愛と真実の悪を貫く!!   作:柴猫侍

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前回のあらすじ

コスモス「すぴー、すぴー」

ベガ「あだだだだッ!? コスモスさん、キマってますわ!! 寝相で4の字固めが綺麗にキマってますわ!! 起きてくださいまし!!」

アルタイル(うるさ……)

デネブ「zzz……」


№059:未来へ

 

 

 

「チュー……ピー……」

「うーん……」

 

 一つ屋根の下、レッドとピカチュウは眠りについていた。

 凄まじい寝相をくり出すピカチュウに顔を足蹴にされていることを除けば、仲睦まじいと称して差し支えない光景だ。

 

「むにゃむにゃ……うん?」

 

 だが、不意に鳴り響いたポケギアの着信音にパッチリ目が覚める。

 

「……誰……?」

 

 寝起きで頭が回らない中、のそのそとポケギアの元まで這ってゆく。

 『(グリーン)だったら許さない』と心に固く誓いつつも、いざ画面を開いたレッドは思わぬ差出人に三度目を擦った。

 

「コスモス……?」

 

 思いもよらぬ差出人。

 しかも、電話などではなくメールに必要最低限座標を記しているだけだった。

 

「……ピカチュウ」

「ピ?」

「出かけるよ」

「……ピッカ!」

 

 数秒固まっていたレッドだが、不意に何かを悟ったように機敏に紅い帽子を被る。

 その際、眠っていたピカチュウも起こされるが、掛けられた声色が普段とは違う───有事に当たる真摯な声色を聞き、パンパンッ! と頬の電気袋を叩いて即座に気合を入れる。

 

 玄関に赴けば、やはり少女の靴は見当たらない。

 同様に家主である男性の物もないことを確認したレッドは、手持ちからリザードンをくり出し、颯爽とその背に飛び乗った。

 

「リザードン、ゲンエイじままでお願い」

「グォオウ!」

 

 真夜中に呼び出されることにも疑問を抱かず、リザードンはその両翼を力強く羽搏かせ、レッドを夜の空へと連れ出す。

 赤い炎は尾を引いて、夜の帳の中に一直線の軌跡を描いていく。

 迷いなく伸びる光は時を経るにつれて大きく、さらには加速する。

 

 火急の事態を前には時間は関係ない。

 ましてやそれが身近な人間の危機だとするならば、尚の事。

 

 

 

 ***

 

 

 

「クロバット、『アクロバット』!」

「『いかりのまえば』だ」

(速い!)

 

 闇に紛れる色を纏う二体の影が重なる。

 次の瞬間、重なった地面の影にコスモスのクロバットが叩きつけられた。

 

「ク、クロバッ……!」

「攪乱しろ! 『あやしいひかり』!」

「躱して『しねんのずつき』」

 

 『いかりのまえば』で大きく体力を削られながらも、何とか飛び上がったコスモスのクロバットが幻惑の光を目から照射する。

 しかし、ジーのクロバットは速かった。

 照射される光を掻い潜り、一瞬の間にコスモスのクロバットの懐へ肉迫しては、悍ましい思念の力を集中させた頭突きを叩き込む。

 

 鈍い音が響いた直後、地面に蜘蛛の巣のような亀裂が走る。

 

「クロバット! っ……戻れ!」

「これで一体」

「GO、ゲッコウガ!」

 

「ゲコォ!」

 

「『シザークロス』だ」

「『あなをほる』!」

 

 息を吐く間もなく駆り出されたゲッコウガに空気の刃が迫る。

 それを地面に潜ることでゲッコウガは回避する。

 地面に潜られては空中を主戦場とするクロバットには為す術がない。しかし、ジーの表情には毛ほどの動揺も見受けられなかった。

 

 というのも、

 

「地面に潜ったところで無駄だ。どうしてクロバットが暗闇の中でも相手を捉えられるか、君も知らない訳ではないだろう?」

 

 僅かに地面を移動する僅かな音が聞こえる。

 しかし、クロバットのような()()()()()()()を扱うポケモンにとっては、相手が地中に居ようが捕捉に支障はない。

 

───反響定位

 

 音波の反射により物体の位置を知る方法。

 空気中であれば340㎧。水中ならば1500㎧。土中ならばそれすらも上回る。

 

「そこだクロバット、『クロスポイズン』!」

「クロバッ!」

 

 毒々しい液体を帯びた鋭利な翼が畝のように盛り上がった地面を切りつける。

 滴る毒液は凶悪であり、刻まれた地面の断面からはジュウウウと土の灼ける音が鳴り響く。

 

「……何?」

 

「ゲッコウガ、『れいとうビーム』!」

「コウガァ!」

 

「クロバッ!?」

 

 『クロスポイズン』を放った場所とはまったくの別の場所。

 ちょうどクロバットの背後を取る形の場所から飛び出すゲッコウガ。その土に塗れた舌は収める素振りも見せず、凍て刺す冷気の光線を相手の背中に叩き込んだ。

 

