レッド「アプリとかであるポケモンのタイプを当てるクイズ……どのくらいでクリアできる?」
コスモス「長くて10秒です」
レッド「……そう」
山。
それは周囲より高く聳え立つ地形や場所を言い表す言葉だ。一般的に100m標高が高くなるごとに気温が1℃程度下がるとされている。
標高が高ければ高い程、高所の気温は地上よりも低くなり、一年中雪が覆い被さっていることも珍しくない。
すると当然生息するポケモンは地上とは大きく様変わりする。
麓から中腹辺りまではいわタイプ等が多く生息しているジャンボマウンテンも、頂上付近ではこおりタイプが観測できるようになる。
主な種類としてニューラやユキカブリ、デリバード、またはその進化形らだ。
しかし、極々少ない個体数ではあるが、他にジャンボマウンテンに根付いている種も存在している。
例えば───。
「モッ……モッ……」
雪原を這う小さなポケモン。
透き通った氷の簑に覆われる体を引きずった跡は、白い雪原の上に延々と続いている。
「モッ……モッ……」
それでも彼は雪を食む。
雪こそが彼らの主食であり、外敵から身を守る氷の簑の材料となる、まさに必要不可欠な存在であった。
まさに雪が命というポケモンだが、これも火山活動が止まり休火山となったジャンボマウンテンが、長い年月をかけて形成した環境が呼び込んだ結果である。
「モッ……モッ……ュ?」
突然襲い掛かる地響きに、雪を食んでいた口が止まる。
小さな体を起こしたところで自身より背の高い植物ばかりの森の中では何も見渡せない。
「ミ……」
地響きは止まない。
「ュ? ……モッ」
止まないから、再び雪を食み始める。
「モッ……モッ……」
食み始めた───そんな時だ。
───ドォーン!!!
「ミッ!?」
突如、山頂の方から聞こえる轟音。
尋常ではない山の異変に身の危険を覚えるや、山のあちこちがざわめき出す。生息している野生のポケモンが一斉に山から下りるように逃げ始めているのだ。
「ュ、ミ~~ッ!」
呑気に食事をしようとしていた彼も、ただならぬ雰囲気に山から降りようと駆け出すも───悲しいかな。元の足の遅さはどうにもならない。
次々に先を越されながら山を降りるポケモン。
しかしながら、降りた先に餌があるとは夢にも思っていない。
だが、空を覆い始める火山灰に混じり、あちこちに降り注ぐ噴石の脅威を目の当たりにすれば、今まで平穏な山の姿しか知らない彼らではただただ逃げ惑うことしかできなかった。
「デ、デリバ~!」
すると、逃げながらも落ちている物を拾い上げるポケモンが近づいてくる。
はこびやポケモン、デリバードだ。一日中エサを拾い集める習性のある彼は、このような時でも───否、このような時だからこそ、辺りに散らばっているエサを拾い集めながら下山しているのだろう。
拾い集めるラインナップは山に自生しているきのみやマメ、スナハマダイコン。
そして、
「ュ?」
「デリバ~!」
「ュミ~⁉」
地面を這っていった彼もまた、デリバードの尻尾の中へ詰め込まれる。
雑食であるデリバード。時にはむしポケモンも食す彼だからこそ、遅々とした歩みで逃げ惑うポケモンもエサとみなしたのだろう。
「ミ~~!」
意図せずデリバードに拾われれば、あれよあれよという間に山頂が遠のいていく。
本来一生を過ごすはずだった故郷。
その土地に別れを告げる間もなく……。
***
『───続報です。先日未明に発生した噴火したジャンボマウンテンについでですが』
「昨日からこのニュースばかりですね」
「……ね」
ポケモンセンター付属の食堂。
朝食をとるコスモスとレッドは、二人並んでテレビを眺めていた。
「噴火で一時オキノ・スナオカ間の道路は通行禁止……先に到着していたのが幸いでしたね」
情報収集に余念のないコスモスは、今回の噴火での影響も把握済みだ。
主な影響と言えば、既に口述した道路の通行規制。及び、当面の間ジャンボマウンテンへの入山規制と言ったものだ。
ほぼほぼ死火山とされていた山の突然の噴火───当然周辺住民の驚きは大きく、ポケモンセンターだけでも聞こえてくる話題はそればかりである。
