愛と真実の悪を貫く!!   作:柴猫侍

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◓前回のあらすじ

コスモス「地域限定ソフトクリームおいしい」

子供「ぼくのポケモン知りませんか?」

コスモス「知らないと言えたならばどれほど良かったでしょう」


№008:忍び寄る影とピカチュウさん

「ピ~カ~ピ~カ~」

「すぅ……すぅ……」

 

 ここはポケモンセンターのホール。

 トレーナーたちが談笑する声が響く中、買い出しに誘われることもなく置いてけぼりをくらったレッドはと言えば、フカフカのソファに背中を任せ、天井を仰ぐ形で昼寝していた。

 一方で、構う相手が居なくなったピカチュウは、ちょっとやそっとでは起きない主人の顔で遊んでいる。

 

 頬を引っ張ったり、逆に押し込んだり。

 昔から悪戯好きな性分としては、最初こそ愉快な気分になっていたピカチュウであったが、数分もすれば反応が返ってこないこともあり飽きてしまう。

 

「ピッ」

 

 ダメだ、こりゃ。

 そんな風に主人で遊ぶ真似をやめたピカチュウは、足早に人が出入りする自動ドアへと向かっていった。

 

 ―――やはり暇を潰すのであれば外だ。

 

 手持ちのポケモンが黙って外出など、トレーナーにしてみれば大慌て必至であるが、レッドのピカチュウは幾度となく一人で町へ繰り出した経験がある。

 あの様子では当分起きない。長い付き合いだからこそ分かる感覚と、今後の予定を考慮すればどのくらいでポケモンセンターに帰ればいいか程度は、ピカチュウにも理解できていた。

 

 ルンルン気分で石畳を踏みしめていく。

 すれ違う少女が「あ、ピカチュウだ!」と喜色に満ちた声を上げれば、気持ちよく鳴き声を返す。自分の愛くるしい顔が憎いぜ……と、中々腹黒な考えを抱きつつ、一匹の電気ねずみは町を見渡した。

 景色がいい場所に行くのも良い。町のポケモンと交流するも良い。出店の店主に愛嬌を売ってサービスしてもらうも良し。思いつくだけでもこれだけやれることもあるのだから、暇つぶしには十分だ。

 

「チュッチュピカピカッ♪ チュッチュピカピカッ♪」

 

 陽気に歌いつつ往来を闊歩するピカチュウ。

 そんな彼を、町の住民は暖かい眼差しを送って見つめているのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「残念だけれど迷子のガーディは預かってないわね……」

「そうですか」

「うぅ……ぼくのガーディ……」

 

 買い出しに出かけたはずだが、現在コスモスが居るのは交番だった。

 話を聞けば、一緒に散歩していたガーディがふと目を放した瞬間に消えたとのこと。曰く、いつもならつかず離れずな性格故、消えたと言っても持ち前の嗅覚で戻ってくるだろう。そう考え待つこと数十分、気ままに構えている余裕もなくなり、町中を探し回っていたという。

 

 コスモスにしてみれば交番のジュンサーに少年を任せ、さっさと本来の目的に戻りたいところではあったが、むやみやたらと邪険にあしらうのもよろしくないと、わざわざこうして付き添いとして来た訳だ。

 しかし、その甲斐もなくガーディは見つからず仕舞い。

 少年も大粒の涙を溜めて俯いてしまう。

 そんな少年を慰めるようにジュンサーは背中を擦る。

 

「大丈夫、きっと見つかるわ。仲間にも連絡して探させてみるから、君はもうちょっとここに居て」

「はい……」

「それでは私はこの辺でお暇させて」

 

 やるだけのことはやった―――必要最低限の責任は果たしたと言わんばかりにコスモスは踵を返す。

 が、

 

「待って!」

「……まだ何か?」

「ぼくのガーディ……見つけたら教えてください……」

「……善処はします」

 

 約束はできかねない。

 そもそも自分一人が居て解決してしまうのだったら警察は要らないのだ。

 喉元まで出かかる言葉を飲み込んだコスモスは、無難な返答を口にし、さっさと交番を後にした。

 将来的には地方の住民に人気を得られるチャンピオンになりたいとは考えているが、今から草の根運動をしようとまでは思わない。精々、義理を売れそうだったら売るくらいの心構えしか持ち合わせてはいなかった。

