コスモス「野生のぺリッパーさん、どうかアメをお恵み」
レッド「『あめふらし』ってそういう特性じゃないから」
№022:その なまえは つかえません
「ピィ?」
ガス状のポケモンが可愛らしい鳴き声を漏らす。
それを取り囲むトレーナー二人とポケモン達。彼らの視線のほとんどが見たことのない未知のポケモンに対する好奇心に満ち満ちていた───コスモスを除けば。
「ぶつぶつぶつ……」
コスモスは神妙な面持ちでスマホロトムとにらめっこを続けている。
ルカリオやゴルバット、そしてニンフィアと手持ちが謎のポケモンと親交を深めようとしているのに、当の主人はまったくと言っていいほど触れ合っていない。
まるで、どこか壊れてしまったようだ───それが手持ちの飴を全て食べられてしまった大事件(本人にとっては)だと察するレッドは、恐る恐る背後から喋りかける。
「……何見てるの?」
「このポケモンについて検索してるんですが、まったくデータがなくて」
「へー」
どうやら、ただ単に謎のポケモンとのふれあいを嫌厭している訳ではなさそうだとホッと胸を撫で下ろす。
と、同時に一つの期待が湧き上がってきた。
「もしかして……新種のポケモン?」
「可能性はなくはありません」
だとすれば大発見だ。
紙面を賑やかせる時の人となれるのでは? と胸を躍らせるレッドであったが、どうにもコスモスのテンションは低い───否、ピリピリと張り詰めたままであった。
(くっ……せめてどういうポケモンか分かれば育成の方針が決まるというのにッ!)
爪を噛み、充血した瞳で画面を食い入るように覗き込む。
その様子には長年連れ添ったルカリオでさえ、若干距離を取らんばかりだ。
しかし、コスモスが血眼になるのも致し方がない。
彼のポケモンに食されてしまったふしぎなアメは大変貴重な品である。その理由として非売品である点が挙げられる。これは通常、一般向けには販売されておらず、バトル施設の景品やプロ向けに少数流通しているような代物なのだ。
それどころかポケモンの能力を鍛えるげんきのアメをはじめとした、育成に用いられる各種アメ。そして何よりも、バトルで疲れた頭を癒すコスモスの楽しみであった様々な飴であった。
それを食い尽くされたのだ。
被害額で言えばウン万。スポンサーの金で買ったとは言え、無罪放免とするにはあまりにも大きな罪である。
(是が非でも役立たせる……絶対にッ!)
どんなに弱いポケモンだとしても使い道を探すのがコスモスのポリシー。
今はいかにも貧弱そうな見た目でも、コイキングがギャラドスに進化するように後々強大なポケモンに化ける可能性も考えられる。
───カントーポケモンリーグ四天王の一人は謳っていた。
『強いポケモン。弱いポケモン。そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら好きなポケモンで勝てるように頑張るべき』
強いトレーナーに必要なのは強いポケモンではない。
自分が愛情を注いだポケモンを勝たせるようとする気概、そして努力だと。
(だとしても、全然検索がヒットしないのはどういうことですか)
だが悲しいほどに努力は実らない。
「……どうやって調べてるの?」
「見た目の特徴を手当たり次第に打ち込んで検索してます」
「……俺の図鑑で……」
「ちなみにこちらの図鑑は700体くらいに対応してます」
「はい」
圧倒的性能さを思い知らされ、レッドは潔く手を引いた。
「……一応聞くけども、ポケモン図鑑では調べた?」
「? いいえ、図鑑に登録してある分は全部記憶しているので……」
「じゃあ、まだ図鑑では見てないってこと?」
「必要ないと」
言い切るコスモスには揺るがぬ自信が見て取れる。
以前ポケモンしりとりを誘った折、151の世界をぶち壊される完膚なきまでの敗北を喫した思い出もある為、彼女が記憶力に優れているとは理解していた。
「……一応図鑑で調べてみよう。万が一があるかもしれないし……」
「そこまで仰るのなら……」
レッドに諭され、不承不承といった様子で図鑑アプリを起動させ、スマホロトムを謎のポケモンへと翳す。
