愛と真実の悪を貫く!!   作:柴猫侍

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◓前回のあらすじ

レッド「最近の子ってすごい」

コスモス「先生ってすごい」


№002:会話のジャイロボール

(こんにちは、弟子ができたレッドです)

 

 冗談を心の中で呟くレッド。

彼等二人は現在キョウダンタウン郊外に来ていた。

 辺りを見渡せば、豊かに映える緑の中にポケモンが佇んでいる光景を窺える。コラッタ、ジグザグマ、ポッポといったポケモンが多いが、もう少し森の中へと踏み入れば、また違った種類を見つけられるだろう。

 

 ホウジョウ地方―――豊穣の土地。カントーやジョウトに比べ、都市間の道のりに数多くの自然を垣間見られるのは、ポケモンとの共存を願った先人たちが悪戯に開拓しなかったから。

 どこぞのフィールドワークに精を出す博士なら、喜んで駆け回りそうな環境の土地だが、大自然が広がっているだけあって生息しているポケモンも多岐に渡る。

 

 そこにレッドの狙いがあった。

 

(流石に手持ち一体でジム戦は……ね?)

 

 戦力不足。

 ヒトカゲとピカチュウだけで挑んだニビジムでの苦い思い出が蘇る。いわタイプを相手に苦手なタイプを繰り出した自分の無知が原因であるが、だからこそ曲がりなりにも弟子であるコスモスには苦労してもらいたくない。

 

(そもそも一番目のジムがドラゴンって……ねえ? だって、大抵ドラゴンって大取務めるタイプじゃないの? ジム然り、四天王然り)

 

 レッドの懸念は尤もだ。

 ドラゴンは種族として強力なポケモンが多く、覚える技の種類や耐性も非常に優秀なのである。

 例え、幾らルカリオが強力だとしても足下を掬われかねない。

 そもそも、この地のポケモンリーグはホウジョウとセトー―――二つの地方からトップトレーナーをそれぞれ四人ずつ召集してジムリーダーを任命したというではないか。

 

―――それ、つまり実質四天王が8人みたいなものじゃないの?

 

 レッドはこの地に詳しくない。

 だが、経緯だけを耳にすれば、そう思わざるを得なかった。

 

(いくら四天王が居ないからって、気合い入れすぎじゃない?)

 

 この辺りの地域では珍しい体制を取るポケモンリーグだ。

 だからこそ、レッドにとっては心配しても足りない懸念材料が多数あった。

 

 が、本題はここから。

 

 四天王(に等しい実力)+ドラゴン使い=?

 

(“はかいこうせん”を生身に撃ってくるかもしれない……!)

 

 ―――レッドの杞憂であることは否めない。

 

 そして、根も葉もない噂に踊られて身構える彼の特訓に付き合わされそうになっていることを、彼女はまだ知らなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 先生に連れられてポケモンの捕獲に来た。

 多くは語らない先生だが、きっと試験の一つなのだろう。

 ならば、その意図は? パッと思いつくのは、手持ちの増強。相性補完や手数を増やす意図が考えられる。

 しかし、それ以外に理由がある可能性も捨てきれない。相対するジムのエキスパートに対抗できるポケモンを探す……いわば、タイプ相性を理解しているかのチェック。これは問題ない。

 

(いや、もしかして……)

 

 茂みを掻き分ける手が止まった。

 

 仮に先生が辺りの生息ポケモンを把握しており、今回のジム戦における最適解とも言えるポケモンが生息していると知っているならば……?

 

(くっ、そういうこと!)

 

 悠長に探している時間はなくなった。

 本当であれば辺りに住む生息ポケモンのリストでも欲しいが、生憎斯様に便利な代物は持ち合わせていない。

 結局のところ自分の足で探す他ない訳だが、捕獲の時間をかければかけるほど、先生に指導してもらえる時間がなくなってしまう。

 だからといって事を急いて走ろうものならば、気配に敏感なポケモンに感づかれて逃げられる。

 

 では、一体どうすれば?

