愛と真実の悪を貫く!!   作:柴猫侍

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◓前回のあらすじ

レッド「自称ハンサムさんから話を聞いたけど、九割九分入ってこなかった」

コスモス「そうこう言ってる間に二つ目のジム戦、開幕」


№019:眠気を覚ますにはカフェイン

───じめんとは、安定したタイプだ。

 

 それがコスモスから見た感想だった。

 耐性は平凡。はがねのように多くの耐性を持つ訳でもなければ、くさのように弱点が多い訳でもない。

 ただし、唯一でんきの弱点を突けて、尚且つでんきを受ける側に回れば無力化できるなど他にはない長所がある。

 

 だが、目をつけるのは“守り”ではなく“攻め”に回った時だ。

 飛んでいるポケモンには無効化されやすい技が多いものの、食らった場合に半減できるタイプはそう多くない。

 

 ここで一つ、じめんタイプの技を紹介しよう。

 “じしん”……地面を激しく揺らし、地上に居るポケモンに大ダメージを与える大技だ。じめんタイプのみならず、中~大型以上のポケモンならば大半が覚えられるありふれた攻撃でもあろう。

 

 しかし、“ありふれた”と表現するには実に凶悪な性能だ。汎用的とも言い換えられる。

 でんきを苦手とするひこうタイプでも、これ一つ覚えていれば意気揚々と電撃を放ってくる相手を返り討ちにすることもできよう。

 そうでなくとも、いわやどく、ほのお、果てには堅牢なタイプの代名詞とも言えるはがねにも通用する以上、タイプとしての技範囲の広さは否定できまい。

 

 事実、コスモスの切り札であるルカリオも弱点とするタイプだ。地面を踏みしめる種である以上、その大地の呪縛からは逃れられない。

 選出メンバーを決めるにあたり、やはり重要なのはフィールドだ。

 

()()が来ればルカリオを採用する……さあ、どうだ)

 

 運命のルーレットを見据える。

 時計回りに点滅する光が何週も四つの色を輝かせるが、次第にその速度を緩やかにさせていく。

 

 そして、

 

「フィールドは───(グラス)です!」

 

 よし、と心の中で拳を握る。

 四つの内、コスモスが待ち望んでいたフィールドが目の前に広がった。

 

 それぞれに対応するタイプの技を強化する他、フィールドには様々な効果が隠されている。

 中でもグラスフィールドは“じならし”や“マグニチュード”、そして“じしん”といった地面を揺らすじめんの代名詞を弱体化させるのだ。

 

 カタカタとボールが揺れる。

 仮面の奥に隠れたコスモスの僅かな高ぶりを感じ取ったのだろうか、ルカリオが自身の存在を主張していた。

 

「……わかった」

「───さて! まずはオレのポケモンだな」

「お願いします」

 

 ルカリオの意思を読み取りつつ、コスモスはボールを投げるリックへ眼を遣った。

 豪快なフォームと共に草が生い茂るバトルコートに降り立ったのは───重厚な巨体。次の瞬間、フィールドには激しい砂嵐が吹き荒れる。

 

「“すなおこし”ですか」

「ああ、そうさ。こいつの中じゃあオレのポケモンも元気が出てねェ」

 

 特性“すなおこし”は場に出た瞬間、いわタイプが活性化する砂塵を巻き起こす。効果はそれだけに留まらず、いわを含めたじめん、はがね以外のポケモンの体力をじわじわと削っていく効果は、最早バトルでは常識だ。

 本来ならば技としての“すなあらし”で発生する天候だが、中には自ら持つ特性で空を掌握するポケモンも何体か存在する。

 のしのしと草原を踏みしめ、砂嵐の中に鎮座する巨体は立派な二本のキバを携えた大口を開け、クァ~と欠伸をしてみせた。

 

「なるほど、カバルドンと」

「昔からの相棒さ。呑気なこいつはタフさが売りでな。ちょっとやそっとじゃやられやしない」

 

 カバルドン、じゅうりょうポケモン。

 体内に溜めた砂を全身の穴から噴き上げて竜巻を作る凶暴なポケモンだ。バンギラスやギガイアス以外で、唯一“すなおこし”を宿している種であるが、生育が困難なバンギラスや“すなおこし”を持つ個体数が少ないギガイアスと比べると、比較的入手が簡単な部類に含まれる。

