愛と真実の悪を貫く!!   作:柴猫侍

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前回のあらすじ

コスモス「テレポートは攻撃になりえる」

レッド「自由落下だね」


№023:ルカリオの居ぬ間に物色

 野を超え、砂超え、浜を超え。

 うだる炎天下を進み、やっと着いたは色鮮やかな光が躍るガラスの町だった。

 

「ここがスナオカタウン……」

 

 町の入口に当たる門構えに辿り着いたレッドは、見たことのない意匠が凝らされた街並みに興奮を隠せずにウズウズとしていた。

 奥へ奥へと進んでいけば、これまた鮮やかな色の屋根を張った露店が無数に立ち並ぶ。店頭に並ぶのは町の工芸品、ガラスを用いた品物が多くを占める。

 

「見て、コスモス。あそこにポケモンのガラス人形が……」

「……」

「……コスモス?」

「……、はい?」

「大丈夫?」

 

 レスポンスの遅い弟子へ、レッドが心配そうな眼差しを送る。

 何故と聞かれれば、至って単純。

 

「顔真っ赤だよ?」

「ダルマッカ? どこにも見当たりませんが……」

「……うん」

「ずびびっ」

 

 ダメそうだ。

 彼女は今、風邪をこじらせている。原因はプチドガス───ではなく、コスモッグの“テレポート”の所為で海へ落下してずぶ濡れになったからだ。

 いつもの無表情こそ変わりはないものの、目に見えて顔色が悪い。それこそ今彼女が言ったダルマッカのようだ。くれぐれもガラル地方の方ではない。真っ赤な原種の方だ。

 

「さて、先生ゲホッ!!! 早速町に付いたことでし、ジムの予約に向かいまほっほお゛ッ!!! ヴェッ!!!

「いや、予約より休んだ方が……」

んん゛ッ!!! ……休息は不要です。休んでいる時間がもったいないですから───」

 

 そう言い放ったコスモスが消える。

 見渡す。

 居ない。

 

───はて、どこに行った?

 

「ピィ! ピィ!」

 

 するや、少し離れた場所から鳴き声が聞こえてくる。

 これは紛れもなくコスモッグのものだ。彼の定位置がコスモスの服の中となっている以上、“テレポート”をすれば自然と彼女もくっついていく。

 すなわち、彼女もコスモッグと共に居る。

 

「コスモ……」

 

「おぉーい、お嬢ちゃん! あんたのポケモンがうちの商品を頬張ってんだが!? 食べ物じゃないんだから、さっさと吐き出させてくれ!」

「食べ物……今ならゼリーが食べたいです」

「話が通じねえ! ってか、どこ見てるんだい!? ちょっと大丈夫か!? もしかして具合でも悪いんじゃ……」

「具材はリンゴにみかんに桃に……あとはナタデココが入ってると嬉しいです」

「ダメだこりゃ! 誰かぁー! 親御さんは居ないのかぁー!?」

 

「……」

 

 レッドの行動は早かった。

 電光石火の如く歩み寄り、神速の如く頭を下げ、流れるようにコスモスを背負っては小走りで駆けていく。

 

 

 

 めざせポケモンセンター。

 

 

 

 ***

 

 

 

「しばらく休んだ方がいいわね」

 

 『ここは人間の病院じゃないんだけれど……』と言わんばかりの苦笑を浮かべるジョーイに診断を下され、コスモスは徐に項垂れる。

 

「大した風邪じゃありません」

「風邪だからって甘く見ちゃいけません。きっと旅の疲れも出ているのよ。こういう時はじっくり休息を取るのが一番よ」

「ですが……」

「いい? トレーナーの貴方が無理をしていたら、ポケモンも貴方を真似して無理しちゃうわ。そうなったら悪循環。無理が祟って、いつか大きな怪我をしちゃうわ」

「……」

 

