愛と真実の悪を貫く!!   作:柴猫侍

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前回のあらすじ

ベガ「(コスモスさんがワタクシを友人だと思ってくれていたなんて……なら、あの時のあれもこれも───!?)湧き上がる友情がとどまるところを知りませんわぁ~~~!!」

コスモス「何言ってるんですかね」

アルタイル『思春期なんじゃない?』

デネブ「ミーはコスモスに言われなくたって大切なフレンドだと思ってマスよ!」


№056:『努力は才能を凌駕し得るか』

 

「ゴルバット、『きゅうけつ』!」

「ゴルバッ!」

 

 ゴルバットが牙を剥き出し、飛翔する。

 標的は直線状に居た。素早いゴルバットの攻撃だ。大抵の相手には避け切れないはずだった。

 しかし、忽然と標的の姿が消える。

 ゴルバットが驚愕に目を剥いた直後、声が響き渡った。

 

「上!」

「遅いですわ! ジュカイン、『リーフブレード』!」

 

「ジュラァ!!」

「ルバッ!?」

 

 頭上より爪を振り下ろしてきたジュカイン。

 その強靭な腕力より繰り出された一閃は強烈の一言に尽き、ゴルバットの身体は宙で二転、三転と回ることとなった。

 

「掠っただけです! 距離を取って立て直せ!」

「ゴ……ルバッ!」

 

 だが、幸いにも直撃はしていなかったようだ。

 地面に墜落する直前で体勢を立て直したゴルバットは、急いでジュカインから逃げるように高度を稼ぐ。

 これなら飛ぶ手段を持たないジュカインは接近できないが、だからといって手出しできない訳でもなかった。

 

「臆病風に吹かれましたか?! 『アイアンテール』ですわ!」

「ジュルルルァ!!」

 

 おもむろに背中を向けるジュカイン。すると、尻尾の付け根に実っていたタネが爆発する。

 次の瞬間、弾丸のガンパウダーが炸裂するようにジュカインの硬質化した尻尾が発射された。

 

「後ろに躱せ!」

「ゴバッ!」

 

 猛スピードで迫って来る尻尾を紙一重というところで回避するゴルバット。

 直撃すれば瀕死に陥っていただろう一撃に、これにはコスモスは内心冷や汗を掻いた。しかしながら、今の一撃でジュカインの尻尾はなくなった。これで次の攻撃には注意しなくていい───そう思いきや。

 

「ちょこまかと……! フンッ、構いませんわ。それなら撃ち落とすまで続けるだけですわ───ジュカイン!」

「ジュラァ!」

 

 断面を晒していた尻尾が瞬く間に生え変わる。

 

(……弾切れは期待しない方が良さそうですね)

 

 通常のジュカインであればあり得ない再生速度。

 しかし、現在ベガが繰り出したジュカインはメガシンカを果たした個体。『メガジュカイン』と称される存在を前には、メガシンカ前の常識など通用しないと見るべきであろう。

 そうなってくると他の二体にも注意しなければならないだろう。

 

『バシャーモ、『ブレイズキック』!』

「バッシャア!!」

 

 烈火を纏ったハイキックをくり出すのはバシャーモ───否、メガバシャーモ。

 バシャーモがメガシンカを遂げ、より強靭になった脚力より放たれる足技は大気を焼き焦がす速度、そして威力だ。

 波動によって攻撃を先読みしているルカリオですら回避するのがやっと。

 

「『みずのはどう』で迎撃!」

『そんな威力の技じゃあね』

 

 辛うじて見つけた隙で応戦したところで、だ。

 

「バウァ!!」

「シャイヤ!!」

「ッ!!」

 

 くり出した『みずのはどう』が『ブレイズキック』によって打ち砕かれる。

 正しく“焼け石に水”な状況だ。しかも、悪いニュースはそれだけに留まらない。

 

「シャモ!! シャモ!!」

「バゥ……!?」

 

(バシャーモの動きが速くなっている?)

 

「これは……『かそく』!!」

『お。気づく?』

 

 『まあ、気づいたところで止まらないんだけどね』とアルタイルの緩い声は続いた。

 テッカニンなどが代名詞である『かそく』は時間が経つにつれ、どんどん素早さが上昇していく特性だ。ポケモンバトルにおける素早さの重要性は言わずもがな。基本的に相手よりも早く動ければ有利に事を進められると言っても過言ではない。

 これではいずれルカリオの先読みも通じなくなる。

 何とか打開したい状況ではあるが、ほのおタイプへの有効打が『みずのはどう』しかないルカリオではメガバシャーモを相手取るのは厳しいだろう。

 

(となると、ゲッコウガを回したいところだけど……)

 

「ラグラージ、『アームハンマー』デース!」

 

「グラアアア!!」

「ゲコォ!?」

 

 振り下ろされる鉄槌が地面を蜘蛛の巣状に砕く。

 伝播する振動で思わず倒れそうになるものの、どうにか持ちこたえたコスモスはデネブが指示を出すラグラージの方を見遣る。

 メガラグラージの武器は、通常時よりもあからさまに肥大化した筋肉にあると見て間違いないだろう。今はただデネブの奔放な指示に従い、圧倒的な暴力を振り回しているに留まっているが、ただのそれだけでゲッコウガも攻めきれずにたたらを踏む有様になっていた。

 

「怯むな! 『かげうち』!」

「ゲ、ゲコォ!」

「そんなソフトな攻撃は効きまセーン!」

 

「ラグラッ!!」

 

 両腕を振り上げポージングを決めるメガラグラージに、ゲッコウガの伸びた舌から忍び寄る『かげうち』が直撃する。

 が、しかし、メガラグラージは直撃を食らったに一切動じなかった。

 不動の構えを解かぬまま、ジッとゲッコウガを睨みつけている。そんな山を目の前にしたかのような圧倒的存在感を前に、ゲッコウガも自然と距離を取った。

 