とはいえ、コスモスからしてみれば今からオキノ方面へ戻る予定もない。
これと言った影響もないことから、実に穏やかな心持ちで味噌汁を啜るのであった。
「ふぅ。朝のお味噌汁は頭が覚めます」
「……大根が入ってるね」
「スナオカ名産、スナハマダイコンらしいです」
「スナハマ……」
「別に砂浜には生えていないようですが」
「……」
レッドの眉間に皺が寄る。
摘み上げた大根の一かけらを見つめる瞳は、怪訝と言う他ない程に細められていた。
「スナハマなのに……」
そう言って一口パクり。
するや、表情はみるみるうちに綻んでいく。
味はお気に召したようだ。めでたしめでたし。
程なくして朝食を食べ終えた二人は広間に移り、ソファーに腰掛けて食休みを取っていた。
「ときに先生」
「うん」
「次に目指す町ですが、カチョウタウンにしようと考えています」
「ジムがあるんだ」
「はい」
スナオカタウン南方に存在する町、そこがカチョウタウンだ。
コスモスにとって最大の目的であるポケモンジムは勿論のこと、さらに南下してセトー地方へと足を踏み入れる為には無視できない場所である。
「近くには有名な湿原もあるみたいですし、色々なポケモンを見られるかもしれませんね」
「それは……無視できないね」
「私も先生のお眼鏡に叶うようなポケモンを見つけられるよう努力します」
純粋に見知らぬポケモンとの出会いを心待ちにするレッドとは対照的に、コスモスは有用なポケモンを手持ちに加えることしか頭にない。
「俺の……? 俺は別になんでも……」
「なるほど。先生ほどのトレーナーであれば
「まあ、
会話のすれ違いはヒウンシティの人波の如し。平常運転である。
行き先も決まり、食事を済んだ二人はポケモン達の様子を窺う。
皆朝から溌剌としており、ジム戦で活躍した三体も山盛りのポケモンフーズを口に運んでいる。
「あれ」
「どうしました?」
「ポケモンフーズ食べるようになったんだ」
「ああ、ヌルのことですか」
そう言ってコスモスが視線を移せば、フードボウルに盛られていたポケモンフーズを兜の中で貪っていた口が止まる。
兜の奥からは、人間に対して抱く警戒心がひしひしと感じられるような眼光が輝いていた───と言えば刺々しいが、俗に例えるのであれば不良のメンチを切る行為のそれだ。
「あまり見られたくないようです」
「そうみたいだね」
「ですが、しっかり進歩しているようで助かります」
『きのみだけでは食費がかかりますから』と締めくくり、コスモスはヌルから視線を外した。
そうすればヌルの食事が再び始まる。きのみでなくともしっかりと口にしている事実は、以前と比べれば確実な進歩であろう。
前はと言えば、
『いいですか? ポケモンフーズは完全食なんです。きのみよりこっちの方が……』
『ヴルル!』
『食費だってただじゃないですよ。保存できる期間にも限りがあるんですから、生ものよりこっちを───』
『ヴァ!』
『もしかしてご飯に毒が入ってるとでも? まったく馬鹿馬鹿しい……見ていてください。あむっ……もぐっ……ほら、毒なんかヴェッ!!』
わざわざヌルの目の前でポケモンフーズを実食し、危険がないと証明した行為は涙なしには語れまい。
(実食して余計にヌルが嫌がってた気もするけど……気のせいだったんだろうなぁ)
涙なしには……語れない。
なにはともあれカプ・レヒレ。
つつがなく朝食を取り終えた一同は、食休みついでにニュースの続きに目を向けていた。地方色が色濃く現れるニュース番組を見るのも旅の醍醐味である。
しかし、朝のニュース番組で外せないコーナーと言えば星座占いだ。どこの番組にもあるコーナーだが、だからこそ目に付き、いつの間にか日課になっている人も少なくはない。
「何座?」
「私ですか? 私は……」
『今日最も運勢の良い方は……おめでとうございます、ゼニガメ座の貴方~!』
「あ」
「ゼニガメ座ですか?」
「うん」
自分の星座が紹介されたレッドはテレビ画面をじっと見つめる。相も変わらず表情に乏しいものの、心なしかその瞳は期待に溢れているかのように輝いていた。