 

 しかし、入手難易度の低さと強さは必ずしも比例しない。

 カバルドン自体の強さはシンオウリーグ四天王・キクノによって大衆に知らしめられている。天候を書き換える特性は勿論のこと、その巨体に見合った守りの堅さには定評があり、生半可な火力では返り討ちにされるのが関の山とも言われる程だ。

 

「それでは挑戦者もポケモンを繰り出してください!」

 

 ゴルバットでは火力が足りない。

 ニンフィアでは相性の得手不得手がない分、長期戦になりかねない。しかも、天候が砂嵐である以上、スリップダメージを受け続けるこちら側が不利だ。

 

 ならば、残された手札はカバルドンの耐久をも打ち砕く火力を持ち、この砂塵の中でも怯む事無い鋼の体を持つポケモンのみ。

 

「GO、ルカリオ」

 

 蒼い体毛を靡かせる獣が、砂塵を切り裂き舞い降りる。

 鋭い眼光は吹き荒れる砂塵の中からでも、しっかりとカバルドンを捉えているように睨みつけた。

 

「ほーう、ルカリオか! よく育てられているな」

「そっちから見えるんですか?」

「なあに、このくらいの砂嵐なんて慣れたもんさ。これでも目はいい方だと自負してる」

 

 何も砂嵐の影響は、持続的なダメージだけではない。

 トレーナーがポケモンへ適切な指示を出す上で、戦況がどうなっているかは逐一把握していなければならない。それがレベルの高いトレーナー、あるいはポケモン同士のバトルであれば尚更だ。

 

 一瞬の判断の遅れが勝敗を分かつ。

 

 それを踏まえた上で、砂嵐の物理的に視界を遮る効果はトレーナーにとって大問題だ。

 

(ルカリオはともかく、私の()は慣れてない)

 

 細めた瞳で砂嵐の吹き荒れるバトルコートを凝視する。

 それでも垣間見えるのはポケモンの曖昧なシルエットのみ。練度を高めた砂嵐の前では、視界のみならず風の音でトレーナーの声すらも遮断する。

 

 外面のいい社長かと思いきや、中々性格のいい戦法だ。

 思い描いていたじめん使いとは毛色が違う感は否めないだろう。ただし、想定外ではない。

 

 故に負けるつもりも───毛頭ない。

 

「それでは……バトル、始めェ!」

 

 審判の声が砂嵐を通り、二人のトレーナーの鼓膜を揺らす。

 

「カバルドン、“ステルスロック”だァ!」

 

 先に指示を飛ばしたのはリックだ。

 力強い声を聞き届け、カバルドンの脚は地面を踏みつける。するや、罅が走った地面から無数の鋭利な岩が浮遊し始めた。

 

「出たぁ! 社長の“ステルスロック”!」

「地面から逃げた飛行ポケモンを追い詰める罠……」

「後々に響く展開ですなぁ」

 

 どこからともなく防塵ゴーグルを取り出した観客が、荒れる砂塵の中に浮かぶ岩石に興奮した様相を呈している。

 

「そんなに凄い技なんですか?」

「凄い技っていうか……いやらしい技?」

「え」

「え?」

 

 と、別の席に座るレッドとリーキは誤解を招くような話を繰り広げていた。

 父親が指示した技をいやらしい呼ばわりされて硬直したリーキであったが、すぐにあたふたとレッドは訂正する。

 

「言い方が悪かったかも」

「で、ですよね!? その、エ……エッチな意味じゃあ……」

「お上手なテクニック……みたいな」

「それはそれで言い方に問題がッ!」

「え?」

 

 語彙が死んでいる青年と、ちょっぴりませた少女のやり取りはさておき。

 

「“ステルスロック”は交代したポケモンにダメージを与えるいわタイプの技。でも、攻撃技じゃないから、しばらくはあのまま」

「えっと……それじゃあ、今出てるポケモンには効果がないってことですか?」

「うん。でも、じめんが苦手なポケモンを牽制したり体力を削ったりできる」

 