「攻撃面だけじゃなく、防御面も強くなっているようですね……」

「イエス! ちょっとやそっとじゃミーのラグラージは倒れないデース!」

「なるほど、正面からじゃ分が悪そうですね。ふむ……」

 

「オーッホッホッホ!」

 

 コスモスが思案顔を浮かべるや否や、得意げな高笑いが辺りに響き渡る。

 声の主は当然のようにベガだった。

 

「あらあら~? コスモスさん、顔色が優れないようですわね~? あれだけ大口を叩いていたっていうのにこのザマなんですの~?」

「……」

「アナタさっきなんて言ってましたかしら? たしか『全員倒すのに手っ取り早く済みます』……だったかしら~?!」

 

 今の彼女の顔、品があるかないかで言えば圧倒的後者であった。それほどまでに得意げな顔を浮かべている。正直に言えばムカつく顔だ。

 しかし、そんな彼女からの煽りを受けても尚沈黙を保つコスモス。

 それを舌戦で勝ったと捉えたベガは、ますます気分を良さそうに弾んだ声音を響かせた。

 

「オーッホッホッホ!! これじゃあ先に全員倒されるのはアナタの方ですわねェ~~~⁉ もしかしてあの時のお言葉、敗北宣言だったのかしらァ~~~⁉」

「……」

「ホホ、ホホホホホ、オーッホッホッホ!! 口ほどにもないですわぁ~~~!! 最早アナタも過去の人!! 新たな力を得たワタクシ達を前には、ロケットチルドレン最強だったアナタも形無しという訳ですわねェ~~~!!」

 

『喋らないことが品性だってどこかの誰かが言ったけども』

 

「そこ!! おだまり!!」

 

 気分がいいところに水を差されつつも、ベガの余裕を湛えた笑みは崩れない。

 

「さて、どうします? このまま続けても勝敗は見えてると思いますが……」

 

 降参するなら今の内だ。

 ベガは言外にそう告げていた。

 

「……そうですか」

「今ならまだ穏便に事を済ませてもよくってよ? 自分のパートナーが傷つく姿を見るのは、アナタも見かねるでしょうに」

「気遣いなら結構です」

「強がりも過ぎれば滑稽でしてよ」

「強がりだと思いますか?」

 

 強者の余裕を見せたつもりであったが、コスモスの頑なな態度にベガの眉が吊り上がる。

 戦況は誰がどう見てもベガ達三人の方が優勢だ。シャドウポケモンとして基礎的な戦闘力を向上させているに留まらず、メガシンカすらしているのだ。戦闘力だけを見ても、コスモス側が負けていることは明らかである。

 

(腑に落ちませんわ……)

 

 押しているのはこちら。それは間違いない。

 だのに、どうして自分は冷や汗を流しているのだろう?

 いつの間にかこめかみより垂れていた一雫の汗に、ベガは言いようのない恐れを抱いていることを自覚した。

 

(ッ───そんなはずありませんわ! ()()()()()はまやかし! ワタクシの想像が生み出した虚像に過ぎません!)

 

 かつて一度も勝てたことがない相手。

 故に、相手の少女を必要以上に恐れてしまっているだけだ。ベガは自分にそう言い聞かせ、己を奮い立たせることにした。

 

「フーンッ! 口でならなんとでも言えますわ! ようは結果が全て! ワタクシ達が華麗な勝利を収めることは決定事項ですわァーーー!」

 

「ルカリオ、『コーチング』!」

「バウッ!」

 

「ッ……なんですって!?」

 

 聞き慣れない技名に困惑するベガ。

 直後、メガバシャーモとやり合っていたルカリオが、ゴルバット相手に指示をする仕草を見せた。

 

「ゴルバッ!」

 

 対して、指示を受けたゴルバットと共にゲッコウガも、真っすぐルカリオの下へ集った。『かそく』で素早さを増すメガバシャーモ相手に、それぞれ横槍を入れてルカリオを援護する。

 流石に一対三では厳しかったのか、メガバシャーモも一旦飛び退いて距離を取った。

 これで一対一の状況が三か所でくり広げられていた状況は終わった。そして、正真正銘三対三の状況が幕を開けた。

 

「何をするつもりですの!?」

「ゲッコウガ、『こごえるかぜ』!」

「コウガッ!」

 

 直後、先頭を陣取っていたゲッコウガが跳躍し、口から総毛立つような冷気を吐き出した。食らえば寒さで動きが鈍ることは必至。特に寒さに弱いくさポケモンにとっては死活問題だ。

 

「クッ、猪口才な!」

「リーブ・イット・トゥー・ミー! ラグラージ、『ワイドガード』!」

 

「ラグアアア!!」

 

 しかし、すかさず前へ躍り出たラグラージが迫りくる冷気を堰き止める防壁を作り出す。頑強な防壁は迫りくる冷気を完全に受け流し、見事味方を守り切ってみせた。

 

「助かりましたわ、デネブ!」

「ユア・ウェルカム♪」

「オーッホッホッホ! 残念でしたわね、コスモスさぁーん! コンビネーションで負かそうとしたって、そうは問屋が卸しませんことよ! むしろそっちこそワタクシ達の本領! この麗しい連携に恐れおののくといいですわァーーー!」

 

 行きますわよ! とベガが声を掛ければ、デネブとアルタイルも動き出す。

 三体横並びになって迫って来るメガシンカポケモン。そのプレッシャーはただの巨大なポケモンとはレベルが違う。

 

 だが、コスモスに気圧される様子もなくルカリオに目配せをする。

 それに頷いたルカリオはと言えば、三体の中でも最後尾に陣取り、前衛をゲッコウガとゴルバットに任せるフォーメーションを組んだ。

 

「フンッ、エースのルカリオを大事に取っておくつもりでして!? そんな甘い考えが通用するとでも!?」

「ゲッコウガ、『こごえるかぜ』!」

「何度も同じ手を……デネブ!」

「オーライ!」

 

