イノベイター壊滅RTA ガンダムマイスターチャート【参考記録】 作:ナマステ
一難去ってまた一難、と言ったところか。
衛星兵器を破壊後、敵の新型機からの奇襲を受け、辛くも地球へと戻ってきてから間髪入れずにアロウズ軍からの攻撃を受けていた。光学迷彩で潜伏しているにもかかわらず、不思議なほどに正確にこちらの位置を割り出し、部隊を送り込んでくるのだ。
切り札であるダブルオーライザーと分断されてしまった中、今度こそ墜とされてしまうかと思った時、同じく別行動をしていたゼロが合流した。
量産型のジンクスやアヘッドはおろか、イノベイターが乗っているであろう専用機すら歯牙にかけない大立ち回りを魅せられ、痛手を受けたアロウズ艦隊は撤退をしていく。
トレミー側の視点では、イノベイターたちがゼロとの戦いを避けるようにそそくさと撤退していったように見える。
とにかく、窮地を脱した仲間たちは気を抜いてしまった。
故に、反応が遅れてしまった。
……まさか、思いもよらないだろう。
『北斗! 一体何をするんだ!?』
『ぜ、ゼロ! トレミーに向けて砲撃! 戦闘態勢に入りましたですっ!』
──────舞い降りた翼の生えた天使が、今度は味方に牙を向くなんて。
ブリッジを標的に放たれたゼロのツインバスターライフルは、結果的にトレミーに届くことはなかった。
真っ先にゼロの異変に気づいたティエリアが、射線上にセラヴィーを割り込ませたからだ。
幸い、ゼロはトランザム後で火力が低下していたため、セラヴィーのGNフィールドによって相殺させられる。
アレルヤからの疑問に対する答えのつもりなのか、それとも耳に入っていないのか、ゼロから通信が入ってくる。
普段通りの抑揚のない声だが、仲間たちにとって一層冷ややかなものに聴こえてしまう。
『そこを退け、ティエリア。俺は敵を殺さなくてはならない』
『……敵?』
『くっ──────違う、ゼロ! ティエリアは敵じゃない!』
今度は苦しそうな声が発せられる。
コクピットの中で誰かと戦っているような、それでいて機体に振り回されているような言動。
『……イアン!』
『わかってる! くそっ!
傍からでは理解できない不審な状況だが、心当たりのある者が二人、ティエリアとイアンだった。
『どういうことなの、イアン!?』
『おやっさん! 北斗のヤツに何かあったのか!?』
『話は後だ! 今はアイツを取り押さえるのが先だ! 早くしないと、取り返しのつかないことになるぞ──────ティエリア!』
『了解! アレルヤ、トランザムを使用して、出来るだけゼロをトレミーに近づけさせてくれ!』
目の前の事態を飲み込めないクルーの皆が困惑したまま状況が進む。いや、スメラギであれば一瞬でも時間があればすぐに意識を切り替えられるだろうが、その時間すら惜しい。
ミレイナとラッセはともかく、フェルトも呆然としたまま動くことができない。指揮とオペレーターに制限がある以上は、現場の判断で動くしかない。
『……わかった! トランザム!』
アリオスが機体を赤く染めながらゼロへと肉薄する。現状の戦力で、ゼロの機動性に追いつけるのはアリオスのみだ。セラヴィーは先の戦闘で損傷が酷いことと、とある装備の用意をしなければならない以上、迂闊に動くことができない。
その意図を全ては把握できていなくても、アレルヤの決断は早かった。
『邪魔をするならお前も敵だ!』
肩部からサーベルを取り出し、太刀打ちするゼロ。持ち前の機動性と運動性で、重力下での動きはイノベイターの専用機すら凌駕するアリオスが何度か切り結ぶ。構図から見れば、攻勢に見えるのはアリオスだろう。
『くっ……なんて反応速度だ』
しかし、外観の損傷が増えているのはアリオスの方だった。トランザムにより、目視でも捉えることが困難な動きでも、難なく受け流され、さらには反撃を受けていた。
劣勢と見るや否や、今度は別方向からライフルの発砲音が響く。しかし、ゼロは来ることがわかっていたかのように振り向き、サーベルだけで叩き落とした。