 普段ならばもっともらしい反論をしてみせるコスモスも、風邪で頭が回らないのか押し黙る。

 それでもまだ納得していない様子の彼女へ、最後にレッドが一押しをかけた。

 

「……体調が万全じゃなきゃバトルも上手くいかないよ。特訓もジム戦も風邪が治ってからね」

「はい、治します」

「よし、いい子」

 

 変わり身の早さは一級品。

 慕う人間の言葉なら掌がつのドリルになるコスモスは、迷わず休養を取ることに決めたのであった。

 

 場所は変わってポケモンセンターの一室。

 パジャマに着替え、額に冷感シートと病人スタイルを決め込むコスモスは、しきりに鼻水を啜りながら傍らに座って見守っているレッドに目線を向けた。

 

「ご迷惑をおかけします、先生」

「気にしてない」

「ずびっ……まさか、海に落ちたくらいで風邪をこじらせるなんて、私もまだまだですね……」

「大丈夫大丈夫。俺もふたごじまで溺れかけた時は流石に風邪引くと思ったから……」

「さいですか……、ん?」

 

 コスモスは何故だか聞き流してはいけない内容を聞いた気がしたが、上手く頭が回らない為、聞かなかったことにした。

 

「……先生も付きっ切りで看病なさらなくて大丈夫ですよ」

「でも……」

「風邪を移したら大変ですから。それに薬は飲みましたし、一日休めばきっと良くなります。先生は町に観光でも出て、なにか美味しいものでも食べてきてください」

「コスモス……」

「先生……」

「何食べたいの?」

「梨で」

「了解」

 

 そこはかとなくリクエストを貰ったところで、いざ出立の準備。

 

「何かあったら連絡してね」

「わふっ」

 

 ベッドに眠るコスモスは、エプロン姿のルカリオに任せておく事にした。

 他にもゴルバットやニンフィアが傍らに寄り添っている以上、心配は必要ないであろう。

 

 唯一懸念点があるとすれば、

 

「ピィ♪ ピィ♪」

「コスモッグ、こっち」

「ピィ?」

 

 無邪気に遊ぶコスモッグか。

 危険を察するや“テレポート”するこの子を置いていけば、病床の身のコスモスに何が起こるか分からない。

 それに加え、なぜかコスモスの手持ちに加わった新参二体の仲が非常に悪い。やや語弊があるとすれば、兜を被ったポケモン・カブト君(仮称)がコスモッグに対し一方的に敵意を露わにしているのだ。

 どうにか仲を取り持とうとも暴れて乱戦に発展しかねるものだから、風邪を拗らせたコスモスに代わったレッドが、マサラ式ヘッドロックで止めに入った程である。

 

 こういった経緯もあり、下手に一緒にして留守にさせるよりも自分が面倒を看ておく方が何かと都合がいいかもしれない───という訳で、コスモッグは主を差し置いて観光に同行だ。

 

 そしてレッドは『お土産買ってくるからね』と言い残して部屋を去っていった。

 ピシャリと扉が締め切られる。すれば、途端に室内へ静寂が訪れた。壁を隔てた先の談笑や生活音は遠のき、聞こえてくるのは傍に居るポケモンの息遣いばかり。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 少女が夢の世界へ落ちるには、30分と掛からなかった。

 穏やかな寝息を立てている姿を前に、ホッと息を吐くルカリオはゴルバットやニンフィアとアイコンタクトを取り、それぞれ持ち場へと移動する。

 ルカリオは出入口の扉、ゴルバットは窓側の天井、ニンフィアはベッドの真下。まるでコスモスを警護するような警戒態勢は、まるでコスモスが要人であると錯覚させるような光景であった。

 

 安心を絵に描いた状況の中、それを知ってか知らずか少女の寝息は実に穏やか───であった。

 

「……ルカリオ」

 

 徐に呼ばれたルカリオが表を上げる。

 何事かとベッドまで駆けつければ、少女は依然として瞼を閉じたままだ。

 

 寝言だろうか?