肝心の内容はと言えば、
『突然の贈り物にハッピーな気分になれるかも!?』
「……だって」
「私、占いには興味がなくて……」
『今日のラッキーポイントは、貰った贈り物をおすそ分けすること! ハッピーな気持ちを共有しましょう!』
早速貰い物をリュックから取り出そうとするレッド。
それをコスモスは『お構いなく』と制止する。
と、そんなことをしている間にも、
『今日の最下位は……ごめんなさ~い! メェークル座の貴方!』
「あ」
「……メェークル座?」
「はい」
『心当たりのない届け物にたじたじ?! 慌てず他人に相談するのが吉かも!? 今日のラッキーポイントはアイスクリーム! 甘い物を食べて落ち着けば、いい案が浮かぶかも!』
「「……」」
対極的な占い結果に、二人の視線は自然と合う。
「……先生」
「うん」
「アイスクリームを頂く当てはありますか?」
「そこに合理性を求めちゃう?」
当然なことにアイスクリームを貰う予定はない。
すなわち、本日のコスモスは運勢をひっくり返す当てがなくなった訳だ。
「まあ別に気にしていませんので。そもそも星座如きで運勢を判断しようとすること自体が非合理的なんです。『人事を尽くして天命を待つ』という言葉があるように、まずは自分にできる最大限の努力をして一日を過ごすあるべきでして───」
「誰も何も聞いてないよ?」
「お構いなく。自分に言い聞かせているだけですので」
「……そう」
それはそれで怖い。
レッドは心の底から思った。
現実から目を背けようと窓の外へと目を向ける。今日も今日とていい天気だ。昨日の噴火で火山灰の被害こそ懸念されているが、こうして室内から眺めている分には普段と何ら変わらないように見える。
青い空に白い雲。
そして、褐色肌に黒いビキニ。
「これはこれは。お早いですね、先生さんにコスモスちゃん」
みずぎのおねえさんの ヒマワリが
しょうぶ(?)を しかけてきた!
そう錯覚させる女性は他でもない、公共の場でもビキニとパーカーという際を攻める霞顔負けなスナオカジムリーダーである。彼女は今、法律に勝負を仕掛けていると言っても過言ではない。
「今日は色違いバージョンです」
と、聞かれてもないのに自分のリザードン風ビキニを指して宣うヒマワリに、レッドは思わずたじたじだ。
しかし、その傍らで眉ひとつ動かさなかったコスモスは淡々と挨拶を返す。
「おはようございます、ヒマワリさん。ポケモンセンターには何用で?」
「いやあ、大した用事じゃ……普通にポケモンを回復させに来たんだけれど、ジムよりこっちの方が近かったから」
「というと、何かの帰りなんですか?」
コスモスの問いに、ヒマワリは『そう』と頷く。
「昨日の噴火がらみでね。ジャンボマウンテンから逃げてきたポケモンが町の近くまで来てて……警察やポケモンレンジャーも対応してるんだけれど、なにぶん数が多いからジブンの方にも要請が」
「なるほど。それはお疲れ様です」
「お気遣いどうも」
ヒマワリは昨日からの疲れを感じさせない笑顔を浮かべてみせる。
やはりポケモントレーナーは体が資本。ただ指示を飛ばすだけがトレーナーの仕事ではない。バトルに関することからポケモンの世話に関してまで、こなさなければならないタスクは山ほどある。相応にも体力を要する訳であり、プロになればなるほどポケモントレーナーという職業の過酷を知るのも世の常だ。
ジムリーダー程にもなれば、とりわけ他人よりもタフでなければならない───そういうワケだ。
そのような事実をそこはかとなく感じさせるヒマワリは、不意にコスモスに向けて頭を下げる。
「昨日はすみません。噴火の件もあったとはいえ、ジム戦の総評も伝えられませんでしたね」
「いえ、それについてはやむをえないと言うか……自分でも反省は済んでますし」
「そう?」
じゃあ、とヒマワリと両手を合わせた。
「聞きたいこととかは? 何でも答えちゃう♪ 先生さんもご質問があればどうぞ」
「「あっ、じゃあ」」
重なる声の正体はコスモスとレッドの二人だ。