 技を無効化されるひこうや弱点を突いてくるこおり等がいい例だ。

 じめん単タイプで見た時に脅威となるタイプに対し、大きなダメージを与えられる“ステルスロック”は設置しておいて損のない出し得の技だ。

 そしてこれらは長期戦───もっと踏み込めば、ポケモンを頻繁に入れ替える試合展開にて真価を発揮する。

 

(コスモスの方は……)

 

 レッドの赤い瞳は、砂嵐の中で弾ける波動を捉えた。

 

 ザッパァン! と水が弾ける轟音。

 砂嵐を穿った波動の力はカバルドンの巨体を弾き飛ばしてみせた。

 

「───ほう、“みずのはどう”か」

 

 感心したようにリックが漏らす。

 伊達に年の功を重ねてはいない。他のタイプは門外漢とはいえ、ある程度習得する技は推測できる。

 はどうポケモンと呼ばれるルカリオは、大抵の波動を扱う技を身に着ける事ができる。“はどうだん”を始めに“あくのはどう”、“りゅうのはどう”……たった今繰り出した“みずのはどう”もその一つだ。

 

 これが()()()()ならばカバルドンと言えど危うかっただろうが、幸いにも“みずのはどう”自体はそこまで威力は高くない。

 カバルドンの耐久力も含め、精々バトルの幕開けを飾る花火が良いところだろう。まだまだカバルドンが倒れる気配はない。

 

「オレのポケモンの弱点を突くか。まあ、トレーナーなら定石だな!」

「すみません、ちょっと聞き取れないです」

「……おっほん! 当然、タイプ相性は理解しているな! それに上手く砂嵐にも対応している!」

 

 自分が描いた絵図とは言え、ズバッと指摘されたら恥ずかしいものだ。

 咳払いをしたリックが砂嵐の中でも響き渡る大声を発し、コスモスへ賛辞を送ってみせる。

 

「それもルカリオを選んだ理由か!? さしずめ、波動で周りの状況を把握していると見た!」

 

 ポケモンにも人間と同じような感覚が備わっている。

 視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚───ポケモンによっては特定の感覚器官が秀でているものの、ルカリオはそれらに当てはまらない第六の感覚が冴え渡っている。

 それこそが波動を感じ取る力。

 これさえあれば、周りで砂嵐が吹き荒れていようと無数の岩石が浮かび上がっていようと、相手の位置を知ることができるという訳だ。

 

「タイプ相性だけじゃない、ポケモンの生態を活かした選出……悪くない! だからこそ、君がオレをどう打ち破るかが楽しみだ!」

「ルカリオ、“みずのはどう”!」

「カバルドン、“あくび”だァ!」

 

 もう一度弱点を突こうと指示を飛ばすコスモスに対し、リックもまた指示を出した。

 先に動いたのはルカリオ。威力が減衰せぬよう俊敏な動きでカバルドンに肉迫すれば、ゴポゴポと渦巻く水を解き放った。

 

 接近するまでの動きと技の出、どちらを取っても『速い』の一言に尽きる。

 見た目通り鈍重な動きしかできないカバルドンはまんまと直撃を貰う。幸いにも混乱状態には陥らずに済んだが、二度も弱点の技を食らったカバルドンには疲労の色が覗き始める。

 

 早速緒戦の決着がついたか? ───と息を飲む面々が居る中、カバルドンが大きな口を開く。

 すぐさまルカリオが飛びのき、カバルドンの噛みつきは失敗に終わる……かに思えた。

 

「───そう、やっぱり」

「すごいです、コスモスさん! このままパパに勝っちゃうんじゃ……!?」

「いや、まだこれから」

「え? ……あれッ!?」

 

 相手から距離を取り着地したルカリオ。

 軽快な身のこなしを観衆にありありと見せつけた彼だったが、途端にふらふらと足取りが覚束なくなる。

 

(やっぱり……“あくび”)

 

「戻れ、ルカリオ!」

 

 すかさずルカリオをボールに戻すコスモスに、リックは意地悪い笑みを湛えながら顎鬚をなぞる。

 

「おや、いいのか?」

「眠ってしまえば、そちらの思うつぼなので」

「おお! あの中で何したか見えたのか。……いや、どちらかと言えば()()()()()()()()()()()風貌だな」

 

