愛と真実の悪を貫く!!   作:柴猫侍

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前回のあらすじ

Q.コスモスの身長が低いのは夜更かししてるからじゃないんですか?

A.コスモス「<●><●>」

レッド「……これが三徹したネイティオの目……」


№046:アクアとマグマがバッチバチ

 

 

 

───トゥルルル……ブツッ。

 

 

 

『……お前から掛けてくるとはな。明日は雨か?』

 

 取り繕ったように不機嫌な声がポケギアから聞こえてくる。

 

「久々だってのに随分な言い草じゃねェか」

『……さっさと要件を言え』

「ったく、せわしい野郎だぜ。……大方、こっちの事件は耳にしてるだろ?」

 

 一拍、考え込むような間があった。

 

『当然だ。一時はキサマがまたやらかしたかと頭を抱えたぞ』

「テメェがオレのことを言えるかよ」

『それは……それもそうだな』

「ハッ! 経緯はどうあれ身内を危険に晒されたんだ。テメェだって内心はらわた煮えくりかえってるんじゃねェか?」

『フンッ』

 

 おっさんのツンデレなんぞ今どき需要がないぞと言いたいところであるが、何にしても例外は居るものだ。たとえば熱心な女幹部だったりとか。

 

 それはさておき、

 

「……こいつは、同じ“敵”にやられたオマエにだからこそ頼めることだ。あるブツを解析してほしい。ポケモンを洗脳して兵器化しよーっつー胸糞悪い機械だ」

『なるほどな。それで科学分野に長けている我々にと』

「イズミをそっちに寄越す。詳細はアイツから聞いてくれ」

『まだやるとは言っていないが?』

「じゃあやらねェのか?」

『……ホムラには伝えておく。同じデボンコーポレーションだった仲だ、上手くやってくれるだろう』

「恩に着るぜ」

『……キサマに礼を言われるとはな。やはり明日は雨が降りそうだ』

 

 隙を見せたらすぐこの言い様だ。

 

「ったく、口を開けば嫌味が出てくる野郎だ。たまにはジメジメしたラボから出かけたらどうだ? 面白いものでも見つかるかもしれねえぜ」

『結構だ』

「つれねェな……オレなんかは事件に首突っ込んできた嬢ちゃんがやたらめったら強くてな。ゲッコウガが特に凄かったが、ルカリオも随分鍛えられてて───」

 

 今すぐにでも電話を切りたい雰囲気を醸し出していた相手方から『ム?』と怪訝な声が上がった。

 

『……今『嬢ちゃん』と言ったか? それもルカリオを連れた』

「あぁ? そうだが、それがどうした?」

『名は『コスモス・S(スペース)・ユニバース』か?』

「苗字までは知らねえが……なんだァ? 実は有名人だったりしたか」

『有名人も何も……フッ、我々は彼女のスポンサーだからな』

 

 思いもよらぬ事実だった。

 あぁん!? と辺り一帯にハイパーなボイスが轟いた。羽休めしていたキャモメが吃驚して大慌てで逃げていく。

 

「スポンサーって……そんな話ァ聞いてねえぞ!?」

『……フフフッ、そうかそうか。恐らくはキサマらの貧相な風体を見て遠慮してしまったんだろうな。だが、我々には正面から頼まれたのでな、快く引き受けてやったぞ』

「ぬ、ぬぐぐ……!? オイ、いくらだ⁉ いくら渡した!?」

『品のない言い方をするな。そんな言動だから彼女の目にも止まらんのだ』

 

 ハッハッハ、と勝ち誇ったような笑い声が次第に遠のいていく。

向こうは完全に通話を切る気が満々のようだ。

 

「おい、待てマツブサ!!」

『きっと彼女がリーグで活躍する頃には、マグマ団の名は地方全土に広がっていることだろう。お前は指をくわえて眺めていることだな、アオギリ。ブツッ、ツーツー……』

「アァ!? あの野郎切りやがった……!!」

 

 怒りに震えた手で『通話終了』の文字が浮かんでいる画面を睨みつける男───アオギリ。強面の顔にさらに青筋を浮かべて凶悪さを増す顔面は、さながらサメハダーの如き近寄り難さだった。

 

「マァ~ツゥ~ブゥ~サァ~!! アイツめ、最後の最後で嫌な煽りをしてきやがってェ……!!」

「リーダー、リーダー! アオギリのリーダー!」

「なんだァ!?」

「ひょお!? なんかご立腹っスか!?」

 

 タイミング悪くやってきたしたっぱが、アオギリの怖い顔の餌食に遭った。

 

「おっと、悪ィ悪ィ。あの陰険メガネと話してたもんでな」

「陰険メガネ……あぁ、もしかしてマグマ団のボスさんとスか?」

「それよりどうした? 慌てて来やがって」

 

 言われてからしたっぱは思い出したように口を開く。

 