 それでも無視はできないと耳を立てるルカリオへ、ほとんど囁きに近い言葉が聞こえてきた。

 

「コイキング焼き買ってきて」

「……」

 

 回れ右(クイックターン)。ルカリオの判断は早い。

 持ち場へ戻ろうとする彼の顔は、目に見えて呆れていた。主人の甘党は既知の事実であるが、寝言にまで口に出すとはいよいよカビゴンに片足を突っ込んでいるとでも愚痴を零しそうだ。

 

「ルカリオ!」

 

 が、直後の怒鳴り声にすかさず翻った。

 何事か? 敵襲か? もしくはそれに比肩する緊急事態か。

 

 一気に緊張感が高まる中、ベッド上のコスモスは続けて言い放つ。

 

「ヒンバス焼きじゃない……私が頼んだのは、コイキング焼き……」

「……」

 

───何が違うんだ。形は大体一緒じゃないか。

 

 呆れを通り越し、ルカリオの瞳には悲しみが宿る。何故自分が怒鳴られなくてはならないのか、そう言いたげな眼差しだった。

 

「今はカスタードの気分じゃない……餡子がいい」

 

───中身の問題だったか。

 

 持ち場に戻ろうとしても、背後から聞こえてくる寝言に延々と足踏みを続ける。早々に無視を決め込んだゴルバットやニンフィアのような神経をしていればいいのだろうが、律儀なルカリオにはそれができない。

 

 そもそもヒンバス焼きがカスタードでコイキング焼きが餡子などという道理、たった今知ったところだ。しかも口走った本人は寝ている以上、真偽のほどは定かではない。

 

「ぅん……だからヒンバス焼きじゃないって……」

 

「ほら……ミロカロスを焼いたら“ふしぎなうろこ”で固くなるから……」

 

「そう……それで不味い」

 

「あっ、じこさいせい……いっぱい食べられる……うっ……渋い……」

 

「すぅ……すぅ……」

 

 ルカリオはそっと毛布を掛け直した。

 そして、瞑想を決め込むことにしたのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 それから少し経ち、日が傾いてきた。

 

「ぅん……」

 

 重たそうな瞼を擦るコスモスが上体を起こす。

 すれば、どこからともなくルカリオが駆けつけた。余りにも颯爽とした登場には、うとうとと船を漕いでいたゴルバットとニンフィアも目を覚ます。

 

「……今何時……」

「わふっ」

「……まだこんな時間……」

 

 ボーっと前を向いていれば、気を利かせたルカリオが時計を掲げてくる。

 なんとも微妙な時間だ。夕飯にはまだ早いが、もうひと眠りするには体が目覚めてしまった。

 大事を取るならばもう一度眠るべきだろうが、かっかと火照る体のお陰で快眠は望めそうにない。

 

「……喉乾いた……」

「わふっ!」

「……ルカリオ?」

 

 外の自販機に飲み物を買いにでも行こうとしたところ、エプロン姿のルカリオが止めに入ってくる。

 

「平気。大分良くなった」

「バウッ」

「……じゃあ、はい」

 

 『ミックスオレで』と付け加えて渋々小銭を渡す。

 受け取ったルカリオは、小走りで飲み物を買いに出かけて行った。

 

(あんなに過保護になるよう育てた覚えはないのに……)

 

 不思議だと首を傾げ、ルカリオが買い物を済ませるまでもう一度横たわる。

 

(ん?)

