パンッ。
虚しく鳴り響く破裂音に遅れ、静寂が辺りを包み込む。
「……また、割れた」
音の発生源である筒を携えていたレッドは、先端にくっついていた溶けたガラスを悲しそうに見つめていた。
「ドウシテ、ガラス、コワレル。オレ、ソンナツモリ、ナイ……」
「ま、まあ最初はそんなものです。根気よくやってみましょう」
「ハイ……」
力を制御できない怪物めいた台詞を紡ぐレッドはがっくりと項垂れた。
ここはスナオカタウンに佇むガラス細工の工房。普段は土産品向けのガラス細工を制作している場所であるが、毎日観光客や旅行客をターゲットに体験工房と銘打ち、実際に制作できることで人気であった。
レッドもまた絶賛体験制作中な訳であるが、如何せん空気を吹き込む力が強すぎる結果、無数のガラスが犠牲となっていた。
この惨状を前に、指導を務めている若い職人も苦笑いを禁じ得ない様子だ。
「いいですか? ガラスを膨らませるには息を強く吹きすぎても弱く吹きすぎてもいけません。それに吹き込む量は常に一定じゃなきゃ、形が崩れてしまいます」
「はい」
「さっきの場合、最初の一吹きが強過ぎましたね。最初が一番膨らみにくいでしょうが、だからと言って強く吹き込み過ぎれば、膨らんだ途端に弾けてしまいます。今度はそこを意識してみましょうか」
「分かりました」
再び粘性に溶かされたガラスをくっつけられた筒を渡される。
レッドはいつになく真剣な眼差しでガラスを見遣り、熱された空気が上り詰めてきそうな筒を咥えた。
(イメージは完璧。今度こそ───イケる!)
カッと瞳が見開かれるや、レッドの肺から空気が絞り出される。
言われた通り、強過ぎず弱過ぎず。それでいて常に一定量を意識した完璧な出だしであった。
───勝った。
勝利を確信したレッドが、それを祝う杯となるであろうガラスに熱を、空気を、命を注ぎ込んだ。
パァン!!!
その、次の瞬間だった。
「……」
「……」
『だいばくはつが決まったぁ~!!』
爆散。
どこからともなく聞こえてくるポケモンバトルの実況の音声を背に、見るも無残な惨状を目の当たりにしたレッドのみならず、指導をしていた職人ですら言葉を失い、あまつさえ目を覆い隠した。
「……ドウシテ」
「あの……購入していかれる方向けの品が向こうにありますが、そちらは見て行かれますか?」
「ハイ……」
顔を手で覆うレッドは、工房の人に声を掛けられながらも、その気まずさにしばし立ち上がれずに居た。
ここまでの挫折感、いつぶりだろうか?
何も作れず、何も生み出せず、ただただ無為に散っていった屍を前に、レッドは手汗で酷く冷え切った掌を見つめるばかりであった。
「俺は……何一つ生み出せない……!」
「ピィ! ピィ!」
「ピッカァ!」
その傍ら、ピカチュウやコスモッグらは工房のブーバーの作ってくれたビー玉を手に、無邪気に燥いでいた。
───職人さんって、本当に凄い。
本日、レッドが身に染みて実感した現実であった。
***
その頃、ポケモンセンターにて。
「……サカキ様が、ロケット団に?」
ラムダから告げられた事実は、まさしく青天の霹靂。
それでいてコスモスにとっては暗雲の中に一筋差し込んできた光明でもあった。
「それは確かなんですね?」
「おいおいおい、近ぇ!! 顔を離せ!!」
「……ごほんっ、失礼しました。少々取り乱してしまって」
軽く咳払いし、コスモスは居住まいを整える。
(あ。私風邪を引いてるんでした)
刹那、風邪を移してしまったのでは? と思考が過るものの、この興奮を前には些少の問題だと流した。
「……いえ、そう言えば対立勢力だったラムダさん達残党組でしたね?」
「残党組って、お前……いや、間違っちゃいねえがよ」
「額面通り受け取れば、ラムダさん達はサカキ様と対立している形になりますが……そこのところはどうなっているんです?」
ジロリ、とハイライトのない瞳がラムダを射抜いてくる。くろいまなざしも顔負けの目力だ。
