動手段として用いられるリザードン。その乗り心地は遥か昔よりお墨付きだ。

 少女二人と一匹を乗せた火竜は、吹き荒れる暴風雨を物ともせず、尻尾の先にともっている炎の尾を引かせながら機敏に空を舞う。

 

「ひぃぃぃい! ど、どこに行くんですかぁー!」

「うーん……ここら辺。ルカリオ!」

「バウッ!」

 

 悲鳴染みた問いかけに軽く受け答え、コスモスはルカリオを呼ぶ。

 すると彼は、何を言われるまでもなく両手を左右に伸ばし、後頭部の垂れさがった部位をブルブルと震わせながら波動感知を始めた。

 

 鍛えられたルカリオは1キロメートル先の相手の感情さえ読み取れるという。感情に機敏が故にストレスをためやすいという性質を有すポケモンではあるが、その感知能力は目を見張るものがある。

 

 それこそ、船どころか周囲に集まる()()を感じ取れるほどには。

 

「!」

「見つけた?」

「な、なにをですか……?」

「船を浮かばせている犯人」

「えっ!?」

 

 思いもよらぬ答えに驚くリーキは、自然と船尾―――ルギアと出会った方角へと振り返った。

 

「こんなことできるポケモンが他に居るって言うんですか!?」

 

 彼女の声音は『船を浮かばせているのはルギアしかいない』と言わんばかりだ。

 事実、遠い遠い地方ではルギアが貨物船を海から遠く離れた砂漠まで運んだ事件が起こった過去もある。それだけの力があることが実証されている以上、ルギアを疑うなという方が無理な話だ。

 

 だが、コスモスは淡々と反論を始める。

 

「居ないとは言いきれない」

「そうは言っても現に……」

「そもそもルギアが主犯ならルカリオが気づけないはずがない」

「と……言うと?」

「少なくともルギアは()から現れた。でも、船浮かばそうとする()()を持ってるんだったらルカリオが私に教える」

 

 ね? と目配せすれば、ルカリオはコクリと頷いた。

 今後は敵を増やしていく身。自衛の手段として傍に置いているルカリオには、何よりもまず自身に対する敵意や悪意といった感情を察知するように育てていた。

 

 それでは仮にルギアが船を敵対視しているとして、1キロメートル先の感情を感知できるルカリオが気づけないだろうか?

 いいや、そんなはずはない。

 

「ルギアは船を襲ってるんじゃない。船を()()()()

「えっ!?」

「嵐を起こす力を持ったルギアが本気を出す相手……そいつが主犯。ルカリオの感知を抜けて来たポケモンが!」

 

 つい最近経験したばかりだ。“テレポート”を用いて接近した相手を。

 

 もしも、そんな相手が船を弄んでおり、そこへ海神と謳われるルギアが助けに来てくれたのであれば、コスモスの中で全ての辻褄が合う。

 

 語気を強めるコスモスに呼応したルカリオがカッと目を見開く。

 すると、言われるまでもなく両手に波動を収束させたルカリオが“はどうだん”を虚空へ向かって打ち出した。

 空を覆う灰色の中、蒼い光弾は一層輝いて見える。

 二条の軌跡を描く光弾は、大きな弧を描くように上空へ―――船首の上へと疾走した。

 

「さぁ……出てこい!!」

 

 迷うことなく一点へ突き進む“はどうだん”。

 ルカリオ以外の目には何も映らない場所へ向かう光弾であったが、刹那、何もない場所に着弾するや爆発が起こった。

 「当たった!?」と驚くリーキの一方で、ジッと空を漂う黒煙を見つめるコスモス。

 

 次の瞬間だった。

 黒煙を切り裂くように一陣の刃がコスモスたちを襲う。

 

「グォォオオオ!!!」

「きゃあ!!」

「くっ!」

 

 しかし、寸前のところでリザードンが両手で受け止めたため、コスモスたちへの被害は爆発の余波だけにとどまった。

 それでも爆音と振動は凄まじく、庇われたはずのコスモスでさえ眩暈を覚える程の威力だ。

 

 これほどの技を繰り出す相手。

 一体どのようなポケモンが佇んでいるのか。

 いざ、眼を見開いて空を仰ぐ。

 

「あれは……」

「ポケモン……なの?」

 

 晴れゆく黒煙の中に佇む一つの影。

 それは鳥ポケモンのように翼で羽ばたいている訳でもなく、悠々と空に浮いていた。

 

 だが、それ以上に目を引いたのは無機質な鎧だ。800を優に超えるポケモンの種族の中には、まるで人工物のような―――それこそポリゴンのように人間が作ったポケモンさえいる。

 

 数多存在するポケモンの中に、鎧を纏っているように見えるポケモンはいくらか居るだろう。

 しかしながら、現にコスモスたちが目にする存在は次元が違う。

 明らかに人間の手で造られた鎧を身に纏っている―――そうとしか見られない姿があったのだ。

 