 完全に不意を衝いた一撃。

 何よりも『へんげんじざい』でこおりタイプとなり、威力を増したこうかバツグンとなった技を前に、ジーのクロバットはそのまま地に堕ちることとなる。

 

「……」

「逆にですが」

「?」

 

 無言でクロバットを眺めるジーへ、セレビィを抱きかかえるコスモスが言い放つ。

 

「同じクロバット使いである以上、()()を予想していなかったとお思いで?」

「……なるほど。舌を囮に使ったか」

 

 道理だな、と。

 納得したジーは淡々とクロバットをボールへと戻す。

 

「やはり君は敏く、強く───だからこそ厄介だ。マニューラ」

「マニュゥウッ!」

「『かわらわり』」

 

「『つばめがえし』!」

「ゲコッ!」

 

 威勢のいい雄たけびを上げながら鉤爪を振り翳すマニューラへ、両手に手刀を作るゲッコウガが応戦を開始する。

 

(このマニューラ……強い!)

 

「……どうにも効果が薄いな。なるほど、条件次第でタイプが変わる特性か」

 

(それに付け加えて……)

 

「マニュウッ!!」

「ゲコォ!!?」

 

 互角の攻防を繰り広げていた両者であったが、間隙を突いて腹部に叩き込まれた拳にゲッコウガが崩れ落ちた。

 直撃を貰った部位を注視すれば、微かに白い冷気が漂っていたのが見える。

 その源を辿ればマニューラの拳へと行き着く。

 

(『れいとうパンチ』! 即座にこっちの特性を逆手に取られた……!)

 

「マニューラ、追撃だ」

「『とんぼがえり』! GO、ユキハミ!」

 

「ユ……ミ゛ュ!?」

 

 文字通りとんぼ返りしたゲッコウガに代わり、交代先のユキハミに『れいとうパンチ』が突き刺さる。

 こうかがいまひとつでなければ瀕死になっていたであろう強烈な一撃に、パーティの中では依然育成途中のユキハミは辛そうな表情となる。

 

 だが、それが反撃に出ない理由にはならない。

 

「『とびかかる』!」

「ハミ!」

 

 顔面に叩き込まれた拳から抜け出し、ユキハミはマニューラの顔面へと飛び掛かった。

 反撃は予測していたものの、それが顔面を覆い視界を奪うものとなるとマニューラも驚いたのか、その場でタジタジと足踏みをしていた。

 

「振り払え、『つじぎり』だ」

「マニュ……ラァ!!」

 

「ユミューーー!?」

 

「よくやった、ユキハミ! GO、ニンフィア!」

「フィアアア!」

 

 引き剥がされた矢先に『つじぎり』で弾き飛ばされたユキハミ。

 それに代わってくり出されたニンフィアは、長い触角を頭上へと掲げ、みるみるうちに眩い光球を生み出していく。

 

 月明かりを帯び、加速度的に収束されていくエネルギー。

 それが満月の如く真球の輪郭を描いた時、月光よりも眩い閃光が辺りを照らし上げた。

 

「『ムーンフォース』!!」

「フィイイイアアアアアッ!!」

 

「マニューラ、『れいとうパンチ』で……」

 

 いや、とジーが頭を振った。

 それでも尚、冷気を纏った拳で『ムーンフォース』を殴りつけるマニューラ。だがしかし、ユキハミの反撃で態勢を立て直し切れなかった彼の一撃に、真正面から受け止められるだけの力は込められていなかった

 

「マッ!? ニュウ、ルァアアアッッ!?」

 

 拳を覆う氷が砕け散る。

 次の瞬間、満月と見紛うエネルギー弾はマニューラの全身を覆い、キラキラとした輝きからは想像もつかない痛恨の衝撃を叩き込んだのだ。

 直撃を貰ったマニューラは背後に生えていた木の幹へと体を叩きつけられ、そのまま戦闘不能へと陥る。

 

「……『ムーンフォース』。月の力を借りて解き放つ技か。遠い星の放つ力の波動を利用するとは興味深い技だ」

 

 倒れたマニューラをボールに戻しつつ、ジーはドンカラスへ目配せする。

 するや、鷹揚に翼を羽搏かせるドンカラスが戦場へと舞い降りた。本来ヤミカラスの群れの首領を務めるだけあり、放たれる威風は並々ならぬものがある。

 

「だが……だからこそ脆い。目に見えるものは揺らぎ、消えてしまうものなのだからな───ドンカラス」

「何を根拠に……ニンフィア、もう一度『ムーンフォース』!」

 

 ドンカラスの翼が眩い輝きを纏ったのと時を同じくし、ニンフィアも再び『ムーンフォース』を解き放つべくエネルギーを収束させる。

 広範囲に照射する『マジカルシャイン』ではなく『ムーンフォース』に固執する理由、それは偏に相手の強さにあった。

 

(この人……強い!)

