ホムラ「最近カガリからの扱いが雑なのですが」
カガリ「……親しみ……」
ホムラ「ならば良し!」
カガリ「流石……お腹が大きい……」
ホムラ「そうでしょうそうでしょう! ワタクシはお腹が大きい……ん?」
マツブサ(口は出さずに居るか……)
熱気がバトルコートを渦巻いている。
というのも、現在コート上ではヌルとエースバーンによる熾烈な追いかけっこが繰り広げられていた。
しかしながら、ヒマワリの自信を裏付けるようにヌルはエースバーンの俊敏な跳躍の連続を前に中々追いつけずにいた。
状況は互角……とは言い難い。
ジムリーダーが手ずから育成したポケモンと、未だ言う事を聞かないポケモンとの間では、発揮できる力に大きな隔たりが生まれる。
「ぐぬぬ……! チャイルドはいったい何を考えている! これならゴルバットの方がまだ戦えたろうに……」
「……同意……」
観客席の大半もジムリーダー側を優勢と見ている。
やはり、いかに優れたトレーナーと言えど、ポケモン側が指示を聞かないという点は致命的なハンディキャップに成り得るのだ。
(それを覚悟の上で選んだとは言っていたけれど……)
対峙するヒマワリも、現状コスモスとヌルが自分を負かすビジョンは想像できていない。
何かしら秘策があると警戒する方が賢明か───火照る肉体とは裏腹に冴える思考を巡らせる。
だが、生憎とジムリーダー側がそれを待つ義理はない。
バトルの理論を発表して褒められるのはスクールまで。実践では勝ち得た実績こそがものを言う世界だ。そこには当然理論を実現するまでの過程も含まれる。
「帰るまでが遠足、勝つまでがジム戦! どんな策を練ろうとも、ジブンに勝たない限りジムバッジは差し上げられません!」
そして、とヒマワリはほくそ笑む。
短い間ではあるが、直線的なヌルの攻撃を幾度となく観察した今、ある程度の分析が完了していた。
「見た限り、そのポケモンは近接攻撃を得意とするショートレンジ主体型。それなら距離を取って戦うのが定石……エースバーン、見せてあげましょう!」
「ファニー!」
ヒマワリのハンドサインを見たエースバーンが動く。
小石を蹴り上げる。火が灯る。何度も見た光景にこれから来る攻撃は安易に想像がつく。
エースバーンが炎の弾丸を蹴り飛ばす寸前、コスモスの瞳はカッと見開いた。
「ヌル!」
「!」
解き放たれる弾丸は弧を描いている。
これまでの正確無比かつ直線的な軌道を見ていたならば、まず外れるであろうと思い込んでしまう一発だった。
しかしながら、バトルコートに響いた声に突き動かされる形でヌルは大きく前へと飛び出ていった。
直後、火球の軌道は大きく曲がる。
だが、直前に回避へ移っていたおかげか、火球はヌルの体表を掠るだけに留まった。
「! あちゃあ……それなら次!」
再び小石に火を灯すエースバーン。
発火の瞬間、目が眩むような光がバトルコートを照らす。加えて、キックのインパクトによる轟音も空気を震わせるが、
「ヌル!」
負けじと響く大声。
すぐさまそれは爆音に掻き消され、視界も舞い上がった砂煙と黒煙に覆われる。
これではヌルの安否を確認できないか。
と、観客席の思考が固まった瞬間に飛び出す影が、エースバーンに爪を振るう。
「ヴァア!!!」
「ファッ!!?」
「エースバーン、バック!」
驚愕するエースバーンへ、ヒマワリが後退を指示する。
寸前で飛び退く白兎。
その鼻先を鋭利な爪が掠った。
「ッ……!」
「冷静に、エースバーン」
「ファニィ……!」
「貴方のシュートは完璧。だから、距離を保っていれば貴方の勝利は揺るがない……違う?」
ジンジンと痛む鼻先を苛立ちながら撫でるエースへ、すかさずヒマワリは宥めすかす。