 

(そもそも目を離した彼が悪いんです。もっと言えばちゃんと躾けていないのも。私はちっとも悪くはありませんから)

 

 例え今から真っすぐ買い出しを済ませて帰路についたとしても自分は悪くない。

己に正当性を見出す真似は容易いことだ。

気負い過ぎない為には、そのくらいのスタンスで行かねばなるまい―――コスモスの持論であった。

 

(そんなことより明日の為にご飯の買い出しです)

 

 不必要な時間の浪費はここまでだ。

 早急に用事を済ませるべく、足早にフレンドリィショップを目指す。

 その隣には、万が一にボディーガードとして動いてくれるルカリオが歩いている訳だが、不意に彼の耳がピクリと動いた。

 

「ルカリオ?」

「ワフッ」

「一体何なんですか」

 

 瞼を閉じ、波動を感知する態勢に入ったルカリオ。

 敵意や悪意を持った人間やポケモンに反応するよう躾けたつもりではあるが、まさかこのような街中で反応するとは、彼女自身予想だにしていなかった。

 視線を気取られぬよう周囲を見渡す。

 往来の激しい街中で視線に気づくのは至難の業だが、ルカリオのような感知に特化した能力を有すポケモンが居るならば話は別だ。

 

「(あそこに居るんですね)」

「ワフッ」

 

 尻尾で指し示すルカリオ。

 如何にも何者かが隠れていそうな裏路地へと続く建物の陰を指し示す彼だが、ここで直接不審者の下へ向かうのは悪手。

 遠回りする形にはなってしまうが、相手の視線が届かぬ場所までコスモスは進む。

 「ここら辺ですね」と周囲に警戒を払った彼女は、ルカリオにお姫様抱っこしてもらいながら、誰にも見られぬ場所から建物の屋根へと飛び移った。

 そのまま向かう先は、先ほどの不審者が居た場所だ。

 音を立てぬよう細心の注意を払って駆け抜けるルカリオは、途中波動が移動していることをそれとなく伝えつつ、町の中でも人気のない裏路地へと入っていった。建物も人が住んでいる気配はない。

 

 町の中心では燦々と降り注ぐ陽光も、ここまで裏路地に入ってしまえば差し込まない。

 心なしか空気もどんよりと湿っている。陰鬱とした雰囲気は、影に紛れて悪事を働く者にとっては絶好の場所だ。コスモスも重々把握している。

 

(さてさて……)

 

 影や物音で気づかれぬよう注意を払いつつ、屋根から身を乗り出すように下を窺う。

 人相がバレにくそうな恰好の数人と小さな貨物用トラック。確認できたものはその二つだ。

 それだけならば、まだ怪しいと決めつけるには早いだろう。

 だがしかし、トラックの荷台からは絶えずポケモンの鳴き声と暴れるような音が響き渡っている。

 

 ここまでくればきな臭さも相当のものだ。

 自然とスマホロトムに手が伸び、動画の撮影を開始するコスモス。

 さりげなくトラックのナンバーを映した後は、直感が怪しいと告げている者たちの会話へと撮影対象が変わる。

 距離が離れている分、聞き取り辛くはあるがまったく聞こえないという訳でもない。

 しっかりと聞き耳を立て、会話の内容の把握に勤しむ。

 

「―――こんなもんか? 命令された数だけのポケモンは捕まえてきたがよぅ」

「バレちゃいないだろうね? こんなおいしい仕事、そうそう持ちかけられたりしないんだから!」

「当たり前だろ。そういうお前こそ後を付かれてないだろうな」

「誰に口聞いてんだ、このスカポンタン!」

 

 小気味いい音を響かせるように、男の頭を叩く女。

 

(察するに、ポケモンを攫う窃盗団のような輩ですか)

 

 その後も話を盗み聞きしつつ、凡その見当をつける。

 ポケモンの窃盗―――一般人からすれば、「野生のポケモンを捕まえればいいのに」と思う他ない蛮行だが、行う側にもそれなりの理由はある。

 

端的に言えば、()()()()のだ。一度ボールで捕まえれば、所持しているトレーナーカードに記載されているIDと併せ、ボール共々ポケモンを登録しなければならない。これにはポケモンセンターでの治療や保険による予防接種といったサービスを受けられる利点がある。