 

 今までにも強敵と呼べるトレーナーとは何度か戦ってきた。ジムリーダーなどが最たる例だ。

 それでも彼らはジム戦の為に手加減せざるを得ないディスアドバンテージを背負っている。本気は出しても全力を出しているとは程遠い状態だ。故にコスモスも勝利への道筋が見えていた。

 

 だが、今回ばかりは違う。

 相手の手の内を知らないという次元の話ではない。

 放たれるオーラが、圧し掛かるプレッシャーが。

 その何もかもが今までのポケモンバトルを上回っていた。

 

(ひょっとすると、先生やサカキ様に次ぐ……!)

 

 コスモスはジーに未だかつて勝てたことのないトレーナーの影を重ねる。それほどまでに強大な相手だという認識があった。

 

 故に威力の劣る『マジカルシャイン』ではなく、最大火力の『ムーンフォース』を選んだ。

 様子見などしている隙もない。一手のミスが敗北に繋がるという緊張感を前に、掌には自然と汗が滲み出してくる。

 

「フィアアアッ!!」

 

 そんな主の気迫に感化されてか、一足早くエネルギーの充填が完了したニンフィアが雄たけびを上げる。

 愛らしい見た目に反し、雄々しい咆哮を上げて放つニンフィアの『ムーンフォース』はドンカラス目掛けて一直線に飛んでいく。

 

(これで!)

 

「───『ゴッドバード』」

 

「カアアアアッ!!」

 

 マニューラを一撃で屠った光弾を、光を纏ったドンカラスの翼が切り裂く。

 弱点のタイプを厭わず攻撃を無力化する様にニンフィアのみならず、コスモスさえも瞠目して言葉を失う。

 

 その一瞬の隙にドンカラスは駆け抜ける。

 標的はニンフィア───その懐。

 

 一瞬の軌跡は逸れることなく相手の下まで届く。

 直後、爆発染みた盛大な轟音が夜空に響いたかと思えば、すでにニンフィアの身体は背後の木の根元まで弾き飛ばされていた。

 

「ニンフィア!」

「周囲の力を利用する……そう言ってしまえば聞こえはいいが、それでは自身の弱みを露呈しているようなものだ。すなわち、不完全な強さだ。真の強さとは自己で完結すべき……君もそうは思わないかね?」

「っ……私はそうは思いませんが」

 

 未だニンフィアは立ち上がることがない。

 強烈な攻撃であったが故……いや、それだけではない。

 

(おそらくあのドンカラスは『きょううん』! 急所にもらったか……!)

 

 当たり所が悪かったニンフィアは瀕死だった。

 立ち上がる体力もないのを見て相手の特性を察するや、コスモスは未だ手をつけていないボールに手を伸ばす。

 

「GO、ヌル!」

「ヴァアアアッ!」

 

「っ……」

 

 見慣れぬポケモンに、ジーの眉間の皺が深くなる。

 しかし、それも一瞬の出来事。余計な感情は振り払うとでも言わんばかりに頭を振れば、冷徹な眼光がコスモスとヌルに突き刺さった。

 

「やれ、ドンカラス」

「12時! 『つじぎり』!」

 

 その巨躯に似合わぬ速度で突撃してくるドンカラスへ、ヌルも鋭利な爪を振り上げて迎撃の態勢へと移った。

 

 翼を叩きつける乾いた音が鳴ったのは間もなくの出来事。

 まるで鞭でも叩きつけたかのように、音は遥か遠くまで木霊する───が、しかし。

 

「……なに?」

 

 これに疑問を抱いたのはジーであった。

 

───倒れていない。

 

 依然、ヌルは健在であった。

 ジーの予測では、今の『つじぎり』で完全に仕留められるはずだった。

 にも関わらず、計算が狂った。理由を探すジーは、すぐさまヌルの被る重厚な兜……もとい、拘束具に目をつけた。

 

「そのポケモン、『カブトアーマー』か。どうりで急所を免れた訳だ」

 

 ポケモンバトルにおける不安要素、『急所』。

 時にはたった一度の急所で勝敗が逆転する場面もある中で、急所を封殺する特性もまた存在する。奇しくもヌルの有する特性は、ドンカラスの急所戦法に対するメタヒューリスティックであった訳だ。

 

「実に合理的な判断だ。機械のように無駄のない論理的な試合運び……やはり君からは私と同じ感触を覚える」

 

 片手を上げながらジーはコスモスへと語り掛ける。

 一方でドンカラスは技をくり出す構えを取った。

 

「11時、『ゴッドバード』!」

「だからこそ解せない。どうして君がポケモンの方に合わせる必要がある? 君ほどの手腕があれば手ずから育て上げた方が、ポケモンを手足のように動かすのにも都合がいいだろうに」

「私にはやるべきことがあります。それを為す為には、必ずしも最速や最短の道を選ぶ必要はないというだけの話です」

「ほう」

 