そうすれば、頭に血が上っていたエースバーンもみるみるうちに落ち着きを取り戻していく。
「……準備はいい?」
「ファニー!」
気合十分とエースバーンが雄たけびを上げる。
それを見たヒマワリは、流れるように相手の方を見遣った。
「ヴルルッ!」
「……」
コスモスとヌルは、依然として意思疎通が図れていない様子だ。
以心伝心な関係を築いているヒマワリとエースバーンを相手取るには、とてもではないが不安を拭えない空気が漂っている。
「───ふふっ、
しかし、それを見たヒマワリは楽しそうに笑みを深くするばかりであった。
「ジブンはジムリーダーとしての役目を全うします。チャレンジャーにとって大きな“壁”として!」
ヒマワリが合図を出せば、エースバーンが軽快に飛び跳ね始める。
「あの動きは……」
「ルカリオの時の!? これはいかんですぞ! ルカリオならまだしも、あんな懐いてないポケモンでは……!」
見覚えのある動きに各々の対照的な反応を見せるカガリとホムラ。
しかしながら、彼らの頭に過った結論は奇しくも同じであった。
───避けられない。
いち早く相手の居場所を読み取れるルカリオと、兜のせいで動きが遅く、ましてや言う事を聞かないヌルとでは、回避に移るまでの時間に雲泥の差がある。
現にヌルは周囲を飛び跳ねるエースバーンの動きについていけず、重い頭をあちらこちらへと向けるばかり。攻撃に移っている暇はなかった。
そうこうしている内に後ろを取られ、エースバーンはキックモーションへと移行する。ヌルは未だ振り向くことさえ叶わない。
───万事休すか。
そう思った時、ポツリと紡がれた一言が重なる。
「「───
「! ヴァルゥ!!!」
大声と共に放たれる“ダストシュート”。
死角からの攻撃に直撃は免れないと思われていたヌルだが、すかさず斜め前へと飛び込む。紫毒の弾丸は回避と同時にしゃがみ込んだヌルの兜を掠るだけに留まり、やがては推力を失って地に沈む。
おおっ、と歓声が上がるも束の間、攻撃の手を緩めないエースバーンの技は続く。
「“しねんのずつき”!」
「3時!」
「ヴルゥ!!!」
「“ダストシュート”!」
「10時!」
「ヴァア!!!」
「“かえんボール”!」
「12時!」
「ヴァアウ!!!」
攻撃に次ぐ攻撃に回避に回らざるを得ないヌル。その体にはどんどん傷が増えていく。
しかし、ダメージは表面上のものだけに留まらない。いつぞやの“かえんボール”で負った火傷が、ヌルの動きからキレを奪っていた。
これではいよいよ回避もままならなくなる。
誰もがそう思い始めた頃、突如として場の空気が凍る行動をヌルが取った。
「なっ……倒れた!?」
「……瀕死? いや……」
「スー……スー……」
「……状態、眠りと判断」
「ね……眠りおったァ!!?」
今!? と思わず古風な喋り方になるホムラ。
だが、顔を蒼褪めるのは当然だ。苛烈な攻撃を受けている中、いかにトレーナーに懐いていないからといって惰眠を貪るような真似など、『狙ってくれ』と言っているようなものである。
「エースバーン!」
そこへ当然の如く指示が飛ぶ。
「一撃でと欲張りはしませんが、決勝点はいただきます!」
足裏から灼熱が集中し、地面が焼き焦げる音が聞こえてくる。そのまま解放すれば爆発が巻き起こり、一発で肉迫できる凄まじい推進力が発生する。そうしてほとんど一直線の軌道で宙を突き進めば、標的までの距離は瞬時に詰められるであろう。
勝利に王手をかける確信を得たヒマワリ。
しかし、そんな彼女の鼓膜をとある音が震わせた。
───シャク、シャク。
(……きのみ?)