「待て待て、勘違いすんじゃねえ!! 別に俺達はサカキ様に謀反しようとか、そういう話じゃねーんだよ!!」
「でしたら、どういう訳で?」
「……その新しい方のロケット団、下っ端こそサカキ様がボスだと宣っちゃいるが、本当にサカキ様がトップに居座ってるか分からねえんだよ。……はあ」
深々と溜め息を吐くラムダからは、今日までに積み重なった苦労が滲み出ているようであった。
「そもそもおかしいだろ?! ジョウトで俺達がコソコソ活動して、果てにゃあラジオ塔まで占拠してサカキ様に呼びかけた!! なのに、当のサカキ様は別の地方で新しい幹部共をひっ連れてるときた!!」
「つまり、元々自分の立場だった幹部の椅子に、見ず知らずの他人が居座っているのが気に入らないと」
「その通り!! ……って、ちちち、違ぇ!! 俺様はけーっして嫉妬なんか……」
今更取り繕ったところで遅いにも程がある。
だがしかし、ラムダの言い分に多少なりとも理解を示すコスモスは、シンプルに抱いた疑問を投げかけてみることにした。
「そのことをサカキ様には伝えなかったんですか? 元幹部とあらば取り次いでもらうことくらい簡単だと思いますが……」
「だと思うだろぉ? それが会えやしねえ。よっぽど他人に顔を見せたくねえのか、やけにガードが堅えんだ」
「ラムダさんでさえ、ですか」
「ああ。向こうは残党勢力を引き込む気では居るらしいが、俺達を幹部に登用するつもりはさらさらねえってのがあけすけだ。それでアポロは保留してるっつー訳だ」
つまりは、新参に対する古参の疑念こそが対立の理由だ。
アポロ率いる残党勢力に対し、あくまでもサカキが頭領と謳う新生勢力は、古参の団員にサカキの顔を見せることもなく、ただただ軍門に下るよう訴えかけてくるだけ。
これでは古参が新参勢力を疑うのもやむなしといった具合だ。
サカキ居るところへ飛んでいく団員は山ほど存在するが、いくらなんでもサカキとロケット団の名前だけを借りた組織に所属するつもりはない。忠誠よりも自己保身が先を行くラムダでさえ、そこは他の団員らと一緒であった。
「でだ! 俺様がアポロの野郎に命令されたのは、こっちのロケット団に居るかもしれねえサカキ様が本物か偽物か見極める為に潜入する任務だ」
「ヌルの回収もその一環で?」
「そういう訳だ。任務をこなせばそれだけ評価が上がる。評価が上がりゃあ幹部なりなんなり昇進して、上の人間にお目通りも叶うだろ?」
「道理ですね」
「じゃあ、ヌルを寄こせ」
「それは嫌ですが」
「こいつっ……!!」
あくまでもヌルの所有権は自分にあると主張するコスモスに、ラムダのこめかみには青筋が浮かび上がる。
「それよりラムダさん」
「ああ、なんだぁ?」
「サカキ様が居るにしろ居ないにしろ、実際に指揮を執る幹部ぐらいは居るはずですよね? 潜入しているのなら、名前ぐらいは知っているでしょう」
新生ロケット団のサカキが偶像だとしても、組織として成り立っている以上、事実上のトップが居ると見て間違いはないだろう。
未だ味方か敵かも判断つかない中、少しでも情報を得ておくに越したことはないと問いかけるコスモスの目は真剣そのものだった。
「……ああ、調べはついてるぜ。知りたいか?」
「はい」
「だが、一つ条件がある」
「条件?」
「俺達と組め」
「何故です?」
「何故って……当たりめーだろうがよォ! 情報だってタダじゃねえんだ! おいそれと漏らして堪るか!」
喚くラムダに、コスモスはなるほどと頷いた。
言われてみれば当然だ。組織にとって最も恐ろしい事態は“裏切り”。敵の内部工作を許すことにより組織は混乱し、弱体化してしまう。そこを狙われてしまえば、いくら天下のロケット団とは言えいともたやすく掌握されてしまうに違いないだろう。
そこでコスモスの立ち位置が重要になってくる。彼女は今も尚ロケット団に忠誠を捧げている身ではあるが、あくまで信奉はサカキへと向いている。
