レッド「口説かれてる女性(ジムリーダー)がじごくづきを食らっていた」
コスモス「自分の手持ちにですが」
「でっかいジム……」
「ピ~カァ」
一足先に観戦席へやって来たレッドは、モニターでコスモスの進捗を見守っていた。
巨大な流れるプール。所々でキングドラが渦潮を起こして進路を変えている為、何かしらのアクションを取らなければ、ジムリーダーの下まで辿り着けないという内容だ。
それにしても、
「アトラクションみたい……俺もやってみたい」
「ピカピ~カ」
「ピカチュウもそう思う?」
遊園地にありそうな仕掛けの数々に、年甲斐もなく心を躍らせるレッド。
もしも挑戦者として来ていれば、ジム戦そっちのけで楽しんでいたかもしれない。
「でも……やっぱりバトルを観る方が、俺は楽しいかな」
「ピッカァ!」
モニターに目を遣り、仕掛けがある部屋で繰り広げられているバトルを観戦する。
今、コスモスはジムトレーナーと戦っていた。渦潮を解除する為には、キングドラに指示を出しているジムトレーナーに勝たなければならないという寸法だ。
このジムはドラゴン専門。当然、ジムトレーナーの繰り出すポケモンもドラゴンタイプばかり。
第一のジムにしては、中々厳しい相手だろう―――新米トレーナーであればの話だが。
モニターの映し出されているバトルは迫力満点。
強いポケモン同士が戦っている絵面が面白いのではない。
相対するトレーナーが己の知恵を振り絞り、創意工夫を凝らした戦術を以て、本気で立ち向かってくる相手を打ち負かそうとする熱意が垣間見えることこそが、ポケモントレーナーの心を震わせるのだ。
(頑張れ、コスモス……)
最初こそ乗り気でなかったレッドも、今となっては前のめりになりながら、彼女のバトルを応援する。
(『この
やや邪な考えを抱きながら、だが。
***
「シードラ! “みずでっぽう”よ!」
「ドラッ!」
「ズバット、回避」
「ズバッ」
水上を飛び回り、攻撃の機会をうかがっているズバットに対し、シードラが“みずでっぽう”を吐き出す。
結構な勢いで放たれる水弾は、水飛沫をまき散らしながら、ズバットの小さな体躯を穿たんと宙を疾走する。
だが、鳥ポケモンとは違い忙しなく翼を羽ばたかせるズバットは、正確な狙いをつけたところですぐさま照準がズレてしまう。
結局、今指示した“みずでっぽう”は一発残らず避けられた。
「むむっ! なら、“えんまく”よ!」
作戦を変えるジムトレーナー。
目晦ましを指示されたシードラは、迷わず口から膨大な黒煙を解き放ち、一気にバトルフィールドを晦冥たる闇へと変貌させる。
「これなら貴方も見つけられないんじゃない!?」
「……」
「でも、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる! こっちは安全なところから狙わせてもらうわよ! シードラ、“バブルこうせん”!」
視界が不明瞭とあれば、接近戦を主体とするポケモンにとって距離を詰めること自体が難しくなる。
だが、シードラは遠距離攻撃に富んだ技を有していた。
安全圏からの狙撃。狙いすました一撃ではなく、ばらまくような広範囲攻撃を仕掛ければ、戦いが有利な方へ運ぶ―――ジムトレーナーはそう考えていた。
「……シードラ?」
しかし、出鼻を挫かれた。
「ちょっと、シードラ! “バブルこうせん”!」
「ドラドラ~……」
「シードラ!?」
いくら待っても技を出さないパートナー。
今一度指示を出せば、とても正気とは思えない鳴き声が返ってきた。
刹那、コスモスが動く。
「そこ、“つばさでうつ”!」
「ズバッ!」
乾いた音が響き渡る。
何が起こったのかとジムトレーナーは身構えた。次の瞬間、彼女の足下に水中に居たはずのシードラが墜落してきたではないか。
「んなっ!?」
「私の勝ち、ですよね」
何とも思っていないようなコスモスは、煙幕が滞留している中、迷わず自分の下に戻って来たズバットをボールに戻す。
まだ試合は終わっていない! と叫びたかったジムトレーナーであるが、目をグルグルと回しているシードラの状態を見れば、その言葉を飲み込まざるを得なくなった。
「ふぅ……戦闘不能ね。対戦ありがとう!」
「こちらこそ」
「それにしても、一体何をしたの? ウチだって何も見えなくなる“えんまく”ん中で“つばさをうつ”直撃させるだなんて……」
「……“ちょうおんぱ”です。索敵と混乱に使いました」
「“ちょうおんぱ”? ……あぁ~、なるほど!」
