愛と真実の悪を貫く!!   作:柴猫侍

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◓前回のあらすじ

レッド「神社行った後、育て屋を見つけた」

コスモス「自転車に乗っている人は見当たらないです」

レッド「そんな100万もするものをホイホイとは……」

コスモス「え?」

レッド「え?」


№014:結びつきへの助け舟

「ごめんください」

 

 育て屋の門の前でインターホンを鳴らすコスモス。

 

 実は、昨日はほとんど夕方であったため、こうして日を改めて訪れた訳であるが、しばらく待っていても中々応答は返ってこない。

 特段急ぎの用という訳でもなく、半ば興味本位での来訪だ。

 出かけているか何かで家主が居ないということになれば、さっさとオキノジム攻略のための自主練に戻りたいのがコスモスの考えである。

 

 眠たげに瞼を擦るレッドの様子にも目を遣り、そろそろ引き際かと踵を返そうと振り返った。

 その時、微かに屋敷の方から足音が響いてきたではないか。

 ゆっくりではあるが徐々に近づいてくる。

 二人とも今や今やと待ちかねていれば、ようやく門が開いた。

 

「はい、いらっしゃいませ……お客様でしょうか?」

 

 現れたのは腰の曲がった老爺であった。

 穏やかな笑みを湛えて応対する様は、まさしく好々爺と言うべき印象。門の奥に広がる庭園には、無数のポケモンたちの姿が窺える。

 

「あ、いえ……育て屋に興味があって立ち寄ったんですが……」

「おやおや、そうでしたか。まあ立ち話もなんですし、店の中で」

「それではお邪魔します」

「ちなみに、そちらの方はお兄さんでして?」

「いえ、ポケモンバトルの師です」

「おやまあ……これまた」

 

 特殊な関係だと言いたいのだろうか。

 何はともあれ快く迎え入れられた。

 

(さてさて……)

 

 コスモスはキョロキョロと屋敷のぐるりを見渡す。

 育て屋の育成環境とは如何様か。それを確かめるためであった。

 しかし、これといった特訓場といった場所は見つけられる、ただただ広大で趣深い庭園が広がっているだけだ。

 ポケモンが遊びまわるには十分であろうが、これで強いポケモンが育てられるとは思えない。

 

(う~ん……いえ、屋敷の中にこそ秘密が)

 

 今度は屋敷の中に注目しようとする。

 だが、いざ案内された先は受付があるカウンターだけで、これといった特訓器具も見受けられない。

 

 育て屋とは、いわばブリーダーの一種。

 ポケモン育成に関するイロハを身に着けており、複数体のポケモンを育成する環境も相まって、育て屋を開業するために必要な資格はそれなりに厳しいものとなっている。

 

 もっとも、コスモスにとっては金銭を対価に他人に育成を任せるなど信じられない所業であった。

 というのも、育て屋にもよるが預けられたポケモンが新たな技を覚えることがある。

 それがバトルに用いるポケモンともなれば、当然以前と同じバトルをすることが難しくなるのは想像に難くない。

 

 いちいち返された後に技を把握するなど非合理の極み。

 ならば初めから自分が育てればいい話ではないか。

 

 と、過去の経歴故にそう考えがちであったのがコスモス。

 しかし、こうしてわざわざ育て屋に足を運んだ以上、本やネットには載っていない育成方法の知見を身につけたいところだった。

 

「あの」

「はい?」

「ここは育て屋ですよね? どういった方法でポケモンを育てるんですか?」

 

 「ああ、そういうことですか」と、まるで育て屋に興味を持ってくれた若者に対する喜びに満ちた笑顔を湛える老爺。

 彼―――「タケ」を名乗る彼は、二人を居間まで案内してから育て屋の概要について説明を始めた。

 

「うちの育て屋はそうですねぇ……第一にのびのびと過ごしてもらうことを重要視して、ポケモンを預からせていただいておりますねぇ」

「と、言いますと?」

「預けようか検討なさるお客様から『バトルで活躍できるように!』とご要望を頂くことはありますが、あくまで儂はポケモン自身に任せております」

「……どちらかと言うと預かり屋に近い形で?」

 

 お茶請けの煎餅をピカチュウと仲良く齧っていたレッドが問いかける。

 タケは首肯し、庭先で元気よく駆け回っているポケモンたちへと目を移し、ニコニコと朗らかな笑みを湛えながら続けた。

 