 リックの慧眼は、砂嵐越しでも少女のポーカーフェイスの裏側に隠れている算段を見据えている。じめんと共に生きてきた男の目は伊達ではない。

 故に見透かすコスモスの“目”の良さ。

 今までに挑戦してきたトレーナーの大半は、砂嵐で“あくび”を浴びたのも分からずに突っ張り、そのままポケモンを眠りに陥らせてしまっていたというのに。

 

「どこまでオレを視ているのか……気になるなァ!」

 

 リックが指を鳴らせば、相手が交代をする合間にカバルドンが“なまける”で体力を回復する。これで“みずのはどう”を食らった分のダメージを大幅に回復できた。リックにとっては長いバトルの幕開けであり、相手にとっては苦しいバトルを強いられる転換期である。

 

 そんな中、コスモスが選出した二体目のポケモンはと言えば。

 

「GO、ニンフィア」

「フィー!」

 

 フェアリータイプのニンフィアだった。

 と、次の瞬間に浮遊していた岩石が繰り出されたニンフィアに衝突する。登場して早々、手痛いダメージを負ったニンフィアは苦々しい表情を浮かべた。

 

「大丈夫? ニンフィア」

「フィ……フィー!」

「そうこなくっちゃな。ヤワな攻撃じゃオレのカバルドンは倒せないさ」

 

 と、リックが得意げに語ればカバルドンも大きく鼻を鳴らす。その面持ちからは何人もの挑戦者を返り討ちにした自信が垣間見えるようだった。

 しかし、あくまでも冷静に。そして平然に。コスモスはいつもと変わらぬ調子のまま、相手を分析する。

 

(“あくび”で交代を誘発させて、“ステルスロック”でダメージを与える。しかも特定のタイプ以外は砂嵐でじわじわと削りを入れられる……と)

 

 実にいやらしく、初見のトレーナーでは対処できない戦法だ。

 “あくび”によって誘発される眠気は一度ボールに戻ることで解消されるが、すぐさま引っ込めない限りは睡魔に負けて眠りに落ちる。

 だからと言って交代を続ければ、最初に撒かれた“ステルスロック”によって交代先のポケモンが傷を負う。じめんに有利なはずのこおりやひこうならば、寧ろより大きなダメージを受けるのだ。

 

 まさしく初見殺し。一見すれば、ジムを攻略させぬべくなりふり構わなず大人げない戦い方とも捉えられるだろう。

 

 だが、意外にも穴はある戦法だ。

 オキノジム特有のルールにより、最初にエレキフィールドもしくはミストフィールドが展開されれば、そもそも眠りには陥らない。戦略の破綻とまでは言わないが、オキノジムの特殊ルールの上と“あくび”は相性が悪い。

 

 しかしながら、今回展開されているのはグラスフィールド。砂嵐のダメージを回復してプラマイゼロにできるものの、そもそもダメージを負わないカバルドンにとってはプラス寄りだ。

 何より“あくび”を妨げるような効果が存在しない点が、今回のジム戦においては大きな影響を及ぼす。

 

(他のフィールドでも同じ個体を使うのかは知りませんが……仕方ない)

 

「ニンフィア、“マジカルリーフ”!」

「フィアー!」

「おおッ!? くさタイプの技を覚えていたか!」

 

 ニンフィアが繰り出した極彩色の葉は、ドンと身構えているカバルドンへと押し寄せる。

 はじめは余裕を湛えた表情を浮かべていたカバルドンも、砂嵐をものともしない一陣の風が吹き抜けた頃にはやや苦しそうに歯を食い縛っていた。

 必中の“はっぱカッター”とも言うべき“マジカルリーフ”は、同タイプの中では低過ぎもしなければ高くもない威力の技だ。

 

 しかし、

 

「フィールドを味方につけるとは、こういうことですよね?」

「ああ、そうだ! グラスフィールド上では草の力も高まる! あくまでジム対策として覚えさせていたかもしれないが、この盤面では手堅い選択だな! ……だが、それじゃあカバルドンは打倒せない! “あくび”だァ!」

「構うな! “マジカルリーフ”!」

「押し切る気か!? それもいい……が、見縊っては困るな!」

 

 攻撃後の硬直を衝く“あくび”を浴びながらも、ニンフィアは“マジカルリーフ”を叩き込んだ。

 フィールドの恩恵を受けた上での一撃。これで倒せなければ“あくび”による睡魔でニンフィアは眠りにつき、一転して守勢に回らざるを得なくなる。

 