 ベガの呼びかけに、デネブが再び『ワイドガード』を指示する。

 その間にも肉迫してくるジュカインとバシャーモ。『リーフブレード』と『ブレイズキック』の準備をした二体は、それぞれゲッコウガとゴルバットに狙いを定めていた。

 

「まずは一体仕留めますわよ! ワタクシはそっちのカエルさんをやりますわ!」

『じゃあボクはゴルバットね』

 

「バウァ!!」

 

『「!!」』

 

 各々の標的を決めた二人であったが、直後に飛来した『りゅうのはどう』が二体の行く手を阻む。

 

「ルカリオ……! 邪魔をしてくれるッ!」

『どうするの?』

「ッ……このまま行きますわ!」

 

 結局、相性が有利な相手に仕掛けた方が早く片が付く。そう踏んだベガは飛来する『りゅうのはどう』を避ける指示を出し、再度ゲッコウガへ狙いを定めた。

 

「お覚悟! ジュカイン、『リーフブレード』!」

「ラグラージもゴー・フォー・イット! 『アームハンマー』デース!」

 

 ジュカインだけでなく、ラグラージもゲッコウガに向けてその巨腕を振り下ろそうと拳を掲げた。

 完全に挟まれた状態。逃げ場はない───。

 

「ゲッコウガ、『あなをほる』!」

「ゲコォ!」

 

「んなッ!?」

「ワォ」

 

───そう、下以外は。

 

 瞬時に地面へ潜り込むゲッコウガ。

 一方、完全に腕を振り抜くつもりだった二体は急に止まることもできなかった。

 

「ジュ……ルルァ!?」

「ラグゥ!?」

 

 『リーフブレード』がラグラージの胴体を一閃し、逆に『アームハンマー』がジュカインを上から叩き潰す。

 見事なまでの同士討ちだった。戦闘不能にこそ陥らなかったが、苦悶の表情を浮かべる二体から察するに相当のダメージを負ったことは間違いない。

 

「な、なんて卑劣な戦い方ですの!? 味方に攻撃させるなんて!!」

「それなら『じしん』デース!」

「あっ、デネブ!! ちょっとお待ちなさ……!!」

 

 先走るデネブを止めようとするが遅かった。

 すでにラグラージは両腕を振り上げており、今すぐにでも地面を叩きつけて『じしん』を起こす段階だった。『じしん』は地中に居る相手に対し、絶大な威力を誇るじめんタイプの大技。反面、範囲が広すぎて対象を選べない欠点がある。

 

 それはつまり、

 

「ワタクシのジュカインに当たるじゃありませんのォ~~~⁉」

 

 振り下ろした拳が地面を叩いた瞬間、間近に居たジュカインの身体が跳ね上がった。

 震源地に最も近い場所に佇んでいたジュカインが()()だ。もし仮にゲッコウガも近くに地中に潜んでいれば一たまりもない。ともすれば、二度と地上へ這いあがれないダメージを負うことになるだろう。

 

 だが、コスモスの瞳に焦りの色は窺えない。

 

「バシャーモを狙え!!」

 

「バウッ!」

「ゴルバッ!」

 

 指示を口にすれば、力強く吠えたルカリオとゴルバットが動き出す。

 ルカリオが掌に波動をチャージしている間、ゴルバットが猛スピードで駆けまわるバシャーモに『つばさでうつ』を放たんと接近する。

 ただし、問題があるとすればバシャーモの速さであろうか。このまま迂闊に近づいたところで速さが極まったバシャーモ相手に蹴り落とされるのが関の山だ。

 

 それはアルタイルも理解していた。

 

『飛んで火に居る何とやら。返り討ちにしてあげるよ!』

 

「ゲッコウガ、今!」

「ゲコォ!」

 

『えっ!?』

 

 だが、突如として地面から伸びてきた手がバシャーモの振り上げようとしていた脚を掴んだ。まさか自分の方を狙っていたとは夢にも思っていなかったアルタイルからは驚愕と困惑……そして焦燥の声が上がった。

 

『ちょ……それは洒落にならないって!!』

 

 何故ならば未だに()()は未だに収まっていなかったから。

 

「バ……シャアアア!?」

「ゲ……コォ!!」

 

 次の瞬間、激震が二体を襲った。

 たとえメガシンカポケモンといえど一たまりもない一撃。地中に半身を埋めていたはずのゲッコウガが跳ね上げられるほどの『じしん』には、バシャーモも立ってはいられなかった。

 

『デ~~ネ~~ブ~~!!』

「よそ見してていいんですか?」

『え……あぁ!?』

 

 アルタイルが怒りの声を上げる間、乾いた音が青空に響き渡った。

 

「バシャ……!?」

「ゴルバルバルバァ~~~ッ♪」

「シャア~……!!」

 

 打ち据えられた胸を痛そうに抑えるバシャーモ。

 一方で空中を自在に飛び回るゴルバットは、長い舌をベロリンガよろしく振り回し、相手を挑発していた。味方なのに見ていてイラつくとは相当だ。

 

『ああもうっ、ゴルバットのこと忘れてた!』

 

(でも、ゲッコウガがダウンしてる今がチャンスだ……)

 

 真っ当に苛立ちながらも状況を分析するアルタイルは、落ち着いて標的をゴルバットに定める。

 

『今度こそ返り討ちにしてやる! 『かみなりパンチ』!』

「バッシャアアア!!」

 

 火炎ではなく雷電を拳にまとわせるバシャーモ。

 腰を下ろし、正拳突きの構えを取りながら向かってくるゴルバットをジッと見据える。横槍さえ入らなければゴルバットとの真正面からの打ち合いに負ける道理はない。

 

『よし……今だ!』

 

 そして、充電を済ませた拳がゴルバットを捉える───はずだった。

 

「……バシャ?」

『え……どうして電気が消えてくの!?』

 

 いくら待っても拳に電撃が溜まらない。

 まるでどこかに引っ張られているかのように電気は別の場所へと流れ出て行っていた。

 

 電気の流れを追えば、そこには味方の森トカゲが居た。

 今度はゆ~っくりトレーナーの方へと視線を移す。普段は強気な緑髪の少女が、この時ばかりは忙しなく目が泳いでいた。汗もダラダラと流れている。夏場のコオリッポかな?

