愛と真実の悪を貫く!!   作:柴猫侍

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前回のあらすじ

ベガ「……博士、帰ってきませんわ……」

ジー「……上がって何か食べていくか?」

ベガ「いただきますわぁー!」

コスモス「何いただいているですか」


№054:ケンカするほどなんとやら

 

 ホーホーが鳴き止む明朝。

 

「おい。寂しい独り身に客が来てやったぞ」

 

 と、大層なご挨拶を口にするご客人が一人、ジー宅を訪れた。

 客人は麗しい銀髪が目を引くカイキョウタウンの村長だ。この村で不愛想なジーを訪れようとする住民は、彼女を除いてほとんど存在しない。

 たまにこうして訪れては世間話をするのも、娯楽の少ない離島にとっては十分な趣味になり得る。

 

 そんな訳でやって来た村長であるが、

 

「……なんじゃ、誰も居らんのか?」

 

 いいや、そんなはずはない。

 現に居間の方からはカチャカチャと食器がぶつかる音が聞こえてくる。となれば、食事中でたまたま聞こえなかったと取るべきだろう。

 

「まったく……それにしてもそろそろ耳が遠くなる歳か?」

 

 『寄る年波には逆らえんのぅ……』と勝手に哀れみながら、ゆっくりとした足取りで縁側の方へと回り込む。

 

「お~い、客人が来たぞ~い。もてなしの一つでも───」

 

「あぁ~~~!!! コスモスさん、今ワタクシのおかずを奪いましたわね!!?」

「気のせいじゃないですか? このケムリイモの煮っころがし美味しいですね、ヒョイパクッ」

「あぁ!? また! また奪いやがりましたわね!? 昔っからワタクシの分をあの手この手で奪っては食べ、奪っては食べ……もう我慢なりませんわ!! 堪忍袋の緒がプッツーンですわよ!!」

 

 なんか、増えてた。

 

「二人とも、喧嘩は駄目デース。皆で久しぶりのブレイクファスト、仲良くしまショウ!」

『うっ……もうお腹いっぱい……トイレ……』

 

「茶碗一杯食べただけなのに?」

「キミは相変わらず胃がちっこいねぇー」

 

 しかも一人だけではない。

 見慣れない子供が三人増えていた。気の強そうな緑髪娘、片言な青髪美少年(?)、全身黒ずくめの電子音声と、タマムシデパートも真っ青なレパートリーだ。どちらかと言えばヤマブキシティの一角に集うサブカルチャーなお店に出てきそうな雰囲気がある。

 

「ほう……これはこれは。一体全体どういう集まりじゃ?」

「あ、村長……おはようございます」

「おお、赤いの。これはそなたの生徒の知り合いか?」

「一応……」

 

 自信がなさそうに答えるレッドであるが、その原因が今目の前でくり広げられている攻防にあった。

 

「語弊ですね。私は毎回貴方に約束を取り付けていただいていたはずですが?」

「だとしてもですわ!! 毎回毎回給食のデザートを奪いやがりまして……食べ物の怨みは恐ろしいですわよッ!!」

「じゃんけんで負ける貴方が悪いです、あむっ」

「あ゛ぁ~~~!!? そ、それはワタクシが食べようとしていたころころマメの煮つけ……!!」

「別に小皿に取り分けられてる訳じゃないでしょうに。素直に他のマメを食べればいいじゃないですか」

「それが一番大きくて食べ応えがありそうでしたのっ!!」

 

 誰が言ったか、食卓は戦争だ。

 バッチバチに火花を散らすコスモスと緑髪の少女に、食事を作ったジーは終始沈黙を貫いていた。かつてないほどの喧噪をくり広げる中でも、黙々と自分で作った料理に手をつけている。

 

 一見すると騒がしくする少女達に不快感を覚えているように見えなくもない。

 が、しかし。

 

「そもそも貴方達一体なんですか。私が居ない間にこの家にやって来て……もっとタダ飯を食べているという自覚を持って食べる量を減らしたらどうです?」

「食べた量が増えたのは、そもそもアナタ達が森に行ってずっと帰って来なかったからでしょう!!」

「別に貴方達が来るって聞いてた訳じゃないですし」

「それにしてもですわ!! 夕方に帰って来るって聞いたから大人しく玄関に居座らせてもらったというのに!! おかげさまで朝昼晩ときっちり三食ごちそうになってしまったじゃないですの!!」

 

「わたしは別に構わない」

 

「あら、誤解なさらないで家主様。ワタクシの箸が進んでしまうのは、ただアナタの料理が絶品と呼ぶ他ないからですわ!!」

「ただたくさん食べた言い訳してるだけじゃないですか」

「お黙り!!」

 