射線を辿ると、岩陰に隠れていたケルディムがスナイパーライフルを構えていた。狙撃主のライルは「シールドすら使わねぇのかよ」と独りごちる。
『さっきから敵だの何だの訳わかんねぇこと言いやがって。俺達の中に裏切り者でもいるってのか』
『ゼロが教えてくれた。いずれ、俺達を危険に晒すことになる。だからこそ、討たねばならない』
その返答は、肯定を意味していた。
ゼロははじめにガンダムたちではなく、トレミーのブリッジに向けて攻撃した。カタロン側のスパイでもあるライルは標的ではない。
一瞬、ライルに最近仲間に加わった顔が頭に過ぎっていくが、それ以上考えないことにした。
『……だからって、いきなり艦を撃つことはねぇだろ? 現在進行系で俺達を危険に晒している自覚はあんのか?』
『甲板ごと消し飛ばせば確実に消せる。その障害となる以上は、お前たちも“敵”だ』
『言ってること無茶苦茶だぞ』
支離滅裂だ。
彼は無理も無茶もするが、故意的に仲間を攻撃したりはしない。仮にそんなことをしたとしても、何かしらの意味はあるし、こんな仲間の殆どを犠牲にして全て消し去ろうとするような真似はしない。犠牲にするのは、いつも自分自身だ。
そんな彼を知っている身とすれば、確実に正気を失っている。
今度はバスターライフルの照準がケルディムに向けられた。させまい、とアリオスが再度肉迫するが、同じようにいなされる。
『無駄だ、アレルヤ。今のお前ではゼロと俺の反応速度を超えることはできない』
「機動力は勝っているのに、捉えられる気がしない……寸前で躱される」
脳量子波が使えなくなったとはいえ、アレルヤは超兵だ。常人よりも反応は圧倒的に速い。今でも北斗とは同等水準だと自負しているつもりだった。
だが、今ではその差は歴然だ。
何らかの補助を受けているのだろうが、それでも今まで相手にしてきた誰よりも速い。
この差を埋めるには、こちらも何かしら強化させる必要がある。
……ひとつだけ思い浮かぶが、今のアレルヤには“
(……ハッ! 上等じゃねぇか! そういえば獲物を横取りされた時の借り、まだ返してもらってなかったなァ!)
「えっ」
──────どういうことだ?
気がつけば、アリオスはゼロの背後に立っているではないか。
突貫した際にゼロのサーベルが振るわれる直前、今度はアリオスの方が受け流し、背後を奪った形になる。
……アレルヤ自身、どうして突然こんなことができたのかわからない。しかし、好機と見てゼロを羽交い締めする。そのまま加速し、トレミーへと距離を詰めていく。
『ナイスだアレルヤ! こっちも用意ができた! 頼んだぞ、ティエリア!』
『了解──────セラフィム!』
瞬間、待機していセラヴィーの背後から黒い影が現れる。
……かつて、これは裏切り者を粛清するためのものだった。ティエリアは、スローネたちに使用した時のことを思い出していた。
しかし、此度は違う。
これは、今回の戦いにおける自分たちの起死回生の切り札であり──────それと同時に皆を守るための力でもある。
必要ないかと思ったが、こうして意図しない暴走を止めるために、イアンと話し合って実装した、トライアルフィールドの
『なっ──────しまっ』
制御を失ったゼロは力を抜かれたように自然落下する。それを優しく抱きとめたのは、遠隔で操作されているセラヴィーであった。
◇◆◇◆◇
人類が数世紀かけて手に入れた叡智が無残に破壊されるRTA、じゃあまず、こいつを競りたいと思うんですよ!
前回は闇のちくわで操作不能になった中で西暦BASAR○した後に、フレンドリーファイアしようとしたところまでです。ゼロシステム、怖いでしょう……この人頭おかしい……(小声)
まあ、それも未遂に終わりました。こういう暴走って、普通だったらヴァイエイトくんよろしく、味方が一機墜ちないと止まんねぇからよ……。何やってんだよ団長!