ここで彼女が嘘か真かサカキが居るとする新参勢力に加わったとしよう。その瞬間、ラムダは敵対勢力に情報を売った裏切り者となる。裏社会に生きる人間にとって、裏切った者の居場所などは存在しない。自然界にルールがあるように、闇には闇の流儀がある訳だ。
たかが名前、されど名前。いずれ耳にする可能性も高い情報とは言え、売った事実が生まれてしまう以上、コスモスが味方───せめて協力関係であることの保証は欲しい。
そう考えるラムダに対し、少女はあっけらかんと答えた。
「構いませんよ」
「!! 本当だな!? 裏切ったらタダじゃ済まさねえぞ!!」
「裏切るも何も、私はサカキ様に従うだけですので。ラムダさん達もそうですよね?」
「そ、そりゃあ……そうだが」
「だったら、こちら側のサカキ様が本物だという確証が得られるまではそちらに付きます。私もサカキ様のネームバリューを利用するような連中に手を貸したくはないですし」
少女の基準は単純明快。
敬愛する首領の下か否か、それだけだ。
比較的手綱を握りやすい方であると理解したラムダは不敵な笑みを零し、『そうか』と蓄えた顎鬚を撫でる。
「じゃあ、教えてやるよ。こっちのロケット団幹部は三人───」
屈強な肉体を持つ大男、クリフ。
冷酷で妖艶な悪の美女、シエラ。
嫉妬に燃ゆ狡猾な策士、アルロ。
通称、『三幹部』の彼らこそが現在のロケット団の中核。
そのいずれもが凶悪で強大なポケモンを従える実力者であると、団員から畏敬の念を集めているとラムダは語った。
「はっきり言うが、奴らの腕は化け物だ!! それこそジムリーダー……いや、四天王に勝るとも劣らねえ」
「……随分と腕のいい人材が居たものですね」
「……あん? どうした?」
「いえ、別に」
含みのある言い方が気になったラムダであるが、プイとそっぽを向いたコスモスにそれ以上の追求はできなくなった。
「まあいいぜ。けどな、そいつにもしっかりタネがあるんだなコレが」
「タネ?」
「そうだ!! ポケモンって枠を超える、まさしくロケット団に相応しい道具……!!」
その名も───『シャドウポケモン』。
「詳しい方法は知らねえが、シャドウポケモンにされたポケモンは本来よりも強大な力を発揮する!! 下っ端連中が使うような弱いポケモンも、シャドウポケモンにさえしちまえばあっという間に即戦力だ!!」
「……興味深い話ですね」
「今はまだ試験段階だが、量産体制さえ整っちまえばロケット団は圧倒的な戦力を手に入れることができるってワケだ!!」
面白い話だろ!? と、ラムダは興奮を隠せない様子だった。
確かに、衰退の一途を辿っていたロケット団にとって、戦力増強は目下の課題だ。簡単にポケモンを強化できるとあれば、まさしく夢のような話と言って過言ではない。
ここでコスモスは勘付く。
以前、キョウダンタウンで相まみえたチンピラ達。彼らが繰り出してきたポケモンは、どうにも普通の様子に見えなかった。
まさか……、と顎に手を当てるコスモスは、荒く鼻息を鳴らすラムダの方を向いた。
「ちなみにシャドウポケモンとは、目が赤くなったりしますか?」
「お? そうだが……なんで知ってんだ?」
「前に一度、それらしきポケモンを使うチンピラとバトルしました」
「なんだとッ!?」
「返り討ちにしてお縄についていただきました」
「なんだとッ!!?」
いよいよロケット団に敵対していると取られかねない所業をしでかしている少女に、ラムダは信じられないものを見るような眼差しを送ってくる。だって仕方ないじゃないか、売られた喧嘩だもの。
「となれば、
「……おい。ちなみにそのシャドウポケモンはどうなった?」
「さあ。普通に考えれば、犯罪者が逮捕された場合と同じ流れだと思いますが」
「余計なことをしてくれやがって!! どうすんだ!? どっかの研究所に流されて解析でもされたりしたら!!」
「でしたら、私が引き取っておきます」
「適当こきやがって!!」
さっきから荒ぶるラムダ。血圧が上がらないか不安だとコスモスはミックスオレを煽る。血糖値はみるみるブチ上がりだ。
(
