ピタヤ「りゅうせいぐん! くろいきりで特攻ダウンも問題なし!」
コスモス「ものまね」
ピタヤ「そんなのアリ!?」
「ジムバッジゲット、おめでとう」
「ありがとうございます、先生」
定型文のようなやり取りをジムの軒先で行うコスモスとレッド。
激しいジム戦を制し、見事ジムバッジを獲得した訳であるが、すでにコスモスは切り替えていた。
「先生、早速なのですが次の町はどちらにします? 北東に出てオキノタウンを目指すか、南に下ってアサナギタウンを目指すか」
「うーん……」
「私は先生の行きたい方に付いていきます」
「俺はどっちでもいいかな……」
夕食時であれば母親に煙たがられそうなレッドの反応であるが、コスモスはおくびにも出さず、「それでは」と続けた。
「アサナギタウンに向かいましょう。どくとフェアリーのジム……じめんを扱うオキノジムより攻略が容易いはずなので」
「あ……そう。じゃあ、そっちに行こっか」
「はい」
ポンポンと話が進んでいき、若干置いてけぼりにされるレッド。
一方でコスモスは、傷ついたポケモンを癒すべくポケモンセンターへと向かう。
(最近の子はしっかり者だなぁ……)
先を急ぐ少女の背中を追いかけるレッドは、昔の思い出を振り返る。
意気揚々とトキワジムへ向かえば開いておらず、ハナダシティからヤマブキシティに向かおうとすれば通行止めを食らい……思えば、散々な旅路であった。
回り道は回り道で楽しかったとはいえ、のんびり旅を楽しんでいた自分とは違い、コスモスはポケモンリーグ出場という確固たる目標を掲げているようだから、急ぎたい気持ちは分からないでもない。
(観光は全部済んでからかな……)
悠々と各地を楽しむのは、リーグが終わってからか。
そんなことを考えていたレッドだが、不意に立ち止まったコスモスの背中に阻まれ、歩を留めてしまう。
「どうしたの?」と問いかけようとした瞬間、彼女が熱烈な視線を注ぐ看板が目に入った。
『キョウダン名物 ゆずきちソフト!!』
「ごくり……」
コスモスが生唾を飲み込む音が響いた。
足元を縫い付かれたように立ち止まる彼女に、最早先ほどまでの機敏な歩みは見られない。
食べたいのだろう。彼女も年頃の女の子だ。名物のスイーツの一つや二つ食べたいと思っても、なんら不思議ではない。
しかし、どうも苦々しい表情を浮かべる彼女は、看板に描かれた美味しそうなアイスクリームの写真と長蛇の列を交互に見遣っていた。
「っ……!」
葛藤。レッドでさえ彼女の表情から読み取れた。
『栄養さえ摂れていれば、食事にはそこまでこだわるつもりはありません。迅速に摂取できるのであれば尚更良しです』
今朝、眠たげな目を擦りながら朝食を摂るレッドを前に、コスモスが言い放った言葉だ。
合理性を謳う彼女は食事もさっさと済ませたいと考えているようだが、どうやらあくまで自分の趣向からは外れているらしい。
ああ言った手前、わざわざ長蛇の列に並んでパフェを買うなど、理性とプライドが許さないのだろう。もしくは並ぶ時間が非合理だとでも考えているのか。今のコスモスは、イシツブテよりも険しい顔を浮かべていた。
「っ……くっ!」
彼女にしては長考だった葛藤の末、決断は下された。
歯を食いしばり顔を逸らす彼女の目じりには、大粒の涙が溜まっているように見えた。
「行きましょう……先生」
「あ~あ。なんだかアイスクリームが食べたい気分ダナァー」
「私が買ってきましょうか。買ってきます。買います」
「うん、よろしくね」
手のひら、つのドリルの如し。
レッドのあからさまな催促を受けたコスモスは、瞳を爛々と輝かせ、行列の最後尾へと向かっていく。
(……分かりやすい子)
案外、俗っぽい部分がある。レッドは思った。
どこか大人びた―――というより、超然とした雰囲気が拭えなかった少女だが、一気に親近感が湧くというものだ。
今も最後尾で期待を隠しきれずうずうずと落ち着かない様子を見せているコスモスを見つつ、待っている時間を利用して席を確保する。
広場の空いていたベンチに腰をかければ、「ここが俺様の特等席」と言わんばかりに、ピカチュウがど真ん中に飛び降りる。
彼の小さな体だからいいというものの。
いやしかし、それにしても態度がデカい所為で、実際よりも面積を多く取られているような気がする。
「来たら譲ってあげなよ?」
「ピッカァ!」
「まったく……」
悪びれる様子もなく応答するピカチュウ。
