コスモス「一つ目のジムでりゅうせいぐん撃ってくるのはどういう了見ですか?」
レッド「大丈夫。ワタルのカイリューはバリヤー使ってきた」
コスモス(カイリューがバリヤー……?)
ジムリーダー・ピタヤ。人呼んで「竜を唸らすドラゴンレディ」。
普段押しに弱いと町の住民にも認知されている彼女が、このような通り名を授かった経緯として、一つのエピソードがある。
キョウダンタウン近海にてキングドラが大量発生し、船の行き来が困難になった際、ピタヤは手持ちのドラゴンポケモンを連れて事態の解決に向かった。
ひどく気が立っていたキングドラの群れは彼女を攻撃。
それに応戦する形でピタヤも手持ちを繰り出した訳だが、その時の彼女の獅子奮迅たる戦いぶりに慄いたキングドラが尻尾を撒いて逃げたというではないか。
息を吐かせぬ猛攻だったと住民は語る。逆鱗に触れられた竜の如く豪快な戦いぶりには、例え気が立っていたとしても退かざるを得ない気迫を感じさせたとも。
ポケモンだけではない。
彼女自身がドラゴンポケモンであるかのように戦いに身を投じる。
それこそが通り名の由来。
一度火が付けば、逆鱗に触れられた竜のように怒涛の攻めは終わらない。
「……って、雑誌に書いてあった」
「ピカ……」
ホカホカした顔のレッドが呟いた。
彼が手にしているのは、ジムリーダーが特集された雑誌だ。中には当然ピタヤについてもつらつらと書き綴られていた。
大層な内容ではあったが、先ほどまでの試合運びを見るからに、間違いではなさそうだ。
今まで自身が戦ったジムリーダーに似ているとすれば―――カスミだろうか。得意なタイプで攻めて、攻めて、攻めまくる。勢いづけば止められないタイプだ。
(どうやって突破するのかな?)
相手は強敵だ。
だからこそ、彼女がどうやって戦うかが気になる。
レッドは真剣に、それでいて楽しむようにバトルコートへ目を遣った。
***
「“はどうだん”!」
「“りゅうのはどう”!」
ルカリオとドラミドロの技が激突する。
状況は芳しくない。先ほどまでと同様、技の応酬が繰り広げられているだけだ。
(でも勝機はある。なんたって先生が言ったんですから)
それでもコスモスは勘違いであると思い込んでいる勝機を見出さんと、凄まじい集中力で試合に臨んでいた。
彼女は強い。それこそ通っていたトレーナーズスクールでは比肩する者が居ないほどには。
しかし、だからといって世間に名を轟かせるトレーナーに勝てるかと言われれば疑問が生じる。
彼女は合理主義者とまではいかないが、口癖にする程度には合理性を求める性格だ。
負けが濃厚と判断すれば、平気で降参する。
良く言えば潔い、悪く言えば諦めるのが早い。それがコスモスという少女だった。
だが、一方で妄信的な部分もある。
己が強者と判断した人物の助言に対しては、どれだけぶっ飛んだ内容と言えど、自分なりに合理的な理由を見出しては納得する程度には。
(私は勝てる。私は勝てる。私は勝てる)
そうだ、勝てる。コスモスは自分に言い聞かせる。
今まで通りであれば、敗北濃厚と察し、時間の無駄だと粘りもせずに降参しただろう。
けれども、「勝てる」と言われたからには勝たねばなるまい。
今のコスモスに生まれたもの。それは諦めない―――勝利を信じる心。
自分を信じない者に勝者の女神が微笑んでくれるはずもない。
ただ機械的に戦ってきたコスモスにとって欠けていたものを、意図せず与えられた瞬間が、今であった。
(あの子、雰囲気が変わった……?)