「そうっした! コスモスちゃんのことスけど、無事ジム戦に勝ったみたいっスよ! 観戦に行ってたやつらが教えてくれたっス! なんだかスゲーバトルだったみたいで!」

「コスモスだァ……?」

「ど、どうしたんスか? そんな怖い顔して……」

「今すぐ案内しろ! オレぁあの嬢ちゃんに用事ができた!」

 

 グルリィンッ!!! と勢いよく踵を返すアオギリに、したっぱは流されるまま『ウ、ウス!』と彼の背中を追っていく。

 

 

 

「マツブサに負けちゃいられねェ!!! あの嬢ちゃんをチャンピオンにする立役者はオレ達アクア団だ!!!」

 

 

 

 やけに気合いが入っているが、どういう経緯かはとても訊き出せる様子ではなかった───後のしたっぱはそう語るのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「へぷちっ」

 

 かわいいくしゃみをがバトルコートに響く。

 誰かに噂でもされたかと勘繰るコスモスであるが、ジム戦に勝利した直後だと思い返し、すぐさま頭を切り替える。

 

 眼前には晴れやかな笑みを浮かべたキュウが佇んでいる。

 どちらかというと仏頂面なイメージが強かった彼だが、いざジムリーダーという重責から解き放たれれば、気のいい好青年だったということだろう。

 

 そんな彼は今、手に握っているものがあった。

 

「よくやった、挑戦者(チャレンジャー)。ここにきみとポケモンの強さと絆を讃え、ぼくに勝った証……『ストリームバッジ』を渡す!!!」

 

 激しい荒波をイメージしたバッジを受け取る。

 それは鮮やかな青色に彩られている一方、光に当てれば白波の部分が眩い輝きを放つよう作られていた。

 

「ありがとうございます」

 

 これでジムバッジは四つ。

 バッジケースに残る空白もちょうど半分。

 

「これで折り返し地点だな。いいペースじゃあねェか?」

「前半で躓いている暇はありませんから」

「言うねェ。まァ、そんぐらい強気に行った方が案外上手く行くのかもなァ」

 

 事実、全力のジムリーダーにも勝ってみせた。

 

「きみの強さはぼくが保証してやる。今度ァリーグで戦えんのを楽しみにしてるぜ」

「こちらこそ。チームで戦うとなると、中々に骨が折れそうな相手ではありますがね」

「ケッ、言ってくれるじゃあねェか」

 

 生意気な物言いには、キュウも砕けた雰囲気で言い返してみせる。

 というのも、コスモスが口述した通り、今回のジム戦でキュウが本領を発揮できたかと言えばそうではない。

 ポケモンバトルは手持ちのチーム戦。彼の場合で言えば、ニョロトノの特性で雨を降らしたり、他のポケモンでサポートをしたりなど、エースであるコウガを後押しする方法はいくらでもあっただろう。

 

(チーム戦じゃ押し負けそうだから1対1を選んだ訳ですが……結局のところギリギリでしたね)

 

 それがポケモンバトルというもの。

 コスモスはこの一戦で得た経験を胸に刻み、今一度キュウと握手を交わす。

 

 その傍らでは、

 

「コウガ……」

「ゲッコウ……」

 

 見つめ合う2体のゲッコウガ。

 ゲッコウとコウガは、互いに何か言いたげな様子を醸し出していた。

 しかし、長考の末にコウガが手を差し出した。余計な言葉など発せず、ただただ真っすぐな視線を兄弟へと送り、握手を求める。ただしそれは兄弟に対するものではない。

 

「ゲコッ」

「コウガ……」

 

 兄弟ではなく、好敵手として。

 初めて真正面から全力でぶつかり合った相手に対する最大の賛辞として、コウガは擦り傷だらけの己の手を差し出していたのだ。

 これを理解したゲッコウは感極まったように上を向く。目頭は沸騰したように熱い。気を抜けば今すぐにでも色んな液体が流れて来そうであったが、何とか寸前でグッと耐え忍ぶ。

 

「ゲコッ!」

 

 そうしてゲッコウも手を差し出し、固い固い握手が交わされた。

 

 この光景を眺めていたキュウは、優しい眼差しを2体へ送る。

 小さい時から育ててきた兄弟同然の相棒。彼らが互いを好敵手と認めることは、すなわち、別れを意味することでもあり───。

 

「ゲッコウ……」

「ウゲ?」

「アンタ……ホンッッットに頑張ったなァ!!!」

 

 いつのまにやら観客席から降りていたウリがゲッコウを抱きしめる。

 

「こんな傷だらけになってッ……やっぱアンタは凄いよっ!!! 流石だ!!!」

「ゲ、ゲコォ……」

 

 真正面から褒められ、ゲッコウは頬を染めて照れる。

 

「これで思い残すこたァない。ウチァ、胸を張ってアンタを送りだせる!!!」

「……ゲコ?」

「だってそうだろ?」

 

 元々そういう約束だ。

 ウリは目だけを動かし、コスモスの方を見遣る。

 

