愛と真実の悪を貫く!!   作:柴猫侍

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前回のあらすじ

ベガ「久しぶりにキレちまいましたわ……表出て決着つけませんこと?」

コスモス「そのエセお嬢様口調どうにかなりませんか?」

アルタイル『今更無理でしょ』

デネブ「デース」


№055:本のタイトルが思い出せない現象

 

「ハクションォラァイッ!!」

 

 舞い上がる埃を吹き飛ばすくしゃみが轟く。

 直後、蔵に潜んでいた野生ポケモンがドタドタと慌ただしく逃げていく足音が続いた。余程長い間手入れされていなかったのだろう。足音はしばらくの間鳴り響いた。

 

「……ずびっ」

「おーおー、随分埃を被っておるのぅ」

 

 レッドが呆然と蔵の入口で立ち尽くす一方、村長は少し離れた場所に立っていた。

 完全に安全地帯へ避難していやがった、あの年齢不詳の美魔女は。

 思わず恨みがましい視線を送るレッドであったが、当の村長は毛ほども気にしていない様子だ。むしろクツクツと埃を被った彼を見て、愉快そうに笑うばかりである。

 

「大分長いこと整理しておらんかったからのぅ。見ての通りじゃ」

「……それで、おれにどうしろと……」

「まな板じゃ」

「……まな板?」

 

 まな板というと、あれだろうか?

 

「料理を切るのに使う……」

「それ以外に何がある。そいつを探してほしくての」

 

 『たしかあったはずなんじゃが……』と悩む素振りを見せる村長だが、これに難色を示したのは他でもないレッドだ。

 

「……他のまな板じゃ……」

「ダメだ。あのまな板を使うと味が良くなった気がしてのぅ。最近使ってたまな板が壊れて、ちょうどそんなのがあったと思い出したのじゃ。是非ともあれをまた使いたいのぅ」

「……そう」

 

 ぶっちゃけその辺の適当な板を加工すれば済むのでは? と考えたが、どうにもそういう訳にもいかないらしい。

 

「この中を……」

 

 今一度見つめる蔵の奥。

 未だに埃が立ち込めており、一歩踏み入れば反射でくしゃみが出てきそうだ。それでまた埃が舞い上がるというのだから救いようがない。詰みだ。今すぐ帰りたい衝動に駆られる。

 しかし、手伝うと言った手前何もせず帰るのも心苦しい。

 ここは若者として年長者の代わりに骨を折ってあげようではないか。そう自分に言い聞かせたレッドは頼もしい仲間達を呼び寄せる。

 

「皆、出てきて」

 

「ピッカ!」

「バァナ」

「リザァ!」

「ガァーメ!」

「キュウン?」

「ゴ~ン」

 

 セキエイリーグを共に制覇した心強い仲間(ポケモン)達の登場だ。彼らが居れば百人力。探し物だってすぐに見つかるはずだ。

 

「よし……皆でまな板を探し───」

「チュピ」

 

 ピシャ、と。

 最後まで言い切るのを待たずして、蔵と外を隔てる扉は閉め切られた。

 蔵にただ一人残されるレッド。僅かに隙間から差し込む光に手を伸ばし、直後に彼は膝から崩れ落ちた。

 

「この……裏切り者ぉぉおおおぉぉ……!」

 

───裏切り者ぉぉおおおぉぉ……!

───裏切り者ぉぉおおおぉぉ……!

───裏切り者ぉぉおおおぉぉ……!

 

 魂からの叫びが、カイキョウタウンの空に木霊した。

 仲間であっても無理なものは無理。

 そんな当たり前のことを、レッドはこの日改めて思い知らされるのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

───裏切り者ぉぉおおおぉぉ……!