 だが、ポケモンの用途が売買となると話が変わってくる。

 ポケモンの売買には厳しい規制が掛けられており、地方の厳しい審査を受けないと、ポケモンの売買には許可が下りないのだ。

 そこで出てくるのがポケモンの違法売買に関わる裏の専門業者。

 彼らはボールを使って捕まえない。あるいは、すでに他人が捕獲したポケモンを攫うなどして、ポケモンを捕獲する。大抵、登録はポケモンセンターで簡易的に済まされるため、こうした手段の下で捕獲されたポケモンは公的に認知されないことから、違法の取引にはもってこいという訳だ。

 

 ボールを用いない捕獲は当然違法。

 故に、裏の世界では密猟者や違法ポケモンハンターがクライアントの要望に応え、様々な手段で目的のポケモンを捕獲する。場合によっては国際指名手配がなされるほどの重罪であるが、それだけ報酬がうまいのだろう。

 

(それにしてもこんな町中で犯行に及ぶなんて……よっぽど捕まえたいポケモンが居たのか、数だけ揃える為に雇われた使い捨てのチンピラか。まあ、後者か)

 

 プロ意識の欠片も感じさせない犯行。

 徹底的にやるとすれば、ポケモンで辺りに警戒を張り巡らせるものだが、そういったものが散見できない以上、仕事の雑さが透けて見える。

 どうやら悪としても三流。

 自分が雇うとしても、精々捨て駒程度の扱いにとどまるだろう。

 

(さて、さっさと警察に通報するのが吉か……)

 

 自分の安全を第一に考えるならば、後は警察に任せるだけでいい。

 だが、コスモスはコスモスで打算的な考えを抱く少女でもある。

 

 見るからに三流の悪党が三人。奇襲を仕掛ければ簡単に制圧できるだろう。

 

(『お手柄! 駆け出しのトレーナー窃盗団逮捕に一役担う!』と……そうなれば、知名度上昇。……イイ感じ)

 

 名を売るなら早いに越したことはない。

 そうと決まれば奇襲の算段を―――と、考え始めた瞬間だった。

 

 

 

「―――あらあら。こっそり盗み見なんてイケない子」

「!!」

 

 

 

 突如として襲い掛かる浮遊感。そう、屋根から放り出されたのだ。

 

(“サイコキネシス”!? いや、それよりも……)

「ルカリオ!」

「バウッ!」

 

 このまま地面に叩きつけられればただでは済まない。すぐさま、同様に屋根から放り出されたルカリオに呼びかけ、着地を任せる。

 寸前のところで抱き留められる形での着地。

 コスモスは大事に至らなかったものの、まんまと窃盗団の目の前に下りてしまった以上、発見は免れなかった。

 

「な、なんだこの子供!?」

「いつから居たの、ちょっと!」

「知るか!」

 

 慌てふためく窃盗団は、突然飛び降りた子供を前に警戒を最大限まで上げる。

 しかし、当のコスモスが最大限警戒する相手は、自分たちを“サイコキネシス”で放り出した謎の女だった。

 隣に放り出した張本人であろうフーディンを侍らせる謎の女は、深く被ったフードに加え体型が判りづらくなるロングコートと、用心深く身体的特徴を隠して居る。そもそも“女”と判断したとはいえ、そう断ずるに至った声もボイスチェンジャーを使った可能性が否めない。

 

 結局のところ分かった事実は少ないが、確かに言えることがある。

 

(この女の人……できる)

 

 ルカリオの波動感知を掻い潜っての接近。恐らくフーディンの“テレポート”だが、問題はいつから居場所を感づかれていたのかだ。

 波動を感じ取れる場所から監視していたか、あるいは波動感知を無力化する手段を持っていたか。どちらにせよ警戒するに越したことはない相手であることは確かだ。

 

「うぅ……ふざけて屋根に上ってただけなのにぃ……」

「そういうお芝居は無駄なの。分かる?」

「……護衛、いえ、そっちの人たちのクライアントってところですか」

「あら、敏い子ね。なら私からも質問。最近、私たちを嗅ぎまわっている子供が居るって聞いたんだけれど……それって貴方?」

「なるほど。しかし、残念ですが人違いです」

「ふぅん……まあいいわ。聞いてみただけよ。こんなオイタをする子供を見つけたなら、二度とそんな気が起きないよう厳しく躾けてあげるだけって話よ」

 