「アンタの『おや』はこれからコスモスさんだ。しっかり頑張ってきな。応援してるよ」

「ゲ、ゲコォ……」

「なぁにウダウダしてんだッ!!! 『おや』がウチじゃあ宝の持ち腐れだろ。……アンタにはアンタに相応しい場所があるだろ」

 

 ドンッ、と。

 抱きしめていたゲッコウを放すや、ウリはその背中を押し飛ばした。

 

「行ってこい。アンタは未来のチャンピオンのパートナーだ」

「ゲ……!?」

「……小さい頃から家族みたいに一緒だったけどさ、こうして一時でもアンタの『おや』になれたこと、誇りに思うよ。でもアンタの『おや』はもう───」

 

 

 

「───それは違います」

 

 

 

「「!」」

 

 震えた声で紡ごうとしていた言葉を遮ったのはコスモスであった。

 相も変わらず感情を読み取れない表情であるが、その声色はどこか優しく慰めるように穏やかであった。

 

「別に私の手持ちになったからってウリさんが『おや』だった過去は消えません。一時だったとしても……それでもゲッコウガの、ゲッコウの『おや』はウリさんです」

「コスモス、さん……」

「この子の『おや』は3人。キュウさん、ウリさん、そして私。3人分の愛情やら何やらが詰まっていて、今のこの子の強さは成り立ってます」

「っ……!」

「だから、『自分が『おや』じゃなくなった』なんて言わないであげてください」

 

───折角なら温かく送り届けてください。

 

 淡々と言い放つ少女に、ウリの頬は次第に赤くなる。

 しかし、それはけして羞恥から来るものではなかった。みるみるうちに耳や鼻っ面も赤くなる。それどころか顔全体がイシツブテの如くしわくちゃになったかと思えば、トージョウのたきもビックリの涙がドバドバと溢れ始めた。

 

「う、うぅ~~……ゲッコォ~~~……!!!」

「ゲ、ゲコ……!?」

「ぶっちゃけ……ぶっちゃけ寂じい゛よ゛ぉ゛~~~!!!」

 

 ここまで来たら恥も外聞もなくウリは大声で泣き喚く。

 

「今だから言うけどッ、ウチ、アンタを兄貴から貰って嬉しかったんだッ……!!! これで一人前のトレーナーだとか、このままチャンピオンにでもなれちゃうんじゃとか、期待で胸がいっぱいになってざ……!!!」

 

 鼻水を垂れ流しながら抱き着くも、ゲッコウは嫌がった様子を見せない。

 それどころか、大泣きする少女の姿が何かに触れたのか、じわじわと目尻には大粒の涙が浮かぶ。当然、視界は涙で歪む。

 すると不思議なことが起こった。歪んだ視界に何かが映し出されていくではないか。

 

 

───これは、きっと……。

 

 

 

『よォーし!!! 今日からウチがアンタのトレーナーだ、よろしくなァ!!!』

『最初っから兄貴みたいにゃ行かないだろうけどさ……2人で頑張ろうなっ!!!』

 

 

『コラぁー!!! 何してんだゲッコウ!!! またひと様に迷惑かけてェ~……!!!』

『はぁ~……ほら、謝りに行くぞ』

 

 

『……なに素っ頓狂な面してんのさ。迷惑掛けたら謝るのは当然だろ』

『ウチはアンタのトレーナーなんだ。アンタの責任はウチの責任だッ!!!』

 

 

『……まるでダメなトレーナーかもしれないけどさ、そのぐらいはしなくっちゃな』

『アンタの強さはよく知ってる。だから、それまででもいいからさ……アンタの『おや』で居させてほしいんだよ』

 

 

───な? ゲッコウ……。

 

 確かに彼女はトレーナーとしては半人前だったかもしれない。

 だが、半人前なりに努力していた。半ば自暴自棄になり喧嘩を売り続け、その度に迷惑を掛けていた自分を見捨てず、根気よく傍に寄り添い続けてくれた。

 もしも彼女が途中で諦め、自分を見捨てていたと思うと───だが、結局最後まで彼女はそうしなかった。自身の手に負えないと自覚した上で、最善を尽くそうとしてくれていた。

 

 その姿がどれだけ嬉しく、

 その姿がどれだけ温かく、

 その姿にどれだけ勇気づけられたことか。

 

 それを思うだけで、ゲッコウは易々と我慢の限界を迎えてしまった。

 

「ゲ、コ……ゲコォ……!!!」

「うぁあぁんあんあんあん……!!!」

「グワァグワッグワッ……!!!」

「うあああああんあん……!!!」

「グワアアアアアアアアアア……!!!」

「うあああああああああああ……!!!」

 

 堰を切ったように涙を流すゲッコウもまたウリを抱きしめ、室内に大反響する泣き声を上げる。

 そんな2人の時間を邪魔する者はなく、コスモスでさえ『仕方ないですね』と泣き終えるまで待つことにした。

 

「?」

 

 すると、不意に少女の肩に何者かの手が置かれた。

 

「先生?」

「……」

「……はい、分かりました」

 

 レッドもまた観客席から下りてきた後、口を結んだまま沈黙を貫いていた。

 これは彼も静かに待つべきと訴えているのだろう。

 そう受け取ったコスモスは眼前の光景を、終わるまでいつまでもいつまでも待ち続けていた。

 

───ブルルルルルッ。

 

(……マナーモード?)