 自身の料理を含むところなく食べ進める子供達を見る眼差しが、村長にはどこか柔らかなものに見えた。

 

(なんじゃ、存外悪い気はしてなさそうじゃのう)

 

 それにしても、子供が増えた理由はさっぱり分からなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「つまり、あやつらはテリアに用事があって来たという訳か」

「そうみたいです」

 

 縁側に腰掛けた村長とレッドは茶を啜っていた。

 騒がしい朝食を終えれば、当の新参者らは『おい、表出ろよ』と昔の不良を彷彿とさせるスピーディーさでコスモスに連れて行かれた。

今頃彼女達は近場のバトルできそうな平地にでも向かっているだろう。

 

「青春じゃな」

「青春……?」

 

 まあ青春か。

 そう納得することにしたレッドは湯飲みに入っていた茶を飲み干した。

 

「よし……」

「む? どこか行くのか?」

「ちょっと様子を見に……」

 

 健全なポケモンバトルで済めばいいが、今朝の様子を見るからに約一名は自身の生徒とピカチュウのせいでんきばりにバッチバチな間柄らしい。

 賢明なコスモスのことだ。自ら仕掛ける真似こそしなさそうではあるが、相手の沸点次第では仕掛けられ、リアルファイトに発展しても不思議ではない。ソースは自分と幼馴染(グリーン)だ。

 

(あの頃は若かった……)

 

 直接的な殴り合いに発展したのは、後にも先にもあれっきりだ。

 オーキド博士が止めても喧嘩は止まらず、最終的にはもう一人の幼馴染に海に背負い投げされてようやく終息した。危うく21ばんすいどうの藻屑となるところだったのは今でも鮮明に思い出せる。

 

 そんな青い時代に青い名前に投げられた思い出を振り返り、万が一の仲裁役としてコスモスの下へ赴こうと考えていたレッドであったが、

 

「ああ、ちょっと待て」

「ほわっつ?」

「外国被れが移ったのぅ」

 

 それはいいとして。

 

「実はそなたに頼みたいことがあってのぅ。男手が欲しいのじゃ」

「? おれで良ければ……」

「話が早くて助かる。では、わしの家の蔵に付いて来てくれぬか」

 

 そう言って村長は腰を上げる。

 

「でもそうすると……」

「心配するのは構わんが、それではあやつも親離れできぬじゃろう」

「親……?」

「もののたとえじゃ。ともかく、今は自分の弟子を信じてみろい」

 

 滅多なことは起こらぬじゃろう、とやや楽観的なセリフを吐きながら村長は自宅がある方角を向いた。

 このまま彼女に付いていけば、自然とコスモスの下に行くのは後になってしまうが───。

 

(……まあ、大丈夫か)

 

 なんやかんや生徒のことは信じている。

 村長が言うように滅多なことは起きないはず。

 そう自分に言い聞かせ、レッドは頼まれ事をさっさと終わらせるべく村長に付いていくのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ここならゆっくり話せそうですね」

 

 村から少し離れた場所。

 開拓時代、少々の樹林を切り倒したところで野生ポケモンの妨害に遭いそれっきり手つかずの平地にコスモス達はやって来ていた。

 

「そうですわね。ここでしたら邪魔も入りませんわ」

 

 コスモスに同意するのは緑髪の少女だった。

 長い髪をハーフアップに結い上げ、オデコにはどこぞのジムリーダーを彷彿とさせる赤いカチューシャを身に着けている。しかし、ツリ目気味な赤い瞳がどうしようもなくキツさを印象付ける。

 黒を基調とした着物ドレスも、和洋折衷ではなくどっちつかずといったちぐはぐな印象だ。どうしようもなく服に着られている感がある。

 

 それでも少女は自信満々といった面持ちで続ける。

 

「ワタクシとアナタ……共にロケットチルドレンであった同胞として、我々の“お話”に横槍を入れられたら堪ったものではありませんもの」

「ベガ……」

「でしょう? コスモスさん」

「どちらかと言えば、貴方達がうっかりにでも私がロケット団関係者だって言い振り撒かれたくないだけですけど」

「……ひ、人の神経を逆なでるような物言いは昔と変わらなくって。オ、オホホッ、今となってはむしろ懐かしさと愛しささえ覚えますことよ」

 

「ベガ、青筋ピクピクデース」

 

「おだまり、デネブ!!」

 