 

 その時だった。

 ルカリオが出て行ってさほど間を置かず、再び扉が開かれる音が聞こえてきた。流石に買い出しを終わらせるには早いタイミングだ。

 不審に思ったコスモスは布団を被り、息を殺す。

 扉を開いたと思しき気配は徐々に近づいてくる。迷わず一直線にこちらを目指すような足取りから察するに、部屋を間違えたという訳でもなさそうだ。

 

(……止まった)

 

 足音が鳴り止んだ場所は、コスモスの潜むベッドの傍。

 続いて聞こえる漁る音。音源の方向からして、漁られているのは紛れもなくコスモスのバッグであった。今となってはふしぎなアメを食い尽くされて寂しくなってしまった中身だが、貴重品が入っている事実は揺るがない。

 

(今時白昼堂々盗みに入るとは……)

 

 ポケモンセンターといったトレーナーの公共施設へ盗みに入る人間は、昔から後を絶たない。お目当ては大抵強いポケモンや珍しいポケモンだ。育成が難しいポケモンや色違いといった個体は裏ルートにて高値で取引されるのを差し引いても、目先の欲に駆られる人間は幾らでも居る。

 

(でも、今回は相手が悪かったですね)

 

 布団の中でほくそ笑むコスモス。

 このような事態に備え、有事の際には手持ちに警戒態勢を取るように教えているのだ。

 

(ルカリオが戻り次第、一斉に攻撃を仕掛けて縛り上げて……)

 

 

 

「ったく、手間掛けさせやがって……」

 

 

 

(───?)

 

 しかし、コスモスの思考は一旦中断される。

 卑しそうな男の声。盗みを働くような子悪党としてはピッタリではあるが、それが()()()()()()()声ともなれば考え方が変わる。

 

───何故ここに?

 

 何巡も脳内を巡る疑問を適当なところで区切る。

 こうしては居られない。すぐにでも盗人の正体を確かめなければならないと、コスモスは勢いよく被さっていた布団を払いのけた。

 

「うぉおう!?」

「……先生、おかえりなさい」

「へっ? あっ……あ、あぁ。ただいま」

 

 そこに居た人物はなんてことはない。町へ繰り出していたレッドであった。

 余程布団から飛び出したコスモスに驚いたのか、柄にもなく冷や汗を流し、ホッと胸を撫で下ろしている。

 

「お早い帰りでしたね。何か忘れ物でも?」

「そっ……うん。いやぁ、ちょっと忘れ物をしちゃって……」

「先生もうっかりなされることはあるんですね。……あぁ、そうだ。少し頼み事をしてもよろしいですか?」

「……頼み事?」

「ジョーイさんにポケモンの回復を任せたままでした。ですので、そろそろ受け取りに行っていただけたらと」

「な、なんだ……そんなことか」

「どうかよろしくお願いします」

 

 丁寧にお辞儀をするコスモスに、レッドは軽く手を上げて了承の意を見せる。

 レッドは踵を返せば、スタコラサッサのラッタッタと小走りで扉へ向かう。

 

「あっ、待ってください」

「っととと……! まだ何か……」

「トレーナーカードがないと受け取れませんよ」

 

 コスモスの指摘に、レッドは『あちゃー』と言わんばかりにノリ良く額を叩いてみせた。

 

「しまったしまった。そう言えばそうだった」

「やれやれ、いつも詰めが甘いですね」

「いやぁ、はははっ……」

「私はジョーイさんにポケモンなんて預けてないのに」

「ははっ……は?」

 

 ピシリ、とレッドの顔が凍り付く。

 しかし、その硬直も一瞬。レッドの皮を被った何者かの手は、真っすぐベルトのボールへと伸ばされる───が。

 

「ッ!? イダダダダダッ!? な、なんだ!?」

「おかえり、ルカリオ」

「バウッ」

「ル、ルカリオ!? いつの間に……!!」

 

 音もなく部屋に帰還していたルカリオが、レッドの偽物の腕をしっかりと拘束し、ボールに触れられないように極めている。

 取り押さえられた男はじたばたと暴れるも、鍛えられたかくとうポケモンに膂力で勝てる人間は居ない。ルカリオが少しばかり関節を捻ってやれば、すぐさま情けない悲鳴声が響き、抵抗が止まった。

 

「静かにしてください。騒ぎになったら困るのは貴方ですよね」

「タ、タンマ!! 勘違いじゃないか?! 俺様は決してやましいことなんて……」

「ゴルバット、()()