 

 その間、小刻みに揺れ続けるレッドの振動にクエスチョンマークを浮かべていたが、それが今にも貰い泣きしそうな師の我慢の表れであるとは終ぞ気づけなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 場所を変えエントランスに来た一同。

 

「大変長らくお待たせいたしました……」

「かしこまり方が司会者のそれですね」

 

 深々と頭を下げるウリにコスモスがツッコむ。

 しかし、尚も謝罪の姿勢を崩さない少女はそれは至極、大変、と~~~っても申し訳なさそうな声色で続ける。

 

「いや……だって、一時間ぐらい待たせちゃったし」

「そうですね。私としてはそちらが枯死しないか冷や冷やしましたが」

 

───人って一時間泣けるものなんですね。

 

 こうしてコスモスは新たな知識を得た。

 

「まあ、ゲッコウガの方は枯れたみたいですが」

「食卓から零れ落ちて忘れ去られた切り干し大根みてェでィ」

「ケッ……コッ……」

 

「おいしいみず飲む?」

 

 キュウが辛辣な比喩を用いる程度にはミイラになっているゲッコウに、レッドによる給水が入る。

『リュックに入れてたらそれ3分の1ぐらいスペース占めるんじゃねぇの?』サイズのおいしいみずが、惜しげもなくゲッコウの口の中へ注ぎ込まれる。

 

 すると、あ~ら不思議!

 あんなにカラカラだった体表があっという間に瑞々しく……!

 

「コウガッ!!!」

「よし、復活」

 

「乾燥わかめみたいですね」

 

 これからの手持ちに容赦のない比喩が突き刺さる。

 すぐさまゲッコウも主に向かってガンを飛ばすも、これで狼狽えるようでは彼のトレーナーは務まらない。三徹したネイティオのような眼力で見つめ返せば、大抵数十秒後には相手の方から目を逸らす。

 

「(改めてなんだが、本当にあれで上手くやってけんのかィ?)」

「(心配し過ぎだって。喧嘩するほど仲が良いって言うだろ?)」

「(眼球カッサカサになるまでメンチ切るのァまた別の話じゃねェか?)」

 

 閑話休題(それはともかくゴルダック)

 

「コスモスさん! ホントにお世話になったね! 恩に切るよ!」

「そんなかしこまらなくったって構いませんよ。また連絡します」

「うん! 次に行くならツナミタウン? 近いもんな!」

「私もそのつもりですね」

 

 カチョウタウンから南。

 ホウジョウ地方とセトー地方を繋ぐ橋の一つ『虹色橋』を渡れば、次なるジムが待ち構えている町まであっという間だ。

 

「ツナミジムはくさタイプだったっけか……でも、コスモスさんなら大丈夫だろ! めちゃくちゃ頑張ってるし、次だって勝てるさ!」

「当然です。まあ、今日のところはジム戦したばかりなので出発は後日にしようかと考えていますが───」

「あっ、そうだ! ちなみにツナミジムはお洒落なダイニングバー? みたいなお店でさ! 出てくる料理がおいしかったんだよなァ……」

 

 カチョウジムとは違った雰囲気だなぁと感想を抱いたところで、ウリの口から耳寄りな情報が飛び込んで来た。

 

「特にきのみとか使ったジュースが凝ってて!」

「ジュース」

「あとさ、スイーツも出てくるんだよ! あれも甘くて美味しかったなァ……」

「スイーツ」

 

 ジュースやらスイーツといった単語を耳にした瞬間、コスモスの脳味噌が活発に動き始める。この少女、甘い物には目がないのだ。ズバットぐらい目がない。

 甘露な響きを聞いた途端、頭蓋の中では脳汁が溢れるやら、口の中では唾液が溢れるやら大洪水だ。

 

「なるほど……まあ、私には関係ないことですがジム戦の前に自分の目で実物を見てみたいことですしね。用意ができ次第すぐにでも出発しようかと思います」

「え? 今出発は後日って言わなかったっけ?」

「聞き間違いでしょう膳は急げとも言います名残惜しいですがまた会えるのを心より楽しみにしています」

「心より楽しみにしているにしては早口じゃないかっ!? 倍速音声ぐらい早かったよ!?」

 

 

 

「あ~……ちっと言いにくいんだがなァ」

 

 

 

 今すぐにでも出発しそうなコスモスをウリが抑える中、苦笑を浮かべるキュウが口を開いた。

 

「今な、虹色橋に交通規制が掛かっててんだ。しばらくは渡れねえぞ」

「え」

「何でもポケモンが暴れたとかなんとかでな。橋が一部崩落してるみたいなんでィ。結構な大事にもなってるみてェで、今もジュンサーさん達が現場で色々やってんだ」

 

