愛と真実の悪を貫く!!   作:柴猫侍

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前回のあらすじ

コスモス「先生がジムリーダーを倒せと言うままに」

レッド「言ってない」


№028:日曜朝で分かるジェネレーションギャップ

───チュン、チュン。

 

 

 

 窓の外から鳥ポケモンの囀りが聞こえてくる。これはオニスズメのものだ、と。そう認識した時には既にコスモスの瞳はパッチリと開いていた。

 

「んっ……」

 

 ゴシゴシと目を擦るコスモス。

 設定したアラームが鳴るよりも前に解除すれば、今日も今日とてロケット団再興の一日が始まりだ。

 

 まずは眠気を覚ます為にカーテンを開く。眩しい。

 次に洗面台へと赴いて手際よく顔を洗う。冷たい。

 最後にモモン風味の歯磨き粉で歯を磨く。美味い。

 

「よしっ」

 

 すっかり眠気は吹き飛んだ。

 身支度を整えれば、泊まっていた部屋を後にして食堂へと向かう。コスモスとレッドがスナオカタウンで寝泊まりしている場所は、ポケモントレーナー御用達のポケモンセンターに併設された宿泊施設だ。流石に泊まり心地は高級ホテルには及ばないとは言え、トレーナーカードを持っていれば格安となる宿泊料を思えば、十分すぎるほどに設備が整っている。

 

 宿泊客のみが利用できる食堂も、年若く旅に出る子どもにも利用しやすいようにと値段は良心的だ。町ごとに内装に違いはあるのはポケモンセンターと同様であるが、広々とした間取りと手持ちのポケモンとの団欒を楽しめるだけの間隔のゆとりは共通している。

 

 確保するのは程よい朝日に暖められ、なおかつ涼やかな風が吹き込んでくる窓際の席。そこを自分と遅れて来るもう一名分を確保する。

 

「すみません、これを」

「はぁ~い!」

 

 購入した食券を渡せば、あとは朝食が来るのを待つばかりだ。

 その間、自分は手持ちの分の朝食を用意する。献立は勿論、ポケモンにとっての完全食ことポケモンフーズだ。ポケモンの種族によっては違う種類を買う必要も出てはくるが、今のところコスモスの手持ちはその必要に迫られてはいない。

 

「みんな、ごはん」

 

 器に注がれたポケモンフーズを差し出せば、手持ちの一部は『わーい!』と言わんばかりに歓喜に沸き立ちながら、がっつき始める。

 

 丁寧に一つずつ手に取って食べるルカリオ。翼を器用に使って口に運ぶゴルバット。リボンのような触角で掴み上げるニンフィア。寧ろ自分からごはんへと突っ込むコスモッグ等々……たった四体のポケモンであっても食べ方は十人十色である。

 

(問題は……)

 

 ちらりと視線を後ろへ。

 やや離れた場所に佇んでいる大きな体躯。頭部に着けた兜は、通りがかるトレーナーの誰もが二度見し、トレーナーである少女へ怪訝な視線を送るほどだ。

 

 しかし、当の少女は気にした様子は見せない。

 食堂の一角に備え付けられたテレビを観つつ、時折様子を窺うように一瞥をやるばかりだ。

 

(食事は……やっぱりきのみだけ)

 

 タイプ:ヌルにも当然朝食は出している。

 が、彼は頑ななまでにポケモンフーズには手を出さないのだ。ドライフードでもウェットフードでもダメ。唯一口にするものはと言えば、それこそ取り立てたばかりの姿をしたきのみぐらいである。

 本日もポケモンフーズの中にきのみを入れてはみたが、フーズだけ綺麗に除けられていた。

 

(マスクをしたままで、よくもまあ器用に……)

 

 コスモスが呆れている間にも、きのみだけ食い漁ったタイプ:ヌルは残されたポケモンフーズには手を出さず、そのまま床の上で寝息を立て始めた。

 すれば、物陰からこっそりと余ったポケモンフーズへ忍び寄る食い意地の張ったコソ泥が一匹。

 