「あっ、ちょ、待っ……!!」

 

 有無を言わす間もなく、ゴルバットの翼が繰り出す真空刃がレッドの面を切り裂いた。

 次の瞬間、無気力な少年を装っていた顔の破片がハラハラと舞い散っていく。すれば、中からはくたびれた中年の顔面が現れ出でたではないか。

 

 化けの皮は剥がれた中年は、悔しそうに歯噛みする。

 

「ち……ちくしょう。一体全体どうしてバレた……?」

「いいえ、変装はお見事でした」

「へ?」

「声帯模写も完璧です。けれど、口調まで演技が回っていないのは相も変わらずと言ったところでしょうか」

 

 まるで自分を知っているかのような口振りに、中年は『お前は一体?』と逆に正体を探ろうとしてくる。

 

「ご安心を。私はロケット団です」

「はぁ? おい、ちょっと待て! 俺様はお前のことなんて知らないぞ!」

「……そうですか」

 

 少しばかり目を伏せるコスモス。

 だがしかし、何か思いついたように面を上げたかと思えば、男の顔面から舞い落ちた覆面の残骸を拾い上げる。

 

「そう言えば昔、貴方がサカキ様の変装をして部下にちょっかいをかけていたのを、私のルカリオが見破ってしまったこともありましたね」

「え」

「それからアポロさんへ報告しようとした私を口止めしようとする度にお菓子を取り寄せて頂いたのは、今でも鮮明に思い出せます」

「あ……ああーっ!!? まさか、お前は!!?」

 

 やっと合点が行った男は瞠目し、大声を上げる。

 同時に蘇る忌々しい記憶に、その表情はどんどん青ざめていく。

 

「サカキ様の鳴り物入りだったジャリガキじゃねえか!!?」

「またお会いできて光栄です。ねっ?」

「は、はははっ……」

 

 人呼んで変装の達人。

 彼こそがロケット団幹部が一人───ラムダその人であった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 かつて、ロケット団には四人の幹部が居た。

 

 頭領たるサカキに次ぐ権力を有すナンバー 2、アポロ。

 幹部の紅一点であり狡猾な頭脳の持ち主の女、アテナ。

 実働部隊として各地で下っ端の指揮を執る男、ランス。

 そして、彼らに並ぶ幹部の地位をサカキより与えられていた男こそ、標的へ潜入し、スパイとして諜報活動をしていた変装のプロ、ラムダであった。

 

 その変装の精巧さに騙され、重大な情報を引き抜かれた企業は数知れず。

 こうした働きぶりをサカキに評価され、見事に幹部へと昇格したラムダであるが、当時の彼には密かな趣味があった。

 

 仕事でヘマをする部下を見た時、あるいはグチグチと同じ幹部に嫌味を言われた時。誰にだって存在する鬱屈とした気分の時は、アジト内で忠誠を誓うサカキの姿へと変装していた。

 

 するとどうだ。

 通路をすれ違う度、下っ端は畏れ多いものを見るように頭を下げてくる。

 それがラムダにとって最高の気分転換であった。自分が目上の人間と扱われることを嫌う人間など居るだろうか?

 幹部とは言うものの、結局のところは中間管理職の一つ。上と下の板挟みになる心労は悪の組織であろうと変わりはない。

 

 ある日、完璧主義なきらいのあるアポロに長々と説教を受けた時があった。

 その時も憂さ晴らしにサカキへと変装し、下っ端にちょっかいをかけようとアジト内に繰り出そうとした───その矢先であった。

 

『どうしてサカキ様の変装をしているんですか?』

 

 自分の腰程度の身長しかない子供が、あろうことか変装を見破ってきた。

 彼女がリーグ掌握の為にポケモンバトルを叩き込まれているとある計画の要員の一人であった少女であることを知ったのは、また後日の話だからこの際どうでもいい。

 ここで一つ問題だったのは、その少女が暗に此度の変装を上に言いつけると伝えてきたことだ。

 