「儂はね、昔はそれなりにポケモンバトルを嗜んでいた方なんですよ……」

 

 どこか懐かしむような、それでいて寂しそうな顔を浮かべるタケは、今度は神棚へと目を移す。

 そこに飾られていたのは一体のポケモンの写真とモンスターボール。

 セピア調の古い写真に加え、ひと昔前の開閉するためにネジが設けられているモンスターボールはかなり年季が入っているように見える。

 

 二人はそれとなく察し、バツの悪そうな顔を浮かべた。

 それに対してタケは、申し訳なさそうに一礼する。

 

「すみませんねぇ。でも、ポケモントレーナーの貴方たちにはぜひとも聞いてもらいたい……」

「……どうぞ」

「ありがとうございます。では……儂のパートナーはね、あるポケモンバトルで怪我をしてしまってね。そりゃあバトルに怪我はいつの時代も付き物ですが、その時ばかりはパートナーも年がいってたもので」

 

 当然だがポケモンも年を重ねる。

 種族ごとに寿命の差はあるが、最終的には―――死ぬ。命の結末としては当然だ。

 

「医者からバトルに復帰するにはリハビリが必要だと。その時儂はね、それでもバトルがしたいと訴えてくるパートナーに余生をゆっくり過ごしてもらいたいと……自分の我儘を押し通してしまったんです。あの子が何をしたかったのかに目をくれず。最期に……起きることもできなかったあの子が浮かべてた瞳を、儂は死ぬまで忘れられませんよ」

「……ッ……ッ」

「……先生、ハンカチをどうぞ」

「あ゛り゛がどう゛」

 

 さめざめと涙を流していたレッド。

 無表情にもかかわらず、涙腺が決壊しているのかと思うくらい大量に落涙する姿はあまりにもシュールであった。しんみりとしていた空気を逆にぶち壊す姿である。

 

 コスモスなりにも多少心に訴える内容だったが、隣で師匠が男泣きしていれば、そんな余韻も台無しだ。

 

 しかも、ピカチュウやルカリオでさえ歯を食いしばって涙を流しているではないか。

 手に持っていた煎餅が涙に濡れて濡れ煎餅にでもならん勢いだ。感受性が豊か過ぎる。

 

「年寄りの話に付き合わせてしまってすみませんねぇ……でも、大切な話だったので」

「後悔する過去があるからこそ、今ではそれを省みた指針で育て屋を経営している……と」

「そうですねぇ……もちろん、バトルが強くなりたいと頑張る気概のあるポケモンには、きちんとその子に合ったメニューを考えます。ですが、バトルが嫌いだったり苦手だったりする子にまで強制するような真似は……」

 

『ブビィー!』

『レッキャァー!』

 

 突如、話を遮るように響きわたる鳴き声。

 庭先から聞こえる喧騒に対し、三人は弾かれるように顔を向けた。

 

 そこに居たのはブビィとエレキッド。見た目は小さく愛らしいものの、どことなく険悪なムードが漂っているせいか、周りに居る取り巻きのポケモンたちは慌てふためいている。

 

「おやおや……」

「喧嘩ですか?」

「みたいですねぇ。あの子たちは血気盛んなのでよく衝突しているのですが……」

 

 座布団から立ち上がるタケは、二体の喧嘩を治めようと庭先へと向かっていく。

 しかし、その途中で見慣れた影が二人の間に割って入った。

 

「あれって昨日の……」

「ニンフィアですね」

 

 昨日、ザングースとハブネークの争いを治めた手腕を持つニンフィア。

 育て屋に帰っていたことから、ここに居ることは想定通りだった。

 

 そんなニンフィアは、短い腕を振るってポカポカと殴り合う二体を触角で押さえてから、淡い色の光を浴びせかける。

 同時に辺りへ不思議な音色が響き渡るではないか。

 心に染み渡るような清らかな音を耳にすれば、争っていた二体も周りに居たポケモンたちもみるみるうちに穏やかな面持ちへと変わっていく。

 

 間もなくして拳を下ろした二体は、照れながら握手を交わし、皆の輪の中へ戻っていった。

 

「“いやしのすず”ですね」

「綺麗な音……眠くなっちゃいそう」

「ピカァ?」

「純真無垢な顔して頬から電撃出すのはやめて」

 