 

「! ルカリオ、波動でポケモンの気配を探して」

「バウッ!」

 

 長い付き合いであり、ロケット団再興の同志でもあるルカリオに指示を飛ばす。

 ルカリオは波動を感じ取る力があり、それらから相手の感情を読み取る芸当さえできるのだ。この力さえあれば、辺りに隠れるポケモンを探す真似など容易いこと。

 だが、それだけでは駄目だ。

 迅速にポケモンを発見、体力を減らし、ボールを投げる。捕まえるだけでもそれだけの工程を経るのだから、一体にかける時間はそれなりになってしまう。

 しかも、遭遇して戦えばバトルの気配に怯えたポケモンが逃げる始末だ。次にポケモンを見つけ出すまでの時間が増えてしまう。

 

(見つからずに体力を減らす……その為には!)

 

 目をつけたのは空。

 

「“はどうだん”を撃ち上げて!」

 

 私の意図を察したルカリオが、両手から無数の“はどうだん”を撃ちあげた。

 蒼に輝く光弾は、花火のようにヒュルヒュル空を上ること数秒、その勢いを衰えさせたかと思いきや、重力に引かれ結構な速度で落ちてくる。

 

 狙い通りだ。

 直後、爆発音が響き渡った。墜落する光弾に触れた木々がざわめき、直撃しなかったポケモン達がイトマルの子を散らすように逃げていくが、私の耳は爆発音に紛れた悲鳴を聞き逃さなかった。

 後はルカリオの案内を頼りに林の中を突き進んでいく。

 案内された先には、空から降り注いだ“はどうだん”を喰らい、瀕死寸前になっているポケモン達が倒れている。

 

「う~ん……コラッタ。スバメ。タネボー。ポチエナ。マンキー。アメタマ。ニドラン」

 

 一気に数体を捕獲寸前まで追い詰めたところで、しっかりと吟味する。

 どれが最初のジムに必要なポケモンか?

 せめて先生を落胆させぬチョイスだけは避けなければならないのだ。私はじっくりと物色を進める。

 

「ん?」

 

 ピクリともしない面々の中、只一体だけ動けるポケモンが居た。

 

「ズバット……」

 

 ズバット、こうもりポケモン。

 目はないものの、超音波で障害物を検知したり仲間と意思疎通を図るどく・ひこうタイプのポケモン。ロケット団員の中には、よくズバットを持っているトレーナーが居た。というのも、ズバットは人目に付かない洞窟で大量に捕まえられる為、戦力増強という意味で組織が大量に捕獲しては団員に支給していたのだ。

 

「……いいだろう、気に入った。お前を捕まえる」

 

 手っ取り早くボールを手に取り、放り投げる。

 施設でもトレーナーズスクールでも百発百中の腕前を誇ったボールの投擲は、寸分の狂いもなくズバットに命中。赤い光に包まれたズバットがボールに中へと吸い込まれていけば、一回、二回、三回と紅白の球体が揺れる。

 

「ズバット……捕獲完了」

 

 揺れが収まったボールを手にし、私は一人呟いた。

ズバットを捕まえたのは、決して組織が良く使っていたポケモンだからという理由ではない。

 ズバットの超音波は暗い場所で障害物の検知に役立つ。それだけならばルカリオの波動で代用できるのだが、波動とは違い超音波―――もとい“ちょうおんぱ”は相手の攪乱に役立つ。

 ついでに言えば、タイプもどく・ひこうとルカリオが苦手なかくとうとじめんを受けられる優秀な耐性を備えているのだ。しっかり育成を施し、クロバットまで進化すれば、ゆくゆくは戦力として期待できる。

 

 さて、こんなところだろう。

 早々に先生の下へと帰り、判断を委ねることにしよう。

 私は僅かな緊張を覚えながら、先生が居る方向へと踵を返したのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

(やだ、あの子怖い)

 

 道路からコスモスが入っていった林を見つめていたレッドは怯えていた。

 それもこれも、急に空へと打ち上げられた光弾が“りゅうせいぐん”のように林の中へ降り注いだからだ。

 ただならぬ気配に辺りもざわついている。鳥ポケモンは慌ただしく翼をはばたかせ、地に足を着けて生きるポケモンは地響きを奏でるように逃げていく。

 

 それから程なくしてコスモスは帰ってきた。捕まえたのはズバットだという。

 「中々渋いポケモンを選んだね」と言えば、彼女は安堵したかのように頬をほころばせ、胸に手を当てた。

 ポケモンの捕獲に成功して喜ぶ少女と見れば微笑ましいが、その手段が「打ち上げた“はどうだん”で見つけたポケモンを手あたり次第倒す」と聞いてから、脚の震えが止まらなくなった。