 

『ベガ?』

「……そ、そう言えばメガシンカすると特性が『ひらいしん』になったような……」

『それ先に言ってよ!?』

 

 当然の結果だった。

 場に居る限り問答無用ででんき技を吸収する『ひらいしん』持ちが居れば、味方の技と言えど無力化されてしまうのは必然。

 

「で、ですがおかげさまでジュカインのパワーが高まりましたわ! これこそコンビネーションというべきではなくって!?」

『でもそのジュカイン物理型じゃん』

「はぐっ!?」

 

 『ひらいしん』で高まるのはあくまで“とくこう”。

 ご愁傷様である。

 

「ゴルバッ!」

「バシャア!?」

 

『ああっ!? ベガが馬鹿言ってる間に!』

 

 トレーナー側の揉め事など知ることかと、ゴルバットの羽がバシャーモを打ち据える。

 立て続けに弱点タイプを食らったバシャーモの表情は実に辛そうだ。息も上がっており、『かそく』で得られた素早さを生かそうにも先に体力が尽きそうに見える。

 

『どうしてくれんのさ!』

「で、ですが、向こうのカエルさんだってラグラージの攻撃で満身創痍ですわ! バシャーモが倒れたとしてもワタクシ達でフォローして……」

「あっ、もう立ってマスよ?」

「はぁん!?」

 

 あっけらかんと言い放つデネブに、ベガも思わず素っ頓狂な声を上げた。

 すぐさま限界まで見開いた瞳をゲッコウガへと向ける。すると、そこにはルカリオより放たれる淡い光に包まれるゲッコウガの姿があった。『じしん』で受けた傷もどんどん癒えている。

 

「い……『いやしのはどう』……!?」

 

 完全に予想外であった。

 てっきりルカリオが溜めていた波動を攻撃用と断定し、味方を回復させる為の技とは露ほども思わなかった。

 

(ですがコスモスさんがそんな技を指示した覚えは……───はっ!?)

 

 どのタイミングで仕込んでいたかと思い返してみれば、とある違和感に気がついた。

 

(そう言えば途中からルカリオとゴルバットには指示を出していなかったような───)

 

 具体的には、ルカリオに『コーチング』を命令して以降。

 それっきりコスモスはゲッコウガにだけ指示を出していた。

 

 ならばルカリオとゴルバットは誰の指示も受けずに戦っていたか?

 

───いいや、違う。

 

「ゴルバットはルカリオの……アナタまさか?!」

「今更気づいても遅いですよ」

 

 『いやしのはどう』で回復したゲッコウガは、颯爽とラグラージの下へ向かうや『こごえるかぜ』をくり出す。

 それを再度『ワイドガード』で防ぐラグラージであるが、ゲッコウガは構わず同じ技をぶつける。

 

 守るラグラージ。

 攻めるゲッコウガ。

 

 一見、メガシンカの恩恵に与りフィジカル強者となったラグラージに軍配が上がると思いきや、先に崩れたのはラグラージの方だ。

 とうとう守り切れなくなった冷気が襲い掛かり、身を震わせるラグラージとジュカイン。特に後者はあからさまに堪えた表情となる。

 

 その間、ルカリオとゴルバットの方はと言えばコスモスの指示がなくとも連携を取ってバシャーモを追い詰めていた。肉迫するゴルバットに合わせ、ルカリオの狙撃が飛んでくるといった具合に……だ。

 

 これだけ見ればトレーナーの指示がなくとも戦えるポケモンという感想を抱くだろう。

 だが、事実はまったくの別物。

 それを理解していたのは、彼女を最大の敵と見做すベガに他ならなかった。

 

()()()()()()()()()()()……ですって!?」

「ようは合理化ですよ」

 

 カラクリはこうだ。

 相手が一体に一人の指示役が付いているのに対し、コスモス側は一人で三体に指示を出さなければならない。そうなってしまうと、どうしても指示を出す段階で相手に遅れを取ることになる。

 

 だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 指示を出す対象が三から二に減るだけでも負担は大幅に減る。必要なのは誰にどう指示を出すか、この一点に尽きた。

 

 そこで『へんげんじざい』で対応力の高く、場を引っ掻き回せるゲッコウガには直接口を出す形を取った。

 ではルカリオには? と問われれば、彼には人の感情や思考を読み取る波導の力がある。皆まで言わずとも主の作戦は読み取れる。後はそれに従いゴルバットに指示を出してもらえばいい。

 

「っ……ありえないですわ!! アナタの強さは、完璧な分析とそこから緻密に組み立てられた戦術によるもの!! アナタ自身が指示を出すのではなくポケモンに任せるなんて……そんな大味な作戦で倒されるほど、シャドウポケモンは弱くないはずですわ!!」

「それこそ思い違いです」

「なんですって!?」

 

 熱くなるベガの反面、コスモスの冷たく感じられるほど平坦な声が場に響いた。

 

「個人的な感想ですが、貴方が思っているほどシャドウポケモンは万能じゃありません」

「な、なにを根拠にそんなことを!!」

「経験です」

「!!」

「あくまで対峙した側の、ですけれど」

 

 経験を貴び、自らに活かす少女だからこそ、その言葉には“重み”があった。

 三度、羽で打ち据える音が青空に響き渡る。弾き飛ばされたバシャーモはゴロゴロと地面を転がり、ベガ達の前まで戻された。

 時を同じくして、バシャーモを相手に互角以上の戦いを繰り広げていたゴルバットが主の隣へ舞い戻る。

 

「ゴルバッ!」

「……それにです。どうやら貴方はポケモンバトルにおいて何が重要か……それを忘れてしまったみたいですね」

 

「なっ……!?」

 