 思わず眠気を覚えてしまったレッドに対し、「わかるよな?」と言わんばかりに首をかしげるピカチュウ―――否、ピカチュウさん。

 眠れば惨状が広がることは必至であるため、レッドは頑張って瞼を開く。

 

 その一方でニンフィアを観察していたコスモスは、ほう、と感心したような声を漏らしていた。

 

(あのニンフィア……動ける。それに腕を押さえる直前に“つぶらなひとみ”で拳の勢いを弱めてた。指示なしであそこまで動けるなんて)

 

 ニンフィアの身のこなしは見事と言う他ない。

 だからこそ気になるのはニンフィアの所有者だ。ここが育て屋である以上、あの個体は何者かが預けたと推測される。

 ただ単に育て屋の主人の手持ちである可能性は否めないが、何者の手持ちか白黒はっきりさせれば、リーグ制覇の障害となるトレーナーの情報を事前に手に入れられたと同義だ。

 個人情報保護という観点から名前まで聞くのは難しいが、コスモスはダメ元で聞いてみることにした。

 

「すみません、あのニンフィアも預かっているポケモンで?」

「ニンフィアですか? まぁ、そう言われればそうなんですが……」

「?」

 

 だがしかし、この問いかけは思いもよらぬ結果を生むことになった。

 何か訳があるのか、目を伏せて口籠るタケ。

 そこには他言しにくい事情があると容易に想像できるものの、このままでは埒が明かないのも明白だ。

 

「……差し支えがないのなら、事情をお聞かせください」

「……えぇ。長くなりますが、それでもよろしいのなら」

「……?」

 

 一人付いていけていないレッドであるが、話が長くなることを予感したのか、タケの了承を取って手持ちのポケモンを庭先に開放する。

 コスモスもまたルカリオとゴルバットを放ち、自由に動き回れるようにしてから、タケの話を聞く態勢へと入った。

 

 コポコポと音を立て、湯呑に茶が注がれる。

 爽やかな緑茶の香りが部屋に立ち昇るや、不意に吹き抜ける一陣の風が、それを奪い去っていく。

 同時に攫っていったのはタケから漂う陰気とした生ぬるさ。決して明るい話でないことを悟らせる雰囲気に、二人は熱い茶を喉に流し、気を引き締める。

 

「あの子はね、ずっと……ずぅ~っとご主人のことを待ってるんですよ―――」

 

 

 

 それは3年ほど前の話だ。

 今と変わらず育て屋家業に精を出していたタケの下に、一人の少女が現れた。彼女はポケモントレーナーであり、わざわざジョウト地方から足を運んで旅を続けていると言った。

 

 そんな彼女が育て屋を訪れた理由はただ一つ。

 

『この子を育ててほしいんです』

 

 そう言って差し出されたポケモンがニンフィアだ。

 ラブラブボール―――所謂、ぼんぐりから作成された貴重なボールであるガンテツボールの類の一つから出てきたニンフィアは、トレーナーと仲睦まじい姿を見せる愛らしい子だった。

 

 しかし、

 

―――曰く、ニンフィアになってから戦わなくなった。

―――曰く、バトルに苦手意識を持つようになった。

―――曰く、曰く、曰く……。

 

 とにかく、バトルをしなくなったニンフィアを何とかバトルしてくれるよう育ててほしい。それがトレーナーの要望だった。

 だがしかし、タケ自身にも矜持がある。それに則った方針で育て上げると説明したものの、トレーナーは『それでも』とニンフィアを預けてきた。

 

 最終的には仕方なく預かった訳だが、すぐに戦わなくなった理由は判明する。

 

 優しい。その一言に尽きる。

 進化した影響か、争いごとの類の気配に機敏になったニンフィアは、育て屋で預かっている間も率先してポケモンたちの衝突を治めるストッパーとしての役割を担うようになった。

 よく育てられているとは一目見て分かる身のこなし。だからこそ、ポケモンバトルに臨まなくなった惜しさも十二分に理解できた。

 

 しかしながら、それがニンフィアの意思と相容れるかは別の問題だ。

 バトルに忌避を覚え、ポケモンたちが仲良く暮らすことに全力を注ぐ彼女をバトルの道に引き戻すことは、タケにはどうしても正しいとは思えなかった。

 それでもトレーナーの要望通り、それとなくバトルへの忌避感を薄れさせるよう努めはしたが、結局のところそれは叶わなかった。

 