その僅かな心境の変化をピタヤは感じ取っていた。
どこか無機質だった雰囲気が、今は生き生きとした活力に溢れたものへと変わっている。
「んっふっふ! いーじゃない!? そういうの好き!」
ガンガン指示を飛ばしながら、ピタヤは笑みを零す。
「でもね、アタシは登竜門なのよっ!! そう易々と超えさせはしない!!」
“りゅうのはどう”が爆ぜる。
巻き上がる黒煙を突き破り現れたルカリオは、ドラミドロに向かって“あくのはどう”を解き放った。
轟々と唸る黒い力の奔流。
それを一身に受けるドラミドロであるが、怯んだ様子は見せず、ゆっくりと正確な照準をルカリオに合わせた。
刹那、寒気が背筋を突き抜ける。
「回避!」
「“ハイドロポンプ”!!」
周囲の熱を奪う激流が波動を操る獣を穿たんとする。
しかし、予め回避を指示していたコスモスの声に反応したルカリオは、紙一重のところで“ハイドロポンプ”を避けてみせた。
「やるぅ!! だんだん反応早くなってきたんじゃない!?」
「追撃!」
「もうおしゃべりには付き合ってくれないのかしら?!」
猛毒でダメージを稼ぐ算段だった時と違い、ピタヤの声に応じないコスモス。
淡々と指示を飛ばす彼女は、レッドに言われた通り攻撃の手を緩めない。
敵が怯む可能性に賭けて“あくのはどう”を連発するが、守りの堅いドラミドロをなかなか押しのけることは叶わず、反撃の“りゅうのはどう”や“ハイドロポンプ”が飛んでくるばかりだ。
(このままじゃダメ。何か……何かが足りない)
しかし、妄信的なコスモスも引っ掛かりを覚えていた。
それはトレーナーとしての直感。このままでは駄目だと感じる危機察知だった。
単なる削り合いに出れば、耐久力で劣るルカリオが先に落とされる。
だからといって守りに出れば、相手が勢いづき、そのまま押し切られてしまうだろう。
(攻め切るにしても火力が足らない。何か……何か利用できるものは)
バトルコートを隈なく観察する。
しかし、あるものと言えば攻撃の余波でボロボロになったバトルコートと周囲に張られた水ぐらいだ。とてもではないが状況をひっくり返せるものがあるとは思えない。
(サカキ様だったらどうする? この状況……)
必死に思案する内に脳裏を過った尊敬して止まない男を思い返す。
彼ならば、この状況をどうするか―――必要なのは切っ掛けだ。
だがしかし、彼のバトルスタイルは現状を打開する策の参考にはならなかった。
サカキは圧倒的であった。どれだけ自分が策を弄しても、地の力でねじ伏せる彼には隙といったようなものは見当たらない。その他を寄せ付けない強さこそ、コスモスが羨望して止まない“力”だった。
地力さえ高めていれば、隙を見せない堅実的な戦い方さえしていれば勝てる―――そう見て学んだ。
『咄嗟の小細工が通用するのは拮抗した実力を持つ者同士だけ。分かるな?』
サカキの言葉が頭の中で反芻される。
(だけど、もっと……もっと大切なことを言われていたような……)
核心に迫っていると本能が訴える。
敬愛するトレーナーに教示された言葉があったはずだ。
それを思い出すべく、必死に頭を回転させる。知恵熱で脳みそが焼き切れるのではと錯覚するくらい考えを巡らせる彼女の表情には鬼気迫るものがあった。
『格下を相手取るなら限りなく隙を潰せ。格上を相手取るなら……』
そこから先の言葉を思い出そうとした瞬間、ドラミドロが光弾を打ち上げた。
“りゅうせいぐん”―――今のルカリオにとっては余りある破壊力を秘めた爆弾に等しい。
(どうする? 回避? それとも……)
刹那、天啓が閃かれたようにコスモスの脳天を雷が直撃した。
思い返すはレッドとの出会い。何気ないポケモンバトルであり、自分の中に生まれていた傲りを粉々に砕いた思い入れの強い野良試合だ。
(そうだ、あの時先生は……)
“はどうだん”を空に放ち、時間差で空から降り注ぐ曲芸染みた攻撃は、コスモスにとってお家芸のような技だった。
何かしら人の目を惹くパフォーマンスがあれば人気が得られるのではないか。
そんな打算から生み出した技であったが、あろうことかレッドのピカチュウは“かみなり”で粗方撃ち落としてみせたのだ。
それだけではない。辛うじて撃ち落とされなかった“はどうだん”を、ピカチュウは“アイアンテール”でルカリオ目掛け跳ね返した。
相手の技でさえ利用する等、コスモスにとってはリスクが高い非合理的な戦術だった。
けれども目を奪われた。圧巻した。自分の予想を遥かに超える戦いぶりに惹かれたのだ。
『昔から……かな。『できるかもしれない』って思った時には、俺も相棒も動いてるんだ』
レッドの言葉が頭の中に響く。
そして、サカキの言葉と重なる。
『賭けを増やせ。『勝てるかもしれない』……そんな博打でもな』
世界がスローモーションに見える中、コスモスは考えがまとまるよりも早く体が動いていた。
視界に捉えるのは、臨界点に達しようとしているエネルギーの塊。
なんだ、似ているではないか。
気づいてしまえば、最早恐れるものなどない。
柄にもない笑みを湛えたコスモスは叫ぶ。
「“りゅうせいぐん”を“はどうだん”で狙撃!!」
「んなっ!?」
土壇場で叫ばれた内容に驚愕の色を隠せないピタヤであるが、明らかに咄嗟の思い付きでしかない作戦に「出来るはずがない」と結論付ける。
だが、すぐさま地上で閃いた蒼い光が打ち上がり、爆ぜる寸前であった“りゅうせいぐん”に直撃した。
バチバチと音を立てる二つの光弾。
間もなくして天井付近で衝突していた光弾は、凝縮していた力を球体に留めることができず、大爆発を起こした。
本来降り注ぐはずだった“りゅうせいぐん”は、ルカリオの邪魔もあり、ただ塵や埃を降らせるだけに終わってしまう。
「あわ、あわばばばっ!!?」