 そう告げる謎の女からプレッシャーを感じるコスモスは身構えた。

 奇襲の段取りも滅茶苦茶になった今、練度に差があるとは言え多勢に無勢。真正面から戦うのは明らかに不利と言える。

 

「で、どうするんです? 貴方が私とバトルでも?」

「まさか。私はあくまでクライアント。ちゃ~んと下請けが働いているか確認しに来たってだけだから。ねぇ?」

『!!?』

 

 黒い眼差しが三人を射抜く。

 そこには対等な契約関係など微塵も感じさせない―――それこそ従わせる者と従う他ない者といった雰囲気が漂っていた。

 みるみるうちに冷や汗があふれ出てくる窃盗団。

 見るからに焦りに駆られる彼らは、謎の女の機嫌を取り繕うよう言葉を並べる。

 

「ま、待ってくれ! 仕事はちゃんとやり切ってみせる!」

「こんな子供、ウチらだけで何とかなるくらい分かってくれるだろう!?」

「そ、そうだ!」

「でも……私が来るまで気づかなかったのは事実よね?」

『……』

 

 三人はあっという間に顔から血の気が引いていく。

 

「ふふっ、冗談よ。チャンスはあげる。人ってね……過酷な状況を経験してこそ成長するものなのよ。だから、そこの子供を始末して、ちゃんと依頼した物を届けてくれたなら、報酬はきっちりと支払うわ」

「ほ、本当かっ!?」

「その為に()()をあげたの……分かるわよね?」

 

 意味深な言い草に、勘ぐるような視線を三人に向けるコスモス。

 すると彼らは焦燥に駆られていた面持ちから一変、「そうだった」と言わんばかりに下卑た好戦的な笑みを浮かべ始めるではないか。

 やおら腰に下げていたボールに手を掛ける窃盗団たち。

 瞬間、コスモスはルカリオにアイコンタクトで指示を出す―――「ボールを壊せ」と。開閉スイッチさえ壊してしまえばポケモンを出すことは叶わなくなる。それだけで戦力の大幅ダウンを見込める訳だが、

 

「ダメよ、そんなの。させないわ」

「ちっ」

 

 ルカリオから放たれた“はどうだん”は、フーディンが両手に持ったスプーンを掲げた瞬間、目に見えぬ力―――“サイコキネシス”によって軌道を逸らされてしまい、明後日の方向へと打ち上がってしまった。

 

 直接手を下さない謎の女の思惑を図れぬまま、戦いの火蓋はポケモンの鳴き声によって切られる。

 

「行け、フシギソウ!」

「フシャ!」

「焼き尽くしな、リザード!」

「リザァ!」

「痛い目を見せてやるんだよ、カメール!」

「カァメ!」

 

 並び立つ三体のポケモン。

 たねポケモン、フシギソウ。かえんポケモン、リザード。かめポケモン、カメール。

 大して珍しくもないポケモンであり、地方によっては初心者用ポケモンとして配られるポケモンの進化系であることから、一度は手にしたというトレーナーも多い。

 

 だが、目の前に居る三体のポケモンはどうだろうか?

 

(様子が……変?)

 

 ありありと敵意を向けられている。それだけならばいい。

 体に見慣れぬ模様が浮かんでいるものの、それも“個体差”という説明で済む問題だ。

 だがしかし、不自然なまでに赤く染まる瞳だけは見逃せなかった。

 

「グルルルッ……」

「何か見えるの? ルカリオ」

「バウッ!」

 

 コスモスを守るべく一歩前に出ていたルカリオであったが、三体のポケモンが出た途端、全身の毛を逆立てるだけに留まらず、歯をむき出しにして威嚇し始めたではないか。

 ここまで警戒を露わにしたのは、これまででも数えるほどしかない。

 

 そんなルカリオだけに見えていたもの―――それは、赤い瞳を浮かべるポケモンが纏っている禍々しい紫色のオーラであった。

 ルカリオはそれが何か分からない、知らない、読み取れない。故に最大限に警戒を払う。

 

 普通とは違うポケモンの登場に身構えるコスモスとルカリオ。

 一方で、悠々と屋根の上に佇んでいた謎の女は、観戦を決め込もうとするやメタングを出し、椅子代わりに腰を下ろした。

 