口に出した『あの三体』とは、チンピラから押収された目が赤く染まっていた三体だ。
ラムダの言葉を信じるならば、その三体はロケット団が作ったシャドウポケモン。すなわち戦闘用に能力を強化された個体と言えよう。
……話は変わるが、ポケモントレーナーも数多しと言え、手持ちに加えるポケモンにこだわりがない者は珍しいだろう。
かっこいいポケモンやかわいいポケモン。あるいは風土や職業柄という理由で選ぶ者も少なくない。
ここでコスモスの選出基準を紹介するとしよう。
現在ルカリオ、ゴルバット、ニンフィアときて、コスモッグ、タイプ:ヌルとゲットしてきた彼女だが、その根底にある価値観とはつまり───。
(即戦力……強いポケモンは大歓迎……!)
彼女は合理主義。言い換えれば、横着な性格だ。
好きなポケモンと聞かれれば、真っ先に『強いポケモン』と答える彼女にとって、それほどまでに強さとは絶対的な指標の一つとして君臨している。
コスモッグが例外だったとは言え、彼女は基本的に有用と思ったポケモンしかゲットしない。捕まえた時点でズバットだったゴルバットも、確かな将来性を見出した上での捕獲だ。
それを踏まえた上で、リーグ制覇を目指す時間の内、育成にかかる分をそのまま戦略を練る時間に回せることは、それだけで大きな価値を有していた。
叶うならば、ブリーダーから強いポケモンを買うなり借りるなりして手持ちを構成したいと考えていたが、生憎とそこまでの伝手はない。
だからこそ地道に育成を進めつつも、ニンフィアのようにある程度育ったポケモンを引き取り、戦力の増強を図っていた。
しかし、ここに来て強さを保障されているポケモンを入手できる可能性があるのなら、是が非でも手に入れたくなってしまうのがコスモスという少女の性だ。
(手続きは後で進めるとして……)
今から思索に耽るコスモスであるが、大事なことを思い出す。
「私はラムダさん達と協力する側になった訳ですが、具体的に何を協力すればいいんです?」
「あ? そりゃあ……あれだ。ガキはガキンチョらしく強いポケモンでも捕まえておけ」
「戦力の増強と。なるほど」
と、コスモスは納得しているが、正直な話ラムダにとって彼女は手に余る存在に他ならない。ただでさえ自分の仕事で手一杯だというのに、子供の手綱を握れ等という面倒事に首を突っ込みたくはなかったからである。精々、ゲットしたポケモンのおこぼれに与る形で利用するのが無難と言ったところであろう。
「そういう訳だ。それにお前にゃあサカキ様直々の命令がまだ残ってるしな。ぐっふっふ、できるもんならリーグチャンピオンにでもなってみるんだな」
揶揄うようにラムダは言い放った。
と言うのも、チャンピオンとはその地方を巡った何百、何千というポケモントレーナーの頂点に座す最強にのみ許された称号。その玉座を争う猛者達のポケモンはいずれも化け物染みた強さを誇り、当のトレーナー自身でさえ常軌を逸した所業をこなしてみせる。
いわば、
常識を打ち破る戦法を昇華させ新しい技を生み出す者。
幾星霜もの年月の果てに本来覚えぬ技を会得させる者。
尽きぬ探求心より古代のポケモンを再生し手懐ける者。
絶えない愛と試行錯誤の末に至った進化形を従える者。
純粋にポケモンを愛する大きな気持ちを力に換える者。
万人を魅了する美しい絆により更なる進化を遂げる者。
努力するに才能が要ると言わんばかりに、それぞれ地方に名を遺した者は須らく伝説を刻んでいる。
歴史に名を遺すということは、それだけの才能と努力を求められる訳だ。例えどれだけ才覚がある子供が居るとしても、玉座を争うのは同格の才覚を発揮する同年代や、さらには大人も当然のように存在する。
確かにコスモスは強い。この歳にしては素直に感服する実力と、それに裏打ちされた知識を備えている。
だがしかし、リーグに集うトレーナーはきっとコスモスでさえ霞む実力者ばかりが集うことだろう。
(ガキはガキらしく夢を見てりゃあいいさ。それでおめおめ負けて帰ってきたら、下っ端としてこき使ってやる!)