「グルルルルッ!!」

「グォォオオ!!」

 

 コスモスとリーキが慄く中、ルカリオは牙を剥き、リザードンは炎を吹きながら雄たけびを上げた。

 一見闘争心を高める行為に見えるが、ふとした既視感にコスモスが問う。

 

「ルカリオ。()()なの?」

「バウッ!」

「そう」

 

 同じ―――それは先日相手した三体を指していた。

 波動を感知するルカリオに、禍々しい紫のオーラを身にまとっているように見えた三体だ。

 

 それと同じであるとは、つまり目の前の存在も。

 

 ただ一つ違う点があるとすれば、

 

「フーッ!! フーッ!!」

「……ルカリオ?」

 

 空が闇に覆われ、地上がその影に隠されると錯覚するオーラの量だ。

 

―――桁違い。

―――次元が違う。

―――あれは本当に同族(ポケモン)なのか?

 

 同じような言葉が幾度もルカリオの脳裏を巡る。

 

 臆病な本能に裸足で逃げだしそうになる恐怖を与える存在に、彼は主への忠誠心だけで自制する。

 それでも平静で居られない現状を察知したコスモスは、一際険しい面持ちを浮かべ、立ち塞がる存在に目を遣った。

 

「リザードン」

「グゥ」

「今だけは私に指示を任せて」

「リザァァア!」

 

 答えはイエス。

 紅蓮の炎を空目掛けて吐き出すリザードンに、コスモスは不敵に微笑んだ。

 

 レッドに託されたリザードンに命を預けることしたコスモスは、同乗していたルカリオをゴルバットに掴ませるようにし、別個の飛行戦力として扱うと決めた。

 

 これで少なくとも2対1。

 船をサイコパワーで浮かせるだけの相手に対して心もとない感は拭えないものの、だからといって尻尾を巻いて逃げるような性格ではない。

 

「どこぞの差し金か分からないけれど……人の予定を狂わせた分は痛めつけてやる」

「コ……コスモスさん。結構物騒なことを……」

「GO! リザードン!」

「きゃあああ!!?」

 

 コスモスの合図で突進するリザードン。

 標的は無論、鎧のポケモン。

 これだけの所業をしでかした存在は、突撃してくるリザードンを目の前に片手を前へ伸ばす。

 次の瞬間、掌から生まれた星型のエネルギーがリザードン目掛けて解き放たれた。

 

「“スピードスター”が!?」

「リザードン、“エアスラッシュ”で迎撃!」

 

 放射状に広がってからリザードンへ収束する“スピードスター”。

 繰り出すポケモンのサイコパワーもあってか、かなり変則的な軌道を描く攻撃に対し、コスモスの指示に応じたリザードンはバレルロールの要領で回転しながら、その際の翼の羽ばたきで生じさせた風の刃で迫りくる星の群れを撃墜する。

 乗っている二人からすれば堪らない変態飛行であるが、今は我慢の時だ。グッと歯を食いしばり、体に襲い掛かる圧に耐える。

 

 そうして迎撃のみならず回転によって加速したリザードンは、一直線に鎧のポケモンへ。

 

 それを許さぬ敵は、もう片方の手から一度繰り出したエネルギーの刃を繰り出そうとする。

 

「あれは……“サイコカッター”です!」

「ルカリオ! “あくのはどう”で援護!」

「バウッ!」

 

 ゴルバットに懸架されるルカリオが漆黒の波動を繰り出し、リザードン目掛けて放たれたサイコパワーで形成された刃と激突する。

 相手は超越したサイコパワーの持ち主。

 しかし、エスパーとあくの拮抗であれば後者に軍配が上がる。

 

 素の力で劣るルカリオであるが、技のタイプ相性で“サイコカッター”を迎撃してみせた。

 そうなれば後はリザードンの番だ。

 

「“だいもんじ”!」

「グオオオオッ!」

 

 瞬時に口腔に火炎が収束する。

 限界まで凝縮された火の玉が鎧のポケモンへと解き放たれるや、それは大の字へと形成される。

 辺りを紅蓮に照らすほどの爆炎。これさえ直撃すればいくら鎧のポケモンとてタダでは済むまいと、コスモスの拳にも力が入った。

 

 しかし、“だいもんじ”が直撃する瞬間に標的の姿が消えた。それも一瞬で、だ。

 

「っ、“テレポート”!?」

「どこに……?」

 

 すぐさま辺りを見渡すコスモス。

 

 こういった瞬間移動の定石は上か下か、はたまた後ろか。

 

 答えは振り返って理解する。

 

「後ろ! ゴルバット、回避!」

「ゴルバッ……!?」

 

 ゴルバットとルカリオの背後。それも間近であった。

 聞こえる指示に従い回避行動をとろうとするゴルバットであったが、もう遅い。

 すでに“サイコカッター”を準備していた鎧のポケモンは、目障りであった二体目掛けてサイコパワーで形成された刃を叩きつける。

 