思わずパッと見つめ合う二人は、互いに沈黙の中で語り合う。『お先にどうぞ』『いえ、そちらこそ』───流れた時間は数秒であれど、交わされたアイコンタクトは数知れず。
そうして互いに譲り合い、とうとう決着がついた。
「「あの」」
また重なった。
得も言われぬ空気が場に流れる。
「……じゃあ、コスモスちゃんから。先生さんはその後で」
「はい」
シュンと肩を竦めるレッドはあっという間に小さくなった。肩身が狭いとはまさにこの状態を指すのだろうが、わざわざソファーの隅っこにまで寄って体育座りする光景はシュール以外の何物でもない。
一抹の申し訳なさを覚えるコスモス。
だが、自分自身気になっている疑問がある以上、先に聞かせてもらえるのであればそれに越したことはないとありがたく感じた。
その質問とはすなわち、
「エースバーンについてなんですがよろしいですか?」
「うん、もちろん」
「バトル中、ずっと気になっていた点がありまして……もしかして、
「───!」
「それ俺も気になってた」
レッドが超速で帰還し、会話に加わる。
奇しくもコスモスと質問が同じだったと、わざわざ順番を後に回してもらう必要もなくなったヒマワリは『ちょうどよかった』と胸を撫で下ろす。
「鋭いですね、コスモスちゃん……その推察はまさしく正解です」
「というと」
「“リベロ”。それこそがジブンのエースバーンが持っている特性の名前なのです」
今更語るほどでもないが、ポケモンには個体ごとに特性が違うケースが存在する。
通説では2つ───それが種として持ち得る特性の限界だと考えられていた。
だがしかし、近年の研究によって極々まれに通常の個体とは異なる特性を持つ個体も確認されてきた。
エースバーンの“リベロ”も、そんな希少な特性の一つだ。
「“リベロ”は
「だから不思議なタイミングで技の指示を出してたんですね」
「あちゃあ……そう思った? これが中々タイミングがシビアで……」
───自分のタイミングでタイプを変えられる。
それだけ聞けば無敵と思える“リベロ”だが、実際はそうではない。
前提として、タイプが変わるタイミングは技を繰り出す直前。それまでは元のタイプか、その直前に繰り出した技のタイプのままだ。
つまり、元とは違うタイプの耐性にも気に掛けなければならない。
『何を当然なことを』と思われるかもしれないが、実戦で考えてみれば、その難しさは大いに理解できよう。
リアルタイムで変化する戦況。
相手にはターン制ゲームのような猶予を与える道理はない。
加えて、最初は技構成も不明の中で戦わなければならないのだ。
相手が繰り出す技に一瞬でタイプ相性を導き出さなければならない上、場合によっては相性を捨て置いた選択を取らなければならない。
基本的にタイプが不変のポケモンに比べると、“リベロ”はバトル中に考えなければならないことが多くなる。
結論を言えば、その攻防一体の強力な特性という利点の反面、使いこなすにはかなりの反射神経と頭の回転を求められるピーキーな特性なのだ。
「───つまり相手のポケモンの周りを飛び回らせる立ち回りは、序盤の様子見と回避を兼ねた行動。遠距離攻撃は相手からの技が来るまでのラグを作る為で、近接攻撃が高火力なのは短期決戦を狙って……と」
「そこまでお見通しなら、ジブンから語ることはありません」
ヒマワリは腕を組んで頷いている。
特性の詳細を知った途端、語るまでもなく戦法と技構成の理由を察していた。それは当人の中では技構成と立ち回りに意味を見出していたことになる。
「それでこそエースバーンをあてがった甲斐がある。差し上げたデューンバッジも一段と輝いて見えます」
言われるや、コスモスは懐にしまったバッジケースの中身を思い出した。
受け取った3つ目のバッジ───内に灼熱を秘めた砂丘をモチーフにしたデューンバッジは、確かにそこに収められている。
瞼を閉じれば、鮮明に当時のジム戦を思い出せる。
それほどまでに脳裏に焼き付いた激戦の印象は強い。変幻自在にタイプが変化する相手にする経験など、早々巡り合えるものではない。
今後も自身にバトルの糧となるであろうと確信するコスモスは、獲得したバッジの重みを感じつつ、『その節はお世話になりました』とヒマワリへ頭を下げる。