直後訪れる長いローディング時間。
やはり駄目か……そんな空気の流れる場に、ピロリンと響く検索完了の音。咄嗟に顔を上げたコスモスとレッドが目にしたものは、
『もしかして:ゴース』
「今日から貴方はゴースです」
「ピィ?」
「待って」
残念ながら、目の前のポケモンは明らかにゴースではない。図鑑なりに酷似したポケモンを探し出してくれたようだが、それでも正解には辿り着かなかった。
「だとすると、どう呼ぶか……」
「そうですね。ドガースの進化前のような見た目ですし、プチドガスでいいんじゃないでしょうか?」
「本当によろしいですか?」
「なぜ敬語です?」
もしも本当に新種のポケモンであった場合、命名権は見つけた&捕えたコスモスのものとなろう。
その時、コスモスが『プチドガス』を主張すれば有無も言わせずこのポケモンはプチドガスとなるのだ。例えドガースやマタドガスに一切関係なくとも、永遠に『プチドガス』を名乗っていく羽目になるのだ。
それはあまりにもあんまりだと説得すること数分。
「せめて、こう……生態的な特徴で名付けるとかでも」
「なるほど。確かにそういう方向性もありますね」
『ピカ』っと光り、『チュウ』と鳴くから『ピカチュウ』と名付けられたように。
姿かたち以外にも特別な生態があるのならば、それこそ種族としての名前に相応しい命名ができるであろう。
納得するコスモスは無邪気に笑顔を浮かべている謎のポケモンの前に屈み、淡々とした口調で問いかける。
「貴方は何ができるんです?」
「ピィ!」
意気込むポケモンは、コスモスの期待に応えるように満を持して技を繰り出す。
???の はねる!
しかし なにもおこらない!
「今日から貴方はガスキングです」
「待って」
「なぜ止めるんです? キングですよ? 威厳ある名前じゃあないですか」
「そんな500円くらいでたたき売りされてそうな威厳は……」
いつになく饒舌な二人である。
普段ならばコスモスの語彙に敗れるレッドではあるが、光を失った瞳を浮かべる弟子に最後の一線を越えさせる訳にはいかないと、頭も絶賛フル回転中だ。
「きっと育てたら色んな技を覚えるはずだから……」
「……わかりました。だとしても、名前がないのは困りますね」
「ニックネームじゃダメ?」
「そういう柄ではないので」
「そっか……」
「であれば、先生が名付けますか?」
「え?」
唐突に命名の権利を渡され、レッドは困惑した声を漏らす。
「それは……いいの?」
「どうにも私には名前をつけるセンスがないので」
「……なら、安心して。実は俺、見たことのないポケモンの名前を当てられるっていう特技があって……」
「特技というより超能力では?」
真偽は定かではないが、ここまで豪語するレッドも珍しい。
自信満々な師匠の姿に疑う素振りすら見せぬコスモスは、プチドガス(仮称)に『運が良かったですね』と言い聞かせる。
「それでは、お願いします」
緊張の一瞬である。
双眸を輝かせているコスモス。
固唾を飲んで見守るポケモン。
そんな中、何一つ分かっていないプチドガス(仮称)。
たっぷりと間をおいたレッドが考えた名前とは、ずばり───。
「……コスモッグ」
「コスモッグ?」
「ピカピッカ?」
「ピィ?」
拝命───『コスモッグ』。
だが問題はトレーナーであるコスモスがどう思うかに尽きる。
「いいですか、今日から貴方はコスモッグです」
「ピィ!」
良かったらしい。
ようやく名前を与えられ、コスモッグは嬉しそうな表情を咲かせる。
これで強くなる見込みがあったならば、コスモスもここまで神経を苛立たせる羽目には遭わなかった。
だがしかし、働かざる者食うべからず。食ったからには働いてもらう。野生のポケモン相手に金銭を請求できない以上、その働きぶりを以て償ってもらう他ないとコスモスは心に決めていた。
「でも、“はねる”だけしか使えないとなると……はぁ」
「ピィ?」
あれだけふしぎなアメを食べたにも関わらず、進化の兆しは窺えない。
特殊な進化方法があるのだろうか? だとすれば、役立たせるにも一苦労だと先が思いやられる。