 ルカリオはともかく、ゴルバットにとってエスパーは致命的だ。

 だが、ゴルバットを倒されてしまえば必然的にルカリオの戦闘続行も叶わなくなるだろう。

 

「ゴルバット!! ルカリオ!!」

 

 手持ちの名を叫び、生じた黒煙に目を凝らすコスモス。

 

 瀕死になればすぐさま回収へ向かう。そんなつもりでリザードンを飛ばしていく。

 

 じわりと冷や汗が頬を伝う感覚を覚えながら数秒待つ。

 すると、間もなくして煙の尾を引くようにして一つの影が飛び出してきた。

 

 が、その姿にコスモスのみならずリーキが目を白黒させる。

 

「あれ……?」

「……クロバット?」

 

 飛び出してきたのはゴルバットではなくクロバット。ゴルバットの進化形だ。

 まさか窮地に追いやられて進化したのか?

 そんな考えが過ったのも束の間、コスモスの目はクロバットに懸架されるルカリオと()()()()()の姿が目に入った。

 

「じゃあ……」

 

―――誰の?

 

 生じた疑問が頭を過った瞬間、次は電光が空に瞬いた。

 

「こ、今度はなに!?」

「あれは……ジバコイル!」

 

 堪らず目を瞑るリーキに対し、コスモスは目を細めながらも鎧のポケモンに攻撃を仕掛ける乱入者を捉えた。

 コイルの最終進化形、ジバコイル。

 前方に突き出た磁石から“10まんボルト”を繰り出すポケモンの上には、電光が瞬く中でもしっかりと人影が見えた。

 

「赤髪……?」

 

 人相や服装よりも目に入った第一の情報が髪色。

 椿のように赤色は非常に鮮やかで、淡白な色合いのジバコイルと共に居ることで一層強調されて見えた。

 

「おい、そこのお前!!」

「?」

 

 そんな髪色のポケモントレーナーが叫んだ。

 声の質感から男……それも若い。少年だろうか。それくらいの年頃だろう。

 やや粗暴な印象を与える口調だが、不思議と敵対心を感じさせない少年はコスモスに向かって告げる。

 

「そいつを倒すなら俺がやる!! 素人は下がってろ!!」

「は?」

「どこぞの馬の骨かも分からない奴に手に負える相手じゃないって言ってるんだよ!! ジバコイル、“マグネットボム”だ!!」

 

 鎧のポケモンが“サイコキネシス”で“10まんボルト”を捻じ曲げ脱出を試みようとする光景を目にした赤髪の少年が、続けざまに強力な磁力を有した弾丸を打ち出すよう指示を出す。

 それを直撃寸前で“テレポート”で回避した鎧のポケモンであったが、“マグネットボム”は鎧に引かれるように追撃し、とうとう着弾して爆発した。

 

「凄い! あのポケモンに命中させました!」

「……」

 

 驚嘆の声を上げるリーキであるが、その傍でコスモスは得も言われぬ面持ちを浮かべる。

 そんな彼女に構わず、赤髪の少年は次なる攻撃を仕掛けんと口を開いた。

 

「ジバコイル! “でんじは”で動きを……」

『!』

「なにッ!? 速い!」

 

 黒煙を“サイコキネシス”で振り払う鎧のポケモンは、突き出した両手から蒼い光弾を撃ち出す。

 “はどうだん”。ジバコイルにとっては致命的なかくとうタイプの技だ。

 すでに“でんじは”の用意をしていたジバコイルは、元の動きが緩慢なこともあり、迎撃態勢も回避行動をとることもできず、ただただ攻撃を喰らう時を待つしかなくなる。

 

「チィ!!」

「“はどうだん”!」

「なっ……!?」

 

 しかし、その光弾を撃ち落とす援護が入った。

 

 クロバットに懸架されていたルカリオ。“サイコカッター”の直撃を喰らっていた彼であったが、食べ終えたオボンのみの芯を吐き捨てる。

 

「誰が馬の骨って?」

「……フンッ! 誰だか知らないが、少しはやるようだな」

「誰ではなく、コスモスです。ゆくゆくはチャンピオンになるポケモントレーナーです」

「チャンピオン? ……そうかよ」

 

 鼻を鳴らす赤髪の少年は、覚えるまでコスモスの顔を凝視した後、鎧のポケモンへと目を向ける。

 未だ堪えた様子を見せないものの、どんなポケモンであれ体力は有限だ。

 勝機はある。

 そう自分に言い聞かせる彼は、再度コスモスに声をかけた。

 

「なら似たようなもんだな。手を貸せ! あれを倒すぞ!」

 

 ()()()()ならばやれる―――ボールの中で奮い立つ相棒に向けて唱える。

 

 

 

「……おれはシルバーだ!! やるからには勝つぞ、コスモス!!」

 

 

 

 

 

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