「ピィ?」

「……コスモッグ。()()、食べる?」

「ピィ! モッグ、モッグ!」

 

 綿あめのような身体を弾ませ、コスモッグはポケモンフーズの山へと覆い被さる。

 先ほど自身の分まで食べたというのに、その小さな図体のどこに収まっているのかと問いたくなる量を貪るコスモッグは、ものの数分で器の中身を平らげてみせた。

 

「ピュ~! ……モッグ!」

「もうダメ」

「ピ!? ピィ、ピィ~!」

「アメあげるから我慢」

「ピィ! モッ……」

「“ほしがる”も覚えている可能性あり、と……」

「?」

 

 二人前平らげた挙句、まだ要求してくるコスモッグをアメで懐柔するコスモスは、呼び出し鈴の報せを受けて持ってきた朝食のサンドイッチを頬張りつつ、日曜朝に集中している子供番組へと目を向ける。

 すると流れてくる明るいメロディ。

 

『ブイキュア♪ ブイキュア♪ ブイキュア♪ ブイキュア♪ イーブイで♪ キュアキュア♪ ふたりはブイッキュア~♪』

 

「……」

 

『朝の陽射しは命の輝き……ブイシャイン!』

『月の光は心の煌めき……ブイムーン!』

 

 女児向けアニメの変身バンクだったようだ。

 しかしながら、コスモスは娯楽アニメに興味のない人種。その所為でキキョウシティのポケモン塾ではクラスメイトと話が合わなかったが、そもそも合わせるつもりもなかった。

 懐かしくもなんともない思い出だ───そのようなことを考えつつ、スマホロトムを取り出し本日のトップニュースに目を通す。

 だが、その間も共用のテレビのチャンネルは変わらず、延々とアニメの音声は聞こえてくる。

 

『貴方の悪だくみもそこまでよ、ダー・クラ・クライ!』

『ダーッカッカッカ! ようやく現れたか、ブイキュアよ! キッサキの雪の如く積もりに積もった雪辱……今日という今日こそはメッタメタのメルメタルにして晴らしてやるぞ!』

『望むところよ! みんなに悪い夢を見せるオイタは許せないんだから! クレセリアに代わってオシオキよ!』

 

 

「『イッシュリーグチャンピオン・アデク引退?! 後任はソウリュウジムリーダーか』。あそこのジムリーダーはシャガとアイリス……」

 

 

『ゆけい! 我がしもべ、ペンドラ・ローラーよ! ブイキュアをぺっちゃんこにしてしまえい!』

『くっ、なんていう大きさなの……!』

『シャイン! ここはあたしが時間を稼ぐわ! その間に瞑想でパワーを溜めて!』

『わかった!』

 

 

「『コンテストアイドル・ルチア、トーホウ進出?! 全国ツアー決定!』。コンテスト……なるほど、そっちのメディア進出も……」

 

 

『無駄無駄、ハードローラーをくらえい!』

『はああああ!』

『な、なにィー!? 加速したペンドラ・ローラーのあの巨体を受け止めただと!?』

『シャイン、今だよ!』

 

 

「新番組『ミカンとスモモの同席食堂』。……バラエティの宣伝か」

 

 

『ブイキュア、がんばれー!』

『! みんなの応援がわたしのパワーに……食らえ! ブイキュア・カルム・マインド・アシストパワー!』

『ぐわあああ!? そ、そんなバカな! 大枚叩いて造ったペンドラ・ローラーが消し炭に!? うぐ、ぐーっ! 覚えてろぉー!』

 

 

「……」

 

 思わずチラッとテレビに目を移す。しかし、すでに画面はエンディング冒頭。ブイシャイン“めいそう”を積んで“アシストパワー”の披露する雄姿を、この目で見届けることは終にできなかった。

 

『続いての番組はコレ! 『超合体戦士 タウリナーΩ(オメガ)』! みんな、絶対見てくれよな!』

「あ、タウリナーΩだ……」

 

 次なる番組紹介に入った瞬間、眠そうな目を擦って現れる青年が現れた。

 

「先生、おはようございます」

「ボンジュール、コスモス」

「先生はああいったアニメは観られるんですか?」

「……昔は観てたなぁ」

 