 

 そんな叫び声がどこからか聞こえてきた。

 それを幻聴だと切って捨てるコスモスは、目の前の()を見据える。

 

(ウツボット……カントーやジョウトではメジャーなポケモンですね)

 

 ハエとりポケモン、ウツボット。

 大きな口から甘い香りを漂わせ、匂いに引き寄せられたポケモンを捕食するという、マスキッパに似た生態を持つポケモンだ。

 進化前のウツドン、マダツボミ共々、カントー地方やジョウト地方においてよく見かけるポケモンでもあり、くさタイプを得意とするトレーナーの手持ちに加わっているケースは珍しくない。他でもないベガの尊敬するトレーナー、タマムシジムリーダー・エリカもまた使用するポケモンだ。

 

「最後に戦った時はウツドンだったのに……進化させられたんですね」

「ええ、おかげさまで」

 

 綽々とした笑みを湛えながらベガはこう答える。

 

「離れ離れになることになった()()()から、ワタクシは一日たりともアナタを忘れたことはありません」

 

 しかし、話していくにつれて拳に力が込められていく。

 

「幾度となく味わわされた屈辱……それを晴らす為にワタクシは力を磨いたんですの!!」

 

 握った拳が振り上げられる。

 

「ウツボット、『リーフストーム』!!」

「キシャー!!」

 

 甲高い雄たけびを上げながらウツボットが回転する。

 すれば、どんどん勢いを増していく木の葉の竜巻が、意思を持った龍のようにゲッコウガ目掛けて襲い掛かってくる。

 

「ゲッコウガ、『かげぶんしん』!」

「ゲコォ!」

 

 だが、これを黙って見過ごすコスモスではない。

 彼女が『かげぶんしん』を指示すれば、タンッ、と軽やかに跳躍したゲッコウガが10、20と己の分身を生み出した。

 これには対峙するベガも目を剥いた。刹那にしてこの分身の数。場慣れしたトレーナーであればまずたたらを踏む光景だ。

 

「猪口才な、薙ぎ払いなさい!!」

 

 しかし、面食らいはしたもののベガの判断は迅速だった。

 標的に向けて一直線だった攻撃を横薙ぎにし、無数の分身を一蹴する。威力も範囲も申し分ない大技であればこその力業だ。

 みるみるうちに分身の数が減っていく。

 そうなってしまえば本体が見つかるのも時間の問題だった。

 

「そこですわ、『つるのムチ』!!」

 

 空を切り裂く音が響いた直後、空中に跳んでいたゲッコウガが幾重にも巻き付かれた蔓によって捕らえられていた。

 捕縛されてしまったゲッコウガに対し、コスモスは平静を保ったまま瞳を向けた。

 すると、何やらパラパラと風に乗って運ばれてくる粉が目に映った。

 

「ただの『つるのムチ』じゃありませんね」

「ご名答。た~っぷり『しびれごな』をまぶした鞭のお味はいかがかしら?」

 

 ベガは勝ち誇った笑みを浮かべ、身動きが取れないゲッコウガを一瞥した。

 

「それにしても……ワタクシが得意とするくさタイプ相手にみずタイプをくり出すなんて、どういう了見ですの?」

 

 だが、浮かべる笑みに対し、言葉の節々には分かりやすいほどの苛立ちが滲み出ていた。

 それが何なのかは聞くまでもない。

 

「まさかとは思いますがワタクシを舐めていらっしゃって?」

「……初手からバトルを決定づける大技の中に小技を仕込んでおく。貴方の得意とする戦法でしたね」

「フフッ、それを分かっていて避けられなければ───」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ボフンッ! と。

 刹那、ゲッコウガの姿がその場から消え失せた。

 

「んなッ……!?」

「『つばめがえし』!」

 

「ゲコォ!」

「キ、シャーン!?」

 

「ウツボット!!」

 

 ゲッコウガが現れたのは地面。反撃に出る間もなく、土煙を上げながら出現したゲッコウガの手刀がウツボットに叩き込まれた。

 効果はバツグン。宙に打ち上げられたウツボットは、それから受け身を取ることもできぬ間に地面へと墜落した。

 