 ただの子供ならば捻り上げ、力で口止めすればいい。

 だがしかし、無垢な瞳を湛える少女のポケモンバトルの腕前が並みではなかったことだ。当時、カントー地方ではほとんど知られていなかったルカリオが彼女のボディーガードを務めていたが、手を出そうとした自分の行く手を阻むや、あろうことか繰り出したドガースやマタドガスが一匹残らず蹴散らされてしまった。

 元々バトルの腕前は自慢できたものではなかったとは言え、一回りも二回りも年下の少女に完敗したともなれば、ラムダの自信がへし折れるのには十分であった。

 

 しかし、そこで終わる彼ではない。

 保身の為ならばこびへつらう真似をも厭わないラムダは、暴力に訴えるのではなく、懐柔する方向へと舵を切ることにした。

 あれこれ必死に言い訳を並べ、最後には少女の欲しい物を買い与えることで買収。何とか大事にはならずに済んだ。

 

 ところがどっこいドテッコツ。

 

 その後の継続的な口止めの為、各地から取り寄せた銘菓を買い与える必要が生まれたのは完全に見通しが甘かった。ニビあられ、いかりまんじゅう、フエンせいべい、もりのようかん、ヒウンアイス、ミアレガレット、シャラサブレ、おおきいマラサダ等々、無駄にご当地の土産には詳しくなった。ラムダの財布の中身も寂しくなった。

 それでもサカキを騙っていた事実が露見することに比べれば、安いものであったと言えよう。

 

 

 こうしてロケット団のコスモスという少女は、ラムダにとって逆らってはいけない人間の一人として、深く心に刻まれるのであった───。

 

(そんなあいつが、何故ここに!?)

 

 ロケット団が一度壊滅してからというものの、リーグ掌握に用意されたロケットチルドレン計画も白紙となった。故に彼の記憶から当時の少年少女らの顔や名前はすっぽりと抜け落ちてしまっていたが、彼女に限っては例外であったらしい。

 いや、むしろここまで忘れていた事実を挙げれば、思い出したくはない記憶として自ら封印していたようだ。

 

「さて……まあ、腰を下ろして話しましょうか」

「あ、あぁ」

 

 彼女の同行者だった男の変装を解き、怪しまれない一般人スタイルに変装したラムダは、コスモスの座るベンチの横に腰を下ろす。

 場所はポケモンセンターの裏側。人通りも少なく、何者かに話を聞かれる危険も少ない。万が一、人が近づこうものなら、索敵に意識を割いているルカリオが逐一報告するだろう。

 

「まずはそうですね……当たり障りのない質問から。何故あなたがここに?」

「……別にお前に話す義理はねえよ。俺には俺の用事があるってこった」

「ふむ、そうですか。では質問を変えましょう」

「?」

()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 淡々とした口調。

 しかし、得体の知れぬ圧力をビシバシと浴びるラムダが横を一瞥すれば───深い夜のように冥い瞳がこちらを覗き込んでおり、思わず喉から空気が抜ける音が漏れた。

 

(だからこのガキは苦手なんだ……!)

 

 当時から素性の知れぬ子供であったが、一度組織が潰れた事実が輪をかけて彼女の立場を分からなくさせる。

 傍目から見ても組織───否、サカキに対し絶対的な忠誠心を抱いていることは明らかであった。

 

 だからこそ、今も尚()()()()()()()()()()()()()()()が判別できない。

 

 ロケット団に忠誠を誓っていれば、組織が存続していたと知れば戻ってくるだろう。

 しかしながら、特定の一人に忠誠を誓っているのなら話は別だ。そう言った人間は、組織ではなく個人に付いていく可能性が高い。その個人が居ない組織に価値はないと切り捨て、組織を去っていく……といった具合にだ。

 

(こいつを味方に引き込めりゃあ、楽に仕事をこなせるんだが……)

 