 華麗なカロス流の挨拶をスルーされたレッドは、悲しみも程々に幼少時代に浸る。

 まだポケモンを持てなかった頃の話。当時は、家に帰ればテレビで流れるポケモンに関する番組を食い入るように眺めていたものだ。

 

「昔のタウリナーはα(アルファ)だったし、特撮ヒーローはまだ怪傑ズバットだったし、ブイキュアも最初は2人だけだったんだ……」

「時代ですね」

「……ね」

 

『かけろ大地を♬ はばたけ大空を~~♬ 今だ、合体♬ タウリナーΩァ♬』

 

 時の流れに打ちのめされるのもほどほどにする。でなければ、訳も分からず涙が出そうになるレッドであった。

 

「……で、今日することだけど……」

「ジム戦の疲労を取る休養にしようかと」

 

 コスモスの提案に『それがいいよ』と頷くレッド。

 ポケモンも生き物だ。どんなにタフなポケモンであろうとも、連日連夜バトルを繰り返していればいつかガタは来る。これが趣味の範疇ならまだしも、バトルを生業とする職種であるならばけっして無視できない。ましてやチャンピオンを目指すならばなおさらだ。

 現状、数多くのポケモンを育成できる環境は整っていない。すなわち、ある程度限られた数のポケモンだけでジムを制覇し、リーグを勝ち進む必要がある訳であるからして、ゲットするポケモンも慎重に選定していかなければならない───はずだったのだが。

 

「モッグ♪ モッグ♪」

(どうしてこんなポケモンを捕まえてしまったのか)

「ピィ?」

 

 一心不乱に残り物のポケモンフーズにがっつく綿あめに遠い目を浮かべる。

 

 あの時は冷静でなかったとは言え、将来性を見定められぬ内に未知のポケモンを捕まえることは賢いとは言い難い行動だ。

 しかし、『後悔先に立たずのケーシィ後に発たず』とも言う。終わったことを悔やんでも仕方なければ、捕まえようとしたケーシィにさっさと逃げられたことを引きずってもいけない。ケーシィが逃げた時、すでにこちらを危機として気づいているのだから、次に生かすしかないという(ことわざ)だ。

 

 要するに前向きに生きろという意味合いであるからして、

 

「いいですか? 今日から貴方はケーシィです」

「ピィ?」

 

「テレポートはするけども……」

 

 ゆくゆくはフーディンのような強いエスパータイプに育つといいな。

 そんな淡い期待を抱くコスモスの言い聞かせに、やんわりとしたレッドのツッコミが入るのだった。

 

「さて……休養を取るにしても色々物が足りません。ので、ちょっとだけ買い出しに出かけようと思います。先生はどうなされますか?」

「……どこまで行くの?」

「近場のフレンドリィショップまで。帰ってくるのに30分も掛からないと思います」

「じゃあ、俺は皆で朝ごはん食べて待ってる。朝ごはんは大事って言うからね……朝ごはんを食べないとお腹減っちゃうから……朝ごはんは食べさせないと……」

 

 さもなければ、自分がカビゴンの胃袋に収まっているかもしれない。

 

 朝食は命よりも大切だと教えてくれた相棒が居るからこそ、レッドは朝食を取るという選択を選んだ。

 小刻みに震えている青年の様子には気付かないコスモスは『そういうことでしたら』と了承し、一人買い出しへと向かっていった。

 

「さて……」

 

 一人きり───正確には手持ちのポケモンと一緒に緩やかなモーニングタイムを過ごすこととなったレッドは、朝食に選んだエネココアに口を付けながらテレビへと目を向けた。

 戦隊ヒーローものの後に流れる番組は特撮ヒーロー系と記憶していた。

 当時の系譜を継ぐのなら、このままそういった類の番組が流れるはずなのだが、

 

(今はどんなヒーローなのかな)

 

 

 

『ジュジュベさん! 愛してます!』

『そんな、いきなり……』

 

 

 

「ぶっ」

 