文字通り、超音波を繰り出す技だ。
ぶつけられた相手は混乱状態に陥り、時には訳も分からず自分を攻撃してしまう場合もある。
だが、ズバットが繰り出す超音波には二種類存在する。
一つ目は技としての“ちょうおんぱ”。二つ目は周囲の状況を把握する為、ソナーとして用いられる“ちょうおんぱ”だ。目の見えないズバットにとっては、超音波こそが視覚としての役割を果たす。例え“えんまく”で視界を遮られようが、元々目の見えないズバットには関係のないことであり、寧ろ“ちょうおんぱ”で相手の場所を索敵する真似ですら可能であった。
「ありゃりゃ! それじゃあウチのは悪手だったって訳かぁ~……!」
「そろそろよろしいですか?」
「おっと、ごめんごめん! ドラちゃん、“うずしお”止めて!」
「ドラッ!」
表にこそ出さないが痺れを切らそうとしていたコスモスが催促し、ジムトレーナーにキングドラの仕掛けを解かせた。
普段は深海で暮らし、欠伸で渦潮を発生させるキングドラにとって、渦潮を作り出すのも止めるのもおちゃのこさいさい。海に縁のあるホウジョウ地方やセトー地方にとって、キングドラは切っても切り離せない存在であるのだ。
そうした歴史を踏まえての仕掛けなのだろう。
(ですが、維持費がかかりそう)
一刀両断。
コスモスにはキョウダンジムの仕掛けがお気に召さなかった。
(そもそもジムとはポケモンバトルの実力を測る施設。頭脳を確かめるつもりなら、最初からペーパーテストをすればいいんです。まったく……非合理この上ない)
コイキングボートを乗りながら、変化した水の流れに運ばれて次なる場所へと向かいながら思案する。
彼女は挑戦者でありながら、気分は監査員そのもの。
将来、己が統べるであろうポケモンリーグや関連施設がどのようなものであるべきか。裏から支配するのであれば、ゆくゆくはジムリーダーもロケット団員であると都合がいい。
(渦潮はセキュリティとして貧弱ですね。これだったらヤマブキのワープパネルの方がよっぽどシステムとしては有能です)
どこぞの会社が開発したワープパネル。うっかり設置した側が迷わなければ、セキュリティとして優れていることは把握していた。
ただ、設置費がかかる。
世の中金、金、金。何とも世知辛いものだ。
(まず掌握すべきは経理部門……)
色々と頭を巡らせていれば、時間が過ぎるのはあっという間だった。
「来たなっ! ここを通りたくば……」
「ズバット、GO」
「お……って、最後まで言わせてくれないのかっ……! 行け、チルット!」
立ち塞がるジムトレーナーの口上を遮り、さっさとバトルを始めようとするコスモス。
(ルカリオよりも、今はズバットを鍛えたいところ……)
手持ちの強さのバランスを考慮し、ズバットを集中的に育成する方針を固めている彼女は、ジムトレーナーからジムリーダーまで、可能であればズバットだけで突破しようと考えている。
無論、それが容易い真似ではなく、無策で試みたところで瀕死になる未来が見えていることから、町で購入した傷薬やきのみをリュックに詰め込んでいた。
(ゴルバットにはいつぐらいに進化するかな……)
白い雲を彷彿とさせる翼を有すチルットに、“つばさでうつ”を叩き込むズバット。
ズバットが進化すればゴルバットに、そしてさらに進化すればクロバットに。
当たり前ではあるが、ポケモンは進化した方が強く成長する。余程の理由がない限り、バトルを生業とするトレーナーのほとんどは手持ちのポケモンを進化させるであろう。
コスモスも例外ではなく、可能な限り早く最終進化系へと進化させたいと考えていた。
それまでに何戦バトルを重ねればいいものか……今のところ、学会でも具体的な数字は出ていない。
しかし、進化条件はある程度明らかになっている。
ゴルバットへの進化は、単純にズバットが一定のラインまで強くなれば良い。問題はクロバットであるが、こちらはトレーナーに懐いている必要があると言うではないか。
(捕まえてから気づいたけれど、なんて面倒なポケモンを捕まえちゃったんだろう……これなら石で進化できるポケモンを捕まえた方が良かった? でも……)
他ならぬ師事するトレーナーのお題として提示され、捕まえたポケモンだ。
今から逃がし、別のポケモンを捕まえるというのも非合理な話。
であれば、ちゃっちゃと戦力になるラインまで育て上げ、別のポケモンの育成に取り掛かるのが現実的―――かと思ったが。
(……いや、むしろそれがいいのでは?)