 ラムダは悩む。

 事情を包み隠さず明かし、彼女を()()に引き入れるべきか否か。ポケモンバトルの腕前に確固たる信用がある分、得られるリターンが目の前をちらつく。

 しかし、素性を明かせばそれだけ自分に危険が降りかかる訳だ。彼女が味方につく確証がない以上、ホイホイと口を割る訳にもいかない。

 

「……そいつは答えられないな。せめて、お前が今もロケット団だってことを証明できない限りは───」

「当然」

「……なに?」

「昔も今もロケット団の一員です。サカキ様の忠実なる剣にして盾。それこそが私の存在意義です」

 

 ゾクリ、と。

 一斉に肌が粟立つ感覚に、ラムダの口角は引き攣るように吊り上がった。

 

(そうだ、こいつはそういうやつだった)

 

 かつてのやり取りが脳裏を過る。

 何故自分の変装を見破れたのか? 隣に連れたルカリオに見破らせたのか?

 その疑問に終止符を打つ質問を投げかけた時、彼女は実に不思議そうな顔でこう言った。

 

『私がサカキ様を間違える訳がありません』

 

 自身の身の振る舞いでも、ポケモンの能力でもない。

 ただただ揺るぎのない自信を以て見抜いただけと謳う少女の言葉は、まさしく狂信者の口振りであった。

 

───イケる。

 

 ラムダは確信した。

 この少女は、サカキさえ居ればロケット団に舞い戻ってくると。

 

 それだけ分かれば十分とラムダは笑えば怪しさ満点の不審者スマイルを浮かべ、固く閉ざしていた口を開いた。

 

「ぐっふっふ、それが分かりゃあ充分だ。いいぜ、答えてやるよ。俺様もさ。いつか帰ってくるサカキ様の為に残党を取りまとめる幹部の一人なのは、数年前のラジオ塔事件からも変わらねえ」

「そうですか、安心しました。もしもこれでロケット団でないとおっしゃるのだったら、私の身の上を明かした以上、口封じをしなければならないところでしたね」

「そ、そうか……そりゃあお互い良かったな」

 

 頬を引き攣らせるラムダの声は若干震えていた。どうやら自分の選択は間違っていなかったらしいと、数秒前の自分の英断に心底胸を撫で下ろしている様子だ。

 

「じゃあ、お互い同志ってことだ。お前についても色々聞かせてもらうぜ?」

「聞くも何も、私は任務を全うしようとしているだけです」

「なんだって? 任務?」

「ポケモンリーグの掌握……その為、内部に潜り込めるようチャンピオンになる。それが私がサカキ様直々に言い渡された任務ですので」

「そ、そうか。そいつは勤勉なこって……」

「こちらからは同じ質問になりますが、どうして貴方がここに? 何か探しているようでしたが」

 

 先刻の振る舞いを見る限り、ラムダが何かを探そうとしていたのは明白だ。

 

「流石に金銭はありえないでしょうから。ポケモンですか?」

「……話が早いじゃねえか」

「まさか、本当に?」

「そのまさかさ」

 

 意図せずして目的を言い当てたコスモスに、ラムダは懐から取り出した一枚の写真を見せつける。

 

「こいつだ」

「これは……カブト君?」

「……まさか、そう呼んでんのか?」

 

 やや引いた声色をラムダが紡ぐも、コスモスは一切気にしない。

 意識は写真に写っていたポケモンに───先日砂浜でゲットした問題児であるカブト君(仮称)に向けられていた。

 

「『タイプ:ヌル』。それがこいつの名前さ」

「タイプ:ヌル? 随分と不思議な名前ですね」

「俺じゃなくて開発部に言ってくれ。ヌルは人間の手で作られたキメラポケモン……らしい」

「複数のポケモンを掛け合わせたと?」

「じゃねえのか? 詳しい話は知らねえけどよ」

 