 ベガの口から驚愕の声が漏れ出る。

 それは敵から告げられた事実があまりにも衝撃的であったからではない。

 

 コスモスの隣に佇むゴルバット。

 その力強く羽搏く姿に変化───否、()()が起こり始めた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「アァ~~~ン、めんどくちぃ~~~」

 

 バッターン! とラボの机に頭突きを食らわせるテリアが呻く。

 寝不足の証拠と言わんばかりの隈を目元に浮かべる彼女は、机に突っ伏したまま器用にキーボードを叩いて文字を打ち込んでいる様子だった。

 

「……珍しいな。お前が研究に文句を口にしている姿は」

「お? この目が覚めるような香りはカゴのみ茶……!」

 

 ジー氏! と目を輝かせるテリアが体を起こせば、入口に淹れたてのカゴのみ茶をお盆に乗せてきた男性が立っていた。

 そんな彼から湯飲みを受け取り一気に茶を煽る。すると、全身にまとわりついた眠気という眠気が、恐ろしいまでの渋みによって搔き消えるような感覚が走って鳥肌が立った。

 

「っかァ~~~!! やっぱこれこれ!! 眠い時にはこれに限るよォ!!」

 

 目がガン決まりになりながら主張するテリアに、ジーは『程々にしておけ』と忠告を入れる。そのまま視線をモニターに移した彼は、綴られていた文面に目を通した。

 

「……定期報告か?」

「そうそう。この報告書を送らにゃお賃金もらえませんからねェ」

 

 真っ当に稼ぐ手段が少ない自分にとって、研究者仲間に紹介されたシャドウポケモンの研究はちょうどいいシノギだ。

 しかし、だからと言ってモチベーションに繋がるかはまた別の話である。

 

「何が不服だ? 元々の専攻分野だったんだろう?」

「ん~、別に不服とかそういうんじゃなくてねェ。むしろワタシ的にはそそられる依頼ではあったんだけど、いざ答えがなんなのか察しがついてくると冷めてくるっていうか……」

「なんだと?」

 

 その口振り、まるでシャドウポケモンの正体を看破したようではないか。

 そう言わんばかりの視線を背中に浴びたテリアは、次の言葉を待たずしてモニターへとある画像を映し出した。

 

「これは……遺伝子か?」

「そうそう。これね、シャドウポケモンから検出された共通の遺伝子」

「共通だと?」

 

 ありえない。ジーは言葉に出さずとも、そう訴えていた。

 たとえ近い種族のポケモンであろうと、別種であるならば採取された遺伝子には違いがあるはずだ。

 これがまったく同じものだとするなら、それは一つの可能性を示唆する。

 

()()()()()()()()()()()、って言うべきかな? ともかく、ワタシに預けられた三体全員からこの遺伝子が確認されたことは確かさ」

「フム……それで、この遺伝子に心当たりは?」

「ある。ってか、あった」

 

 あっけらかんと言い放つテリアは、軽快な指使いでキーボードを叩く。

 次にモニターに映し出されたのは、とあるポケモンの画像であった。薄い桃色の体色に長い尻尾が特徴的だった。そんなピッピやプリンのようなカワイイ印象を受けるポケモンに、ジーは眉尻を下げる。

 

「このポケモンは?」

「ミュウ」

「ミュウ?」

「知らない? 昔の研究者が見つけた、全てのポケモンの先祖って言われてるポケモンなんだけど……」

 

 次にテリアは先程の画像をミュウの遺伝子と比較するように並べてみせた。

 

「分かる? 照合してみるとね、この遺伝情報はミュウのものと99%以上合致するんだよ」

「100%じゃないのか」

「鋭いね、ジー氏。そこがミソなのさ」

 

 テリアがマウスを弄れば、次々に映し出されるポケモンと遺伝子画像が映し出され、先の謎の遺伝子と比較されていく。

 しかし、どれの合致率もミュウのものには遠く及ばない。

 食い入るようにモニターを見つめるのはテリアだけではなかった。辺鄙な土地に暮らし、コンピューターに疎そうなジーですら、流れていく結果をジッと凝視していた。

 

「遺伝子ってのは面白いものでさ、たった1%の違いでも発現する特徴ってのは大分違ってくる訳でさ。でも逆に、どのくらい違うかでも推察することが可能だとは思わないかい?」

「……分かったという訳か。この遺伝子の持ち主が」

()()()()()

 

 あっさりとテリアは告げた。

 一瞬ジーも反応が遅れた。告げられた名がミュウでないと理解して、ようやく彼の思考は再び動いた。

 

「……ミュウツーだと?」

「何十年も昔、そりゃあマッドなサイエンティストがミュウの遺伝子をどんどん組み変えて作った最強のポケモンさ。あ、これあんまり言いふらしちゃダメだよ?」

 

 仲間内でもトップシークレットだからさ、と。

 そう、悪戯っ子のような笑みを浮かべるテリアの目には光が宿っていた。実に澄んだ光だ。一切の濁りもない。故に何色にも染まりそうな純白だった。

 

「ワタシも研究テーマの手前、興味本位で調べていた時期があったのさ。だからすぐピーンと来ちゃった訳よ」

「研究テーマだと?」

「あれ、言ってなかったっけ?」

 

 じゃあちょうどいいや、と。

 そう漏らしながら、テリアは椅子を回転させてジーに向かい合った。

 

「ワタシの研究テーマはズバリ、『最強のポケモンはどうやったら作れるか』さ!」

「穏やかじゃないな」

「ハッキリ言ってくれるねェ~。まあ落ち着き給えよ、ジー氏。まだギリ法には触れてないから」

 

 つまり、あと少しで法に触れるラインまで踏み込んでいる訳だ。

 話せば話すほどボロが出そうな気配がビンビン感じられるものの、喋りたくて堪らない様子のテリアは、訊かれるまでもなく語り始める。

 