途端にピタヤは泡を食ったように慌てふためく。毅然と、それでいて猛然としていた姿は見る影もなく、珍妙な声を上げている。
自分のペースを狂わされた影響なのだろうか。
なんにせよ、ドラミドロも気が動転した主人を前にオロオロとし始める始末だ。
絶好のチャンス。コスモスの眼光が光った。
「ルカリオ!」
「バウッ!」
「“ものまね”!」
相手が最後に出した技を模倣する技こそ“ものまね”。
普段は実用性がないと断じ、滅多に指示を出さないコスモスであるが、今は状況が違った。
相手が打ち損じたドラゴン最強の技―――今こそ、あのドラミドロにぶちまかす時だ。
エネルギーが煮え滾る光弾が打ち上げられ、間もなく爆散する。
それは迷いなく、立ち尽くすしかないドラミドロへと降り注ぐ。
「“りゅうせいぐん”!!!」
力の雨嵐が怒涛の勢いでドラミドロを襲う。
次々に爆発を起こす光弾を前に、ドラミドロの姿はあっという間に黒煙の中へと隠されていく。
“ものまね”とはいえ“りゅうせいぐん”を放ったルカリオは、反動に顔をしかめているものの、未だ警戒を緩めないコスモスの波動を感じ、疲労を見せぬ毅然とした佇まいを崩さない。
ゆっくりと黒煙が晴れていく。
コスモスもルカリオの様子から、敵が健在であることを察し、いつでも動けるよう次に備える。
短い時間。しかしながら、当事者にとっては長く感じられた時を経て、ドラミドロの姿が現れる。
ドラゴンという種族を極めたポケモンが会得できる技は、そのドラゴンにこそ決定打となり得る諸刃の剣でもあったようだ。
直立不動だったドラミドロの体が、ゆっくりと倒れていく。
微かに漂っていた黒煙を払う風を起こすように倒れたドラミドロは、微動だにしない。
審判が確認を行う間、コスモスはごくりと生唾を飲み込み、行く末を見守る。
すると、ドラミドロの顔を覗き込んでいた審判が、やおら旗を振り上げた。
「ドラミドロ、戦闘不能! よって勝者、挑戦者コスモス!」
「あっちゃ~……負けたかぁ」
「……」
「ふぅ……おめでとう、挑戦者! 貴方の勝ち。こっちにおいで」
「……」
「コスモスちゃん?」
「……あ、はい」
勝利を告げられた後、しばし放心したように固まっていたコスモスは、再三の呼びかけで我に返った。
駆け足でピタヤの下へ向かう。
その間、じっと見つめてくるルカリオを前に頬を緩めてしまえば、彼もまたニッと口角を吊り上げた。
柄にもないことを、と反省しながらもジムリーダーの前へ赴いたコスモスは、依然としてバトルコートを満たす熱気に火照りを覚える。
いいや、それだけではない。これはきっと―――。
差し出されたジムバッジに胸の高鳴りを抑えられない。
なんてことはない計画の第一歩だ。たとえ一度敗北を喫しようとも掴み取るつもりだった代物―――なのに、目の前にした途端、騒がしいほどに鼓動が早鐘を打つ。
とぐろを巻いた龍を彷彿とさせるバッジは、予想していた以上に光り輝いて見えた。
「これがアタシに勝った証……ポケモンリーグ公認、ボルテックスバッジ!」
「ボルテックス……」
「“渦潮”って意味よ! キョウダンジムにぴったりでしょ?」
「それは分かりませんが」
「あ、そう……」
ピタヤはシュンと肩を落とす。
一方でコスモスは、込み上がる喜びを抑えられぬまま手に入れたバッジを強く握りしめた。
大きな大きな第一歩。
今だけは、野望を抱くロケット団残党としてではなく、一人の少女として勝利を噛み締める少女として、コスモスは喜びに浸るのであった。
Tips:キョウダンジム
キョウダンタウンに構えられているポケモンリーグ。
使用ポケモンはジムリーダーであるピタヤのエキスパートに則り、【ドラゴン】である。ただし、一部シードラといったような【ドラゴン】タイプが付属していないドラゴンポケモンも使用されるため、挑戦する際は気を付けるべし。
ジムの仕掛けは、ジムリーダーの居る部屋まで続くよう水流の道を切り替えるものであり、各所に待機している渦潮を発生させるキングドラ近くにいるジムトレーナーに勝利すると正しい道へつながるよう渦潮を止めて貰える。
バトルステージ自体は用意されているものの、移動に関しては完全に水路であるため、”なみのり”を使えるポケモンが居ない場合、コイキングボートが貸し出される。これにはピタヤの挑戦者に成長してもらいたいという「登竜門」的な意図が込められているが、受けに関してはそれほど良くない。
ジムリーダーと言えばどの地方?
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元祖! 伝説のはじまり カント―
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チコリータに厳しい旅路 ジョウト
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ケッキング強過ぎない? ホウエン
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一番目からA種族値125 シンオウ
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勝利の目前こそ熱い! イッシュ
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振袖が全員カワイイ カロス
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ジムというより試練ですな アローラ
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オーオーオオー♪ ガラル