『ヴァアアアアアアア!!!』
「ピッ!!?」
その時、耳を劈く咆哮が空に響き渡った。
「ん?」
瞠目するコスモス。
おかしい。砂の空が広がって、海の陸が広がっている───否、これは自分が真っ逆さまになっている証拠だ。
現在進行形で重力に従って落下している事実を理解するや、コスモスは腕に抱いているポケモンに一瞥をくれる。
「なんだ、“テレポート”も使えるじゃないですか」
ひどく落ち着き払ったコスモスは口に指を咥え、すぐに甲高い指笛の音を鳴り響かせた。
「ゴルバッ!」
「ありがとう、ゴルバット。さて……」
地上が騒がしくなる中、コスモスは素早く羽搏いてきたゴルバットにキャッチされた。これで一安心……とは行かず、現状宙づり状態だ。掴まれた部分が足首でなければ、このようにサーカスの曲芸染みた状態で飛行する羽目にならず済んだであろうが、不測の事態であったことを踏まえれば及第点だ。
寧ろ、現状優先すべき問題は他にある───いや、
「
「ピィ……」
「まあ、知らずとも一向に構わないんですが」
見下ろす先で砂塵が巻き上がる。
激しい戦闘の余波は、上空にまで衝撃となって伝わってきた。“テレポート”で転移していなければ、渦中にいたのは自分達だった。
これを事前に避けられたのは僥倖だ。最悪ルカリオの波動で探知できたであろうが、コスモッグの危機察知能力には目を見張るものがある。
「二つ決めました。貴方は緊急時の脱出手段で……」
砂塵を振り払う風が吹き荒れた。
クレーター状に抉れた砂地の中央には、主人に牙を剥いた獣に敵意を抱くルカリオと、理性のない、それでいてどこか無機質な冷たさを感じさせる謎の四足歩行のポケモンが組み合っていた。
マウントを取られるのはルカリオ。されど、すぐさま乗りかかる襲撃者の腹部を脚で蹴り上げたルカリオは、一瞬相手が浮いた隙を見逃さずにその場から飛びのいた。
対する襲撃者もただ巴投げされる訳でもなく、着地するまでにすぐさま攻撃へと移れる体勢を整えていた。
───いい身のこなし。
───パワーも中々だ。
───そして、何よりも知らないポケモンだ。
「
「ピィ!?」
「怖いなら隠れて」
「ピィ!」
元気よく敬礼染みた腕の上げ方をしてみせたコスモッグは、あろうことかコスモスの服の中へと飛び込んでいった。
『なんでわざわざ……』と熱くなる胸元にげんなりしながらも、ゴルバットに指示を出し、いざ戦場へと舞い戻る。
合図を出してゴルバットに足を放させる。落ちる先はフカフカなカビゴンのお腹だ。トランポリンのように弾むお腹に着地───したはいいものの、思いの外弾力が凄まじく再び宙へ投げ出されるが、すかさず気づいたフシギバナが蔓で受け止める。
「あっ、おかえり」
「ただいま帰りました」
「良かった……急に消えたから、ワープパネルでも踏んじゃったのかと……」
「ご安心を。コスモッグが“テレポート”しただけですので」
斜め上の心配は気にせず、フシギバナに下ろされたコスモスは襲撃者たるポケモンへと再び視線を向ける。
頭部には拘束具。昆虫のような節足に、魚のような尾びれ。まるでそれぞれのポケモンの特徴を繋ぎ合わせたかの如き姿かたちには、コスモッグの時とは打って変わって興味をそそられる。
「……またもや知らないポケモンですね」
「どうする?」
「ゲットします。手出しはご無用です」
「うん」
頑張って、と気の抜けた応援を送るレッドは、ピカチュウらと共に後ろへ下がっていく。見るからに凶暴なポケモンを前にしても大人しく下がる辺り、弟子の強さへの信頼が窺えるというものだ。
そんな期待に応える目的が1割。残りの9割は打算である少女は、姫を守る騎士のように飛び出したルカリオに謎のポケモンの相手を任せることにした。
「いける?」
「バウッ!」
「なら良し」
指を鳴らせば、ルカリオが蒼いエネルギー弾を解き放つ。
“はどうだん”が砂の大地を抉りながら、襲撃者へと迫っていく。
「ヴァアアア!!」
しかし、襲撃者が振り上げる爪が“はどうだん”を切り裂いた。