「話は戻るけど、ミュウツーってのはとことん戦闘力に特化した遺伝子組み換えがされててさ。そりゃあもう製作者も手に負えないくらい凶暴になって、最後は研究所をボカーンッ!」

「……それで? そのミュウツーとやらの遺伝子とシャドウポケモンに何の関係がある」

「後年の研究で分かったんだけど、ミュウツーの遺伝子には摂取したポケモンを凶暴化させる効能が確認されていてね。表沙汰にはされていないけど、過去にはそいつを利用してテロを起こそうとした輩が出てきたこともあるんだよ」

 

 ここまで来ればシャドウポケモンに精通していないジーであっても、大体の流れを把握することができる。

 

「つまり、シャドウポケモンはミュウツーの遺伝子を用いて製造されている……ということか?」

「ピンポンピンポーン! まあ、流石に直接『遺伝子注入!』って訳でもないだろうし、上手~く効能だけ抽出したおクスリ作ってるんだろうけど、そっちまでは専門外だしなぁー」

 

 あくまでテリアに分かるのはシャドウポケモンに何が用いられたかまでだ。用いられた代物をどのように利用したかまでは、製造者でもない以上知りようもない。料理にどのような調味料が加えられているかは分かっても、その調味料の製造方法までは分からない……といった具合だ。

 

「こっから先はワタシもお役御免だね。あとは余所の……そうだなぁー、ウィロー博士かオーレのクレイン所長辺りが適任なんじゃないかな?」

「お前はもう手をつけないのか?」

「治すとこまでは依頼に含まれてないしねぇ~?」

 

 あくまでも興味をそそられていたのは、ポケモンのシャドウ化という強化方法について。その手法さえ判明してしまえば、残りはテリアにとってさほど興味がない部分となる。

 

「勿論、まったく興味がないって訳でもないんだけどねェー」

「お眼鏡には叶わなかったという訳か」

「……」

 

 テリアは不敵な笑みを浮かべる。

 寝不足故、眉間に皺が寄る彼女の表情からは、どことなく落胆の色が窺えたような気がした。

 

「ジー氏。今主流になっている学説が提唱するポケモンの能力分類が何か……知ってる?」

「『HP(体力)』、『こうげき』、『ぼうぎょ』、『とくこう』、『とくぼう』、『すばやさ』の六つじゃないのか?」

「そう。んでね、シャドウポケモンは全体的に強化されている訳なんだけど……」

「何が不服だった?」

「しいて言えば()()()()()()()かな」

 

 『バイモユリ実験って言ってね』、とテリアは切り出した。

 

「トレーナーによる育成がどれくらいポケモンの能力に影響するかって実験さ。半世紀以上も昔にタマムシ大学で行われたんだよ」

 

 当時、実験の為に用意されたのは数十体のコラッタ。

 コラッタをいくつかのグループに分けた後、それぞれに別々の育成方法を試す。そうして各グループの能力の伸び幅を計測・比較したのがこの実験だ。

 

「結論から言えば、トレーナーが育成したグループの個体は野生と同じ環境下で飼育した個体に比べて大きく能力値が成長した」

「だろうな」

「けれど、面白いのはここからさ。同グループ内でも当然能力には個体差があった訳なんだけど、最終的にこの個体差……どうなったと思う?」

「……同じ育成を施した以上、元々優れた個体の方が劣った個体より秀でたままと考えるべきだ。生まれ持った才能の差は覆らない」

「そう思うよね。でもさ、()()()()()()()()()

 

 その言葉にジーの瞳が驚愕に見開かれた。

 

「……なに?」

「同じも同じ。もちろん体格の問題とかあるけど、それを加味してもホンット~~~に微々たる差。ほぼ同値。これがどういう意味か分かる?」

「……種族として定められた到達点、か」

「そう」

 

 パチンと指を鳴らした音が反響する。

 

「もっと過程を詳細に説明すれば、他のグループと比較した時点では同グループ内でも格差はあった。でもね、その後教授が思いつきで同グループ内の優秀な個体と劣等な個体を分けて実験を再開したんだよ」

 

 当初、劣等グループは優秀なグループのトレーニング量をこなせなかった。

 このトレーニングは優秀なグループがこなし得る限界量を参考に、都度更新し続けたとされる。こうすることでたとえ劣等グループが優秀なグループのトレーニングをこなしたとしても、その頃には優秀なグループはさらに上を行ったトレーニング量をこなすというオタチごっこな状況を作り上げた。

 

 しかし、ある日を境に優秀なグループのトレーニング量は頭打ちとなった。

 こうなってしまえば近い内に劣等グループも、そのトレーニング量を下回るところで頭打ちとなるだろう……実験に携わった研究者は誰もがそう思った。事実、劣等グループの能力の伸びはなだらかになっていた。

 

 けれども、一向に能力の伸びは止まらない。

 測定項目の一つであった50m走でも、やがて劣等グループは優秀なグループに並ぶ記録を出すようになった。

 

 そして、最終的には劣等グループは優秀なグループと同じトレーニングをこなせるようになった。測定項目の記録についてもそうだ。バトルに至っては勝率が五分と、ほぼほぼ互角という結果が出た。

 

「この実験は非常に有意義で夢があるとは思わない?」

「……才能を努力で覆せるのなら、凡人にしてみれば夢のある話だ」

「でもね、遺伝子方面をお勉強したワタシからしてみたら残念極まりない話でねェ~。どれだけ優秀な『おや』を掛け合わせたところで『能力には限界がありますよ』なんて言われた日には……」

 

 へにゃへにゃと脱力するテリアは、開いた自身の脚の間に頭を埋める勢いで項垂れる。

 

「っとォ、失礼! んで話は戻る訳なんだけどォ、シャドウポケモンはそうしたポケモンごとの潜在的な能力を解放してるんだよね。どんなに弱いポケモンだとしても、めっっっちゃくちゃ優秀でハッッッチャメチャに努力を積んだポケモン並みの力を発揮できる! って感じ?」