 そして迎えた受取日。

 育てのプロとしての矜持からも、トレーナーの要望通りにならなかった以上、代金は受け取らない気概で店に立った。

 しかし、いくら待てどもトレーナーは現れなかった。

 一日、一週間、一か月を過ぎても現れやしない。

 あらかじめ書類に記載していた電話番号にかけても一向に繋がらないのだ。

 

 稀に育て屋で起こる問題。

 それは預けたポケモンを受け取らず、トレーナーと音信不通になるというものだった。

 大抵は『思うように育っていなかった』や『勝手に進化している』といったクレームから始まるものだが、今回に至ってはそのどちらとも判別がつかない。

 これがまた厄介なもので、どのような訳にせよ理由さえはっきりすれば法的手続で簡単に済む問題だ。

 だが、音信不通で相手の居所さえ分からないと、事情を窺うことさえ困難である。

 

 例え嘘であっても、ポケモンを受け取れない事情があるとするならば責任を持って引き取るつもりだ。

 だとしても、一番辛いのは訳も分からぬまま置いていかれたポケモンだ。

 

 別れの言葉もなく今生の別れを経て彼らはどう思うだろう?

 虐待されていたのであれば解放されたと清々しく覚えるだろうが、ニンフィアはトレーナーとの絆を経て進化する姿だ。

 預けられる直前まで、その触角でトレーナーの手を握り締めていた彼女が、まさかそのまま再会することが叶わなくなるとは露ほども思っていなかっただろう。

 

 そうして3年も過ぎた。

 育て屋に関する法律からも、すでにニンフィアの所有者はタケへと譲渡された。

 

 しかし、未だにニンフィアは以前の主人を待ち続けている。

 別のトレーナーがポケモンを預け、そして時が来れば引き取りに来る。

 引き取るトレーナーも引き取られるポケモンも満面の笑みで再会を喜び合う。そんな光景を何十、何百と横目にしながら。

 

 

 

 ずっと、ずっと―――独りで待っている。

 

 

 

「―――儂もね、別にあの子のトレーナーを責めたい訳じゃあない。でも、独りでずっとあの子のことを思うと胸が張り裂けてしまいそうでな」

「ッ……ッ……!!」

「……先生。ティッシュをどうぞ」

 

 目からハイドロポンプの勢いで涙を流すレッド。

 鼻からもクマシュンよろしく鼻水が垂れ流れているという見るに堪えない泣き顔を晒しているためか、コスモスも得も言われぬ面持ちでリュックの中から三つ目のポケットティッシュを差し出す。

 すでに彼の隣には使用済みのちり紙が積もった山が出来上がっているが、それにしても泣き過ぎではないかとため息を漏らすコスモス。

 

「……ん?」

 

 庭先から、これまた鼻を啜るような音が聞こえた。

 振り向くや、コスモスは硬直する。

 先ほどはピカチュウとルカリオだけであったが、今度はボールの外へ出しておいた手持ち全員が涙を流しているではないか。

 ポケモンはトレーナーに似るというが、それにしても凄まじい光景である。

 それは元より、釣られて泣いているルカリオとゴルバットは自分のポケモンではないかと指摘したくもなったが、流石に空気を読んで言葉を飲み込んだコスモスはタケへと視線を戻した。

 

「……では、ニンフィアは今も預かっているという形で?」

「えぇ。一番はあの子の主人が戻って来てくれることですが……」

「誰かに譲るという考えは?」

「一度、考えはしたんですがね……どうもあの子がそれを拒みますので」

 

 タケの顔にはやや諦観の色が見て取れる。

 これだけ長い月日が経ったとなると、元のトレーナーが引き取りに来るのは絶望的。だからといって他人に引き取らせるのもニンフィアの意思に反する。

 

 だからこそ、こうして今も面倒を看ている訳であるのだが、流石に彼にも思うところはあるようだった。

 

「バトルを避けているとは言ってもですね、あの子はバトルが嫌いな訳じゃあないのです。テレビで他の地方のリーグ中継なんかを食い入るように眺めてね……きっとあの子も夢見ていた時期があったんじゃないかと……いえ、今も夢見ているんじゃないかと思っています」

「なるほど」

「でも、だからこそすれ違ったんじゃあないかとねぇ……」

 