「ぐっ……『あなをほる』!? 最初から地面に潜んでいたと!?」

「技を透かしたのは『みがわり』です。貴方が何をしてくるかは大体察していましたので」

「やってくれる……!」

 

 瀕死になったウツボットをボールに戻しつつ、ベガは次なるモンスターボールを手に取った。

くり出したのはラフレシア。こちらもくさタイプとしては広く知られているポケモンだ。

 一方、コスモスはゲッコウガを続投する。これにはベガもチーゴのみを噛み潰したような面持ちを湛える。一見するとゲッコウガはみずタイプだ。それをくさタイプを前にくり出されるなど、当人からしてみれば尊厳破壊されているに等しい。

 

「どこまでも舐めて……!」

「舐めているのかはこっちの台詞です」

「……なんですって?」

「何度も同じ手を食らうようでは、チャンピオンなんて夢のまた夢……違いますか?」

「!」

 

 ここまで言われ、ようやく自身の浅慮を思い知る。

 同時に、顔には自然と笑みが零れ出た。

 

 そうだ。

 自分の知っている彼女は、考えもなしに手を抜くポケモントレーナーではない。そこには必ず何かしらの意味を持っているということを散々体験してきたではないか。

 

「……フフフ、オーッホッホッホ! それでこそ……それでこそですわ! やはりアナタはそうでなくては!」

 

 口元に手を遣りながら高笑いするベガに、ラフレシアも似たようなポーズをとって笑う。

 

「やはりアナタこそワタクシが超えるべき壁……いえ、頂点! アナタを打ち倒してこそ、ワタクシのサクセスストーリーは幕を開けるんですわ!」

「サクセスストーリー?」

「そう物欲しげな顔をなさらなくとも教えて差し上げますわ!」

「いえ、別に……」

「教えて差し上げますわッ!!」

 

 有無も言わせて貰えなかった。

 ゲッコウガとラフレシアが互いに牽制の技を打ち合う最中、ベガは一方的に語り始める。

 

「ワタクシの家が貧しかったのは存じ上げているでしょう? 父が賭け事に没頭する余り、いつも家計は火の車! 遂には母に見捨てられ、そんな父の下に置き去りにされたワタクシはまさに底も底! どん底でしたわ!」

 

 徐々にヒートアップする語り口に呼応し、『はなびらのまい』をくり出すラフレシアの動きも激しさを増していく。

 

「しかし、そんなワタクシをロケット団は拾い上げてくださった! バトルの才能を見出し、底辺を這いずり回ることしかできなかったワタクシに夢を見せてくれたんですわ!」

 

 『だというのに』と、ベガの鋭い視線がコスモスに突き刺さる。

 

「アナタというお邪魔虫が、ワタクシのサクセスストーリーのことごとくを躓かせたんですのよ!?」

「躓かせた覚えはありませんけど……」

「ワタクシは大ありですわ!!」

「……私にバトルで勝てた経験が一回もないことがですか?」

「きいいいい!!」

 

 当てれば当てたで憤死しそうなほどベガは喚きたてる。

 余程敗北の経験が屈辱的だったのだろう。思い出す内に涙目になるベガは、どこからか取り出したハンカチを噛み締めて自身の怒りを鎮めようとしていた。

 そうしてようやく落ち着いてきた頃、ビシィ! と音が聞こえてきそうなくらいキレのいい動きで、コスモスの方に指を差してくる。

 

「アナタさえ! アナタさえいなければ、サカキ様の寵愛を一身に受けられていたのはワタクシだったはずなのに!」

「……」

「ただ一人、純粋な敗北感をワタクシに味わわせたのはアナタだけには! 何が何でも勝たなくては気が収まらなくってよ!」

 

 相手を寄せ付けぬ『はなびらのまい』をくり出しながら、ラフレシアはゲッコウガへ突撃する。乱れる花弁の範囲を見れば、避けるのも打ち合うのも骨が折れるだろう。

 そう見たコスモスは即座に声を飛ばす。

 