「───でも、次はあそこまで苦戦するつもりはありませんので」
「こっちこそ」
正面からの宣戦布告にもヒマワリは一切動じない。
「次にバトルする機会があるとするならポケモンリーグ本戦? まだ先の話だけれど、楽しみに待ってる」
「ジムリーダーもリーグに出るんですね」
「そ。ホウジョウとセトー、両方のリーダーが4名ずつ出場する。そのほかに予選を勝ち抜いたチャレンジャー8人も合わせて、合計16人で栄えある初代チャンピオンを争う……」
当然、ジムリーダー側はジム戦のように手加減はしない。
正真正銘のガチンコ勝負だ。各々の育成、戦略、そしてポケモンとの絆がものを言う、まさしくポケモンバトルの最高峰。
「その為にはまずバッジを8つ集めるところから。……でも、コスモスちゃんなら心配ないか」
ヒマワリは踵を返し、本来の目的に向かって進む。
振り返りはしない。それは少女がいずれ自身の目の前に現れると確信している───そう言わんばかりの後姿だった。
「ヒマワリさん……」
「ふふっ、楽しみにしてる」
「ちなみになんですけれど」
「うん?」
「お金を差し上げるのでアイスクリームを先生に買って頂くことは可能でしょうか?」
ヒマワリは爆速で振り返った。
***
テン テン テテテン♪
「おまちどおさま! お預かりしたポケモンは皆元気になりました! またいつでもご利用くださいませ!」
いつも通りという安心感がポケモンセンターにはある。
ジョーイからポケモンを受け取ったヒマワリは、帰路につく足で自販機へと向かった。小銭を入れてからラインナップを確かめたヒマワリは、疲れた頭をリフレッシュさせる
「サイコソーダ、サイコソーダっと……」
「───俺様のおすすめはこっちのエナドリ」
「あっ」
突如、横から現れた手にボタンを押される。
取り出し口からは無情にもジュースが落下する音が鳴り響く。透明なカバー越しに確認しても、出てきたジュースがサイコソーダではないことは明白であった。
「あ、あぁ……!」
「最近新発売された奴なんだけど中々うまいよ、それ」
「なんたる非道……許されざる所業……後でキュウコンの尻尾を掴ませる……!」
「末代ってレベルじゃねーぞ」
それほどまでにサイコソーダの恨みは深かった。
「まあ、たまにはいいけど……で、何の用? アップル」
「いやー、実は気になっちゃってさー」
カルストジムリーダー・アップルはそう口にした。
本来セトー地方にジムを構える彼だ。普段顔を合わす機会は皆無に等しく、それでいて先日の招集で顔を合わせたばかり。彼が自身の下を訪れる理由が思い当たらないヒマワリは、お手上げとジェスチャーしてから買わされたエナジードリンクを一口煽る。
すると、
「───『ジム戦』って言えば?」
「……誰か気になる子でも?」
「招集された時。ピタヤに話してたろ?」
なるほど、とヒマワリはもう一口煽る。
「ジブンだけが目をつけようと思っていたのに……」
「俺様、こう見えても公式記録のジム戦は全部目ェ通すクチでさ」
「はぁ……じゃあ秘密のままにはできないか」
「そらそうよ。ピカピカ光る原石見逃すようじゃジムリーダー務まらないっしょ」
得意げに語るアップルは、徐に懐からスマホロトムを取り出す。
画面には昨日アップロードされたばかりのバトルレコード───ヒマワリとコスモスのジム戦が映し出されていた。
「コスモスだっけ? ジョウトから来たトレーナーで、公式戦の主な成績は地方のジュニア大会で何度か優勝。すでにスポンサーもついてて将来の活躍を望まれてる有望株ってワケだ」
「へぇ、道理で」
「感想としちゃあ、流石は新人よりしっかりしてる。ジョウトから来た中じゃ、シルバーってのと並んで今年の注目株の一人だ」
「それでわざわざここに?」
「実物は一目見ないとな。ついでに直接バトルした感想聞こうと思って」
端末を操作するアップルは見たこともないアプリを起動する。
次の瞬間、コスモスの顔写真つきのページが開かれると同時に、画面を埋め尽くす文字が現れるではないか。