そんな相棒と共に弟子を待つレッド。朝一番のジム戦が終わった訳だが、太陽もすっかり空に高く昇っていた。燦々と降り注ぐ日光は、帽子のつばで少しは遮られるものの、むき出しになっている腕をこれでもかと照り付けてくる。
「
「お、貴方は!」
「んんっ?」
弾んだ声に振り返れば、そこにはタイムリーな人間が居た。
「ピタヤ……さん?」
「そうそう! そういう貴方は……コスモスちゃんの試合観戦してた方よね?」
「まあ……」
缶ジュースを手に持ったピタヤは、フレンドリーな雰囲気を振りまきながらレッドの隣に腰掛ける。
ジムの業務はどうしたのか? と問いかけたいところではあるが、こうして出てきている以上、休憩時間か何かなのだろう。深く考えないレッドは、そう結論付けた。
「ピカァ」
「あら、ピカチュウ! かわいい~!」
ベンチに座るや否や、ど真ん中に陣取っていたピカチュウがピタヤに声を上げる。
愛くるしい黄色いあんちきしょうに、ドラゴン使いとは言え、ピタヤはすでに骨抜きの様子。
「ピ~カァ」
「え? もしかして……ジュースほしいの?」
「ピッカァ!」
「えぇ、でもぉ……」
「チャァ~?」
「しょ、しょうがないなぁ~……」
「コラ」
無垢な眼差しを向け、ピタヤから缶ジュースを頂戴しようとしたピカチュウであったが、押しに弱いピタヤが分けてくれるよりも前にレッドが窘めに入った。
「すみません……大丈夫なので」
「えぇ? アタシは構わないんだけど……」
「大丈夫なので」
「そ……そう? それよりも凄い音鳴ってるけど大丈夫……?」
ピカチュウからささやかな抵抗として尻尾の先からスタンガンよろしく電撃を浴びせられているだけの音だが、その程度で屈するほどヤワな肉体はしていない。
「はい、しょっちゅう浴びてるので」
「それはそれで由々しき事態じゃない……!?」
「それにもっと威力が高いのを」
「貴方の体は絶縁体製?」
「マサラ製です」
「あ〜……」
何を。この程度のスキンシップは朝飯前だ。
そろそろ静電気で髪の毛が逆立ち始めてきたが、そこへソフトクリームを携えたコスモスがやって来た。
「おや」
「やっほー、コスモスちゃん。さっきぶり!」
「職務はよろしいので?」
「出会い頭に大人の心を抉ってくるゥ。でも大丈夫よっ! この後、午後まで用事は入ってないから」
「なるほど、杞憂でしたか」
ピカチュウが退いてくれた場所に腰を下ろすコスモス。
彼女の両手には、購入してきたゆずきちソフトクリームが握られている訳だが、片方をレッド―――ではなく、ピカチュウに受け取られる。
主人より先にがっつくピカチュウはさておき、ようやくありつけたスイーツに目を輝かせるコスモスは、早速ソフトクリームにかぶりつく。
「んふっ」
口いっぱいに広がる酸味と甘み。
柑橘の爽やかな香りが鼻を抜けていき、味覚的にも嗅覚的にも満足な味わいだ。それにしても、柑橘にしては酸味がまろやかである。ゆずやカボスとも違った風味だ。
「どう? ゆずきちソフトのお味は」
「美味です」
「あの……ゆずきちって何ですか?」
「カボスとかスダチの仲間の果物だよねっ!」
「「へ~」」
その後も、ポケモンセンターへ向かうがてら、地元の名産品や観光名所について熱く語るピタヤ。
言葉の節々に地元愛が垣間見える彼女の話は十数分にも渡り、二人が食していたソフトクリームは胃袋へと収まっていた。
「―――っと、もうポケモンセンターに着いちゃったか!」
「では、私は失礼して……」
「はいはい! 頑張ったパートナーをゆっくり休ませてあげてねっ!」
最終的に見送る形になったピタヤと別れる二人。
町中とは一変、穏やかな空気が流れるポケモンセンターは一息吐くのにぴったりな空間だ。まさしく癒しの場である。
傷ついたポケモンを笑顔が眩しいジョーイに預けたコスモスは、空調が利いて絶妙に快適な空間故、抗えぬ睡魔に襲われているレッドの目の前に座る。
これにはレッドも目を開かざるを得ず、頭に乗るピカチュウに顔を弄られながら、コスモスの話を聞くことになった。
「先生、先ほどのジム戦の反省点についてお伺いしたいのですが」
「あぁ……さっきの……」
ヤベ、と思いつつ、コスモスとピタヤの試合を思い返すレッド。
最初のジムながら、“りゅうせいぐん”を撃ち落とす芸当を見せて逆転してみせたコスモスには天晴という他ないが、逆に反省点と聞かれると困ってしまう。
自分が見ているのはあくまで見どころ。良くも悪くも良かった部分しか記憶に残っていないのだ。