「ゲッコウガ、『とんぼがえり』!」

「なにッ!?」

「GO、ゴルバット。『つばさでうつ』!」

 

「ゴルバッ!」

「レシャア!?」

 

「ラフレシア!?」

 

 ゲッコウガに代わって飛び出てきたゴルバット。

 くさタイプに滅法強い彼は、果敢にも『はなびらのまい』の渦中へ飛び込んでいく。そのまま花弁の壁を突き破れば、踊り疲れてきたラフレシアに向かって翼を一閃。

 振り抜かれれば、そのままラフレシアの身体は後方へと吹き飛ばされる。

 『ラフレシア!』と手持ちの身を案じるベガの声が響き渡る。辛うじて瀕死に陥ってこそいなかったが、息も絶え絶えで混乱もしている。

 

「どうします? まだ続けますか?」

「くっ……まだですわ!」

 

 食ってかかるベガも無策ではなかった。

 ガリガリと何かを咀嚼する音が聞こえてくれば、フラフラと足取りが覚束なかったラフレシアがしゃっきりした表情で復活した。混乱を回復するきのみを持たせていたのだろう。

 しかし、混乱が回復したからといって体力まで回復したとは言い難い。

 

「貴方も学習しているようですね。感心しました」

「ほざきやがりなさい! 今だからこそハッキリ言わせてもらいますけれど、ワタクシはアナタのそういう上から目線な物言いが大ッッッ嫌いだったんですわよ!!」

「(まあ、それはわざとですし……)」

 

『(ボクらされたことないよね?)』

「(ないデース)」

 

 と、後ろの二人がひそひそ話している間にも、ベガは怒りが頂点に達した。これでは冷静に物事を判断するなんて不可能だ。

 このようにものの見事にコスモスの策略に嵌まっているベガであるが、彼女はここぞとばかりに積年の鬱憤を晴らさんと捲し立てる。

 

「確かに成績はアナタの方が良かったのかもしれませんけれど、ワタクシだってアナタに追いつけるよう寝る間も惜しんで頑張ったんですわよ! もっとも、アナタの眼中には入ってなかったようですけれど!」

「別に眼中になかったとは言ってませんが」

「じゃあワタクシのことどう思ってたんですの!? 言ってみなさいな!!」

「……友達?」

コスモスさん……ハッ!?」

 

 危うく絆されそうになったところでラフレシアが吹き飛ばされ、ベガは我に返る。

 

「ひ、卑怯ですわよ! 友人だと言ってワタクシをその気にさせて!」

「その気ってどの気ですか」

「もう許しませんわ! こうなったら……」

 

 倒れたラフレシアを戻し、ベガは三つ目のボールを取り出す。

 刹那、コスモスの隣に控えていたルカリオの耳がピンと立つ。見開いた双眸の瞳孔も小さくなり、全身の毛も逆立った。

 殺気だったルカリオの様子に、コスモスは『なるほど』と得心した。

 

「それが噂の秘密兵器ですか?」

「ご明察。ですが、それだけじゃありませんことよ」

「……?」

「しかし、その前に……アル! デネブ!」

 

 離れた場所に佇んでいた仲間二人にベガが呼びかける。

 

「全員でやりますわよっ!」

『え、ボクらも?』

「3対1は卑怯デス」

「アナタ達何の為に付いてきたんですのッ!?」

 

 ともすれば『バカンス』とでも言い出しそうな二人に、ベガは鋭い視線が突き刺さる。

 

「ロケット団に拾われた恩義……忘れたとは言わせませんわよ」

『「!」』

 

 ここに来て初めて二人の目の色が変わった。

 反応は上々。しかし、まだ友人と争うことへの忌避の色が覗いている。

そこへベガは畳みかけるように続けた。

 