 少なくとも二、三日で通れるようにはならないらしいとのこと。

 その情報を聞き終えるや否や、コスモスは無表情のまま膝を折り、大地に頭を垂れた。

 

「私が一体何をしたッッッ」

 

「お、おぉお、そこまで落ち込むか……」

 

 西の橋でも渡れず仕舞い。

 この少女、橋に関して呪いにでも掛かっている可能性が否めない。

 

 全員が憐みの視線を送る中、常時無表情のレッドが何かを思いついたように一歩前へ出た。

 

「おれがポケモンに乗せて行くよ」

「せ、先生……」

「海なり空なり、好きな方を選んで」

 

「いや、海も空も交通規制が掛かってんだって」

 

 ガクッ。

 

 ザッ。

 

「レッドよ、こういうものには使い時があるのじゃ」

 

「自分で自分に言うセリフかィ?」

 

 事が事である為、海路も空路も規制が掛かるのはよくある。

 ポケモンに乗って移動すればいいじゃない! とお姫様が言っても、そうは御上が許さない。

 絶望に打ちひしがれる師弟。

 そんな彼らを見かねたキュウは助け舟を出す。

 

「旦那達が構わねェならイリエシティにでも立ち寄ったらどうだ?」

「イリエシティ……とは?」

「リーグがある町のことですね」

 

 首を傾げるレッドに対し、コスモスが補足を入れる。

 

「ホウジョウ地方……それどころかセトー地方を含めた二つの地方の中でも最大級の都市です。それを踏まえてポケモンリーグが設立されていますし、なんならコンテストとか色んな施設が揃っています」

「へぇ」

「とりあえずホウジョウ地方へ観光に来るならここ、といった町ですね」

 

 一頻り補足を入れ終えたところで、再びキュウが口を開く。

 

「時間を潰すにゃちょうどいい。それに交通規制が終わりゃ、あそこから出てる船の定期便でツナミに直行できるしな」

「確かに足には困らなさそうですね」

「それに」

 

 好青年からジムリーダー───否。

 一人のポケモントレーナーへと表情を変えたキュウが、不敵な笑みを湛えてこう告げた。

 

「一度ァ自分の立つ大舞台……その目で見んのも悪かねェだろ?」

「……なるほど」

「イベントでもやってりゃ中にゃ入れる。今の時期ァ……あー、悪ィ。何やってるかまでは覚えてねェが、運が良けりゃ立ち入れるかもな」

「ありがとうございます」

 

 情報をくれたキュウに礼を伝えながら、コスモスはレッドの方を向いた。

 

「それでは次はイリエシティに向かう、ということでよろしいでしょうか?」

「うん。おれはいいよ」

「出発も明日以降で良さそうですね」

「それならさッ! 今日は送迎会ってことでごちそう作るよ!」

「いいんですか?」

「いいもなにも、『おや』としてゲッコウをお見送りしなくちゃだしな!」

 

 吹っ切れたように晴れやかな笑顔を浮かべるウリは、『腕によりをかけるよ!』と胸を張る。

 

「それじゃあ今日のところはゆっくり休息を───」

『おーい!!』

「うん……?」

 

 帰途につこうとした、まさにその瞬間だった。

 遠方より聞こえてくる声に振り返れば、何やら見たことのあるダイバースーツを着た偉丈夫が走ってくるのが見える。

 

「アオギリさんですね」

「用事でもあるのかな」

「さあ?」

 

「いよぉし、間に合ったな嬢ちゃん!!!」

 

 あれだけの全力疾走を息切れせずにやってきたアオギリは、コスモスの眼前に立つや、にかりと白い歯を覗かせる。これでもまだ泣く子がもっと泣き喚く凶悪スマイルになるというのだから、世の中は理不尽だ。

 

 それはさておき、

 

「そんなに急いでどうされたんですか?」

「なに、ちょっとした野暮用よ」

「じゃあ私は失礼した方が良さそうですね」

「重要な用事だ! それも嬢ちゃんにだ!」

「私に?」

 

 無表情でこそあるがひしひしと溢れ出る面倒臭いオーラは、機微に敏い人間には誤魔化せない。

 アオギリも大勢の上に立つ人間だ、人を見る目はある。コスモスの反応がよろしくないと理解した上で、早速と言わんばかりに本題に移った。

 

「嬢ちゃん、なんでもマグマ団の奴等がスポンサーになってるってな」

「? どうしてそのことを」

「経緯はどうだっていい。そこでだ……オレらも一つ噛ませちゃくれねェか?」

「……ほぅ」

 

 コスモスの目の色が変わった。

 そしてアオギリもまた、ここぞと言わんばかりに畳みかける。

 

「こいつは投資って奴だ。そうだな……マグマ団より色を付けるのも吝かじゃねえ。そこでだ!」

 

 途端に声量を押さえたアオギリがコスモスに耳打ちを始める。

 