一見すると分からないが、内容を追ってみればコスモスに関する情報だと理解できる。
すなわちこれはアップル自身が作成したトレーナーのデータということになるだろう。ページにはご丁寧に該当トレーナーのバトルレコードへのリンクも貼り付けてある。
「対戦相手の戦法を事前に調べて対抗策を用意。初見の相手にもあの手この手で対抗策を打ち出して、相手の情報を吐き出させる……データ主義としちゃ優秀なトレーナーだ」
「まるで
ため息交じりに言い放たれたヒマワリの言葉に、数拍間を置いたアップルは、はっ、と噴き出した。
毎晩趣味に勤しんでできた隈は、新たな獲物を見つけた証拠に他ならない。昨晩はきっと彼だけで視聴回数を大いに伸ばしたことであろう。
(厄介な人に目をつけられましたね、コスモスちゃん)
心の中で一人の少女にお悔やみ申し上げるヒマワリ。
しかし、その口元もどこか愉快そうに吊り上がっていた。
「───俺様としちゃ、一番気になるのは手持ちだな」
流れで出た話題に、ほう、とヒマワリは相槌を打つ。
「あのヌルってポケモンは見たことがない……いや、ホントあれなに?」
「知らない。遠い地方のポケモンなんじゃ?」
「バトルレコード見た感じじゃノーマルタイプっぽいが、全通り検証しなきゃ気が済まない……ああ、じれったい! 今すぐにでも全部試さなきゃ気が済まない! ってか、なんでもっと色んなタイプぶつけなかった!?」
「無理言わないで」
公式戦で実験染みた真似をできるはずもない。ヒマワリはそう反論する。
しかし、それでもどかしさが収まるアップルではない。すでに今から自分の下に挑戦に来た時をシミュレートし、ああでもないこうでもないとブツブツ呟き始める。
その姿は傍から見れば不審者でしかなく、冷めた視線を送るヒマワリはやれやれと口を開いた。
「でも、次に挑むとしたら……」
「───それだ。確かあいつんとこゲッコウガ居たよな?」
「特性まで
『キタコレ』とアップルは上機嫌に指を鳴らす。
「じゃあ、あのホープトレーナーのジム挑戦待ちか。にしても……」
「どうかした?」
「今年のジム巡り、あいつのとこ突破できるトレーナー居るの?」
「あー……」
何とも言えぬ反応を見せるヒマワリは、辛うじて答える。
「誰にも突破させなさそうと言えばなさそうだけど、誰にも突破させそうと言えばさせそう……」
「どっちもあり得そうなのが怖い」
「下手に実力がある分ね」
うんうんと二人は頷く。
彼らの脳裏に過るのは、かつて開かれたジムリーダー選抜試験の光景。数多くのトレーナーと鎬を削り、ジムリーダーという立場を勝ち取った彼らであるが、その中でも力の序列というものはある。
当然、一概に誰が最強と決められる訳でもない。
だがしかし、バトルをこなせばこなす程に結果は現れる。
それは特徴であり、戦法であり、勝率であり───。
「爆発力ならピタヤ。堅実性ならリックさん。ヒマワリは晴れてる時のバ火力」
「『バ』は余計」
「じゃあ晴れてる時のクソ火力」
「ねえ、どんな気持ちだった? “ひでり”のコータス倒した後“ひでり”のキュウコン出てきた時、どんな気持ちだった?」
「頭ン中“にほんばれ”かと思った」
当人の苦い思い出はさておき。
「───勝率だけ挙げるならキュウ……つまり、カキョウジムがホウジョウ地方最強だ」
「……まあ、否定はしない」
「今年のジムチャレンジャーがふるいに掛けられるとすればあそこだ」
個人の所感、というレベルの話ではない。
公式、有志、そしてアップル独自で収集したデータを基に算出した結果だ。
「半端な情報で挑もうもんなら確実に痛い目見る。ひゃー、チャレンジャーかわいそう」
「まあ、結局リーグでぶつかるんなら……」
地方によっては挑戦するジムに順番があるが、ホウジョウ地方とセトー地方はその限りではない。
手持ちが揃うなり育ってから挑戦するのも一つの“道”である。
極論、ジムで勝てないならジムリーダーも参戦するポケモンリーグで勝てる由はない───延いては、チャンピオンの座に輝く可能性は0に等しい。
ならば、登竜門的なジムの1つや2つ存在してもいいのではないか?