瑞々しさを感じられる咀嚼音から、新鮮なきのみだとは判別できる。
問題はどこから聞こえてくるか、だ。
観客席になど見向きもせず、ヒマワリは沈黙している兜の方へ目を向けた。
僅かに上下する頭部。それは悠長に舟を漕いでいるワケではなく、
「ヌル」
「───ッ!!!」
「6時! “とびひざげり”!」
次の瞬間、瞬いた烈火の炎が身体の横を通過する───否、エースバーンの“とびひざげり”が躱された。
「ファニッ!?」
勢いを殺せず、そのまま地面に激突するエースバーン。
かくとう技の中でも指折りの破壊力を誇る“とびひざげり”。だがしかし、回避された場合のリスクは、ある程度知識を蓄えてきたトレーナーの間では最早常識だ。
少なくないダメージが反動として襲い掛かった瞬間、エースバーンは即座に両腕を用いて受け身を取り、飛び込み前転の要領でヌルから距離を取る。
「なんと身軽な!?」
「止まれば……負ける」
体勢を立て直したことへ驚くホムラに対し、カガリは淡々と呟いた。
「その通りだ」
それに対し、マツブサはほくそ笑んで続けた。
「風向きが変わってきたな」
***
妙な違和感はあった。
「エースバーン!」
「2時! “ダストシュート”!」
「“ダスッ……!?」
自分が告げるよりも早く技名を叫ぶコスモスに、思わず口を噤んだ。
反応が早い、と言うには早過ぎる。まるでこちらがどう動くか、始めから分かっているとでも言わんばかりの指示だった。
読まれている以上、別の技を指示した方がいいものの、すでに攻撃モーションへ移っているエースバーンは止まれない。
当然、そのまま攻撃は放たれる───が。
「ヴルァ!!!」
「ファッ!!?」
(また避けられた)
先ほどよりも動き出しの速いヌルに対し、“ダストシュート”は標的の居なくなった虚空を貫くことになった。
元々命中精度に難がある技ではあるが、それを知っているからこそ何百、何千という回数の特訓を経て百発百中に等しい練度に磨き上げた。
しかし、それはあくまで相手が動かない物体に限る話だ。
相手もポケモンである以上、動く。避ける。そして時には迎え撃つ。
だからこそ直線的な軌道だけではなく、回転を掛けて変化をつけたりあえて無回転で攻撃したりもしているワケだ。
だが、あの少女はどうだ?
「9時! “かえんボール!」
「7時! “しねんのずつき”!!」
「2時! ───“ダストシュート”ッ!!!」
(けれど、これは……!)
ポケモンを繰り出す技を言い当てるなど、それこそ未来予知できるサイキッカー───あるいは、とある地方に存在するバトルフロンティアと呼ばれるバトル施設。そこに聳え立つバトルタワーの守護者“タワータイクーン”を冠するトレーナーぐらいだ。
無論、チャレンジャーの少女はサイキッカーの類ではない。
実際にバトルした当初の感想は、時折現れる将来有望なトレーナーの一人……そのぐらいのものであった。
だと言うのに。
超える。
超える。
超えてくるのだ。
用意した壁を。
立てた見立てを。
それらを次々に、驚異的な速度で。
(なんて末恐ろしい……!)
そう言葉にすれば簡単だった。
世に知れ渡っている著名なポケモントレーナーは、他人には真似できない芸の1つや
2つを持っていることもざらなのだから。
彼女の
「まだまだっ、熱くなれますね……!」
「ふーっ……!」
見据える先には尋常でない汗を流すコスモスの姿があった。
時折思い出したかのようにまばたきする瞳は、広がる熱波に煽られて血走っている。滴る汗が入ることも厭わない。むしろまばたきする手間が省けると言わんばかりの覇気を迸らせている。
───なんていう熱の入りよう。
とても若干12歳とは思えない。
しかし、これだけの動きを為せられるとするならば納得せざるを得ない。
「やはり、ジブンの見立ては間違いじゃありませんでした! このジムを預かる者として、攻略にそれほどまで“情熱”を注がれるなんて、ジムリーダー冥利に尽きるもの!」
「そんなもの……当然!」
「
そしてこれからも強くなる───そんな確信を抱くヒマワリは吹き抜けの先に広がる空へ手を翳し、振り下ろす。
「エースバーン、勝負をかけます!! 最大パワーで“かえんボール”!!」
「ファニーッ!!」
気炎を吐きながら蹴り上げた破片に炎を灯すエースバーン。
最大パワーの指示に偽りはなく、けたまたしい轟音を響かせて蹴り飛ばされた破片───転じて火球となった攻撃は、ヌルへ目掛けて突き進む。
誰の目から見ても剛速球。