ならば、話を切り替えそうではないか。
「……逆にコスモスはどこらへんが反省点だったと思う?」
「そうですね。第一にフィジカルでしょうか。ドラミドロは特に素の能力で圧されていた部分がありますので。戦術的な面で言えば、もう少しルカリオの技に幅を持たせるべきであったと。堅実な命中率の技だけを選んで、決定打になり得る強力な技がなかったのが攻めあぐねた要因でした。私のルカリオは特殊技が主体ですが、“わるだくみ”といった変化技を覚えさせるべきでしたね」
「……まさにそれだよ」
「やはりですか、先生」
そこまで自分で反省できるなら、俺いらなくない? とは言わない。
(確実に同じぐらいの歳だった頃の俺より考えてるしなぁ……)
一番目のジムと言えば、ニビジムのタケシだ。
いわをエキスパートの彼にヒトカゲとピカチュウで挑み、散々タイプ相性で喘いだ後、“ひのこ”で火傷を引いたり、施設設備であるスプリンクラーを破壊してしまいずぶ濡れになったイワークに“でんきショック”を浴びせたりと、戦術などあったものではない。運と偶然と根性で乗り切った思い出しかなかった。
しかし、ここで一つそれらしい言葉をかけてやらねば、師匠として立つ瀬がない。
あれではないこれではないと考えること十秒。
自分の言葉を待ってくれているコスモスに対し、己の過去を振り返った上で思いついたアドバイスがまとまったレッドは口を開いた。
「フィジカルは……そうだね。でも、それはバトルを重ねればいいから」
「はい」
「それよりも俺が伝えたいのは……ポケモンと呼吸を合わせること、かな」
「呼吸を……ですか?」
「言葉を伝えなくったって動いてくれる。そんな関係を築く、っていえばいいかな」
例えばレッドのピカチュウは、指示を出さずともバトル中のほとんどは独断で動き回る。ここぞという時の細かい指示以外、トレーナーもポケモンもたがいの動きや考えを把握しているからこそ可能な芸当だ。
逆にコスモスのルカリオは、彼女に全幅の信頼を置いているものの、逆にそれが足かせになっている部分が散見できた。回避一つを取っても、コスモスからの指示がない限りは勝手に動こうとはしない。
だが、バトル中では僅かな隙も致命的だ。それは高レベルのバトルになるにつれて顕著になっていく。ルカリオは波動で思考を読み取れるからこそ、コスモスの指示が届くまでのタイムラグを極限まで少なくできるが、ズバットはそうもいかない。これから仲間に加わるポケモンについても同様の事柄が言えるだろう。
ポケモンを言葉で手足のように動かす。
それ自体間違っているとは言えないが、いずれ壁にぶち当たる時がこよう。
感覚派とは言え、レッドはその点について懸念していた。
「では、一体どうすれば?」
「……」
トキワの森で遭難して、一週間スピアーの群れの襲撃に応戦したら、自然とできるようになる―――早々遭難する点で計画性のなさを疑われてしまう。
“フラッシュ”なしのイワヤマトンネルで次々に襲い掛かる野生ポケモンを相手取ればできるようになる―――何故“フラッシュ”を使わなかったか問われれば、口を噤むしかない。
ふたごじままで来て“かいりき”が無いからと、ポケモンの代わりに岩を押している間、背中を手持ちに預けていればできるようになる―――何故自分が岩を押しているか問われれば以下省略。
「……そうならざるを得ない極限の状況に身をおけばできるようになる……はず」
「ごくりっ……」
戦慄と畏敬が滲む瞳を向けるコスモスだが、きっと彼女と
「なるほど……そこまでしなければ先生のようにはなれないと」
「まあ、急ぎ過ぎてでもあれだから、自分のペースでやるのが一番」
「肝に銘じます」
と、苦しいアドバイスであったが納得してくれたようだ。
聞き耳を立てていたピカチュウが、どこか遠い目を浮かべている。まるで昔を懐かしんでいるような面持ちからは哀愁を感じ取れたであろう。
だが、ピカチュウの懐古に誰も触れぬまま、コスモスの手持ちが全快した知らせをアナウンスで受ける。
彼女がちゃっちゃと受け取りに赴く間、酷く疲れた顔のレッドは、待合室に備え付けのテレビに目を向けた。
天気やら最近のニュースやらが代わる代わる報道される訳だが、途中、一つの事件について触れられた。
『先日、イリエシティにて複数人の集団がトレーナーを恫喝し、ポケモンを奪い取る事件が発生しました。警察は立て続けに発生する強奪事件から、同グループによる計画的な犯行だと―――』