 ポケモンリーグを夢見ているならば、きっとトレーナーの目標がそうであったに違いない。

 だからこそバトルに執心したものの、進化してバトルを忌避し始めたニンフィアとの間ですれ違いが起こった。

 

 ポケモンリーグを勝ち進むというのは並大抵の道ではない。

 ポケモンバトルの実力はもちろんのこと、勝ち進めるだけの手持ちを養う財力も必要となってくる。

 スポンサーの居るコスモスのようなトレーナーはともかく、一般家庭の出身であるトレーナーにとって、ポケモン6体を養うのは中々に厳しいものがあるだろう。

 だからこそ、一体でもバトルできないポケモンが出たとなれば、野生に逃がすか他人に譲り渡すなどして手持ちから外す選択肢も視野に入る。

 

 今回の件は、きっとその類ではないか。

 伊達に長いこと育て屋をやっていないタケは当然の如く、コスモスもニンフィアが引き取られない背景について、そう推測を立てていた。

 

「しかしねぇ……当のあの子がバトルを避けているとなると、どうも難しい話でして」

「そうですね。リーグに出たいと思っているのにバトルを避けているなんて、矛盾していますから」

「えぇ、ごもっともでして……」

「でも、当のニンフィアがバトルをするようになって他のトレーナーに付いて行く意思が生まれたなら、譲り渡しても構わないという認識でよろしいですか?」

「はい? まぁ、そうですねぇ……」

「なら」

 

 おもむろに立ち上がるコスモスに、タケとレッドの視線が集まる。

 無表情ながら、どこか強い意志を感じさせる瞳を浮かべる彼女は、ゆっくりと庭先へと目を遣った。

 二人の手持ち以外にもポケモンたちが駆け回る庭の中心には、多くのポケモンに囲まれて笑顔を浮かべるニンフィアがちょこんと座っている。

 

「私がニンフィアに()()()()()()()()

「はい?」

「それなら譲ってもらってよろしいですか?」

 

 突拍子のない提案。

 あんぐりと口を開けるタケであったが、有無を言わせぬ圧を放つ少女を前に、彼の面持ちも神妙なものへと変わった。

 

 育て屋としての矜持が葛藤を生む。

 預かったポケモンに、己が望むまま健やかに育ってほしい。

 しかし、それ故にニンフィアという矛盾した考えを持つポケモンに頭を悩ませてきた。

 それがもし目の前の少女の手により、より良い未来への道を進んでくれるのであれば―――。

 

「……分かりました。ただし、しっかりとニンフィアの意思は尊重してあげるのが条件ですが」

「承知しています」

 

 互いに条件を飲む二人。

 その内、早速コスモスは外へ出るべく玄関へと向かおうとした。

 

「コスモス」

「はい、先生?」

「……あんなこと言ってちゃんと考えはあるの?」

 

 横に並び立ったレッドが、胸に抱く懸念について問いかけてきた。

 まさか引き取る話に発展するなど考えていなかったのだろう。自信満々に身内が言った手前、「できませんでした」と告げて主人を落胆させるのも忍びない。

 だからこそ勝算があるのかを確認したかった。

 

 それに対してコスモスはと言えば、

 

「これから考えます」

「え」

「だって、触れ合ってみないことには解決の糸口は見つかりませんから」

「……ふふっ。それもそっか」

 

 言われてみれば当然だ、とレッドは笑みを零した。

 

 そうだ、何もかもまずは話し合いから。

 例えポケモンが相手だとしても、それは変わらない。

 

(即戦力になりかねないポケモン。それにポケモンとの意思疎通のスキルアップを図るにはいい機会……私の交渉術でニンフィアを引き入れてみましょう!)

 

 

 

 こうしてコスモスとレッドによるニンフィア引き入れ大作戦(仮)が始まるのだった!

 

 

 

 




tips:オキノ大社
オキノタウンにそびえ立つ高床式の巨大な神社。
ホウジョウ地方に所縁ある伝説のポケモンであるルギア、ファイヤー、サンダー、フリーザーを祀っている。
海の上に建っているように見える光景は神々しくも幻想的であり、オキノタウンの有名な観光地として旅雑誌にも掲載されている。
四体の伝説ポケモンを模った浮き彫りがある他、天井絵も存在している。
しかしながら、天井絵は不完全な状態であるという説が学会で唱えられており、残りの部分が探されている。
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