加えて正直すぎる直進軌道にコスモスの瞳は見開く。
「ヌル!」
「させない!」
「!?」
何かヌルに伝えようとしたコスモスであったが、突如として火球の軌道が下がる。
失速し、地面に追突───ではない。速度はそのままに、加えられた回転のみで地面へと突き刺さった火球は、大きな爆炎と黒煙を巻き上げてバトルコートを覆い隠す。
「のわぁ、外れた!?」
「これじゃ中が……!」
外野で飛び交う言葉にほくそ笑むヒマワリ。
ここまではむしろ狙い通り。コスモスの“目”がある限り回避される飛び道具には最早攻撃手段として期待はできない。
ならば、視界を塞ぐ手段にすればいい。
トレーナーの視界を塞ぐのも立派な戦術の一つ。雨や砂嵐といった天候、“えんまく”といった技はそういった戦術の手段として用いられる場合もある。
相手にとって不利な状況を作り出す───本来、オキノジムリーダーなどが得意とする戦術を、ヒマワリは即席で再現してみせた。
黒煙に包まれたヌルの居場所は誰にも分からない。
裏を返せば、ヌルからも相手の居場所は分からない。
今回はそれを利用するのだ。
「エースバーン、高く跳べ!!!」
「ファニーーーッ!!!」
黒煙よりも高く。
劈く破砕音を轟かせるエースバーンが宙を舞う。バトルコート全体を見渡せる程の高度。ともすれば、観客席に座る者達と同じ目線に至っていた。
その高さから繰り出される技と言えば───。
「“とびひざげり”!!!」
相手の姿も見えない状態では、大博打とも受け取れる大技。
外れる確率も高いが、絶対に外れないという保証もない。むしろここまで自信ありげに指示を出す以上、何かしらの手段で補足しているという疑念も過るはずだ。
「ヌル!!」
コスモスのヌルを呼ぶ声が聞こえるが、それ以上の指示が聞こえないことから察するに、向こうがエースバーンの位置を図りかねていると見て間違いない。
そこへエースバーンの“とびひざげり”が突き刺さる───ことはない。
黒煙に飛び込んだエースバーンは、“とびひざげり”にあるまじき柔らかい着地を決める。
するや、耳をピコピコ動かす。うさぎポケモンとしてヒバニーの頃から特徴的な大きな耳は、周囲の状況を探る為の集音器としての力を発揮する。
(最初の指示はフェイク……本命は次の奇襲です!)
そう───エースバーンに煙へ突入する直前にサインは送っていた。
相手側はいつ“とびひざげり”が来るかと身構えただろうが、元より煙に飛び込むなどという大博打を打つつもりはない。
そこで煙の中からの奇襲だ。
使える相手も限定される一度限りの不意打ちだが、それを加味しても有効な戦術。
「ヴルァ!!!」
───の、はずが。
「煙が……晴れた!!?」
突如として霧散する黒煙。
否、縦に切り裂かれた煙の中からは、耳を澄ませていたエースバーンが露わになる。
その奥には爪を振り下ろした直後のヌルが佇んでいた。
立ち位置を見るに、煙の中から攻撃を仕掛けたにしては
(まさか、最初から……!?)
タイミングがあったとするならば、黒煙にバトルコートが包まれた直後。まさにエースバーンが奇襲を仕掛けようとしていた時に他ならない。
よくよく観察すれば、ヌルが飛び出したと思しき足跡がコスモスの目の前に刻まれているが、流石にヒマワリの立っている場所からは見えない。
(周囲が見えなくなった瞬間に戻るなんて……それも指示もなしに!)
指示を聞かず、攻撃は自分の判断で行う。
しかしながら、逐次もたらされる情報には耳を貸し、回避に用いている。
それどころか視界を潰されるや、トレーナーの目が届く位置まで立ち戻ることを鑑みるに、ヌルがコスモスに懐いていないとは口が裂けても言えないだろう。
(見誤っていたのはジブンの方と……なるほど、少し見通しが甘かった)
「けど、それでも勝つのはジブンです!!! エースバーン、ファイア!!!」
「ファニーッ!!!」
ドンッ、とエースバーンの足裏が爆ぜ、ヌルへ押し迫る。
今度こそ正真正銘の“とびひざげり”だ。これを避けられれば敗色は濃厚となる。
だが、ヒマワリには勝算があった。
ヌルは黒煙を払う為に技を繰り出した。その直後とあって、現在のヌルは硬直して動けない。
まさに大技を喰らわせるには絶好のタイミングだった。
エースバーンとヌルの距離が縮まる。
ヒマワリにとって与り知らぬが、ノーマルタイプのヌルにかくとう技は弱点だ。決まれば勝利の天秤は大きく傾く。
2体の距離がなくなった瞬間こそ、勝負は決する。
多くの者はグングン距離を詰めてくるエースバーンに気を取られていた。誰もが焦ったように顔を強張らせている。