「戦闘用のポケモンとしてはこの上ないな」

「でもさ、それってようは努力詰んだポケモンと同じぐらいの強さって訳じゃん?」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「……それは、」

「ワタシ的にはそこがなァー。折角倫理的に問題ある方法でパワーアップさせてるんだから、才能や努力じゃどうにもできない外法のパワー! 的なのを手に入れてほしかったんだよねェ~」

「……つまり、なんだ。一定のレベル以上のポケモン相手には微々たる能力の差しかないという訳か」

「うんうん。というか、トレーナーの存在も加味したらほぼ皆無じゃないの?」

 

 『ワタシにトレーナーのことは分からないけど』と注釈を入れつつも、テリアはそう締めくくった。

 

 無論、彼女の提唱した説にも問題点はある。

 通常、その誤差に至るまで努力を積めるトレーナーが全体の一割にも満たないということだ。そうなってしまった場合、仮にシャドウポケモンと対峙した際には相手ポケモンとの能力差に大いに苦しめられることとなるだろう。

 

 だがしかし、彼女の言うような凄まじい努力を───すごい特訓を積み重ねたポケモンを持つトレーナーであれば。

 当然トレーナーとしてのレベルは高いだろう。ポケモンのレベルも高いはずだ。

 となると、むしろシャドウポケモンの性能に胡坐をかいているトレーナー相手など、歯牙にもかけぬパフォーマンスを発揮するとは考えられないだろうか?

 

 

 

 そして、事実として。

 その説を立証するポケモントレーナーが、この辺境の地に居た。

 

 

 

 ***

 

 

 

一対だった羽は二対へと。体色はズバットの頃からの薄い青色から、そこへ血の赤を足した紫へと変貌を遂げた。

 全体的なシルエットはゴルバットの時よりも一回り大きい。

 にも関わらず、素早く羽搏かせる羽の音はほとんど響いてはいなかった。闇の静寂に紛れ、獲物を捕食する為の進化を遂げたという訳だ。

 

───そのポケモンの名は、

 

「クロバット……!」

 

 ズバットの最終進化形であり、トレーナーに強い信頼をおいたゴルバットしか到達し得ない姿。

 今となっては古参になる手持ちの進化を見届けたコスモスは、優しい手つきでクロバットの頭を一撫でする。それを満足げに受け入れたクロバットはそそくさとバトルに戻っていく。自分の居るべき場所へと戻るように。

 

 その後ろ姿を見送ったコスモスは、静かに口を開いた。

 

「貴方達はサカキ様の言葉を覚えてませんか?」

「な……サカキ様の、ですって……?」

「『信頼はしても信用するな』、です」

「……あっ」

 

 思い当たる節でもあるかのような反応を見せるベガに、コスモスは続ける。

 

「過去の実績や成果に対しての評価が『信用』で、未来の行動や感情についての期待が『信頼』。ポケモン相手に留まらず組織という集団の集まりを円滑に運用する為に必要と……私はそう教わりました」

「それがなんだって言うんですの!? ワタクシ達はこの子の強さを信じておりますわ!! それにアナタがポケモンを信じているのと何の違いが……」

「違いならあります」

 

 コスモスは断言した。

 それから自身の手持ちを一体ずつ見渡す。ルカリオ、ゲッコウガ、そして進化したばかりのクロバットを。

 

「……私はこの子達の強さを信じています。ですが、それは『信頼』であって『信用』ではありません。なぜか分かりますか?」

「なぜ……?」

「この子達が感情を持つ生き物だからです」

「!」

 

 言われるや否や、ベガはジュカインの方を見た。

 度重なる攻撃で満身創痍のジュカインだが、どうにも疲弊した理由はそれだけに留まらないようにも見えた。

 それもそのはずだ。シャドウ化という潜在能力を解放する施術を施された彼らであるが、それは本来長い時間をかけて築きあげていく基礎をすっ飛ばしてのドーピングに過ぎない。加えてポケモンに多大な負荷を掛けるメガシンカも併用しているのだ。一時は本来のステータスを凌駕する力を発揮すれど、バトルが長引けば長引くほど体力を消耗するのは当然の結果であった。

 

 しかしジュカインは対峙する敵を見据えるばかりで、トレーナーであるベガの方を見向きする気配は微塵もなかった。

 ただただ辛そうに息を繰り返し、下された命令をこなそうとする戦闘兵器。それがシャドウポケモンであるが、果たして彼らに感情はないのだろうか───その答えはノーだ。

 

 重大な事実に気がついたかの如く絶句するベガに、コスモスは畳みかける。

 

「たしかに貴方達はそのポケモンの強さを『信用』しているのかもしれない。けれどポケモンが生き物である以上、発揮されるパフォーマンスは感情や体調に大きく左右される。もちろんミスをする時だってある……違いますか?」

「それは……!?」

「だからこそ『信頼』です。過去の活躍があってもそれはそれ、これはこれ。私達ポケモントレーナーの目の前に居るのは、()()この子達なんですから」

 

 その言葉に力強く頷いたのは少女の手持ち達だった。

 たとえ信用していないと告げられても、全幅の信頼を置かれている彼らは()()()()()。相手がシャドウポケモンであろうとメガシンカポケモンであろうと関係ない。

 

「ようは危機管理の問題です。『信用』しているからといって丸投げにしない。トレーナーがポケモンをフォローし、時にはポケモンがトレーナーをフォローする。それこそがポケモンとトレーナーのあるべき姿……『信頼』の形です」

 

 長々と語ったコスモスは一呼吸置いて呼吸を整えた。

 視線をベガの方へと向ければ口をパクパクと喘ぐ姿が見えた。上手く返す言葉が見つからないのだろう。隣に並び立っているデネブとアルタイルはと言えば、両手を挙げてやれやれと首を振っていた。呆れが半分、諦めが半分といったところか。

 

「───反論がないなら、これで終わらせます」

 

 コスモスの意思を読み取った三体が動き出す。ルカリオの波導を介するまでもなかった。

 