 力説するコスモスに、ジーからは理解を示す相槌が返ってきた。

 時を同じくし、再びヌルとドンカラスがすれ違う。強力無比な翼での一撃を叩き込むドンカラスに対し、爪を振り翳していたヌルは怯みかける。

 

 だが、数メートルほど後ろへ押し返されながらも、虫ポケモンのような甲殻に覆われた爪はドンカラスの背中へと振り下ろされた。

 予想を大きく上回る強烈な攻撃にドンカラスは目を剥く。

 続けざまに放たれる二撃目も、まるで意趣返しの如く急所である後頭部へと叩き込まれた。

 

 頭を揺さぶる痛烈な衝撃。

 世界は揺れ、瞬く間に白く染まり上がる。

 

 辛うじて繋いでいた意識の中、ドンカラスは最後の抵抗を試みたものの、両の翼を踏みつけてくるヌルを前に残された体力もついには無くなった。

 

「……この力、『つるぎのまい』か」

 

 タイミングがあったとすれば先の『つじぎり』。

 リスクを甘んじても自身の力を高め、短期決戦を狙ってきたのだろう。実際は一撃必殺には及ばなかったものの、連撃によって生まれる攻撃回数を急所へ命中させるチャンスへと変換し、ものの見事ものにしてきた。

 

「どうやら運も君に傾いているらしいな」

 

 度し難いことだ、とジーはドンカラスをボールへ戻す。

 

「ならば、時運に左右されないほど圧倒的な力を揮うだけだ───ギャラドス」

「ギャアアアッ!!」

 

 満を持して登場する水色の巨体。

 その凶暴な顔面はコイノクチ湿原で嫌と言うほど見たものだ。

 

 にも関わらず、放たれるプレッシャーは湿原のヌシを上回るほどに重い。

 ギャラドスを従えているというだけでも、ポケモントレーナーにとしては上澄み。さらに、その凶暴性を遺憾なく発揮できようものなら、従えるトレーナーはもちろん、ポケモン自身のレベルも相当なものであり───。

 

「っ……ヌル!!」

 

 放たれるプレッシャーが一際強大となる。

 本能が訴えるレベルの危機感を覚えたコスモスは、迎撃の態勢をとるヌルの姿にすかさず待ったをかける。

 

「違う!! 回避を……」

 

 

 

「───『ギガインパクト』」

 

 

 

 突風、遅れて轟音。

 直後、身に襲いかかる猛烈な勢いの風に煽られたコスモスは、堪らず二転、三転と後ろへ転がっていく。

 そうやって土まみれになりながらなんとか身を起こした頃、すでに舞い上がっていた砂塵は薄れていく最中であった。

 

「っ……戻れ、ヌル……!」

 

 無数の木々をなぎ倒した先に出来ていたクレーター。

 その中央に力なく倒れるヌルに、コスモスは苦々しい表情を隠すことができぬままボールを構えたのだった。

 

(相手の手持ちはあと二体。それに対してこっちは……)

 

 残る手持ち非戦闘員を除き、ルカリオ、ゲッコウガの二体。

 しかし、ゲッコウガはマニューラとの攻防で体力が削られている。万全と呼べるのはルカリオのみだ。

 

(私は勝てるのか?)

 

 ここまで何度も策を弄して綺麗に罠に嵌めてきた。

 だが、運に助けられた場面があったのも事実。

 それに付け加え、尚も状況は相手に優位を譲ったままである。これを窮地と呼ばずして何と呼ぶのか。

 

(……いや、まだです。何を弱気になっているんですか、私は)

 

「GO、ゲッコウガ! 『がんせきふうじ』!」

「ゲコォ!」

 

 エース(ルカリオ)は最後まで控えさせる。それがコスモスの判断。

 代わりに現れたゲッコウガは、『ギガインパクト』の反動で動けぬギャラドス目掛け、岩石を放り投げて囲い込む。

 

 これは避けられないギャラドスではあるが、致命傷と呼ぶには微々たるダメージだった。

 次の瞬間には、周囲を覆う岩石のほとんどがのた打ち回るような激しい動きで弾き飛ばされる。

 

(あれは……『りゅうのまい』!)

 

「やれ、ギャラドス。『ギガインパクト』」

「ッ……『はかいこうせん』!」

 

「ギャアアアッ!!」

「ゲコオオオッ!!」

 

 夜空を震わせる咆哮と共に、両者の大技が激突する。

 地面を抉るような爬行で突撃するギャラドス。それを迎え撃つようにゲッコウガの口からは眩い光線が解き放たれる。

 

 共に最大級の威力を誇る技だ。

 『はかいこうせん』がギャラドスに直撃した瞬間、先程よりも猛烈な暴風が周囲一帯の草木を激しく揺さぶった。

 が、押し勝ったのはギャラドスの方だった。

 『りゅうのまい』で底上げされた暴力的なまでのパワーで『はかいこうせん』を真正面から押し退け、ほぼほぼミサイルの如くゲッコウガの立っていた場所へと着弾する。

 