 眠るリスクを冒してでもカバルドン打倒に出たコスモス。

 彼女の瞳は、砂嵐を厭わず牙を剥く極彩色の旋風を見届ける。魔法にでも掛かったような軌道を描き、翻った葉が通り過ぎて数拍───カバルドンの巨体は僅かに揺れ動き、地面を踏みしめる。

 

「よぅし、よく耐えた! この隙に“なまける”だ!」

 

 瀕死寸前で踏み止まったカバルドンは、受けたダメージを回復すべくリラックスする態勢を取った。

 その様相は不沈艦の如く、堂々たる居住まいだ。

 容易く崩せぬ堅牢な第一関門を前に、意志を挫かれたように体が揺れるニンフィア。ウトウトと瞼が半開きになる彼女は、とうとう膝から崩れ落ちてバトルコートに沈んでしまった。

 

「あぁ、眠っちゃった! このままじゃカバルドンにやられちゃう!」

「コスモスを応援してくれてるの?」

「えっ? それは、まあ……はい」

「お父さんの方は?」

「応援してるつもりですけど、う~~~ん……やっぱりパパはいいや! コスモスさん、頑張れー!」

 

「ゔっ」

 

 ▼外野からのやり取りによる精神的ダメージがリックを襲う!

 

 しかし、これで揺らぐような男ではない! と自分に言い聞かせる彼は、大人の余裕を見せつけるようにコスモスへと投げかける。

 

「さて、ここからどうする? 今からルカリオに換えるのもよし。ニンフィアが起きるのを信じて待つもよし。ただし、悠長に構えていられる暇はないけれどな」

「関係ない」

「なに?」

「───ニンフィア!」

 

 砂嵐を突き抜ける声。

 次の瞬間、夢の世界へ沈んでいたはずのニンフィアの瞳が見開かれた。しなやかな四肢で地面を蹴り飛ばし、カバルドンの眼前へと躍り出る。

 

「なんだとっ!?」

「“マジカルリーフ”!!」

「っ……、“なまける”で凌ぐんだ!!」

「させるな、畳みかけろ!!」

 

 驚くリックに構う事無く指示を飛ばすコスモスに応じ、極彩色が砂嵐の目に居座る巨体を切り刻む。

 すかさず“なまける”で回復を試みるも、フィールドの恩恵に与った葉の刃は鋭く、そして鮮やかに踊り狂う。

 

 休息の暇を与えない怒涛の猛攻が延々と続く。

 すると暫くして轟音が響き渡った。砂塵で中々窺い知ることのできなかった光景は、間もなくして砂嵐が止むことで、固唾を飲んで見守っていた観客の目にも届く。

 

「───カバルドン、戦闘不能!」

 

 静寂を破る審判の声に、歓声が沸き起こる。

 

「や、やった! パパのカバルドンを倒しちゃった!」

「……」

「あれ?」

 

 『なんでそんなに静かなんですか?』と尋ねかけるが、咄嗟にリーキは口を噤んだ。

 何故ならば、揃って腕を組むレッドとピカチュウがうんうんと後方師匠面で頷いていたからだ。

 

(先生さんはコスモスさんの勝利を信じて……これじゃあ私がハラハラしてるなんて失礼過ぎる!)

 

 純朴なリーキは彼らの姿に感嘆の声を漏らす。

 

「コスモスさーん! 先生さんも応援してますよー!」

「はっ!?」

「ねっ、先生さ……あれ? あの、目が充血してますけど大丈夫ですか……?」

「……砂が入った」

 

 そう言ってゴシゴシ目を擦るレッドは、リュックから取り出したおいしい水を用い、顔をバシャバシャと洗い流した。

 

(“あくび”で眠らされた……不覚)

 

 隣で舟を漕いでいるピカチュウも同様である。

 

「さて……」

 

 改めて視線をバトルコートへ向ければ、ちょうどカバルドンがボールに戻されたところであった。

 

「ハハッ! いやぁ、まんまとしてやられた。ラムのみだな?」

「ええ」

「『持ち物は有り』。ルールを有意義に使ってもらえるのは、こちらとしても嬉しい限りだ」

 