 知り合い(ナツメ)が告白される予告シーンに虚を突かれ、口に含んだエネココアを噴き出してしまった。

 

『魔法の国の不思議な扉! このあとすぐ!』

 

 

───不思議な扉、開けたんだぁ……。

 

 

 思いもよらぬ方面からの近況報告に、変な感想を心に抱くレッドであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ポケモンは生きている。

 

 これは至極当前の事実ではあるが、バトルばかりに目が行きがちになってしまっている子供が時折忘れていることもまた事実。故にポケモンの手入れがおろそかになってしまっているトレーナーが居る実態も、昔から社会問題の一つとして取り上げられるほどであった。

 

 しかしながら、ポケモンの種類は多様だ。

 種族ごとに大きく姿が異なれば、当然手入れの方法も変わってくる。同じねずみポケモンのピカチュウとコラッタでさえ、ベストな生育環境を整えるとした時に差異が出てくるのだから、それこそ手持ち六体を世話するともなれば苦労は想像を絶する。

 だからこそ、違う種族でも生育環境が似たり寄ったりとなる同タイプを育成するタイプエキスパートが登場する訳だが、今その話は置いておこう。

 

「ピカチュウ、気持ちいい?」

「ピカァ~……」

 

 現在、絶賛ピカチュウのブラッシング中である。

 コスモスが帰ってくるまでの間、食事も済ませて暇を持て余していたことから、レッドも一人のポケモントレーナーとして手持ちの手入れに勤しんでいた。

 

(にしても、このグローブ……随分長いこと使ってるなぁ)

 

 市販のブラシを握るレッド。その手には細かな作業にも使えるよう指ぬきとなったグローブが嵌められていた。

 でんきポケモンとの生活、その上で切っても切り離せない問題は静電気だ。普段から気を付けていたとしても冬のような乾燥した時期には触れる度に悲鳴を上げる羽目になる。

 

 そこで電気を通さない絶縁グローブの出番だ。

 これさえあれば、今まで静電気で痺れていた生活が一変。モコモコなメリープを撫でまわしても感電卒倒緊急搬送な生活からおさらばだ!

 

(でも、そろそろ替え時かな……)

 

「ピカァン♪」

「あびっ!」

「チャア?」

 

 しかし、過信は禁物。

 所詮は指ぬきグローブ。利便性を追求した代償として、時折許容量を超えた電気に痺れるのはご愛敬である。

 

「今日はいい天気だね、フシギバナ」

「バナバ~ナ」

 

 続いてフシギバナだ。

 巨大な花弁を背負ったポケモンのフシギバナに、近くの蛇口からホースで引っ張ってきた水をシャワーのように浴びせかける。一見雑に見える水やりも、巨体と共に花弁と葉っぱを揺らすフシギバナは心地よさそうにしていた。

 

「風も吹いてて良い日和……たくさん日光浴していいからね」

「バ~ナ」

 

 水浴びをさせた後は、濡れた体を乾かすのと光合成の為の日光浴だ。

 植物ポケモンの性と言うべきか、彼らは適度に日光を浴びなければ活力を失い、やがて病気に罹ってしまう。特に花や葉といった部位は、普通の植物となんら変わりない植物病を患うことから、毎日の体調チェックは欠かせない日課だ。

 

「カメックスも甲羅干しが捗るね」

「ガ~メ」

「クゥ~!」

「ラプラスも次に洗ってあげるから……」

 

 次にみずタイプの二体、カメックスとラプラスだ。

 一概にみずタイプとは言え、姿かたちは多種多様。故に手入れの仕方も千差万別な訳だが、カメックスとラプラスには似通った部位が存在する───それは甲羅だ。

 

 ゴシゴシゴシ。

 

 レッドは今、水を撒きながらカメックスの巨大な甲羅を一生懸命ブラシで擦っていた。溝や隙間に溜まった汚れを掻き出し、それを水で洗い流す。基本的にはこの流れだ。

 彼らにとって身を守る術である甲羅も、きちんと清潔に保っていなければ病気の本だ。自然界ならば仲間の毛づくろいや環境に応じた手入れの仕方があるが、ヒトの社会に順応したポケモンとの場合、手入れは飼っているヒトの責任だ。