 広がる激震にコスモスは膝を着く。

 歯噛みする彼女は晴れ行く砂煙の中、仰向けになって倒れるゲッコウガの姿を垣間見る。

 

「……戻れ、ゲッコウガ……!」

「───残りは一体か」

「それはこっちの台詞です、ルカリオ!」

 

「ルガアアアッ!!」

 

「『かみなりパンチ』!!」

「!」

 

 最後までギャラドスに抗ったゲッコウガからバトンを受け継いだルカリオが、その拳に眩い電光を纏わせる。

 そして、大技直後の隙を狙っての正拳突きがギャラドスの額に突き刺さる。

 爆ぜるスパークと共に雷鳴が轟いた。

 全身を駆け抜ける痺れと衝撃、それらを統合した痛みは暴竜の意識を刈り取るに十分だった。

 

 暴竜の巨体が地に伏せれば、地響きが辺りに木霊する。

 

「……やってくれる」

 

 これでジーの手持ちも残りは一体。

 ただでさえ鋭い眼光は、ルカリオを見るやさらに鋭さを増した。

 

「ルカリオか……ああ、そうだ。そうだったな。少しだけ思い出した」

 

 ゆっくりとヘルガーが歩み出てくる。

 まるでこの瞬間を待ちかねていたかのように。

 

()()()も、()()()()もそうだった。私はどうにもルカリオ使いに縁があるらしい」

「……良縁ではなかったように聞こえますが」

「ああ。私の野望を阻む悪縁だ」

 

 『だが、これが最後だ』と。

 威嚇するようにヘルガーは口から炎を噴く。

 

 ダークポケモン、ヘルガー。体内の毒素を燃やした炎は、普通の炎とは違い焼かれた場所に延々と疼くような苦痛を与え続ける。

 

 はがねタイプを有するルカリオにとって、ほのおタイプのヘルガーはまさに天敵。相手のあくタイプこそかくとうタイプで有利を取れるが、それでも一度の被弾も許されない対面であった。

 

「ヘルガー、『かえんほうしゃ』」

「ルカリオ、『はどうだん』!」

 

 紅蓮の炎を吐くヘルガーに対し、ルカリオは蒼い波動の塊を解き放つ。

 両者の技がぶつかる。威力は互角、いや、持続力という一点でわずかにヘルガーが上回った。

 

 先に波動の塊が瓦解し、猛烈な火炎がルカリオへと襲い掛かる。

 先も述べたように一度の被弾が敗北へと繋がる場面だ。コスモスもそれを重々理解し集中していたおかげか、すかさず指示を飛ばしていた。

 

「回避して『みずのはどう』!」

「バウッ!」

「そのまま燃やし尽くせ。逃げ場を与えるな」

「ガアアッ!」

 

 純粋な火力に劣ると判断してくり出された『みずのはどう』。当たれば特殊な衝撃波で混乱を期待でき、何よりも炎技を前にはただの波動技よりも有効に働く可能性がある。

 だがしかし、それすらもヘルガーの炎を前には焼け石に水であった。

 ツンと鼻を刺す臭いを撒き散らす火炎は、愚かにも炎を鎮めようとする波濤をむしろ蒸発させる。

 

「まだまだ! 『みずのはどう』!」

「無意義だな。これ以上時間を引き延ばしてどうしようというのだ」

 

 それでも同じ技を指示するコスモスに、ジーは理解しかねるような声色だった。

 何度もくり出される『みずのはどう』。その度に火力を増す『かえんほうしゃ』により一瞬で蒸発させられていく。

 

 しかし、その回数が10回に近くなった頃だった。

 

「? ……これは……」

 

 ジーが辺りに満ちる白い靄に眉をひそめた。

 

「なるほど、水蒸気か」

 

 湯気に混じる毒素に視界を滲ませながら、即座にジーは看破した。

 

 『みずのはどう』に固執していた理由はまさにこれ。炎によって生まれた水蒸気で、相手の視界を封じる為だ。

 力押しでは勝てない相手に攻撃を当てるには、まずは隙がなければ話にならない。隙を見つけるもよし、今回のように自ら隙を生み出すのも立派な戦法の一つだ。

 

(視界を塞がれた状況ならルカリオに分がある)

 

 視覚や嗅覚といった五感の他に備わったルカリオの第六感。

 『波導』と呼ばれる能力を用いれば、この白い闇の中でも相手を捕捉することができる。

 

(これで決めます……決めなきゃ、負ける!)