 『そういうことになるな』とラムダは首を縦に振る。

 つまりは人工のポケモン。シルフカンパニーが作ったポリゴンのような人工ポケモンが居るとは言え、このタイプ:ヌルと呼ばれる個体は生物としての名残が窺える。

 

「少し前、戦闘データ収集の為に移送されてたらしいが、どっかの馬鹿がヘマやらかして逃げ出したんだ。で、俺様はその回収を命じられたってワケだ」

「戦闘データ……このポケモンは強いんですか?」

「たぶんな。なんでも元々はウルトラなんちゃらっつー強いポケモンを倒す為に作られたらしいな。強さは折り紙付きだ。その分、気性が荒くて手に負えねえがな」

 

 やれやれと首を振るラムダは『さて』とあからさまに声色を変える。

 

「そういう訳でだ。ヌルを俺様に寄越せ」

「え、嫌ですが」

「ぐっふっふ、話が分かるじゃ……はあっ!!?」

「嫌ですが」

「聞こえてんだよ!!」

 

 思わぬ返答に愕然とするラムダ。

 それもそのはず。一応彼はコスモスにとって上司に当たる人間であったのだ。口止めの件を差し引いても、ちょっと命令すればポンと渡してくれるだろう───そんな心算をしていたからこそ、この拒否は予想外であった。

 

「いいか!? 俺様はこいつの回収を命じられてんだ!! 持って帰らなきゃ怒られんのは俺様なんだよ!!」

「でも、私がゲットしましたし。強いのでしたらリーグ制覇に使いたいです」

「ぐぬぬぬ……よくもまあそんな図々しいことを言いやがる!! こちとらお前の言うロケット団に言われて働いてんだっつーのに……!!」

「ん? そう言えば」

 

 歯噛みするラムダの前で思い出したかのような口振りでコスモスは尋ねる。

 

「貴方がここに居るということは、もしやロケット団もこの地方に?」

「……あぁ、そうだ。一応な」

「随分歯切れが悪いですね。何か問題でも?」

「……そういうズケズケと聞いてくるところも相変わらずだ、このジャリガキ」

 

 憎たらしそうに吐き捨てるラムダは、『それじゃあ教えてやる』と続ける。

 対するコスモスは、夢にまで見たロケット団の動向を知れるとあって、キラキラと瞳を輝かせていた。

 

 アジトは? 幹部は? 何よりもサカキは?

 聞きたいことなど山ほどある。

 が、ラムダが一番に口にしたのはそのどれでもない。

 

「ロケット団は今……二つの勢力で対立してる」

「……なんですって?」

「まずは、ジョウトから渡ってきた俺やアポロ達が率いる残党勢力さ」

「それでは、もう一方は? まさかアテナさんやランスさんで?」

「まさか、そんな訳ぁねえ。もう一つの勢力、それは───」

 

 突如、喉をクツクツと鳴らしながらニヒルな笑みを浮かべるラムダ。

 しかし、心の底から笑っていないと分かる表情に埋め込まれた双眸は、どこか遠くを見遣るばかりであった。

 

 

 

「───他でもねえ。サカキ様率いる、新生ロケット団さ」

 

 

 

「……なんですと?」

 

 旅がもうすぐ終わるかもしれない。

 




Tips:マサラ式ヘッドロック
 いりょく:100
 タイプ:ノーマル
 4~5ターンの間、相手の首根っこを締め付けて拘束する。その間、ポケモンの交代はできなくなる。初代式マサラ式ヘッドロックになった場合、拘束ターン中相手は行動がとれなくなる。

ポケモンで加入したい組織は?

  • サカキ様万歳! ロケット団
  • カガリ様hshs... マグマ団
  • ウホ、イイ男... アクア団
  • このアカギにさからららら…! ギンガ団
  • ゲーチス♪ゲーチス♪ プラズマ団
  • フレーフレーフレア! フレア団
  • グズマさんが最高でスカら! スカル団
  • 代表に保護されたい… エーテル財団
  • マリィ愛してるぜー! エール団
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