 緑髪の少女───ベガは、余計な一言を投げかけてきた青髪の方に怒鳴った。

 この場に居る中で誰よりも背が高い、そして中性的な容姿をした人物であった。服装も拍車を掛けている。上下黒に染まったシャツとパンツで揃えた上に、白いベストを身に纏っている。

 喋らなければ男性か女性かも分からぬ美貌も分からぬ持ち主だが、そのスタイリッシュな風貌とは裏腹に、長い睫毛を揺らしながら溌剌とした笑顔をコスモスへと投げかける。

 

「積もるトークはたくさんありマスけど、こうして皆揃ったんデス! 仲良しが一番デース!」

「デネブも随分こっちの言葉が馴染みましたね」

「おかげさまデース!」

 

 ああ、なんという模範的なサムズアップなのだろう。覗く白い歯が眩しい。

 これで彼女もロケット団員だったというのだから、人は見た目で判断できないと言えよう。

 

「で」

『……なんだよ』

「アルタイルは相変わらずその服装なんですね。脱いでくれませんか?」

『いきなり何言ってんの?』

「こんな晴れた日にそんな全身黒ずくめ……見てるだけで暑くなってくるんですよ」

『とんでもない暴論。いや、これ見た目ほど暑くないから。空調服だし。むしろ冷却装置(ラジエーター)付いてるから快適だし』

「よこせ」

『最早ただの強盗じゃん』

 

 会話しているとポケモン図鑑と話している気分になってくるこの黒ずくめもまた、れっきとしたロケット団員の一人だ。

 

 ベガ。

 デネブ。

 アルタイル。

 

 今、この場に揃った三人こそコスモスと同じロケットチルドレンであった者達なのだ。

 

「それにしても奇遇でしたわね。こんな辺鄙な場所でアナタにお会いできるだなんて」

「こっちの台詞です。ラジオ塔の件以降、施設から姿を消したとは聞いていましたが」

 

 アジトの一つであったタマムシゲームコーナーの検挙以降、彼女達もコスモスと同様に養護施設へと引き渡された経緯がある。

 ただし、ロケット団の洗脳教育を受けていたという理由で、万が一にも結束して悪事を働かぬよう、引き渡された施設はそれぞれ別であった。

 もっとも、その見通しが正解であったのか、一部の元チルドレンはラジオ塔の呼びかけに応じたと風の噂で耳にしていたのである。それが他でもない、彼女達だ。

 

「そうでしょうとも!! ロケット団復活はワタクシ達の宿願!! あの放送を聞いて駆け付けないなんて、ロケット団の風上にも置けませんわ!!」

『元々組織以外に行く当てなんてないし』

「とりあえずミーはミンナと会えてハッピーデース。でも、コスモスに会えなくてアンハッピーデース……」

 

 前後の温度差が激しい。

 

「……で、三人は一緒に居たってことですか」

「その通り!! ……だというのに、アナタと来たら!」

「はい?」

「一向に姿を見せないとはどういう了見ですの!?」

 

 案の定怒鳴られ、コスモスはしかめっ面を浮かべる。

 

「だって……」

「だってもフラエッテもありませんわ! アナタともあろう方が───ごほんっ。曲がりなりにもロケット団に忠誠を誓った身である以上、何が何でも合流するのが筋というものではなくて!?」

「その日修学旅行でしたもん」

「しゅ、しゅしゅしゅ、修学旅行!? ……それなら仕方ありませんわね」

 

『それは仕方ない判定なんだ』

 

 人生に数度しかない学校行事だ。

 これにはベガも納得せざるを得ないという表情であるが、すかさずアルタイルがツッコんだ。

 

 と、冗談はさておきと言った様子でコスモスが反論に打って出る。

 

「はぁ……そもそも、筋を通していないのは貴方達の方ではないんですか?」

「な、なんですって!?」

「サカキ様が私達に下した命令は、チャンピオンとなりリーグ内部に潜入すること。わざわざ施設から脱走して組織に合流するなんて、愚行中の愚行じゃないですか」

「うぐっ!?」

 

 痛いところを突かれたと言わんばかりにベガが歯噛みする。彼女自身、己の行動に思うところはあるようだった。

 

「し、しかし、現にワタクシ達はロケット団に合流を果たし、任務をこなしている最中ですの! これを組織への貢献と呼ばずして何と呼ぶおつもりで!?」

「雑用?」

「ぐぎぐッ!?」

 

 図星を突いてしまったらしい。

 ますますベガの表情がお嬢様口調とは正反対の方へと向かってしまっている。

 

「ふ……ふーんですわ!! そんな風におっしゃられたって、ワタクシ達が組織に貢献している事実に変わりありません!!」

「体のいい厄介払いではなくて?」

「ぎがぎがふんふん、ががががが!!?」

 