良いことを閃いたかのように、顎に手を当てて思案していたコスモスは面を上げた。
その間にも適宜指示を出し、バトルを優位に進めていく。今、チルットはズバットの“どくどくのキバ”を受け、毒状態と化している。後は黙って回避に徹しているだけで勝負がつく程度に追い詰めている。
ならば、思案に徹しても問題はないと閃いた案を吟味するコスモス。
彼女が考え付いた案とは、手持ちを“なつき”で進化するポケモンで固めるという方針だった。
一見、進化に手間がかかり面倒極まりないかと思いきや、そうとも言い切れない。
(まさか、なつき進化するポケモンで手持ちを固めたトレーナーを悪の組織とは思わないはず……! カモフラージュとして最適!)
あえて言おう。コスモスは馬鹿だ。
頭は良いのだが、それとは違ったベクトルで頭が悪い。
(そうと決まれば……)
かつてない妙案(と本人は思っている)を閃いて意気揚々としているコスモスは、チルットを下し、目の前まで戻ってきたズバットに面と向かう。
勝利を喜ぶ様子は見せない。
昨日捕まえたばかりとは言え、ここまで感情の変化を面に出さないのは、感情の起伏が面に出ない主人に影響されたからか。
だからこそ、
「頑張ったね、ズバット! 偉い! ほ~ら、ご褒美にズリのみあげる!」
「ズバッ!?」
突然の変わり身に驚かされた。
山の如く不動の顔が、今は満面の笑みに彩られ、戦い終えた自分を労うように体中を優しく揉み解してくれている。
ズバットは困惑しながらも、差し出されたズリのみを頬張る。
甘く、そして酸っぱい。
まるで今の自分の心境を表すような味わいだった。
しかし、頭ごなしに突っぱねる程に気持ち悪いものでもなく、ズバットはただただ為されるがまま、身を委ねてしまうのだった。
それを見たジムトレーナーはと言うと、「なんてポケモン想いな子なんだ……!」と感極まる胸を押さえつつほほえみを湛える。
モニター越しに眺めていたレッドでさえ、「ああいう子だったんだ」と今までの印象を塗り替えるくらい、彼女の演技は迫真であった。
誰もがコスモスをポケモン好きな少女と捉えていく。
ただ一人―――否、一体。ルカリオだけを除いては。
「ガウ……」
ボールの中、彼女の真意を読み取る彼は、腹黒い主の浅はかな考えとズバットの満更でもない感情に呆れつつ、彼女がこれからの体裁をどのように取り繕っていくのかについて憂うのであった。
***
ジム戦専用のバトルコートに佇むピタヤ。
彼女は、これから始まるであろうジム戦に想いを馳せていた。
そもそも、彼女がジムリーダーになるまでには涙無しでは語れない長い歴史が―――いや、やっぱりそんなに長くはない。
町で一番強いからというだけで、人格もさほど問題視されなかった故にジムリーダーへと抜擢されただけだ。それこそリーグ関係者の強い頼みもあって断り切れず、だ。
(でも、アタシもジムリーダーになった以上、
他にもジムリーダーを切望して止まなかった者達は居ただろう。
それでも自分が選ばれた意味を彼女は探していた。
お人好しで押しに弱い性格は昔から。自覚してはいるものの、変えるのは容易な話ではなく、昔から損な役回りを演じさせられることは少なくなかった。
だが、それ以上に感謝もされた。困っている住民の頼みに応え、解決に走るのは嫌いではない。
例え断固として拒めない姿を晒し、新聞を何刊も勧誘され、男性には告白され、屋台の店主から様々な品を勧められ、ジムトレーナーの反対があっても「地方の文化を取り入れたい!」と訴える町長の頼みから維持費が莫大になったジム施設を作ることになっても。
―――いや、それ都合の良い女と思われてるだけですって。
同期のジムリーダーの辛辣な言葉が脳裏を過る。三十路を過ぎ、婚期を気にしている女性ジムリーダーの言葉だ。失礼極まりないが、嫌に胸に響いた。
「……ッ」
冷や汗が頬を伝うが、気を取り直すように頭を振る。
何も自分は全部が全部を断れない訳ではない。
嫌なものは嫌だし、ダメなものはダメだと断る。