直後、爆風が巻き起こる。圧縮された波動が砕け散り、辺りの砂を巻き上げる光景は先のジム戦を髣髴とさせるようだ。
だが、これはあくまで前座。コスモスが指示するまでもなく、ルカリオは二発目の“はどうだん”の準備を整え、黒煙の中に佇む襲撃者へと技を繰り出した。
波動を感じられるからこその芸当。
これで手痛い一撃を加えられる───かと思いきや、
「ヴァア!!」
一閃。
刹那、切り返されるもう一閃。
それは迫っていた“はどうだん”を難なく切り裂いてみせた。裂かれた蒼い球体は、襲撃者の後ろへそれぞれ左右に分かれながら飛んでいき、遂には空中で爆散した。
(───速い。あの技は“つばめがえし”……ひこうタイプ? 重そうな見た目とは裏腹な身のこなし。ますます気に入った)
即戦力と期待するや、コスモスは後ろに控えている手持ちのポケモンへ振り向いた。
「ルカリオ、交代───GO、ゴルバット」
「ゴルバッ!」
「“ちょうおんぱ”で惑わせて」
意気揚々と飛び出すゴルバットは、その身丈に差し迫る大きな口を開き、人間の耳には捉えられない音波を放出する。
しかし、襲撃者ものんびりと構えてはいない。
ゴルバットが仕掛けると見るや、その体勢から技の効果範囲を見極めたかの如く、“ちょうおんぱ”の射線から飛びのいてみせた。
「逃がすな、“メロメロ”!」
だが、コスモス側も回避されたままでは終わらない。
絡め手を得意とするゴルバットは、続けざまに異性を虜にする“メロメロ”を繰り出し、様子見を図った。
生憎と未知のポケモンである以上、雌雄の判別がつかない。これで行動を制限できれば僥倖と思うコスモスであるが、
「ヴァア!」
「バッ!?」
どうやら雌ではないらしい。
当てが外れると共に、手痛い反撃を貰ったゴルバットが砂上をボールのように跳ねるように墜落する。
それどころか襲撃者は苛烈な敵意を露わにしつつ、墜落したゴルバットを踏みつけた。
───これで一体。
標的を目の前に邪魔をする敵を仕留めたと確信する襲撃者は、徐にコスモスへと振り向いた。
「ア゛ッ……!?」
が、直後に襲い掛かる眩暈に膝から崩れ落ちる。
あれほどの攻撃を仕掛けても尚、息切れ一つ見せなかったにも関わらず、この有様。このあまりにもあからさまな変化には、歴戦のトレーナーも即座に見抜いていた。
「……“どくどく”」
踏みつけにされたゴルバットの牙から滴る液体を目にしたレッドが呟く。
相手を猛毒に陥れる技───“どくどく”。毒を相手に仕込む方法は牙なり棘なりポケモンごとに変わるが、今回は地面に注目だ。
(上手い……踏みつけにされたのを逆手にとって、牙から滴る猛毒を足元に染み渡らせたんだ)
液体が染み渡りやすい砂場だからこその手法に、レッドは満足そうにうんうんと頷く。
フィールドに応じて戦法を変える柔軟な発想こそ、バトルの道に生きるトレーナーには肝要だ。
時にはジムのスプリンクラーを破壊し、時には相手の繰り出した“なみのり”に乗り勝利を手にしてきたレッドだからこそ、発想の柔軟性がいかに重要かは身に染みて理解している。
柔軟性はいくらあってもいい。それこそメタモンくらい柔軟であることが望ましい。
その点、自分と出会ったばかりのコスモスは『超』が付くほどお手本のようなバトルを見せてくれたものだ。あそこまで再現性が極まっている点は強みに他ならないが、反面足を掬われれば、途端に対応がままならなくなっていたのも記憶に新しい。
(コスモスも成長したね……)
弟子の成長を感慨深く思うレッド。
一方、当の本人もまた拳を握って手応えを感じているようだった。
(よし、
───発想力に乏しい? それなら
発想力に喧嘩を売るお馬鹿さんとは、この子供である。
コスモスの発想の柔軟性はレッドには及ばない。むしろなまじ優秀な頭脳の所為で、あらかじめ決めていた動きしかできないロボットのようなトレーナーである。それはレッドという規格外と相まみえて以降も変わりはない。
しかし、だからこそと言うべき解決策を編み出した。
その策とやらはゴリゴリのゴリ押しとも言うべき力技。ゴリゴリ具合で言えばごりむちゅうのヒヒダルマぐらいゴリゴリである。もしくはケッキングとゴリランダーとヒヒダルマで組まれたパーティぐらいゴリゴリである。