 

「ルカリオ!」

「バウッ!」

「『はどうだ……」

 

 技を紡ぐ、その口が止まる。

 

 ルカリオが掌に溜めた波動を解き放つ、まさにその瞬間の出来事だった。

 あれだけ周囲に満ち満ちていた湯気が一瞬にして消え失せる。代わりに視界を覆い尽くしたのは紅蓮に燃え盛る獄炎の嵐。

 これはルカリオも読み切れなかったのか、回避を取る間もなく迫ってきた炎に前へ突き出した波動の塊が焼かれ、目の前で盛大に暴発してしまった。

 

「ガ、アアアッ!?」

「ルカリオ!?」

 

 ほとんど自爆のような形。

 しかし、むしろそれは幸運であった。

 

 周囲一帯の湯気を焼き払った炎を出し尽くし、地獄の番犬のように佇むヘルガーが一呼吸置いていた。

 

 その数歩下がった場所で、手を後ろに組んでいた男が目を見開いた。

 

「瞬時にこちらの炎を利用したのは流石だった。だが、湯気など水蒸気が凝結した代物。再び気化させられるだけの火力で熱してしまえば、消し飛ばすことは容易い」

 

───『れんごく』

 

 激しい炎で相手を焼き尽くす、ほのおタイプの大技だ。

 仮に直撃を貰っていたのなら、ルカリオは二度と立ち上がれはしなかっただろう。くり出す寸前の技が破壊されたことによって起こる爆発が、辛うじて『れんごく』の射程からルカリオを逃していたのだ。

 

 けれども、それで状況が好転する訳ではない。

 技が分かったところで打開できる話ではなかった。何とか立ち上がったルカリオも、掠った『れんごく』で両手に火傷を負っていた。

 あれではうまく狙いを付けるのも難しい。

 

「……」

「勝敗は決した。これ以上のバトルは……無意義だ」

「……そう、ですね」

 

 俯くコスモスは、弱弱しく取り出したボールにルカリオを戻す。

 それを見たジーは鷹揚に頷いた。

 

「そうだ、それで───」

「非常に遺憾ではありますが……勝ち方には拘らずに行かせてもらいます」

「……なに?」

「コスモッグ!」

 

「モッグ!」

 

 突如、コスモスの胸元から一体のポケモンが飛び出してくる。

 星空を映した綿雲のようなポケモン、コスモッグ。とてもではないが強そうには見えぬポケモンであるが、そもそもこのポケモンの用途はポケモンバトルではない。

 

「『テレポート』!」

 

 パッ、と。

 セレビィを抱きかかえたコスモスの姿が、一瞬にしてその場から消え失せる。一頻り周囲を見渡すが、少女は影も形もなくなっていた。

 

「……そうか」

 

 長い嘆息を挟み、ジーはゆっくりと歩を前へと進めた。

 

「それが、君の答えだな」

 

 

 

 ***

 

 

 

(……危なかった)

 

 どこぞとも知れぬ木の枝に引っ掛かり宙ぶらりんのコスモスは心の中で独白した。

 

(まさかジーさんがあそこまで強いとは……あのまま戦っていれば、十中八九私が負けていた)

 

 なけなしの腹筋に力を込めること数分、結局はセレビィに背中を押し上げられて起き上がる。

 

「私も……まだまだですね、ぜぇ……」

「ビィビィ!」

 

 セレビィもそうだそうだと言っている。

 しかし、それにコスモスは異を唱える視線を返す。

 

「……そもそも貴方があの時出てこなければ、こんなことにはならなかったんですよ。TPOを弁えてください、TPOを」

「ビィ?」

 

 さながらネイティの如き眼差しではあったが、このタマネギ頭にTPOを理解することはできなかったらしい。純真無垢な瞳を湛えられたまま、こてんと首を傾げられた。

 思わず長~い溜め息が出てしまうコスモスであったが、即座に頭を切り替える。

 

(もしもの時にと先生には位置情報を送っておきましたけれど、ここからどうすべきか……跡をつけられないよう『テレポート』を使った以上、早々追いつけないとは思いますが)

 

 救援を待つのなら動かないのが鉄則。

 なによりここはゾロアやゾロアークの巣であるゲンエイじまだ。常に島全体が幻に覆われている為、身を隠すにはこの上なく好都合だ。

 

「……やっぱり、動かないでおくべきですね。手持ちを回復させながら先生を待ちましょう」

「ビィ?」

「貴方には関係のない話です。それより話を聞いてる暇があるんだったら元の時代に帰ってください」

「ビィ! ビィビィ~~~!」

「ちょ……なんです!? その変な小汚い袋を押し付けないでください!」

 

 帰れと言われて憤慨するセレビィが、持っていた袋をコスモスの顔面に押し付けてくる。というより、中身を見せつけてくる。

 ほぼほぼ顔面を袋で覆われる形になるものの、こんな暗がりの中では見える物も見えない。

 

「分かりました、分かりましたから! その袋の中身を受け取ればいいんですか!?」

「ビィ~♪」

「はぁ……まったく、一体なんなんですか。こんな時にいつの時代の物かも分からない物を……」

 

 博士(テリア)なら喜んでいたかもしれないが、と思いながらコスモスは渋々袋を受け取る。これにセレビィは非常にご満悦な様子だった。

 

(そもそもどうして私にこんなに懐いてるんですか?)