これがジムリーダーとしてのヒマワリの所感だった。
そこへアップルは投げつける。
「───ぶっちゃけ勝算は?」
「……エースバーンとの
「けど?」
もったいぶったように間を置いた彼女は、こう断言する。
「あの子は使う側に回った方が───化ける」
その声色は弾んでいた。
ポケモンバトルにおいて、恐怖と好奇は紙一重だ。
***
「そう言えば」
スナオカタウンの通り。
露店で買ったアイスを頬張っていたレッドとコスモスであったが、思い出したようにレッドが声を上げた。
「なんでしょう、先生?」
「あの赤い人達」
「マグマ団ですか?」
「そう、それ」
赤い人なら目の前に居るが、赤い人
「マグマ団がどうかしたんですか?」
「ほら、何かお礼くれるって言ってたから……」
「ああ、そのことですか」
「……何貰った?」
他人の貰い物が気になってしまうのが人の性というもの。
それも“人助けの”とつけば、否応なしに期待してしまうものだろう。
物によっては言いづらい場合もあるが、コスモスは『それにつきましては』と一切躊躇う様子を見せず───。
「スポンサーになってもらいました」
「……うん?」
「いえ、なのでスポンサーに……」
「スポンサー……」
「あ、スポンサー料の方ですか? それでしたら1年契約で、」
「いや、そこは大丈夫」
やや食い気味に制止をかけたレッドに、コスモスは『そうですか』とあっさり話を止め、今日のラッキーアイテムであるアイスクリームを口にする。フレーバーはベリーのみだ。
(スポンサー……スポンサー?)
頭の中で『スポンサー』の単語が堂々巡りするレッド。
しかし、脳内再生されるのはテレビコマーシャルに入る直前に聞こえてくる『ゴランノスポンサー』というナレーションばかり。
広告主といった意味はこれっぽっちのバニプッチも浮かんではこなかった。
(先生の反応が芳しくない。もしや、スポンサーにあまり良い印象を持たれてない……?)
一方、レッドの考え込んでいる雰囲気をひしひしと感じるコスモスもまた、やってしまったのではないかとマツブサとのやり取りを思い返す。
『───スポンサーだと?』
『はい。同じ金額なら、金一封よりもそちらの方が嬉しいです。
『フム……。だが』
『勿論、継続して契約しろとは言いません。まずは同額で一年単位の契約で。その後も継続すると仰るのであれば、そのまま続けてくださると助かります』
『自分で言うのもなんだが、我々の会社の印象は良いものではない……それでもいいのか?』
『でしたら、ちょうどよかったです』
『なんだと?』
『
『……成程。よく分かった───実に面白い。いいだろう、交渉成立だ』
『今後、良きパートナーとしてどうぞよろしく』
『こちらこそ』
等と、自身の境遇を利用して契約に漕ぎつけた。
ちなみにコスモスに更生するつもりはない。完全に口から出まかせである。
しかし、ポケモントレーナーとしてポケモンを育成していく以上、金銭の工面は切実な悩みであるのだ。元々のスポンサーがある程度出してくれているとはいえ、使える金銭が多いに越したことはない。技マシンに道具、エサ等々……購入したい物を挙げればキリがない。
(しかし、それをあまりよろしく思わないとは……もしや先生は完全なる無頼派?)