「……形はどうであれ、現状コスモスさんがロケット団に敵対していることは事実。みすみす見過ごして組織が損害を被ろうものなら、その責任はワタクシ達にあるのではなくて?」

『うーん、でもなー……』

「しかし、今さえどうにかしてしまえば後はどうとでもなりますわ。なんせ彼女はサカキ様の命令を実直に遂行していただけ……それなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんなベガの言葉に反応したのは二人だけではない。

コスモスもまた静かな反応を見せ、ジッと二人に目を遣っていた。

 

「どうします? 穏便に彼女を組織に迎え入れるなら、今をおいて他にないと思いますが……」

「……オーケー。やりまショウ」

『デネブ!?』

 

 先にベガの意見に頷いたのは、三人の中でもコスモスに最も友好的な態度を取っていたデネブであった。

 

「コスモスが居なくちゃ、ロケット団に居る理由もナッシングデース」

「アナタならそう言ってくれると思っていましたわ……それで?」

 

 これで2対1。

 ベガに睨みつけられたアルタイルは、渋々という言葉がピッタリな鈍い動きで重い腰を上げた。

 

『……分かったよ。二人がそうするんなら』

 

 そう言ってアルタイルもまたボールを取り出した。

 3対1。普通であれば多勢に無勢な状況であるが、コスモスは取り乱さずボールを一つ手に取った。

 

「GO、ゲッコウガ」

「ゲコッ?」

「もっかい出番です」

「ゲェ~……」

「ここで頑張ったら今日のおやつを増やしてあげます」

「コウガッ!!」

 

 再登場のゲッコウガだが、やる気は十分だ。

『おやに似て現金な……』と感想が聞こえてきたが、コスモスは気にしない。

 

「ルカリオもお願い」

「ワフッ」

 

 そして最後に前に出たルカリオ。

 ゴルバットも合わせ、コスモス側には三体のポケモンが出揃った。

 

「フッ……降参するつもりはさらさらないようですわね」

「はい。それに三人同時に掛かってきてくれた方が助かりますので」

「……それは、どういう意味で?」

「全員倒すのに手っ取り早く済みます」

「上・等・ですわっ!!!」

 

 コノヨザルも真っ青なキレ顔を晒しながら、ベガがポケモンをくり出した。

 二人も続く。場には新たに三体のポケモンが現れた。

 

 一体は淡い緑色の体表をし、左右の椀に刃を携えるポケモン。

 一体は燃える色合いの羽毛を靡かせ、二本足で立つポケモン。

 一体は大地に四つん這いとなり、頭のヒレを動かすポケモン。

 

「お行きなさいな、ジュカイン!!」

『よろしく、バシャーモ』

「ファイトデース、ラグラージ!!」

 

「ジュラァァア!!」

「バッシャアー!!」

「グラァアジッ!!」

 

 けたたましい咆哮を上げる三体。

 共に、()()()だった。

 

(やっぱりシャドウポケモンでしたか)

 

 ルカリオの様子から大方予想はついていた。

 故に驚きはせず、

 

(問題はどの程度の強さなのか……三人の戦術自体は頭に入っていますが)

 

 冷静に思考を開始した、その次の瞬間だった。

 おもむろに三人が腕の裾を捲り、見慣れぬ装置を露わにした。どういった用途で使用するか判別できず小首を傾げていると、その様子にご満悦と言わんばかりの不敵な笑みをベガが浮かべた。

 

「それではご覧に入れて差し上げましょう……ワタクシ達ロケット団、その科学技術の粋の結集を!!」

 

 刹那、瞬いたのは暗色の七色だった。

 

「ジュカイン!!」

『バシャーモ』

「ラグラージ!!」

 

 

 

『メガシンカッ!!』

 

 

 

 腕の装置から伸びる光が三体のシャドウポケモンを包み込む。

 瞠目するコスモスが目撃したのは、まさに進化を越えた進化であった。

 