 

「ふぅ……」

 

 巨体を有す二体のポケモンを洗い終えたところで、レッドはいつの間にか額に浮かんでいた大粒の汗を拭った。

 

「バギャア」

「待って、リザードン……あった」

 

 次は自分の番だと訴えかけるリザードンに対し、レッドが取り出したのは柄付きブラシだ。

 

「リザードンは本当おっきくなったね。ヒトカゲの頃はあんなにちっちゃかったのに……」

「グルゥ」

「あっ、はい。そこ痒いんだ……」

 

 大きくなったのは体だけではないらしい。

 リザードンが指差す場所をブラシで強く擦ってやれば、凛々しい顔つきもどこへやら。トロけ顔のリザードンの出来上がりだ。

 基本的にリザードンは水浴びをしない。他のほのおポケモンにも通ずるが、不用意に水を浴びせようものなら憤怒の炎を買う羽目となる。

 

 そこでブラシの登場だ。これで体表の汚れを落とす。

 それでもまだ汚れが気になるというのであれば、濡らした布巾で拭えば十分だ。実はほのおポケモン、大抵は自分の炎や熱で雑菌を自然と焼き殺している。だからこそ、水やぬるま湯で洗うのにそれなりの“慣らし”が必要な点を踏まえても、これだけの労力で済むとも言えるのだ。

 

(ポケモン色々、手入れも色々……と)

 

 リザードンの世話も済んだところで、最後に待ち構えているのは巨大な壁───ではなく、

 

「カァー……カァー……」

「……起きそうに、ない」

「カァー……カァー……」

 

 どうしたものかと頬を掻くレッドの前に聳え立つのは、いびきをかきながら仰向きに眠る食いしん坊ことカビゴンだ。

 

 巨大な体格。全身の体毛。食べたらすぐ眠る寝穢さ───スリーアウトだ。

 

 たくさん食べては体を汚す。特に口の周りや顎の下は、食べ物のカスや汁で汚れている場合も多い。その場合、生え揃った体毛の関係から雑菌が繁殖しやすいのだが、元よりそういう生態であるからと言うべきか、カビゴンの免疫機能の前ではさしたる問題ではない。

 

 しかし、カビゴンが良くても自分は許せない。なぜならば、カビゴンの上で寝っ転がることができないからだ。

 

 という訳で、いざ洗浄。

 

 カメックスやラプラスに使ったホースで、大雑把に水を撒いて掛ける。

 普通の神経をしていれば既にこの段階で目を覚ますだろうが、生憎とカビゴンはこの程度では揺るがない。

 体を濡らされても起きてこない。ならばと次は市販のシャンプーを手に取り、濡らした体毛をワシャワシャと撫でまわして泡を立てていく。

 

 一心不乱に泡を立てること数分。ようやく体の前面が泡塗れとなったところで、再び水をかけて泡を洗い流す。

 そうすれば食事後の汚れは大抵綺麗さっぱりと落ちる。

 大きなバスタオルを手にし、濡れた体毛を拭うレッド。気分としては車一台を丸洗いしているようなものであり、通りがかる住民やトレーナーも、思わず足を止めて圧巻なカビゴン洗浄に目を向けていた。

 

「ふぅ……こんなもんかな。リザードン、“ねっぷう”で乾かしてあげて」

「バギャア!」

 

 最後に仕上げとして、濡れた体毛をリザードンという名のドライヤーで乾かす。

 口から吐き出す炎を翼で羽搏かせて起こす風で調節し、熱すぎない“ねっぷう”を繰り出しているのだ。これさえあれば電源のない山の中で野宿しても大丈夫である。ただし、きちんと“ねっぷう”を調節できるよう練習しておかねば、もれなく頭がゴウカザルになるので注意だ。

 

「さて……」

 

 外からポケモンセンターの中へと戻ってきたレッドは、空いていた椅子に腰かけた。

 

 ふと時計を見る。

 もう1時間経つ。

 

「コスモス帰ってこないね……」

「ピ~カ」

 