 

(最近の子って、あんなスタイリッシュな捕獲の仕方するんだ)

 

 刹那、オーキド博士から授かったポケモン図鑑―――それも151匹しか対応していない旧式のものであるが、まったく図鑑を埋めていない事実を思い出し、僅かに申し訳なさを覚える。あくまでほんの僅かだ。謝れと言われれば、多分謝らない。その程度の申し訳なさだ。

 ボール? そりゃあモンスターボール一筋だ。スーパーボールやハイパーボール何ぞ金の無駄―――それがレッドの価値観である。

 

 とまあ、コスモスの捕獲劇に慄いたところで本題だ。

 

「これから“はかいこうせん”を耐えられるよう特訓を始めるよ」

「さいですか」

「準備はよろしい?」

「はい」

 

 淡々と行われるやり取り。

 ただし、

 

ワタられた(トレーナーにダイレクトアタックされた)時の為に人間が耐えられるようにしなきゃ)

(万が一直撃を喰らったポケモンが耐えられるように……一体どんな特訓を?)

 

 決定的に趣旨が食い違っていた。

 しかし、二人の誤解は解かれぬまま、話は進んでいく。

 ただ一人―――否、一体。ルカリオだけは二人から感じ取る波動から妙な齟齬があると察したものの、言葉で伝えられないが故、一先ず様子見に徹していた。

 

「……して、一体どのような(ポケモンが)耐える訓練を?」

「(人間が)耐える訓練……まあ、簡単に言えば守ったり見切ったりだよね」

「なるほど、(ポケモンの)“まもる”だったり“みきり”ですか」

 

 通じた。

 

「でもどうやって覚えるんですか? 生憎(わざ)マシンは持っていなくて……」

「(トレーニング)マシン? あぁ……それだったら俺が教えるから大丈夫」

「先生が? なるほど、教え技もこなせるとは流石です」

 

 通じてしまった。

 

「(人間が)守るとしたら、やっぱり(人間の)防御が堅い方がいいよね」

「(ポケモンの)“まもる”がですか? (ポケモンの)防御でそんなに変わるものでしょうか」

「やっぱり(人間は)鍛えている方が倒れにくいしね」

「(ポケモンって)そういうものですか……肝に銘じておきます」

 

 通じちゃっている。

 

「クワンヌッ!!!」

 

 ルカリオは吼えた。

 この胸のもどかしさをどうすればいいのか悩みに悩んだ末、全てを声帯から迸る雄叫びに込めるしかなかったのだ。

 届いてほしい。欠片でも届いてほしい。どうか、どうか―――。

 

「? ルカリオ、吼えていないでほら。先生の構えを真似して」

「ワフッ」

 

 駄目でした。

 

 その後も、レッドによる(人間の)守りや見切りのレクチャーは続いた。

 それこそコスモスの誤解が解けぬまま……。

 




Tips:ポケモンリーグ

ホウジョウ地方・セトー地方にも設立された公式のポケモンバトルを執り行う組織、または施設。ジョウト地方やホウエン地方に遅れる形でようやく設立されたポケモンリーグは、「ホウジョウ・セトーポケモンリーグ」と呼ばれる他、セ「トー」+「ホウ」ジョウ略して「トーホウポケモンリーグ」とも呼ばれている。
拠点はイリエシティに存在する。
二つの地方を統括しているポケモンリーグだが、表向きには双方の地方の友好の印として、裏向きにはそれぞれの地方からジムリーダーを擁立することで、両地方の対抗心を煽り、ポケモントレーナーの質の底上げを狙っているという目的もある。
選ばれたジムリーダーは各地方から選りすぐり4人と4人であり、もしも二つの地方が統括されていなかった場合は、四天王になっていた逸材と言われることもある。

ジムリーダーと言えばどの地方?

  • 元祖! 伝説のはじまり カント―
  • チコリータに厳しい旅路 ジョウト
  • ケッキング強過ぎない? ホウエン
  • 一番目からA種族値125 シンオウ
  • 勝利の目前こそ熱い! イッシュ
  • 振袖が全員カワイイ カロス
  • ジムというより試練ですな アローラ
  • オーオーオオー♪ ガラル

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