「(正直な話、いくらぐらい貰ってるんだ?)」

「(そうですね……ごにょごにょ……ぐらいですかね)」

「(なんだとッ!? アイツらそんなに出してやがるのか……!?)」

「(これでも企業がバックに居る身の上ですので。まあこういうのは気持ちですから、金額なんてさほど問題ではありませんよ。お名前を貸していただけるだけでもこちらとしてはありがたい限りです、ええ)」

「(ぐぬぬ……いや、男に二言はねえ。だったら……ぐらいでどうだ?)」

「(……実のところ、お世話になっている施設に仕送りなどもしているので苦しかったり……)」

「(ぬ、ぬぬぬ……!? ……わ、分かった。じゃあ……だ!)」

「(……ありがとうございます)」

 

 商談成立。

 他人には大っぴらに明かせない話が終わるや否や、コスモスはホクホクとした顔でレッド達の話の輪に戻ってきた。

 

「お待たせいたしました」

「話済んだの?」

「はい。なんでもトレーナーとしての資金援助をしてくださるとかで」

「……そっか」

 

 本当に。

 本当に極僅かではあったが、少女の口角が吊り上がっていることに気づいたレッドはこう思う。

 

(……よっぽどたくさんお金貰えるのかな?)

 

───そりゃあまあ、ふっかけましたもの。

 

 答え合わせはないまま、真相は闇の中へ沈む。

 後に秘密裏にアクア団のスポンサー料を調べ上げたマグマ団が、対抗意識を燃やし値段を吊り上げ、今度はアクア団が……というオタチごっこを繰り返し、少女がウハウハな想いをするのはまた別の話。

 

 

 

 ***

 

 

 

 夕空が赤く燃えている。

 地平線まで燃える赤に、照らされている頬もまるで照っているかのように紅潮している

 だが、青年の頬が赤く染まっている理由は、単に空の色を反射しているからではない。内より湧き上がる熱情に従っていたからとでも言おうか。

 

「ふぅー……っとォ」

 

 全身の隅々まで行き渡る疲労感に逆らわず後ろから倒れ込めば、砂浜の冷たい感触が一気に背中全体に広がった。

 自主トレーニングで火照った身体には何とも心地よい清涼感だ。

 しかし、青年───キュウは未だに胸の内に渦巻くものを取り除けぬままでいた。

 

(なんだァ、この胸のざわめきは)

 

 一時は久方ぶりの敗北に思うところがあったのかと考えはしたが、勝負事には熱くなり易い反面、敗北をいつまでも引き摺る性質でもなかった。

 

(となりゃあ、こいつァ一体……?)

 

「───ラプラス、『こおりのつぶて』!」

「!? ───コウガァ!!」

「ゲコッ!!」

 

 突如として聞こえてきた攻撃指令。

 キュウと彼の隣に寝転がっていたコウガが飛び起きれば、技を指示せずとも繰り出された『みずしゅりけん』が飛来する小さな氷塊を撃ち落とす。

 

「誰だッ!?」

「ぐわはっはっ!! ジムで挑戦者に負けたと聞いてしょぼくれてると思ったが、心配はなさそうだの」

「しッ……!?」

 

 キュウが下手人を目にした瞬間、敵対心に満ちていた表情は一変、驚愕一色に染まった。

 彼に攻撃をしたラプラスには老爺が乗っていた。日に焼けた小麦色の肌に、豊かに蓄えた白髪の髭。それだけを見れば健康的な老人にしか見えないが、両肩に入れられた藍色の刺青が得も言われぬ厳格さを漂わせている。

 

 キュウは彼を知っていた。

 何を隠そう、彼こそがコスモスにとってのレッドのような存在───。

 

「師匠ォ⁉」

「久しいな、キュウ。直接会うのは一年ぶりか」

「直接って……施設はどうしてきたんだァ⁉」

「施設? 馬鹿言え!! まだまだ施設の世話になるほど耄碌しとらんわい!!」

「いや、そっちの施設じゃなくってよォ……!!」

 

 実にツッコみ辛いボケだった。

 仮に乗っかったとして、後でどのような仕返しが来るか分かったものではないだろう。

 

 そんなこんなで普段の居住まいからは想像もできないような狼狽えぶりを披露するキュウに、茶目っ気を見せた老爺は今一度高らかに笑い声を上げる。

 

「冗談冗談!! バトルパレスなら任せてきたわ。お前と違って信頼に足る人間にな」

「ッ……!」

「キュウよ、これを機に人に頼ることを覚えたらいい。責任とは何も自分で全てをこなさなければならんという意味ではない。信頼に値する人間を育てる、そして任せる……これもまた責任だ。いいな?」

「……わァってるよ」

「ぐわはっはっ!! 分かっておるつもりだったのだろう。だから挑戦者に足元を掬われたんだろうに」

 

 そこまで言われたところで、キュウはチーゴのみを嚙み潰したような表情へと変わる。痛いところを突かれたのは明白だった。

 ここまで彼に物言えるのは広い世界でも有数。

 中でも師匠の───そして、ホウエン地方ではパレスガーディアンを務める───ウコンぐらいしか、ズケズケと言うことは許されないだろう。

 