だが、
「───決まった」
レッドが呟いた直後、固まっていた巨体がゆらりと沈む。
「っ……しまった!」
失念していた、とヒマワリは歯噛みする。
一度は
「───いえ、まったくもって完敗です。燃える尽きるほどホットなバトルでした」
称賛の言葉を贈りながら、ヒマワリはその目に焼き付ける。
「ヌル、今!!!」
「ヴァアアア!!!」
「───“つばめがえし”!!!」
トレーナーとポケモン。
彼女達二つの心が通じ合った、その瞬間を。
すれ違いざまに鋭い爪が閃いた。
対して膝蹴りが外れたエースバーンは、滑るように地面へと落ちていった。
「エースバーン、戦闘不能! 勝者、チャレンジャー・コスモス!」
『おおおおお!!!』
歓喜が噴火する。
そう形容するより他ない歓声が、ジムを中心にスナオカタウン全体に少女の勝利を知らしめるのであった。
***
「ヌル、お疲れ様」
傍らに歩み寄ってくる少女はそう告げた。
自分のおかげで勝利できたというのに、相も変わらず愛想のない仏頂面を浮かべたトレーナーだ。
「……何か言いたげですね」
今まで“おや”と騙ってきた人間よりこの少女は敏いと認めよう。
だが、他ののように懐柔されるつもりは毛ほどもない。
忌々しい記憶が、蘇る限りは……。
『───どうだ、サンプルの調子は?』
『この個体は駄目ですね。スペックはともかく、凶暴過ぎてとても手がつけられません。これでは……』
『フム……他のポケモンと違って、折檻程度では従わないか。やはり性格云々より、最初からシャドウポケモンとして運用した方が良さそうだ』
『
『拘束した後、戦闘データの収集へ回せ。戦力として使えないんだ、それぐらいにしか役に立たないだろうからな』
───使えない道具は不要だ。
その時の言葉は、今も忘れてはいない。
人間は勝手だ。
決めつけられた役割なんて理解できなかった。納得もできなかった。
「最後の技は私の指示で動いたんじゃないと?」
だから、この人間と接していると妙な違和感を覚える。
「別に構いませんよ。私もあれが最善手だったと思います」
付かず離れずの距離で好き勝手情報だけを垂れ流してくる。
その情報を元に動くことだけは癪だが、負かしたい相手が居る以上、使える道具は何でも利用する。
それを教えたのは他でもない。目の前の少女だ。
憎たらしい人間の一人。
「それはそれとして……どうでした?」
だが、今まで出会ってきた人間とは少し違う。
同じ“目線”に、彼女は立っていた。
「私は、
見限るのはもう少し先にしよう。
今は、そう思えた。
***
「どうしてボクがアナタと……」
ブツブツ独り言を呟く眼鏡の男が、暗い洞窟の中を進んでいた。
とても洞窟内を歩くには不適当な団服に身を包んだ彼だが、後ろに付いている部下らしき面々も似たような恰好である以上、それを咎められる者はいない。
ある一人を除いては。
「ハッハッハ! そう言ってくれるな、アルロ。オレはお前と仕事ができるのが楽しみなんだぜ?」
黒い団服に身を包む者達の中でも、一際筋骨隆々な偉丈夫が洞窟内にワンワンと反響する笑い声を上げる。
直後、騒ぎに反応したズバットやコロモリが一斉に飛び立ち始め、彼らの頭上を通り過ぎていく。
その間身を竦めていた眼鏡の男・アルロは、咎めるような視線を偉丈夫へ向ける。
「クリフ……アナタはそうかもしれませんがね。そもそもこの任務はボク一人に任されたものだというのに……」
「万が一にもカワイイ部下に何かあっちゃならないっていう我らがボスの優しさだ。そう不貞腐れるな」
「不貞腐れてなんかいませんよ」
唇を尖らせるアルロの隣で、もう一度クリフは大声で笑う。
同じ幹部という立場故に軽口を叩き合う二人。その背後には少数の下っ端が居る。
揃いも揃って洞窟内を歩んでいく彼らだが、無論、浪漫を求めた探検の為に訪れている訳ではない。
「で? 目的地ってのはこの先で合ってるのか?」
「なんです、ボクのナビゲートが信じられませんか?」
「いいや。血が滾って……な?」
「そう浮足立たなくとも、もうすぐ着きますよ」
ほら、と不意にアルロが足を止める。
そこには広い空間が広がっていた。一見して天然の空洞に見える空間だが、地面には人為的に配置されたと思しき岩が並んでいる。
そして中央にある窪みは、まるで何かを待ち望んでいるかのような存在感を放っていた。
「おお……! ここがそうなのか?」
「ええ、間違いありません」
「ようし、そうと聞けば……おい!