 ジュカインはより全体的が刺々しく鋭利になり。

 バシャーモは手首からより猛烈な炎を噴き上げ。

 ラグラージは肥大化した筋肉の鎧に身を包んだ。

 

「っ……!」

「オーッホッホッホ!! どうです、この溢れ出るパワーは!! 才能だけでは辿り着けない領域の力に恐れ戦き跪くといいですわ!!」

 

 吹き荒れる進化の余波が暴風を巻き起こす。

 荒ぶる前髪を押さえながら、コスモスは細めた瞳で立ちはだかった敵を観察する。彼女も聞いたことがない訳ではない。ホウエンやカロスでは、特殊な石を用いることで更なる進化を遂げるポケモン達が居るということを。

 

「あれがメガシンカ……なるほど。実物を見るのは初めてですね」

「余裕を保っていられるのも今の内ですわ!! メガシンカしたシャドウポケモン!! 潜在能力を100%以上引き出したこの子とワタクシ達には、向かうところ敵なしですわぁーーー!!」

 

 高らかにベガは笑う。

 それもそのはず。メガシンカとは、本来トレーナーが持つキーストーン、そしてポケモン側が持つ特定のメガストーンがなければ起こり得ぬ奇跡の現象。

 引き出される力は伝説のポケモンにも匹敵するとされており、その有り余るパワーは通常のポケモンと一線を画す。

 

 これをシャドウポケモンに引き起こしたとすれば───その戦闘力は想像を絶することとなるだろう。

 

「……本当にそうですかね」

 

 コスモスの言葉に、ベガの恍惚とした表情に影が差す。

 

「……なんですって?」

「ようは私達が限界以上に力を引き出した貴方達を上回ればいいだけの話です」

「っ───!! そう簡単に行くとでも?」

「はい」

 

 舐められたと感じ声色に棘が覗くベガ。

 だが、コスモスはそれに動じることはなかった。

 

 否定せず、そして、毅然と言い放つ。

 

「私達の強さを見誤っているようでは……ね」

「言わせておけば……!! それなら才能ではどうしようもない圧倒的パワーがあるということ、教えて差し上げましょう!!」

 

 ピリついた一触即発の空気。

 それは岩壁を削る荒波の音で弾け、直後に爆ぜるような衝突音を轟かせた。

 

 ここに始まるのは小さな頂上決戦だった。

 ロケットチルドレンという小さな世界で競っていた、そんな子供達のバトルが───。

 

 

 

 ***

 

 

 

(なんかあっちの方が騒がしいな)

 

 蔵の中でまな板を探すレッドは、遠方で轟く音を捉えていた。

 

───どこかで野生のポケモンが戦っているのだろうか。

 

 半ば現実逃避するような思考を巡らせつつ、レッドは未だに見つからないまな板を探し回る。

 

「どうだ、見つかりそうか?」

「いえ、まだ……というか、実在するもの?」

 

 とうとう存在すら疑わしくなり問いかけてみれば、蔵の外で呑気に茶をしばいていた村長がうーんと唸る。

 

「あったはずなんだがのぅ。まあ、なにせしまったのが随分昔のことだし、あたしも記憶がおぼろげじゃが」

「し、信憑性……」

「まあまあ、そう肩を落とすな。そうだ、見つけ出した暁には礼に何かくれてやろう。蔵の中にあるものならなんでもいいぞ?」

「え?」

 

 本当? とレッドが訊けば、村長は鷹揚に頷いた。

 

「どうせ長年使っておらんからのぅ。本当に持って行かれて困るものはない」

「おぉ……太っ腹……」

「これ。女に向かって太っ腹などと言うな」

「すみませんでした」

「うむ、それでよい」

 

 笑顔で注意する村長に、レッドは即座に頭を下げた。

 

(目が笑ってなかった)

 

 『女の人って怖い……』と怯えつつ探し物を再開するレッド。お礼が出ると聞いたおかげか、心なしか探し物に対するモチベーションは高まっている。

 