 再会してすぐ有難~い説教を受けて辟易した様子の弟子、その隣にウコンは腰を下ろす。

 つられてキュウも腰を下ろせば、怪訝そうに彼は問いかける。

 

「んで? わざわざ隣の地方まで説教しに来たってワケかよ?」

「久しぶりにお前の顔を拝みに来たのは真実だ。だが用事はそれだけではない」

 

 夕焼けを拝むウコンに、一拍置いたキュウが心当たりがあると口火を切った。

 

「……虹色橋の件か」

「然り」

 

 先日崩落したばかりの橋。

 それに師が言及したのを皮切りに、キュウは自身が抱いていた違和感をつらつらと口にし始めた。

 

「橋が崩落したからって海と空、両方の道が封鎖されるなんざ普通はねェ」

「そうだ。お前も未熟とは言えジムリーダーの一人。何も聞いとらんはずはないだろう?」

 

 あァ、とキュウは首肯する。

 

「橋は自然に崩れたんじゃねェ。()()()()()()()()、ってのが御上の見立てだ」

「やはりか」

「やはりって……師匠は何か知ってんのかァ?」

「なに。ちとわしの肩が疼いただけよ」

 

 そう言ってウコンは自身の刺青をなぞった。

 知らぬ人間にはただの紋様にしか見えぬが、一部の人間───特に、ある超古代ポケモンを目にした者からすれば大きな意味を持つ。

 だからこそ、聞きかじりではあるがその意味を知っているキュウは大きく瞳を見開いた。

 

「肩って……カイオーガの件は終わったんじゃねェのか!?」

「そうだ。ホウエンを襲った未曽有の大災害は、勇気ある少年と少女の手によって鎮められた」

「だろう!?」

「だが、今回はまたそれとは別」

 

 一拍置き、夕暮れの方を向いていたウコンの瞳孔が弟子の方を向く。

 

「キュウよ、ホウジョウの地のこんな言い伝えは知っているか? ありとあらゆる───八百万の神々が、一年に一度、このホウジョウの地に集うという伝承だ」

「知ってるも何も、『カミアリの月』のことだろォ? ここいらの人間にゃ耳にたこができるほど聞かされる伝承だ」

 

 先の説教とは違った意味で辟易した様子で首を傾げるキュウ。

 ウコンが何を言わんとしているのか、その意図を図りかねていた。

 

 しかし、ウコンは努めて神妙な面持ちを崩さずに言葉を口にした。

 

「───もしも、もしもだ。その伝説が嘘偽りのないものだったとしたら、お前はどう思う?」

「どうって……スゲェなって───……まさか!?」

「そのまさかだ」

 

 淡々と、だが重みのある声でウコンは続ける。

 

「集いし神々のポケモンを手中に収めんとする悪意が今、このホウジョウ……いや、セトーをも巻き込み蠢動している」

「……根拠は?」

 

 必要なのは情報の精査だ。いかに師の口から出た情報とは言え、町をも守るジムリーダーとして出所が曖昧なものを考えなしに信じる訳にはいかない。

 そんな思いを目で訴える弟子を前にしたウコンは、蓄えた白髭を撫でながら満足そうに頷く。

 

「……ところでキュウよ、『蒼海(うみ)の王子』という言葉は聞いたことがあるか?」

「蒼海の王子ィ? いや……」

「どんなポケモンとでも心を通い合わせる力を持ち、海を住処とするポケモンを連れ従わせる姿から『海の王冠』とも呼ばれるポケモンでな」

「……マナフィか!」

 

 分類は『かいゆうポケモン』。

 冷たい海の底で生まれ、広い海を泳ぎまわっては、自分の生まれた海へ戻るとされる幻のポケモンである。

 生まれた瞬間から他者と心を通い合わせる能力を持ち、一説には海を広げたとされる超古代ポケモン・カイオーガとも心を通い合わせられた伝承さえある。

 

 しかし、幻と称されるだけあり目撃情報は極僅か。数少ない伝承も主にシンオウ地方に集中しているポケモンであり、一見ホウジョウ地方には関係ないと思われるポケモンだが───。

 

「なんでも聞くところによればカチョウとツナミを繋ぐ虹色橋近辺で、度々マナフィの目撃情報があったようでな……」

「待ってくれ、師匠! マナフィの目撃情報だって? ぼくも長いことカチョウに住んじゃあいるが、んな噂聞いたことなんざねェ!」

 

 地元民でも知らない目撃情報なぞ、信憑性に欠ける。

 しかしながら、師の言葉を頭ごなしに一蹴する訳にもいかず、キュウはウコンに詰め寄った、まさにその瞬間だ。

 

「カイキョウだ」

「!? カイキョウっつったら……」

「ああ……───『狭間の地』だ」

 

 地図で言えば、カチョウタウンの南東。ツナミタウンから見て北東。

 陸路はなく、海路しか存在しない孤立した島は、かつてどの地にも根付けなかった者達が集まって作られた集落とされる。

 そうした経緯から昨今に至るまでどことなく排他的な空気が抜けず、閉鎖的と周知されていた場所だが……。

 