何とも狡い考えであるが、単純に確率で考えたとしてラムダの考えは間違ってはいない。それがまた何とも小賢しいと言われて然るべき点であるが、同僚や部下がわざわざ伝えるような真似はしない。触らぬビリリダマになんとやらだ。
だがしかし、
「当然です」
「あん?」
「私はラムダさんとは違います。この任務は必ずこなしてみせます」
「……おい、喧嘩売ってんのか」
挑発めいたコスモスの言い草に、ラムダがドスの利いた声を漏らした。
いくらバトルの腕で劣る点が事実だとは言え、こうも面と向かって侮辱されようものならば、例え彼でなくとも気を悪くするだろう。
一瞬空気が張り詰める。
それも束の間、コスモスはピクリとも表情を動かさないまま、言葉を返してきた。
「いえ、そんなつもりはありません。だってラムダさんは変装と潜入が任務でしょう」
「あ? ……それがどうした」
「私の任務───組織から求められている技能は、ポケモンバトルの強さ。私と貴方とでは、そもそも求められている技能のベクトルが違います」
コスモスは淡々と語る。
その理屈に次第に怒りが収まっていくラムダは、握っていた拳を徐々に解いた。どうやら怒りに訴えるには時期尚早だったらしい、と。
「私の唯一秀でた才と言えばポケモンバトルくらい。ラムダさんのように変装もできなければ、他の幹部の方々のように人を扱うこともできません。だから私は、せめてこれだけでも……サカキ様に目をつけていただいた力で結果を出したいんです」
「……、……そうか。そいつは……殊勝なこった」
「ありがとうございます」
頭を下げるコスモスに、ラムダは得も言われぬ顔で明後日の方を向いた。
もう、彼女を揶揄う気は起きなかった。大したリアクションもしなければ、面白い返事も返ってこない。ずっと昔に言い渡された任務を未だに遂行しようとする馬鹿正直な奴など、そもそも自分とは相性最悪だ。
(けど、まあ……おもしれーガキではあるな)
想像以上に見どころはある。愚図な下っ端よりは遥かにずっと。
「はぁ……大分話し込んじまったな。そろそろお開きにしようぜ。こんなところじゃ、誰に聞かれるか分かったもんじゃねえ」
「それもそうですね」
「俺様はとっととドロンするぜ。そ・れ・と……ヌルはお前に預けたままにしといてやるが油断すんな。向こうは血眼で探してるんだからなぁ?」
いいな? と念を押したラムダは席を立つ。
「分かっています。私のポケモンを奪われようものなら、力尽くで取り返します」
盗人猛々しいにも程があるが、妙な力強さを感じさせる宣言だった。
ついにラムダが振り返ることはなかったが、理解は求めても納得までは求めていないコスモスは自己完結に至る。
聞こえなかったのなら、これは自分に対する宣誓だ。
「貴方は私が使いこなします……タイプ:ヌル」
取り出したボール。
その中に収まった獣が睨みつけてくるような視線を、コスモスはひしひしと感じ取るのだった。
剥き出しの闘争心───決して懐柔せまいとする敵愾心とでも言おうか。今までの手持ちとは明らかに違うスタートラインを垣間見るコスモスは、中々に骨が折れそうだと思索に耽ろうとした。
が、
「……もっかい寝よう」
すでに瞼が重くて仕方ない。
『おんぶ……』と口にすれば、すぐさまルカリオが駆けつけ背負ってくれる。
こうして少女は再びベッドの中へと寝かしつけられるのだが、傍から見ればどちらが面倒を看ているか分からぬ光景だったとな(通りすがりのジョーイ・談)。
***
それからまた時間が経った。
既に日は傾き、空も鮮やかな朱色に染まっている。
「……ただいま」
静かに扉が開かれれば、まるで泥棒のようにこそこそとレッドが部屋に入ってきた。片手に抱えた買い物袋には、風邪を引いた少女に向けた品が数多く揃っている。
一方、この時間まで連れ回していたコスモッグは疲れのせいか眠っており、買い物袋を持つ方とは逆の腕に抱えられながら夢の世界を見ているようだ。満足そうな笑みを湛えながらの寝顔を見れば、今日一日を楽しく過ごせたと見て取れる。