「これも違う……これは……鏡? まな板じゃない……」

 

 骨董品らしき鏡を見つけはしたものの、食指が働かなかったレッドは静かに棚に戻す。

 売れば高いのだろうが、生憎そういった類のものには興味がない。

 

(貰うなら、もっとこう……秘伝の巻物的な……)

 

 そうして埃を被った棚を漁っている時だった。

 

「……うん?」

「どうした? まな板は見つかったか?」

「いや……」

 

 レッドが取り上げたのは一冊の書物だった。

 随分と古ぼけており、表紙も埃を被って題名を読むことさえままならない。

 しかし、何かに惹かれるように軽く埃を叩いて払ったレッドは、達筆に書かれた題名を声に出して読んだ。

 

「『大地の奥義』……?」

「はぁ、なんじゃ。まな板じゃなかったではないか」

「……」

「どうした? 熱心に中身を読み漁ってからに」

「これ、貰っても……?」

 

 軽く中身を流し読みしたレッドであったが、途中ピタリと動きが止まる否や、おもむろに村長へそう頼み込んだ。

 これに村長は面食らったような表情を浮かべていた。

 

「その書物が欲しいのか? まあ、持って行くのは構わんがのぅ……その代わりまな板探しは頼んだぞ」

 

 書物を譲ってもらう約束を取り付けてもらったレッドは、意気揚々にまな板探しへと戻っていく。

 『そんなに面白い中身じゃったのかのぅ』と小首を傾げる村長であるが、やはり中身を思い出せず、記憶に残らないようであれば大事な物ではないと決め込んだ。

 

(ウーム……しかし、書物なんて傷みそうなものをあんな風に野ざらしで保管しておったかのぅ?)

 

 己がいつもしている保管方法との齟齬を覚えながらも、譲ると決めた以上、これ以上考えても仕方がないと思考を止める。

 ようは読めればいいのだ。

 うんうんと頷く村長は、立ち上る紅茶の香りでつられてティーカップを持ち上げる。

 

「それでは頼んだぞ」

「がってん」

「ピッチュウ」

 

 その頃ピカチュウは横になってくつろいでいた。

 何だこの格差は。

 




Tips:ベガ
 ロケットチルドレンの一人である少女。
 コスモス達とは同期であり、タマムシゲームコーナーの地下アジトで暮らしている間は、コスモスを含めたデネブ、アルタイルとよくつるんでいた。
 漫画に出てくるようなお嬢様口調であるが、実家は貧乏。ギャンブルで借金漬けになった父親を見限った母親に連れて行かれなかった為、極貧生活を強いられていた。ロケット団に入団した経緯も、父親が借金していた金融会社がロケット団と繋がりを持った会社であったため、借金の肩としてロケット団に連れて行かれた。
 だが、本人的には借金まみれの父親に呆れていた為、むしろロケット団に引き取られることをチャンスとしてとらえ、成り上がる機会を窺っていた。
 バトルの腕は優秀であり、コスモスを除いてはロケットチルドレンの中でも優秀な成績を収めていた。しかし、その分自分よりも強いコスモスを一方的にライバル視しており、何度も勝負を吹っかけては敗北を喫し、配給される食事のデザートをぶんどられていた。
 ただ、コスモスとはけっして仲が悪いという訳でもなく、普段の日常であれば行動を共にするなど、屈折した憧憬の念を抱いていた。
 得意とするタイプはくさタイプであり、これはタマムシジムリーダー・エリカへの憧れから。頭に着けているカチューシャもエリカリスペクト。ただし、正規品ではなく手作りの非売品である。
緑茶をティーカップで飲んでいる。

手持ちポケモン
・ウツボット(♀)
・ラフレシア(♀)
・ジュカイン(♀)(シャドウポケモン)

↓【立ち絵】ベガ(作:柴猫侍)

【挿絵表示】
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