 30分程度で帰ると言っていたはずの少女が、未だ帰還していない。

 旅や買い物の寄り道は醍醐味とは言え、几帳面な彼女の性格を思い返してみれば遅刻すると決まった時点で連絡の一つでも入れてきておかしくはない気してならない。

 

「なにかあったのかな……」

 

 こんな時のポケギアだ。

 今のところ幼馴染二人と母親、そしてコスモスの番号しか入っていない寂しい電話帳欄から一瞬で少女の電話番号を探し出す。

 

「……電話にも出ない」

 

 通話中や電源を切っている訳でもなさそうだ。

 ただ延々とコール音が鳴り続くばかり。となれば、電話に出られない事情がある───バスや電車の中や、単純に電話に出られないくらい忙しい───と考えられる。

 

(でも、なにかあってからじゃ大変だしなぁ……)

 

 腕を組みうんうん唸るレッドは、これは親心だと思い至る。

 これまで一緒に旅をする中で育まれた感覚に自覚はあったが、なるほど、自分は彼女の保護者の立場から見守っているらしい。

 

 そうとなれば黙って座っている必要もない。

 

 連絡手段がある以上、どこかですれ違っても何とかなるという思考の下、レッドは席を立った。

 

「ん……?」

 

 すると、どこからともなくサイレンの音が聞こえてくる。

 

「……事故でもあったのかな?」

『ニュース速報です。ただいま、市内の百貨店で立てこもり事件が発生したとのことです。現地からの情報によると、犯行グループ百貨店の中に居た客を人質に取っており───』

「……ヤダ、怖い」

 

 思っていたよりも深刻な事件が発生していた。

 思わず口に手を当てるレッドは、手持ちの手入れの間見向きもしていなかったテレビへと目を向ける。それは偶然ポケモンセンターを訪れていた利用客も同様であり、立てこもり事件などという穏やかではない事件に、場はどよめき始めていた。

 

『犯行グループは目撃者から提供された情報によると、角の生えた赤いフードを被った装いとのことですが、詳細は今のところ不明です』

「ピカッ!」

「……行けって? ダメだよ、ピカチュウ……こういうのはジュンサーさんに任せないと」

 

 報道を受け、なぜかやる気に溢れるピカチュウをレッドが諫める。

 昔の話だ。かつてシルフカンパニーと呼ばれるカントー一の大企業の本社が、ロケット団に占拠された事件があった。町全体を驚愕と恐怖の渦に叩き込んだ事件、それを解決したのが当時無名のポケモントレーナーであったレッドに他ならない。

 しかし、当時は半ば被害者として巻き込まれたからこそ事件に関わったものの、今回は完全に無関係。いかにチャンピオンに輝いた過去があるとはいえ、むやみやたらと事件に関わるのはお門違いというものだ。

 

「現場に居たらなんとかしてただろうけど……今から行っても邪魔になるだけ……」

『───き、緊急続報です! ただいま百貨店の一部で爆発が起こりました! 爆発で壊れた壁からは火の手が上がり、内部では火災が発生している可能性があるとのことです!』

「……」

 

 緊迫した音声が聞こえてくるテレビ画面には、報道通り穴が開いた壁から黒煙と激しい炎を噴き出している百貨店の様子が映っていた。

 爆発の衝撃からか、一面ガラス張りになっていた箇所は砕け散り、中の光景が丸見えとなる。

 

「ピッカ!」

「うん? ……あ」

 

 黒煙が天井を這う中、不意に筒抜けとなったガラス窓の下へ走り寄る人影が映し出される。

 手持ちと思しきゴルバットに背負ってきた少女を掴ませ、迅速に外へと運び出す。遅れて煙から逃げていた人々も我先にと窓際へ押し寄せたが、すかさずニンフィアの放つ波動が焦燥を宥め、円滑な救助を遂行していく。

 途中、少女は何かを思い出したかのようにポケモン二体に場を任せて中へと戻るが、緊迫した状況下での救助劇に、テレビ画面に食いついていた一部からは歓声が上がった。

 