しかし、あくまで預かったポケモンだ。
名残惜しいが本来のトレーナーに戻さなければ───という訳で。
「コスモス、起きてる?」
「すぅ……すぅ……」
「……」
呼びかけても反応は返ってこないが、代わりに穏やかな寝息が聞こえてくる。
忍び足で近寄れば、ベッドの中でスヤスヤ眠っているコスモスの姿を窺えた。起こすのも気が引ける熟睡ぶりだ。
「……今日は寝かしてあげよう」
「ピカ」
後ろを付いてくるピカチュウにも音を立てぬよう注意しつつも、レッドは腕に抱えたポケモンを、少女のベッドへそっと下ろした。
「んっ……」
「ピィ……ピィ……」
「……わたあめ……すぅ……」
すれば、肌に触れる感触から綿菓子とでも勘違いしたのか、コスモスは寝言を呟きながらコスモッグに頬を寄せ、夢の世界で存分に柔らかな感触を楽しむ。
何とも愛くるしい光景だと微笑むレッドとピカチュウは、これまた細心の注意を払いながらコスモスの部屋から退散する。
「あとはお願いね、ルカリオ」
「ワフッ」
扉を潜った先に陣取るルカリオに少女を任せ、お邪魔虫はさっさと退散だ。
何故ならば彼女の傍に居るのはコスモッグだけではない。身を寄せて眠るニンフィアや、ゴルバットに見守られながら心配など欠片もないような寝顔を浮かべる少女には、師と名乗らせてもらっている自分さえ不要だと思えたからだ。
「おやすみ、コスモス……」
急ぐばかりが旅ではない。
休める時はしっかり休む。それが頑張るコツなのだ。
心の中で説いてみせるレッドは、そうして弟子の快眠を願いつつ、自分らも寝床に就こうとするのだった。
「うぅん……このわたあめ、甘くない……」
「ピィ……」
翌朝、案外食い意地のある主によってコスモッグが涎塗れになっていたのはまた別の話……。
Tips:スナオカタウン
オキノタウンに東に位置する町。ガラス工芸が盛んな町であり、立ち並ぶ建物にはステンドグラス、土産品にポケモンのガラス人形と様々なガラス製品が目に付く。ホウエンほどではないがビードロも作られており、もしかするとポケモンバトルに役立つ道具を買えるかもしれない。また、ほしのすなの産出地としても有名。
建物の多くは赤茶色のレンガ造りのものが多く、往来を行けばガラス工芸に携わっている多くのほのおポケモンを目にすることができる。
ポケモンジムとして、ほのおタイプをエキスパートとしているスナオカジムが建つ。
ポケモンで加入したい組織は?
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サカキ様万歳! ロケット団
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カガリ様hshs... マグマ団
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ウホ、イイ男... アクア団
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このアカギにさからららら…! ギンガ団
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ゲーチス♪ゲーチス♪ プラズマ団
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フレーフレーフレア! フレア団
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グズマさんが最高でスカら! スカル団
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代表に保護されたい… エーテル財団
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マリィ愛してるぜー! エール団