「ふふっ。そうよ。油断してたら話にならないもの。私たちが丹精に調整したポケモン……そんじょそこらのポケモンとは違うんだから」

 

―――精々、データが取れる程度には踏ん張ってもらわなきゃ。

 

 妖艶な笑みを浮かべ、女は呟く。

 

「へっへっへ、3対1だ」

「邪魔だけはするんじゃないよ」

「分かってるさ……一斉攻撃だ!」

 

 言葉通り三体のポケモンによる技が繰り出される。

 繰り出されたのは“はっぱカッター”、“はじけるほのお”、“みずでっぽう”だ。一つ一つの威力は大したものではないとはいえ、様子がおかしいポケモンの技だ。用心するに越したことはない。

 

回避(みきり)!」

 

 技の軌道を()()()、全ての攻撃を回避するルカリオ。

 これには三人も驚いたような表情を浮かべる。だが、たかが“みきり”で躱された程度、後の行動に差し支える訳ではない。

 

「ちっ! “あまいかおり”だ! 動きをノロくさせてやる!」

「おっ、気が利くねぇ! だったらウチらは攻撃に集中だ! おらおら、“はじけるほのお”だよ!」

「それなら俺は“あわ”で動きを止めてやるぜ!」

 

 今度は連携して攻撃を仕掛けてくる。

 甘い香りで誘惑し、弾ける炎で広範囲を制圧、加えて撒き散らす泡で動きを抑制。連携としては形になっており、彼らよりも鍛えられているルカリオも、やや苦しい表情を浮かべて対応に追われることとなる。

 

「まだ耐えるの、ルカリオ! “はじけるほのお”を“みずのはどう”で迎撃!」

「おっと、いいのかい!? そう来れば“れいとうビーム”だ、カメール!」

 

 炎を水で鎮めるルカリオであったが、周囲への影響として辺りに水が満ちてきた。

 そんな中、カメールの口腔から解き放たれる一条の冷気が疾走する。

寸前で射線から飛びのいたルカリオであったが、瞬く間に凍結する地面から生える氷の柱は連なる形で上へと伸びていき、空中の彼の足元まで氷の手を伸ばしてく。

 その直前、予め“はどうだん”の発射用意を整えていたルカリオは、蒼いエネルギー弾を迫りくる氷の柱に叩き込んで破砕してみせた―――が、しかし。

 

「へっ、そこだフシギソウ! “つるのムチ”で捕まえな!」

 

 立て続けにフシギソウが、背中に生える蕾の陰から二本の蔓を伸ばし、攻撃直後で隙が生まれたルカリオの両腕を拘束した。

 

「はっはぁ! やってやったぜ!」

「よーしッ、今ね! “はじけるほのお”!」

「“みずでっぽう”で仕留めろ!」

 

 身動きが取れないルカリオに、リザードとカメールの攻撃が叩き込まれる。

 炎と水。相反する二つの技を無防備な体に叩き込まれたルカリオは、ぐったりと(こうべ)を垂らせた。

 戦闘不能―――見るからに体力がなくなったルカリオを前に、三人はあくどい笑みを浮かべる。

 

「へっへっへ、勝負あったな」

「そうね。ま、ウチらが本気を出したらこんなもんよ」

「だなぁ! さぁーて、嬢ちゃん……こっからはバトル抜きのお話と……」

 

「―――ぱ」

 

「ん? なんか言ったか?」

 

 ごにょごにょと口を動かすコスモスに、怪訝な面持ちを浮かべた三人。

 

 刹那、謎の激痛が頭に襲い掛かった。

 

「な、なんだァ!?」

「イイイイイッ!?」

「ひぃー、耳がぁー!?」

 

 総毛立つような甲高い音。

 真面に立つことさえままならなくなった三人が悶絶すれば、彼らの指示で動いていた三体にも動揺が奔った。

 三体が振り返って先―――そこに羽ばたいていたのは一体のこうもりポケモン。

 そう、ズバットだ。“ちょうおんぱ”をまき散らし、直接トレーナーへの妨害を試みているズバットの主は、当然ながら悶え苦しんでいる彼らと敵対する相手。

 

「―――なるほど。普通の個体より動きが良い気がします……が、悪党としての自覚が足りませんでしたね」

 