 

「初対面なのに……うん?」

 

 怪訝に思いながら袋の中に手を入れたコスモス。

 そんな少女の指に伝わったのは、ひんやりと冷たく丸い感触だった。

 

(この力の波動は……───ッ!?)

 

 取り出されたのは美しい橙色の宝石。

 透き通った球体の中には螺旋を描くように赤と青が絡み合っていた。

 

 一見すると人の手によって作られたように見える代物だが、手に取った瞬間に高鳴った鼓動が目の前の“石”がただの宝石ではないと訴える。

 しかも異変はそれだけではなかった。

 

「? 先生から貰った石が……」

 

 背負っていたリュックから漏れる光があった。

 何事かと漁ってみてみれば、光の正体は先日レッドから手渡された石であった。

 テリアが見つけたオーパーツでもある石だが、その白く曇っていた表面は時が経つにつれて透明になっていき、瞬く間にセレビィに渡された石と同じ螺旋の内包した宝石へと変貌する。

 

 コスモスの鼓動に合わせ、光は明滅を繰り返す。

 

 しばしそれを眺めていると、片方の“石”が自身の鼓動とは別のリズムを刻んでいることに気づいた。

 

(まさか───)

 

 自然と手を伸びる。

 すると、不意に何かが流れ込んでくる。

 

(この感覚……いや、()()……?)

 

 散りばめられていた黄色い感情が、燃えるような赤と沈むような青に上塗りにされていくとでも形容すべきか。

 その暗澹たる感情の波に少し触れただけでも、未来に希望を持てぬような無力感に苛まれてしまいそうになる。

 

 だが同時に、これが自分やルカリオのものではないと気がついたコスモスは、その時初めて核心に触れたのだった。

 

(これはあの人の───)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───見つけたぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!? しまっ……」

 

 振り向くよりも早く衝撃が全身を襲う。

 すぐ傍で起こった爆発にも関わらず、爆音はやけに遠くで響いているように聞こえた。黒い光線だった。きっとヘルガーの放った『あくのはどう』だろう。

 現実逃避染みた思考が脳裏を過るが、コスモスは頭を振って我に返る。

 ここから逃れる方法は一つしか残されていなかった。

 

「『テレポ……!」

 

「ヘルガー、『おいうち』」

 

「ガアアッ!!」

「モグッ!?」

 

 再び転移しようと力を漲らせたコスモッグであったが、そんなエスパーパワーを霧散させる凶悪な一撃が綿雲のような身体に叩き込まれた。

 

「コスモッ───うぐっ!!?」

「君は私がゲンエイじまに辿り着く手段をポケモンに頼っていたと考えていたようだが……半分は正解だ」

「どう、して……ここが……!?」

 

 地面に叩きつけられた痛みに悶えながら、コスモスは目の前に佇む追跡者を見上げる。

 すると、彼は右手から一台の装置を投げ捨てた。見慣れぬ機械だ。テリアの研究室でも見たことがない代物であった。

 

「それ、は……?」

「ゾロアークの幻影を解除する装置だ。私が作った」

「!?」

「原理さえ分かっていれば、後は機材の問題だ。材料さえ揃えば作ることは容易い」

 

 無感情な声色が淡々と続く。

 

「何も扱う力がポケモンのものだけとは限らない。どうやらそこは読み違えたようだ」

「ぐっ……!」

「私は世のトレーナーのようにポケモンをパートナーとはしない。君のようにポケモンを道具にもしない。私はポケモンの力を私自身の力とする。で、あるからして……私自身の能力を把握している以上、何が最も効率的かは分かっているつもりだ」

 

 その言葉でコスモスは理解した。

 この男───ジーは天才だ。機械的な分野は勿論のこと、バトルや他の分野においても論理的な思考から導かれる正解を選び出す天与の質が備えられている。

 レッドと同じだ。思いついた時には形にしてしまえるような生まれ持ったセンスや思考回路が、彼の言動の節々から垣間見えていた。

 

(まずい、このままじゃ……)

 

「さて……」

「待っ……!」

「用があるのは……お前だ、セレビィ」

 

「ビィ!?」

 

 倒れるコスモスに右往左往としていたセレビィの首根っこを掴むジー。

 セレビィはなんとか逃れようとじたばたしているが、万力のように力が込められた手はそう易々とは振り解けなかった。

 

「さあ、私を連れて行け。忌々しい過去を……この不完全な心を取り除く。その術を思い出さなければならないのだ!」

「ビ、ビィ……!」

 

 血眼になりながら男は訴える。

 苦しむセレビィに、尚も声を荒げて。

 

「さあ! さあっ!!」

「ビィ~~~!!」

「そこに……そこにきっと、私の望みが!!! 私の求める世界があるのだ!!!」

 

 

 

 

 

「本当に……そうですか?」

 

 

 

 

 

 弱弱しい声に、ジーは振り返る。

 

「君は、まだ立ち上がってくる気か」

 

 そこに立っていたのは一人の少女と一匹のポケモン。

 