「オー、ベガ壊れちゃったデース」

『コスモス、その辺にしてあげて』

 

「えー……」

 

 もうちょっと遊べそうであったが、他二人に止められてしまった以上弄る訳にはいかない。コスモスは仕方なく話に集中することにした。

 

「で? その任務とは一体なんなんです?」

「ふーッ!! ……よくぞ聞いてくださいましたわね!! ワタクシ達に与えられた使命、それは……テリア博士の確保ですわ!!」

「博士の?」

 

 現在博士は自分のラボに引きこもっている。今頃、先日の調査で入手し成果に、奇声を上げながら喜んでいるところだろう。

 

───まさか、時間の森での?

 

 そこまで考え至り、コスモスは頭を振った。

 あくまであれはテリアの個人的研究。偶然サカキらしき人物を目撃はしてしまったものの、あれも自分達が合流してから見た光景のはずだ。

 となると、考えられる可能性は一つ。

 自分の中でのあたりを付けながら、あえてコスモスは問いかける。

 

「どうして博士を?」

「『シャドウポケモン』。ご存じでいらっしゃって?」

 

───やはりか。

 

「……博士が預かっている戦闘用に改造されたポケモンのことですか?」

「あら、お耳が早いこと。シャドウポケモンはロケット団が開発した次世代の兵器! ポケモンの潜在能力を限界まで引き出したその戦闘力は筆舌に尽くしがたいほど!」

 

 『で・す・が』とベガはもったいぶるように間を置いた。

 

「……そんなロケット団肝いりの兵器を、易々と解明されてしまっては困りますの」

「それで“確保”と。一体どこから情報を仕入れたんでしょうね」

「ロケット団のシンパは各地に存在しますの。この程度の情報、易々と手に入れられましてよ!」

 

 何故かベガが得意そうにするが、事実それだけの力をロケット団が持っていたのも事実だ。解散して以降、そういった情報収集力が持続しているかは定かではないが、嘘と断じるには各地でロケット団が跋扈している。

 

「それで? 博士にはもう?」

「ええ。予定より少々遅れてはしまいましたが、おおむね好意的な反応はいただけましたわ。やはり彼女もまたロケット団の一員……ワタクシ達と志を共にする同志ですわぁー!!」

 

「最初結構渋ってたデース」

『でもお金の話したらすぐOKしたよね』

 

「そこ!! うるさいですわ!!」

 

 やはりと言ってはなんだが、お金には勝てなかったようだ。

 あの万年金欠マッドサイエンティストのことだ。資金援助を中心にあれこれ言いくるめられた結果、ロケット団に復帰することを合意したと見ていいだろう。

 そうした場合、シャドウポケモンの研究は進まなくなり、結果的にロケット団へ有利に事が進むだろう。

 

 一見、ロケット団であるコスモスにとっては利に繋がる展開である。

 しかし、

 

「その話、待ってください」

「……なんですって?」

 

 思わぬ言葉にベガが訝しげに眉を吊り上げた。

 

「今なんと……?」

「待ってくださいと言ったんです。博士を貴方達に合流させる訳にはいきません」

 

 今度こそベガの表情に怒りが滲み出る。

 

「なぜです!? アナタともあろう方がワタクシ達の邪魔をするんですの!?」

「一つ訊きたいんですが、貴方達が合流したロケット団……幹部の一人にアルロという人が居るのでは?」

「? 確かに彼はロケット団に在籍しておりますが……まさか、彼が気に食わないとかそんな子供染みた理由ではございませんわよね?」

「まさか」

「では、どうしてっ!?」

 

 納得がいかない。

 そんな表情をしているのはベガだけではない。少し離れた場所に佇むデネブやアルタイルも、コスモスの言動に違和感を抱き困惑している様子だった。

 対して、コスモスは息を整える。

 

───二分化するロケット団。

───頑なに姿を現さない首領。

───そして、時間の森で見た光景。

 

「私は……」

 

 一瞬、言葉が喉で詰まった。

 それでも意を決し、遂に吐き出した。

 

「私は……今のロケット団に疑念を抱いています」

『───!』

 

 衝撃。

 そう呼ぶより他ない感情の波紋が荒波立って広がる。動揺は目に見えて現れ、ベガは二、三度ほど仲間である二人の方を向いた。

 

「……それは……」

「言葉通りの意味です。そして、これは貴方達が所属するロケット団の根幹を揺るがしかねない問題でもあります。私の思い違いで済むのならまだしも、もしもこの懸念が真実であるのなら……私が今、貴方達と対立するのに十分過ぎる大義を得ます」