そして何よりも譲れないものは、ポケモンバトルの勝利。自分に自信が持てず過ごした幼少期。誰かの役に立ってこそ自分の存在意義があると考えていた時期、ポケモンだけは見返りなく自分に居場所を与えてくれた。
そんな彼等の期待を裏切る真似はできない。
正直、自分がジムリーダーとして具体的にどのような役割を担っているか分からない。それでもただ一つ、挑戦者に易々とジムバッジを与えない―――負けないことを貫く意志が固まっている理由は、そうしたポケモンへの想いがあるからこそ。
決意を改める。
すると、やおら扉が開かれた。
挑戦者だ。
これから打ち負かす相手になるか、はたまた自分を下す相手か。
「さぁ……白黒つけようじゃない!!」
「もぐもぐ」
「うぇえぇぇええぇええ……?」
「もぐ……」
扉を開けながら、スナックバータイプの菓子を貪るコスモスに仰天するピタヤ。
まさか、まさかだ。これまで緊張したり好戦的な笑みを湛えたりして挑戦者が入ってきた光景は見たことがある。
しかし、あろうことか食べ歩きしながら入って来るとは夢にも思っていなかった。
「ごきゅごきゅ……ぷはぁ。失礼。ジム戦前に栄養補給をと思いまして」
「あ、あぁ……そうなの?」
「さ、始めましょうか」
雰囲気もへったくれもなかった空気が一変。
満杯だったペットボトルの中身を飲み干したコスモスは、目の色を変えてボールを構える。
そんな挑戦者を前に、愕然としていたピタヤの顔も引き締まった。
笑っていれば雑誌にでも載っていそうな絵になる美貌の持ち主の彼女も、今だけは女であることを忘れ、一人のトレーナーと化す。
張り詰める空気。長方形型のバトルコートの周囲―――否、バトルコートの一部である水場に波紋が広がった。
「いいねぇ……燃えるよ、そういうの」
とんだ大物が来たものだ。仕掛けを突破した以上、腕はある程度保障されているようなものだが、だからといって自分を倒せる訳ではない。
体の底から沸々と湧き上がるような感覚が呼び起こされる。
そう、これだ。これこそが自分が待ち侘びていたものだと、気づいた時には獰猛な笑みが顔には浮かんでいた。
「来なッ!!! 押し負かしてやるッ!!!」
鼓膜をビリビリ震わせる咆哮をゴングに、今、コスモスの初ジム戦が始まる。
Tips:(コスモスの)ルカリオ
昔、ロケット団施設で暮らしている時に出会った。
性別は♂、性格は臆病。
リオルの頃は臆病であったが、コスモスの下で強くなっていく内に彼女へ全幅の信頼を置いたことで、普段は気丈に振舞えている。
臆病な性格である分、波動での感知能力は冴えわたっており、索敵やバトルでの応用に存分に利用されている。
甘いものが大好物であり、特に好物なのは主人と同じくチョコレート。
覚えている技は、”はどうだん”、”あくのはどう”、”りゅうのはどう”etc……。
ジムリーダーと言えばどの地方?
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元祖! 伝説のはじまり カント―
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チコリータに厳しい旅路 ジョウト
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ケッキング強過ぎない? ホウエン
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一番目からA種族値125 シンオウ
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勝利の目前こそ熱い! イッシュ
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振袖が全員カワイイ カロス
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ジムというより試練ですな アローラ
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オーオーオオー♪ ガラル