 それで足を掬われちゃ敵わんがな、とリックは自嘲気味に紡ぐ。

 ラムのみ───状態異常を回復させるきのみの一種だ。様々な種類があるきのみの中でも、一通りの状態異常に対して有効性を持つラムのみは、特に汎用性に秀でている。

 ピンポイントの状態異常を治したい場合を除けば、ありとあらゆる状態異常に対応できる以上、今回のリックが用いた戦法の虚を突く上では非常に有効だろう。

 

「しかし、こうも対策を立てられるとは思ってもみなかった。オレの戦い方を知っていたのかい?」

「ある程度バトルレコードは拝見しました」

「なるほどなぁ……、大したモンだ。その若さでそこまでやるとは、ほとほと頭が下がる思いだよ。つまりオレはまんまとしてやられたって訳か」

「それと、もうひとつ」

「?」

「似た戦法を取るポケモンと特訓を積めたので」

 

───たとえば、大食らいの超重量級ポケモンとか。

 

 コスモスの視線が、一瞬観客席の方へと向けられた。

 そこには何を考えているか読み取れぬ紅い瞳を浮かべる少年が、静かに座ってジム戦を眺めていた。

 

(先生はこれを見越していた訳ですね……流石です)

 

 奇しくも、昨日の特訓が功を奏した。

 カビゴンが相手をしてくれたのも、きっとカバルドンが“あくび”を併用した持久戦を仕掛けてくると見越してのはず。

モリモリと温泉卵を食べていたのは特段関係ないだろうが───。

 

「……ほう。つまり元からそういう相手の為に対策を取っていた訳だ」

「ええ」

「……くくっ、わっはっは!! いいなっ、面白くなってきた!!」

 

 腹を抱え、呵々と笑うリックが新たなボールを手に取った。

 

「だが、オレのやることは変わらんよ。トーホウポケモンリーグの一柱として……他でもないオレの信念の為に、勝ちを掴みに行く!」

 

 挑戦者に勝利を譲るつもりなど───ない。

 ジムリーダーである以前に、一人のポケモントレーナーなのだ。勝利を狙うハングリーな精神は他者に引けを取りはしない。

 

「勝利の美酒も! 敗北の苦渋も! 味わう為にはまだ決着は早いさ!」

「それでも勝つのは私……───二体目を」

「ああ、行くぞぉ! こいつがオレの切り札だァ!!」

 

 逞しい腕が振り抜かれれば、勢いよく放り投げられたボールが美しい弧を描く。

 

(二体目はなんだ? ドサイドン? グライオン? いや、ニンフィアに有利な相性を狙うならハガネールが堅いか)

 

 過去のデータから次なるポケモンを予測する。

 切り札と言うからには、それだけ強力なポケモンが出てくるはず。警戒するに越したことはない。

 

 何が来る───警戒を最大限まで高めた時だ。

 

 

 

 ベタッ。

 

 

 

「ギョ」

 

「……ぎょ?」

 

 間の抜けた声に呆気に取られた。

 

「ぎょ?」

「ぎょ」

「ピカァ?」

 

 そして三度───今度は余りにも平べったい顔と体に、レッドらが呆気に取られた。

 

 まるで地面と同化しているかのように存在感の薄い魚。

 想像していたじめんポケモンとはかけ離れた貧弱そうな見た目には、対峙しているコスモスとニンフィアでさえ暫し固まるばかりであった。

 

 そのポケモンは水辺に生息しているのにみずに弱く。

 そのポケモンはじめんであるのにじめんに弱く。

 

 

「気合いれていくぞ───マッギョ!」

 

 

 切り札と呼ばれながらも、およそそのような話を聞いたことのない、笑い顔が不気味なポケモンであった。

 




Tips:リック
 オキノジムリーダーとオキノ総合建設会社代表取締役社長と二足の草鞋を履く男。娘と奥さんを愛しているが、ややむさ苦しい為に娘から若干距離を取られがちな為、その度にショックを受けては体調を崩しかけている。
 バトルでは、すなあらしやステルスロックを撒いた上で、あくびを用い交換を促すコンボといった持久戦を好む。華やかさには欠けているが、相手からすれば対策必至の強敵には違いない。こういった戦法を取るにはとある経緯があるようだが……?

リック(立ち絵)(作:ようぐそうとほうとふ様)


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