 揶揄うようにチロッと舌を出すコスモス。

 彼女は本格的にバトルが始まる前に、ベルトからズバットの入ったボールを取り外し、相手の視界に入らぬよう遠くへと転がしていた。

 コロコロと転がるボールはちょうどいい建物の壁にぶつかることで開閉スイッチが押され、中からズバットを繰り出す。

 そうなれば、後は後ろからこっそりと忍び寄らせ、トレーナーへと直接妨害を働けばいいだけだ。

 

 トレーナーへのダイレクトアタックなど、本来許されざる行為だが、()()()()()()()()躊躇う理由など一つもない。

 と、指示系統を混乱させられた三体の内、特にルカリオを拘束しているフシギソウの力が弱まるのをコスモスは見逃さなかった。

 

 瀕死になったフリをしていたルカリオの瞳に光が戻る。

 

「今! “ものまね”!」

「バウッ!」

「フシャ!?」

 

 ピタヤ戦で大金星を上げた技“ものまね”だが、今回繰り出したのは“はじけるほのお”。

 くさを有すフシギソウにとってほのお技は効果抜群。苦手なタイプの技を喰らったフシギソウは、見るからに慌てふためいては、とうとう“つるのムチ”による拘束を解いてしまった。加えて攻撃の余波として飛び散った火の粉が、リザードとカメールにも振りかかり、場は大混乱になってしまう。

 

「あぁ、しまった!?」

「な、なんとかしなさいよー!!」

「無茶言うなァー!?」

 

 ルカリオが動き始めた光景は三人も目の当たりにしていたが、余りにもズバットの妨害が苛烈であったため、ロクに指示を出すことも叶わない。

 謎の女に託された三体のポケモン。特殊な訓練を積んだ強力なポケモンとして受け取った個体であるが、良くも悪くも()()()()()()()

 ここで大雑把でも指示を出せば結果は変わったかもしれない。

 だが、そのような希望を潰すべく、コスモスが動いた。

 

「リザードとカメールに“はどうだん”!!」

「バウッ!」

 

 凍った地面を踏み砕いて駆け出すルカリオ。

 両手には限界まで凝縮した波動の球体を浮かべており、今にも爆発すると言わんばかりに軋んだ音を奏でている。

 

 そんな“はどうだん”を叩き込む相手は、飛び散る火の粉で狼狽していた二体。

 まずはリザードの腹部に叩き込んだルカリオは、吹っ飛ぶ火竜を横目に、寸前で殻に籠ろうとするカメールに肉迫した。

 

 堅牢な甲羅を有すカメールに対し、このまま“はどうだん”を当てても大したダメージにはならない。

 だからこそ、甲羅ではなく頭部や四肢を収納する穴目掛けて押し込んだ。

 強引に押し込み、一拍。次の瞬間、手足を収納する穴から閃光が漏れ出したかと思えば、大きな爆発音を立ててカメールの甲羅から黒煙が噴き出す。

 同時にリザードを吹き飛ばしてた“はどうだん”も爆発した。

 これで二体をノックダウン。残るはフシギソウのみだ。

 

「フ、フッシィー!!」

 

 仲間が二体もやられた光景を目の当たりにしたフシギソウは、半ばやけくそで“つるのムチ”を繰り出す。

 

「掴んで」

「フッシ!?」

 

 だが、それが運の尽きだ。

 さも平然と受け止めるよう指示を出すコスモスに従い、ルカリオは振るわれた蔓を掴んでみせた。

 拘束する側ではなく、今度は拘束される側。真っ赤な瞳に焦りを浮かばせるフシギソウは力任せに引っ張るものの、逆に彼の体の方が引き摺られていた。

 

「引っ張って……“あくのはどう”!」

「グルゥ!!」

「フッシャァァアアア!!?」

 

 膂力に任せてフシギソウを手繰り寄せるルカリオ。

 ポーンと体が浮いたフシギソウは、そのまま彼の眼前まで引き寄せられる。

 そして次の瞬間、視界が真っ黒に染まった。手加減など一切ない“あくのはどう”だ。先ほど“はじけるほのお”を喰らったフシギソウにとって体力を削り切るには十分すぎる威力。

 加えてフルパワーでの“あくのはどう”は、フシギソウのみならず、彼が吹き飛ぶ軌道上に転がっていた三人衆にまで攻撃が及ぼうとしていた。

 