「っ……だとしても!! ワタクシはこの子の力を信じますわ!!」

 

 ジュカイン! と呼べば、それまで蹲っていたポケモンが動き出す。

 時を同じくして二人も各々のポケモンに呼びかけ、先行するジュカインの後を追わせた。同僚のよしみとして最後まで付き合うつもりなのだろう。

 

「ジュカイン、『リーフブレード』ですわ!!」

『バシャーモ、『ブレイズキック』!!』

「ラグラージ、『だくりゅう』デース!!」

 

「ジュラアアア!!」

「バッシャアア!!」

「ラグアアアア!!」

 

 雄たけびを上げながら迫りくる三体。

 それに対しコスモスは、

 

「クロバット、『アクロバット』!!」

「クロバッ!!」

 

「ルカリオ、『はどうだん』!!」

「バウァ!!」

 

「ゲッコウガ、『くさむすび』!!」

「ゲコッ!!」

 

 誰に、と指示するまでもなかった。

 まず先頭のジュカインに対し、俊敏な動きで肉迫したクロバットの攻撃が炸裂する。

 次に飛来した正確無比な蒼の光弾がバシャーモの胴体に着弾し、その背後より押し寄せた濁った激流の一部を穿つ。

 そして最後にゲッコウガだ。『はどうだん』で一部穿たれた『だくりゅう』を飛び越え、あっという間にラグラージの懐へと潜り込んだ。

 

 すかさず豪腕を振り回すラグラージだが、咄嗟に身を屈めたゲッコウガには命中しない。それどころかラグラージの方が不自然にバランスを崩した。足下に目を遣れば、不自然に結ばれた草の輪がラグラージに足に引っ掛かっていた。

 

 この時ばかりは見事な逆三角形体型が仇となった。普段より重心が上となったラグラージは振り回した『アームハンマー』の勢いもあってか派手に転倒。100キロ越えの巨体を自ら地面に打ち付ける羽目になった。

 

「そ、そんなおバカな……ッ!?」

 

 瞠目するベガの目の前に広がっていた光景は、勝者がどちらかを証明する揺るがない証拠だった。

 そして、仲良く目を回していた三体のシャドウポケモンは一斉に元の姿へと戻る。

 

「勝負、決まりましたね」

「ヒィッ!?」

 

 勝者となった少女の眼光に、手持ちを全員倒されたベガは萎縮する。

 一応取り巻きの二人にも目を向けたが、彼女達は『どうぞどうぞ』と早々に生贄を出す姿勢を見せていた。随分と手慣れた様子だ。

 

 というのも、これが彼女達にとっての様式美であった。

 勝負を吹っかけるベガ。巻き込まれるデネブとアルタイル。そして、難なく返り討ちにするコスモス。背が伸び手持ちが増えたとしても、構図はあの時のままだ。

 

 地面に女の子座りするベガ。その目にはたっぷりと涙が浮かび上がっていた。

 同情を誘う体勢の彼女へ歩み寄るコスモスだが、見下ろす視線には温情を掛けようという色が一切窺えず、尚の事ベガは震えることになった。

 

「コ、コスモスさん? ワタクシ達、お友達ですわよね……?」

「ええ、そうですね」

「で、ですわよね!? ねっ!? ですから、そのぉ~……ちょ~~~っとばかし調子に乗ってしまいましたけれども、ここは友人のよしみで許してくれたりは~……?」

「ベガ」

「ひゃい!?」

「私が賭けで勝ち取ったデザート……貰わなかったことがありますか?」

 

 瞬間、過去を振り返ったベガが悟った表情を浮かべる。

 かつて自身が勝負を持ちかけた際、承諾する代わりとして賭けていた給食のデザートがある。実家が貧乏だったベガからしてみれば、それは目が輝かんばかりに貴重なブツであった。だからこそ賭けの対象として抜擢された訳だが、

 

「……無いですわ」

 

 一度たりとも。

 

「そういうことです。さて、どうしてくれましょう?」

「ひぃ~~~⁉」

 

 それは死刑宣告に等しかった。

 咄嗟に後ろに引き下がろうとするベガであったが、そこへ背後に待ち構えていた仲間である二人が腕を抱え込んでくる。土壇場での裏切りであった。

 

 最早逃げ場を失ったベガは、せめてもの抵抗にとあらんばかりの声で叫ぶ。

 

 

 

「お、お許しをぉ~~~!?!?!?」

 

 

 

 仲間を呼んだ。

 しかし、助けは来なかった。

 

 

 

「あひゃひゃ~~~~~!?!?!?」

 

 

 

 その後、しばらくの間少女の笑い声とも取れぬ悲鳴が島中に響き渡った。

 

 

 

 

 




Tips:デネブ
 ロケットチルドレンの一人である青髪の少女。同年代に比べ背も高く容姿も整っている為、しばしば美少年に間違われることが多い。黙っていれば知的な雰囲気を纏うクールビューティそのものだが、一度口を開けばハツラツとした喋り方と共に外国式の距離が近いスキンシップが飛び出てくるイヌヌワン系である。
 出身がカントー地方ではない為、こちら側の言葉はやや片言。元々は良家のお嬢様であったらしいが、色々あった結果家が没落して高飛びせざるを得なくなり今に至る。
 当初はこちら側の言葉を話せなかったものの、同室だったコスモスがを通訳と勉強を手伝ってくれた(当人は海外の論文を翻訳してもらおうという打算があった)為、面倒を看てくれた彼女に対し異常なまで懐いている。優先度で言えばコスモス>ロケット団であり、ベガ達と行動を共にしていたのもいずれコスモスがロケット団に戻って来るだろうという考えから。
 ふとした瞬間にネイティブな話し方になって怖い。(アルタイル談)

手持ちポケモン
・パルシェン(♂)
・スターミ―
・ラグラージ(♂)(シャドウポケモン)

【立ち絵】デネブ(絵:柴猫侍)

【挿絵表示】
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