 だがしかし、打って変わって平静でいられなくなったレッドは立ち上がる。

 

「……ピカチュウ」

「チュ!」

「急ごう」

 

 次の瞬間、ポケモンセンターの出入り口に現れたリザードンが飛び乗るレッドを背に、黒煙が立ち上る百貨店目掛けて飛翔した。

 雲一つない天気の下では、火事が起こっている場所など一目見てわかる。

 あそこ、と。口にこそ出さないまま現場を目指すレッドは、テレビに映っていた少女の身を案じていた。

 

「……コスモスって、結構トラブルに巻き込まれる体質だよね」

「ピ~カ……」

「……なんでそんな呆れた顔するの?」

 

 特性『トラブルメイカー』な師弟である。

 

 

 

 ポケモン、(レッド)の救助隊───始動。

 

 

 

 ***

 

 

 

「───ようやく見つけました」

 

 対峙するは燃え盛る火の中。

 

 一刻を争う状況で、両者は敵意を宿した眼差しを相手に向けていた。

 その内、煤けた頬を手の甲で拭うコスモスは、目の前に佇む人物へと語り掛ける。

 

「……万事において私の邪魔をする存在は排除すると決めています。例えそれがどんな組織であれ……です」

 

 一瞬の沈黙。

 その間、パチパチと火花を上げる火の手は収まらない。

 

「……時間もないことですから、早急に事を済ませるとしましょう」

「……」

「でしょう? ───マグマ団」

 

 揺らめく炎。

 その奥に潜む黒いMの文字は、グラグラと煮え滾っているように見えた。

 




Tips:ふたりはブイキュア

「私たちが……」
「ブイキュアに~!?」

 私は恋に悩むお年頃の女の子、マヒル! 中学生で幼馴染のツキノと遊園地に遊びに来たら、『ダー・クラ・クライ』なんていう悪い組織とバッタリ遭遇!? なんでも皆の夢見る気持ち『ドリームエナジー』を奪うのが目的らしいけど、そんなことをさせたら皆が夢を失って元気を失っちゃうんだって! そんな時、あいつらの野望を阻止する為に不思議な世界・ポケワンダーランドからやって来た使者・クレセリアからブイキュアに変身できるアイテム『EVロッド』を受け取っちゃった!?
 戦うのは怖いけれど、皆の夢を奪われたら未来への希望も失っちゃう……そんなこと私たちが許さないんだから!
 どんなに怖い相手だって、瞑想六積アシストパワーで一撃!? 前代未聞の超火力・超耐久のヒロイン爆誕!?
 『ふたりはブイキュア』、皆観てね!


 ……と、テレビカントー系列にて日曜朝に放送されている子供向け番組の内、男児向け合体ロボットアニメ『タウリナー』シリーズ、同じく男児向け特撮ヒーローもの『ポケモン仮面』シリーズに対し、女児向け変身アニメとして放送されているシリーズ。エーフィモチーフの『ブイシャイン』とブラッキーモチーフの『ブイムーン』を主軸に据えた初代『ふたりはブイキュア』で人気を博した後、続く『ふたりはブイキュア DynaMaxHeart(ダイマックスハート)』、『ふたりはブイキュア Speed(スピード)Star(スター)』で人気を盤石のものとした。また、同系列の外伝『Yes! ブイキュア5』においてはそれぞれブースター、シャワーズ、サンダース、グレイシア、リーフィアモチーフのキャラが主人公として活躍。女児のみならず、意外にも実際のポケモンバトルに通ずる理論を取り入れていることから、大きなお友達にも人気の秘密らしい。
 キャッチコピーは『誰にだって無限の進化の可能性!』。

ポケモンで加入したい組織は?

  • サカキ様万歳! ロケット団
  • カガリ様hshs... マグマ団
  • ウホ、イイ男... アクア団
  • このアカギにさからららら…! ギンガ団
  • ゲーチス♪ゲーチス♪ プラズマ団
  • フレーフレーフレア! フレア団
  • グズマさんが最高でスカら! スカル団
  • 代表に保護されたい… エーテル財団
  • マリィ愛してるぜー! エール団
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