「やだ、怖い怖い……」
「この前もスナオカタウンの方で似たような事件あったじゃん? 最近治安悪いわぁ~」
「夜道は出歩かない方がいいな、こりゃ」
同じくテレビを見ていた数人のトレーナーが、報道された内容に嫌悪や不安を覚えたような会話を広げていた。
どこの地方でもポケモンを奪い取るチンピラのような輩は居る者らしい。
ポケモン売買を目的とする組織か、はたまたただのチンピラか。
「とりあえず気をつけなきゃ……」
「ピッカァ!」
「ピカチュウがやり過ぎないかを」
「チャ~?」
すっとぼけるピカチュウを、レッドはやや乱暴に撫でまわす。
正当防衛とは言え、
別の意味で冷や汗を流すレッドは、「どうか自分は狙われませんように」と強く念じるのだった。
「お待たせしました、先生」
「おかえり」
そこへ帰って来たコスモス。
ボールの中から出ているルカリオは、ピカチュウを見るなり礼儀正しくお辞儀してみせた。どうやらすでに彼らの間には上下関係が叩き込まれていたようだ。
それはさておき。
「これからどうしますか?」
「う~ん……俺はなんでもいいけれど」
「そうですか。では、私は必需品の買い出しに出かけますので、先生はお休みください」
「え? あ……そう」
話の流れで置いてけぼりが決定したレッドが呆気にとられる間、コスモスは早速ポケモンセンターを発った。
旅の必需品と言えば、食料や傷薬といった類だ。前者は兎も角、後者はジム戦でそれなりの数を消費してしまった。
旅先で何があるかは分からない。しっかり買い込んで、ようやく一人前のポケモントレーナーだろう。
(それと……そうだ、チョコも買わなきゃ)
糖分は恋人―――とまではいかないが、甘味を好むコスモスは菓子類、特にチョコレートの購入を頭の中にメモする。
自分も含め、ルカリオも大好物な菓子がチョコレートなのだ。
トレーナーズスクールでの差し入れでチョコレートが配られた時は、手あたり次第ポケモンバトルを仕掛け、賞金として獲得した記憶もある。
(さてさて、近場のフレンドリィショップはっと……)
スマホロトムを起動し、地図を眺める。
その時、不意に服の裾を手繰り寄せる感触を覚えた。
「ん?」
画面から目をそらし、コスモスの行く手を阻むように立ち尽くしていたのは一人の少年だった。
「なんですか?」
「あ、あのッ……」
「用件を早く言ってください。私は急いでいるので」
ひどくオドオドした様子の少年に対しても、他人行儀で淡々とした口調で問いかけるコスモスであったが、この時ばかりはそれが悪手だと後悔せざるを得なかった。
みるみるうちに目じりに涙を溜める少年。
コスモスがギョッと目を向いた時には、大粒の涙を頬に伝わせていた。
「ひっぐ、ぐすっ……」
「……はぁ、一体なんですか? 誤解を生んだようですから言いますが、私は怒っていません。その点を留意して今一度聞いて下さい。私にどのような用件があって声をかけたんですか?」
「ポ、ポケモン……ッ」
「ポケモン?」
「ぼくのポケモン……どこに行ったか知りませんか?」
コスモスは察した。
面倒事に巻き込まれた―――と。
Tips:ピタヤ
キョウダンタウンに構えるジムの主である女性。
通り名は「竜を唸らすドラゴンレディ」であり、町の周辺海域を脅かすキングドラを一蹴する覇気や、そのポケモンバトルにおける超攻撃的スタイルが由来となっている。
ただし、私生活では寧ろ押しに弱い一面があり、人の頼み事をほとんど断れない性格をしている。
実は他地方で修業していた時期があり、その時の師匠は四天王である。
エキスパートタイプは【ドラゴン】。挑戦者のジムバッジ所有数にもよるが、オンバットやドラミドロといったドラゴンポケモンの他、フライゴンといったポケモンも使用する。ただし、そのいずれも真の切り札ではないと言われており……?
▼名前の由来はドラゴンフルーツの英名「ピタヤ」。
ピタヤ(ドット絵)
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【挿絵表示】
ピタヤ(立ち絵)(作:ようぐそうとほうとふ様)
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【挿絵表示】
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