『は!』
言われるや否や動き出す下っ端の団員。
重そうに抱えられていたトランクケースをクリフに渡せば、彼は大事に仕舞われていた
「この“かざんのおきいし”を置けば、伝説のポケモンが復活するって寸法だな」
大の大人でも抱えるのに一苦労しそうなサイズの石。
それを片手で持ち上げるクリフは、まじまじと“かざんのおきいし”と称した代物を眺めた。黒光りの中に不思議な真紅の光沢を放つ石だが、何の知識もなければただの石と一蹴してしまいそうな外見である。
「大切に取り扱ってくださいよ。ボクがわざわざマグマ団から取り返した物なんですから」
「ああっ、分かってるよ。にしても、こんなものがな……」
「偶然先に回収された時はどうしたものかと思いましたが、向こうがこれの真の価値を知らなかったのが幸いでしたね。フフンッ、やっぱり世の中モノの価値を知らない連中が馬鹿を見るんだ……」
「で、ここに置けばいいのか?」
「そこ!! 勝手に置こうとしない!!」
一人先走り置き石を設置しようとする男へ、アルロが大急ぎで駆け寄る。
「はぁ……はぁ……まったく!! ボクが取り返したと言ったでしょう!!」
「別に誰が置いても同じだろう?」
「それを扱う権利はボクにあると言ってるんです!!」
凄まじい剣幕で捲し立てる同僚に苦笑いを浮かべるクリフは、『わかったよ』と置き石を手渡す。
「それじゃあ、早いとこさっさとおっ始めてくれ」
「言われなくとも。迅速な任務遂行こそ、ボクのモットーです」
「違いない」
そう言うや、アルロは置き石を部屋の中心に設置する。
見事なまでに窪みに嵌まる置き石。束の間の静寂の後、彼らの居る部屋は揺れに襲われる。最初は小さなものが、数秒、そして数十秒後には地震と呼んで差し支えのない震動は、この部屋を中心にジャンボマウンテン全体を大きく揺るがす。
「……来るか」
手に持った端末を眺めるアルロが呟く。
すると、
───ゴボ、ゴボボ……ゴボッ。
まるで何かが湧き上がるような音が天井から響いてくる。
その唸り声に導かれて顔を上げれば───居た。
「ほう……
「ええ。蘇りましたよ、伝説のポケモンがね」
暗い洞窟の天井を這いまわる紅い身体。
やがて地面へ降ってきた巨体は、溶岩の泡を飛ばしながら咆哮を上げる。それだけで周囲の温度が数度上昇したかのような熱波が部屋に満ちていく。
長居すれば命の危険がある。
この一瞬だけでそう錯覚させる存在感を前に、アルロの口角は鋭く吊り上がった。
「かこうポケモン、ヒードラン!! 伝説として語り継がれるお前を手中に収めることで、ロケット団の戦力は盤石なものとなるでしょう!!」
「ゴゴボッ、ゴボボボボ!!」
「くっくっく!! 抵抗は無駄だ!! なぜなら……」
勝ち誇った風にボールを取り出すアルロ。
それを見たクリフも察し、一個のボールを取り出した。
「───“伝説”は、すでに我々の手に収まっている!!」
開かれるボールから、2体のポケモンが飛び出した。
その日、休火山とされてたジャンボマウンテンは数百年ぶりの噴火を起こす。
噴き上がる火山灰の下では、数度の雷鳴が響いていた。
Tips:コスモスの手持ち
・タイプ:ヌル
性格:いじっぱり
特性:シェルアーマー
技:つばめがえし、ブレイククロー、ねむる、ふういん等
星の砂浜で出会い、捕獲。スペックはルカリオに匹敵するレベルだが、言う事を聞かない点が玉に瑕。反抗心も強く、当初はトレーナーであるコスモスにも襲い掛かり、その度に他の手持ちから制止を喰らっていた。よくレッドのピカチュウにからかわれ、その度に喧嘩を売っているが、今のところ全敗。それでも尚トレーナーを全面的に信頼するつもりはないが、コスモスに使える道具は使うよう諭され、妥協案として伝えられる技の情報だけは聞くようになった。今のところ、どう動くかやどの技を繰り出すかは自分の意思で決めているものの、ゆくゆくはトレーナーの指示を聞く日が来るかもしれない……。
爪を活かした物理攻撃を得意とするが、特殊攻撃もある程度扱える為、コスモスはスポンサーの財力に物を言わせて、ジム戦ごとに技マシンなどで技を入れ替えるつもりである。
ポケモンで加入したい組織は?
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サカキ様万歳! ロケット団
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