「アナタがそこまで言うなんて、いったいどんな疑念なんですの?!」

 

 当然の質問を投げかけてくるベガ。

 それにコスモスは、

 

「まだ敵である貴方達には伝えられません」

「っ……!!」

 

 毅然と言い放った。

 これにはベガも下唇を噛み、凄絶な表情を浮かべている。怒りと困惑、それと少しばかりの悲嘆を滲ませながら。

 

 しばし流れる沈黙。

 遠くからは海鳴りが響き、より一層この場の静寂が際立つ。

 

「……そう、ですか……」

 

 口火を切ったのはベガだった。

 握っていた拳を解き、凄まじい眼光をコスモスへと向ける。

 

「ですが、ワタクシとて組織に忠誠を誓った身。理由を明かされない内に組織へ牙を剥くほど落ちぶれたつもりはありませんわ」

「まあ、道理でしょうね」

 

 カチャ、と。

 ベルトに着けたボールが揺れる音が聞こえた。

 

 目が合った。二人の視線が交差したのだ。

 それは紛れもない、バトルの合図だった。

 

「交渉決裂、ということでよろしくて?」

「ええ」

「となると───結局のところ、アナタがワタクシ達の任務にとって最大の障害になる訳ですわね」

 

 ベガはとうとうボールを手に取って、それをまざまざと見せつけてくる。

 しかし、コスモスはと言えば、

 

「フッ」

「……何が可笑しくて?」

「いえ、別に」

 

 鼻で笑ったコスモスは、柄でもない軽い口振りでこう言い放った。

 

「私如きを『最大の障害』と称している内は、貴方達の任務は達成されませんよ」

「っ……昔に比べて随分おしゃべりになりましたわね……! 寡黙だった頃の方がワタクシの好みでしてよ!」

「過去の私を求めているようでは、やっぱり貴方は私に勝てませんね」

 

 舌戦はここまでだ。

 ベガは積もりに積もった怒りを晴らすように、ボールを地面へと叩きつける。飛び出してきたのは巨大な食虫植物といった姿のポケモンは、甲高い雄たけびを青天井に向かって轟かせる。

 

「キシャーーーッ!!」

 

(ウツボット───当然、進化はさせていましたか)

 

 かつてのベガの手持ちを思い出し、コスモスもポケモンをくり出した。

 

「GO、ゲッコウガ」

「ゲコォ!」

 

 参上した忍者蛙は早速身構える。

 お互い臨戦態勢は整っている。いつバトルが勃発してもおかしくはなかった。

 

 そんな中、散々煽られて怒り心頭のベガが甲高い声を響かせた。

 

「そういうアナタこそ、昔のワタクシと同じだとお思いなら大間違いでしてよ!! いいでしょう……実力で黙らせてさしあげますわ!!」

「一度でも私に勝てたことがありますか?」

「でしたら、今日が土の味を知る日ですわね!!」

 

 ベガの吐いた気炎を皮切りに、戦場と化した平地でゲッコウガとウツボットが激突する。

 共に元ロケットチルドレン。チャンピオンになることを義務付けられた子供達───計画が頓挫し、数年経った今でも実力が衰えていることはない。

 

 むしろ、研ぎ澄まされて今に至る。

 

『あーあ、こんなこったろうとは思ってたけどさ』

「昔ながらの味わいデス」

『それはちょっと意味違うと思うけど』

 

 そして、外野は呑気に見物を決め込む。

 

 

 ロケットチルドレンVSロケットチルドレン。

 

 

 壮絶な内輪もめが、今始まる。

 




Tips:ロケットチルドレン
 かつてロケット団にて、ポケモンリーグ掌握計画の中枢を担う人材を育成するべく用意された子供。ほとんどが身寄りのない子供であり、教育段階でロケット団への忠誠を誓わせている。
 具体的な育成方針はとにかく強いポケモントレーナーへと育て上げること。チャンピオンへと上り詰めることが潜入の手段としては最短であるが、良い功績を残すことで、将来的な四天王やジムリーダー候補に選ばれることも視野に入れている。
 しかし、タマムシゲームコーナーアジトの一斉検挙により、ロケットチルドレンは解体。子供達は各地の養護施設へと引き渡された。
 その内、ラジオ塔占拠に乗じて施設を脱走、ロケット団へと合流したのがベガ、デネブ、アルタイルの三名である。彼女達も訓練を積むことで同年代と比べた時、抜きんでた実力を発揮していたトレーナーであったが、そんな彼女達でも勝てなかったのがコスモスだとされている。
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