「少なからず余所との交流が増えた今だからこそだろう。そこにだけ言い伝えられていた伝承を耳にした輩が、マナフィを捕えようと動き出した」

「それが虹色橋の崩落に繋がった、って……ちと飛躍し過ぎじゃあねェか?」

「お前の言うことも一理ある。だが、行き過ぎた飛躍と吐き捨てるにはここ最近色々と起き過ぎた」

「……ロケット団か」

 

 記憶に新しいロケット団のコイノクチ湿原での悪事。

 野生のポケモンを根こそぎ捕獲し、兵器として利用しようとした奴等の企みは今思い返しても腸が煮えくり返ると。

 そう言わんばかりに歯を食いしばるキュウに、ウコンが言葉を続けた。

 

「わしも探りを入れる。なにせカイキョウは『時と空に忘れ去られた地』とも称される場所……我々も知らん伝承がいくつ転がっていてもおかしくはない。それを求めようとする人間についても、な」

「……任せていいのか?」

「他人に頼れと言ったばかりだろう。師匠にぐらい素直に頼れ!」

 

 呵々大笑いするウコンがキュウの背中をバンバンと叩く。老人とは思えないパワーだ。叩かれるキュウの口から空気と共にうめき声が漏れる。

 

「……任せた師匠。ぼくぁ中々カチョウ(ここ)から離れられないからよォ」

「いい、いい。誰にも根を下ろし、自分を育むに相応しい地とはあるものだ。お前にとってはここがそうなだけで、離れづらいのも道理だろう」

「……恩に着る!」

「今更お前に着せる恩が一つや二つ増えたところで変わらんわい!」

 

 ぐわはっはっ、と。

 沈み始めていた夕日が半分ほど隠れたところで、ウコンは腰を上げる。

 

「さて……そろそろ宿に泊まるとするか。お前はこれから夕餉なのだろう?」

「そうだけどよォ。なんだ? 師匠は一緒に食ってかねェのか?」

「先客が居るんだろう? いきなり知らんジジイが来たら困るに決まっとるわい!」

 

 『それにまだ用事もあるでな』とウコンは背を向け歩き始める。

 

「達者でな。お前の元気な顔を見れて満足だわい」

「師匠……そちらこそお達者で!」

 

 深々と頭を下げる弟子に対し、師はフランクに手を上げるだけで去っていく。

 そうしてウコンの背中が見えなくなった頃、ようやくキュウは頭を上げた。夕日はすっかり沈み切っていた。ウリに遅れるかもとは伝えていたから、今頃先に送別会が始まっているかもしれない。

 

「そろそろ帰るか……なァ? コウガ」

「ゲコッ」

 

 なにせ兄弟の新たなる門出だ、顔を出さない訳にもいくまい。

 そう思い一歩踏み出そうとした、その瞬間だった。

 

「……いや、待てよ」

「ゲコッ?」

「そんなはずは……だが……」

 

 ブツブツと独り言を呟き始める主に、コウガが怪訝な声を上げる。

 

「ゲコッ!」

「っと!? 悪ィ、ちと考え事をしちまってな……」

「ゲコ?」

「なんでもねェ、ただの邪推さ。さっさと帰ってメシにしようぜ」

 

 そう自分に言い聞かせ、キュウはそそくさと歩を進める。

 コウガも納得はしていない様子だったが、深い詮索は野暮とでも考えたのだろう。瞼を閉じ、もう一度刮目した時には黙って主の背中に付き従っていた。

 

(悪ィな、コウガ。だが、変な邪推口走って心配させるのもあれだしよ)

 

 この不安に明確な根拠はない。

 単なる偶然と言い切ってしまった方がずっと楽には違いない、にも関わらず、心のどこかでそれを良しとしない自分が居るのをキュウは否定できなかった。

 

(『カミアリの月』がリーグ大会と被ってるからってよォ……心配し過ぎだぜ、ったく)

 

 神々が集う月とリーグ本戦の日。

 その両方が重なるなど単なる偶然に過ぎない。

 たとえ重なったところで何の意味を持つのかなど、その事実に気づいたキュウでさえ思い至らなかった。

 

 

 

───その日に至るまでは。

 

 

 

 




Tips:カミアリの月
 ホウジョウ地方に言い伝えられる伝承であり、ありとあらゆる地方に散らばる神と呼ばれるポケモン達が年に一度ホウジョウの地に集うとされている。
 神と呼ばれるポケモンは定義があいまいだが、少なくとも火の神と呼ばれるファイヤー、氷の神と呼ばれるフリーザー、雷の神と呼ばれるサンダー、そして海の神と呼ばれるルギアが集うとされていることは確認されている。
 また、カイキョウタウンにのみ虹色橋周辺に『蒼海の王子』『海の王冠』と呼ばれるマナフィが出現するのも確認されており、何かしら強大な力を持ったポケモンがホウジョウの地周辺に現れること自体には信憑性が高いと考えられる。
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