その方法とは至ってシンプル───ありとあらゆるバトルを履修し、あらかじめ考えられ得る
土壇場での発想力や応用力が劣るのであれば、
勝利に必要な1を0から生み出すのがレッドであるならば、用意した100の中から見つけ出すのがコスモスというトレーナー。今まで弱点であった奇抜な戦法に対しては、その極致とも呼ぶべき師匠の戦いぶりから日夜学び、スポンジのように吸収している。
(フシギバナのコンボも真似してみたかったけれど、それはまた今度っと)
コスモスが真似したかった戦法は、フシギバナが鬼のようにばら撒いた“どくのこな”を“はっぱカッター”を撃ち出し、毒塗れになった葉っぱで相手を切り刻むド畜生コンボ。ゴルバットでなければ毒で倒れる二段構えだ! ちなみにゴルバットは毒がどうのこうの以前に急所に食らって倒れた。
「さて、どく状態のままで私達を倒せますか?」
「ヴ……、ッ!?」
「まあ、逃がすつもりもないですが」
不利を悟り、引き下がろうとしたポケモンの足が止まる。
何者かに見つめられるような感触が、彼をその場に縫い付けて逃がさない。
───“くろいまなざし”は既に見開かれている。
獲物を逃がさぬ眼差しを向けるゴルバットは、どくで体に力が入らない相手の隙を付いて羽搏く。
「“つばさでうつ”!」
太陽を背に翼を広げるゴルバットは、砂地に足を取られる襲撃者へ何度も接近しては、大きな翼を叩きつけて攻撃を仕掛ける。時折“ちょうおんぱ”も織り交ぜてこんらんを誘えば、完全に戦いの流れはコスモス側へと向いてきた。
「……そろそろ」
どくでじわじわと体力が減ってきた頃合いを見計らい、空のモンスターボールを手に取った。
すれば、気配を察した襲撃者がコスモスへと振り向いた。兜の奥に佇む血走った瞳は、とても理性を残しているとは思えない。
間もなく謎のポケモンはけたたましい咆哮を上げながら、コスモスの方へと駆け出した。
「ヴァアアア!」
「ルカリオ」
「バウッ!」
だが、頼もしいボディーガードが少女の前へと躍り出る。
十全に余力を残したルカリオは、主人には傷一つつけまいとする気概に溢れていた。両手に収束する波動エネルギーがその証拠だ。
「攻撃はダメ」
「!」
「分かった?」
「……バウッ!」
しかし、コスモスの指示に攻撃の為に集めていた波動を感知に利用した。
極限まで研ぎ澄まされた波動は、引き伸ばされた肌や耳のように広く周りを感じ取る。同時に捕獲の為に弱らせられたポケモンの体力をも察し、主人の意図をも読み取った。
ここで攻撃を叩き込めば、おそらく相手は瀕死に陥る。それでは捕獲できなくなってしまう。
なればこそ、この一撃を凌ぐ必要がある。
導き出される答えは、ただ一つ。
それを一人と一匹は言葉を介さず伝え合う。
(今───“みきり”!)
僅かに波動を纏った手が、飛び掛かるポケモンを横へといなす。
背後に構えるトレーナーに触れられないギリギリの軌道へと逸らすように、ルカリオは最小限の力を以て受け流したのだった。
コスモスの目論見通り、謎のポケモンの爪は空を切った。
さらにはあらかじめ予測していたかのように宙へ置いていくように放り投げられたボールが接触した瞬間、
「ピィー!!」
「はい?」
服の中でコスモッグが叫び、景色がひっくり返る。
先ほどまで悠然と構えていたルカリオも、今や目を見開いて主人の方へ振り向いていた。彼の表情は驚愕と焦燥に彩られているが、それも無理はない話だ。
「……なるほど。こういう“テレポート”の使い道もありまッブボァ」
仲良く着水するコスモス達。
“テレポート”で海の上に転移した彼女は、高度の低さも相まって抗う猶予もなく、そこそこ大きな水柱を上げる羽目に遭った。
「ぶくぶくぶく……」
「コスモスー!」
海に浮かぶコスモスは、間もなくやって来た赤の救助隊に拾い上げられた。
謎のポケモンを捕えたボールと共に……。
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