「わああああ! こ、こっちにぃー!?」

「ひやあああ!?」

「ぎゃああっ!? あぶッ!?」

 

 着弾、そして爆発。

 “ちょうおんぱ”でのたうち回っていた三人に回避などできるはずもない。黒煙が晴れれば、ぷすぷすと煤けた姿の三人を確認できた。

 

「ふぅ」

 

 パチパチパチ。

 息を吐くコスモスの耳に届いた拍手の()。当然、それは観戦していた謎の女が奏でたものである。

 

「凄いわね。よく鍛えられたポケモン……それに人を狙うなんて大胆な真似、普通の子にはできないわ」

「それはどうも」

「どう? 私たちの組織に入らない? 幹部候補生として手取り足取りいろはを教えてあげてもいいわよ」

「残念ですが間に合ってますので」

「あら、そう? でもねぇ……」

 

 目にも止まらぬ速さでボールを投げる女。

 すぐさまルカリオとズバットはコスモスを守るよう陣を組むが、そんな彼女の周りを、ヘルガーやラプラス、スリーパー、ニューラといったポケモンが取り囲んでくる。

 

「私も邪魔してくれた子供を見逃すほど優しくないのよね」

「子供に邪魔される程度の組織なら、たかが知れる……と言いたいところですが、安心してください。目の前に居るトレーナーは未来のチャンピオンですから」

「あら、お気遣いどうも。でも、だったら尚更見逃せないわ。だって、宝石の原石みたいにキラキラ輝いているんだもの……ほっといてこれから邪魔されるより、強引にでも連れて帰って手駒にした方が合理的じゃないかしら?」

「私が素直に従うとでも?」

「安心するといいわ。私のスリーパーで洗脳してあげるから」

「うわぁ」

 

 具体的な洗脳方法を聞くや、嫌そうな顔を浮かべるコスモス。

 どうにかしてこの場を切り抜けなければと思案する彼女であるが、中々いい案が浮かばない。スマホロトムは屋根から放り出された際に手放してしまった為、警察に連絡することもできない。だからといって強行突破に出ても、この戦力差では難しいだろう。

 八方塞がりか。しかし、やるしかない。己の野望を叶える為には。

 

「……本音を言わせてもらうと」

「?」

「邪魔なんですよ。先にここで悪の組織面されてるのは」

「それってどういう―――」

 

 

 

―――ピシャァァアン!!!

 

 

 

 それはまさしく青天の霹靂だった。

 突然、眩い電光が辺りを照らす。

 何事かと誰もが振り返る先には、先ほどまで青々と木の葉が茂っていた一本の木が、雷に打たれたかの如く、縦に裂け、炭化した幹に火を灯していた。

 一体何者なのか?

 これだけの威力を有す電気を放てるポケモンは、そう易々とは居ない。それこそ伝説級のポケモンか、あるいは―――。

 

「ピ」

 

 かわいらしい鳴き声が響く。

 雷に打たれた木の天辺に、彼は天を指さしながら立っていた。

 ぴょこぴょこ動く耳。赤く丸いほっぺ。稲妻のような形の尻尾。

 そう、あれはみんなのアイドル。

 

「ピ、ピカチュウ……さん」

 

―――ただし、レッドの。

 

 稲妻の如く現れたピカチュウは、慄くポケモンたちを見下ろし、悠々と腕を組むのだった。

 




Tips:キョウダンタウン

ホウエン地方やほかの地方からやってくる船を迎え入れる、ホウジョウ地方の海の玄関口と言える港町。町の景観としては、青い屋根に白い壁といった建物が多い。
他地方からやってくる人が多く、ホウジョウ地方の観光名所ともいえる町。
ただ、昔他所からやって来たポケモンが周辺に住み着きだし、生態系を書き換えられたという歴史も存在している。
名物は、柑橘の果物である「ゆずきち」。
「キョウダン」とは「響灘」。

ジムリーダーと言えばどの地方?

  • 元祖! 伝説のはじまり カント―
  • チコリータに厳しい旅路 ジョウト
  • ケッキング強過ぎない? ホウエン
  • 一番目からA種族値125 シンオウ
  • 勝利の目前こそ熱い! イッシュ
  • 振袖が全員カワイイ カロス
  • ジムというより試練ですな アローラ
  • オーオーオオー♪ ガラル
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