 痛みに顔を歪めている少女。

気絶したコスモッグを抱きかかえる彼女の隣にはルカリオが並び立ち、今にも倒れそうな少女の身体を支えていた。

 

「……やめてくれ。これ以上君を痛めつけるのは不本意だ」

「……」

「この世界に害を為されるのが恐ろしいというのなら約束しよう。もしも仮に私が記憶を取り戻し、心を消す手段を思い出したとしても、私はこの世界に手は出さない。それならどうだ?」

「そう言い訳して、また逃げるつもりですか?」

「?」

 

 不可解な言葉を耳にし、ジーの表情に険が増す。

 

「逃げる……? この私が? 何からだ?」

「私との勝負から」

「……異なことを言う。君との勝敗は決したはずだ」

「確かに私は一度貴方に負けたでしょう。だから、ここからはリベンジです」

 

 身構えるルカリオ。

 回復させる暇などなく、失った体力は未だ取り戻されないままだ。未だ万全の状態を保つヘルガーとどちらが優勢かは火を見るよりも明らかであった。

 

 それでも、

 

「負けなんて何度も経験しています。でも、それが再び立ち向かわない理由になんてならない」

 

 妙な違和感があった。

 平静を取り戻したはずの水面が、次第に波立つような。

 

「何度負けたって、勝つまで私は立ち上がる」

 

 それが苛立ちだと理解した時、すでに感情は堰を切ったように溢れ出していた。

 最早、自制することもままならない。さながら激流の如く頭へと押し寄せた血液が、思考を沸騰させていく。

 

「負けの回数なんて問題じゃないんです」

「……れ……」

「そこにはバトルの勝ち負けなんかより、ずっと大切な価値があるんです」

「黙れ……」

「それを忘れない限り、私のスタンスは変わりませんよ。今までも……そして、これからも」

「黙れっ!!」

 

 一喝。

 しかし、周囲の空気を固まらせるほどの勢いを伴った声は、そのまま夜の静けさを突き破っていった。

 

「はぁ……はぁ……!!」

「……ジーさん」

「もういい、たくさんだ……!! だから立ち向かってくるというのか!? そんな曖昧で不完全なものの為に!! 私の野望の邪魔をしようというのか!?」

「……私じゃありませんよ」

「なんだと……!?」

「貴方を止めようとしているのは()()()です」

 

 そう言われて送り出されたポケモンは、蒼い体毛を夜風に靡かせながら前へ出る。

 

「ワフッ」

 

「……ルカリオが、だと?」

 

 『訳が分からないぞ』とジーは頭を振った。

 

「どうしてそういう話になる。君自身の意思ならばまだ分かる。だのに何故、君の方がポケモンの意思によって動かされているのだ?」

「知りたいですか?」

「……いや、いい。これ以上の問答は時間の無駄だ。邪魔をされぬよう、早々に君達を打ち倒すことに決めた」

 

 憤怒の形相を隠さぬまま、ジーは左手を上げる。

 攻撃の指示を受け取ったヘルガーは、間もなく体内の毒素を燃やし、炎の息吹を口から漏らし始めた。こうなってしまえば紅蓮の炎が森を照らし上げるのも時間の問題だ。

 

 そして、コスモスとルカリオにヘルガーの攻撃を真正面からいなす手立てはない。

 以前のままであればの話だが。

 

「ルカリオ、行くよ」

「バウ」

 

 コスモスはルカリオの掌の上に一つの“いし”を手渡した。

 赤と青、二重の螺旋が絡まり合った美しい宝石。それは持つべき者の手に渡った瞬間、より一層強い輝きが溢れ出した。

 

 これにはジーもまったくの予想外であったのか、両の眼を見開いて驚愕していた。

 

「何だこの光は……まさか、進化の……!?」

 

 コスモスが手にした石と、ルカリオが手にした石。

 双方の放つ光は、やがて引かれるようにして結び合った。

 

 直後だ。

 ルカリオの全身を眩い光が包み込み、()()が始まった。

 

(この贈り物が偶然か必然かは知ったことじゃありませんが、使えるものは有難く使わせてもらいます)

 

 稲妻が迸る。それはルカリオの身体から溢れ出る波動エネルギーそのものだった。

 そして、肉体に収まり切らない膨大な波動は全身に黒い模様を刻むだけに留まらない。進化を超えた進化の輝きが臨界点を突破すれば───殻が割れる。

 

 それは自己の限界という名の殻。

 破って生れるのは、いわば新たなる自分。

 

 

 

「ルカリオ───メガシンカ!」

「バウァアアアアアアッ!!!」

 

 

 

「ぐぅッ───!?」

 

 進化の余波たる波動が吹き抜けていく。

 それはこの場だけに留まらず、ゲンエイじま全域を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 そして、誰にも知られることのない場所で。

 時の奇跡が───花開いた。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

『───よし、ここに遺すとしよう。ルカリオ』

 

 

 

 

 

 

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