世の中にはスポンサーなどつけず、ファイトマネーだけで生計を立てているトレーナーが居るとされるが、そのようなことができるのは真に実力のある極々一部のみだ。
だが、ポケモントレーナーはスポーツに似た競技。しかも、金銭が設備だけでなく手持ちのポケモン───最低6体───に費やされるのだから、競技者として生計を立てるには、多くのスポンサーを獲得することが現実的なのだ。
「やっぱりスポンサーよりも金一封の方が……」
「ゴランノスポンサーの提供で……」
完全に思案モードに入る二人。
その間、溶けて滴るアイスをピカチュウが舐めとり、それをルカリオが白い目で眺めていた。
やがて、アイスの表面が熱で蕩け切った頃だった。
「デリバ、デリバ!」
「「うん?」」
前方から聞こえてくる声に意識を引き戻される。
視線を遣れば、前方から紅白の鳥ポケモンが道行く住民に色々差し出しているではないか。
「あのポケモン……」
「デリバードですね。昨日の噴火で逃げてきたんでしょうか?」
「へぇ……」
「デリバ!」
「うん?」
忙しないデリバードとは真逆に呑気を込めこんでいたレッドだが、突然近寄ってきたデリバードから贈り物をもらう。
その代物にレッドは目を見開いた。
「……あの……これ……」
「とけないこおりですね。ポケモンに持たせるとこおりタイプの技の威力が上がります」
「いや……氷……なんで?」
「デリバードは蓄えたエサなどを人にプレゼントする習性がありますね」
「……あぁ……これはどうも」
「デリバ!」
お礼を言えば、デリバードは屈託のない笑顔を返してくれる。
こんなにもカワイイ笑顔を見れば、突然氷を渡された衝撃などどこへやら。薄氷のように薄い笑顔を以てレッドは応えてみせた。
するや、今度はコスモスの前に立つデリバード。彼は尾を丸めて作った袋の中身を漁り始める。
「今度は私に?」
「何貰えるかな」
「実用性があるならなんでも……」
「デリバッ!」
「あ、どうも」
差し出された白い物体を手にするコスモス。
その瞬間、
───モニュ。
「モニュ?」
何とも言えない感触が指先に伝わってきた。
なんだこれは?
冷たい。でも、雪や氷にしては弾力もあるしスベスベしている。
そしてこのモチモチ感は、まるでアイス大福のような───。
「ユキュウ……」
「うん?」
突然、手に持った白い物体から音が鳴った。
よくよく目を凝らす。一見雪と氷が合わさったような物体は、柔らかな白い身体と氷の簑であった。
そして手前の方に打たれた二つの点は、こちらを覗き込む円らな瞳であり、
「あ……これポケモン?」
「……」
「虫ポケモンかな……キャタピーみたいでカワ───」
「~~~~~ッッッ!!!」
後に、レッドはこう語った。
『……いきなり瀕死の虫ポケモン渡されたら、女の子じゃなくても驚くよね』
ちなみにデリバードの餌には、虫ポケモンも該当する。
Tips:ジャンボマウンテン②
遥か昔は山に棲みついていた伝説のポケモンにより活火山であるが、度重なる噴火によって立ち上がった人間とウルガモスの手によって伝説のポケモンは封印され、休火山となったと言い伝えられている。
以降、山の天辺には雪が降り積もるようにもなり、活火山時代とは大きく変わった生態系を築くようになった。
代表的なポケモンとしてはユキカブリやニューラといった寒冷地帯に棲むポケモンであり、時折山の麓に現れては地方のニュースに取り上げられたりする。
そして極々限られた高地には雪を主食にする虫ポケモンも生息しているとされているが、山から去ったウルガモスとは打って変わって純白の身体を持ったポケモンとされ、目撃例は数えるほどしかないという。
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