一部始終を見ていたホモの皆さんはわかっているかと思いますが……ええ、イアンのおっさんとティエリアがやってくれましたよ。まさか味方の暴走を止めるための用意をしていたなんてやりますねぇ!(惜しみない賞賛)
無駄戦闘のロスが最小限に済みました!やったぜ!
いやぁ、本編には無い機能ですが、なんでこんなものつけたんですかね?
元はといえば自爆するような馬鹿を止めるための用意だった? あっ、そっかぁ……(納得)
……つまり、これも第一部で培ったもののおかげだな!
「モレノ先生! 北斗は…………」
「安心しなさい。少し衰弱しているだけだ。脳などにも異常はなかったよ」
「良かった……」
診察を終えたホモくんとモレノ先生が戻ってきました。うわぁ……フェルトこれガチ泣きしてましたね……いくらホモでも、こんな悲しい顔させると良心が痛みますよ……自責の念感じるんでしたよね?
「ところで、説明してもらえる、イアン?」
「ああ」
そんなこんなで、本編にはないゼロシステムのイベントが始まります。これは所謂機体強化のサブイベントになります。
今回、暴走はしましたが、地球降下前にイノベイターを蹴散らすことができたため、戦闘を1回分……いえ、ゼロシステムのおかげで先程の戦闘時間も短時間で終わったため、結果だけみれば1.5回分の戦闘を短縮できました! これは専門用語では、
さらに、このイベントを続ければ、恒常的にゼロシステムを使えるようになるでしょう。ゼロシステムはじゃじゃ馬ですが、使えば戦闘も楽になりますし、さらなるタイム短縮が見込めます。Foo!
問題があるとすれば、当初のチャートが完全に崩壊したことくらいですかね。ここからは経験と知識を活用する完全アドリブプレイングになってしまいます。まあこれは今更なので何の問題もないです。皆さんもRTAを走る時はアドリブ力を鍛えましょうね!
「ゼロにそんな機能があったなんて……」
「ワシは起動できないようにしていたんだが……あんの馬鹿弟子。今度会ったらとっちめてやる」
おっ、機能の解説が終わりましたね。
いや、まあ、暴走はしましたけど、結果で見ればシェリリン君はいい仕事したので程々にしておいて差し上げろ。
「ああいや待ってくれ。一応、父親として弁明させてくれ」
「あん? 何だモレノ?」
「いや、実はそのシステムだが、実際作ったのはシェリリンじゃないんだ。多分、その危険性も知らなかったんだと思う」
その時に立ち会っていたからわかる……って、モレノ先生!? このサブイベント、外伝のイノベイド探しに絡むんすか!?
「ゼロの設計図だが、シェリリンのハロに複製データが入っていたのをハナヨが見つけて……それを見つけた“彼”が面白がって、ね」
「ああもういい大体わかった! あいつが全面的に悪くなかったことは──────いや、駄目だろ!? なんであんな厄介なヤツに渡しちまうんだよ!?」
「それに関してはフォローのしようがないね。“彼”もハナヨも、味方と言うには微妙な立ち位置だし」
あーなるほどね完全に理解した(白目)
ちょっ、義妹さん!?
何やってんですか!? まずいですよ!
うーん、できれば関わり合い持ちたくなかったんですけどね。あの男、炭酸とは別方向でチャートを引っ掻き回すので。
まあ、今回はそれに見合ったリターンもありますし、既に壊れちゃったチャートをいくら壊されたところで全然平気です。こんなもの! こんな! ガバチャートなんて! こんなァ!
「二人とも、何の話をしているの?」
「気にするな……とは言えんな。まあ、頭の中整理したらワシから話す」
さて、スメラギさんたちが蚊帳の外でしたが、ひとまずこれでサブイベントは終了になります。
ゼロシステムですが、一旦はイアンの手で封印措置をされることになります。モビルスーツに乗る度に暴走していたら目も当てられません。順当ですね。
とにかく、皆さんに迷惑かけたことについてはしっかり詫ましょう。すみません、許してください! 何でもしますから!
「ん? 今なんでもするって言ったかしら? なら、後で私の部屋に来てもらえる?」
「ちょっ、スメラギさん!?」
「い、いきなり何言ってるんですか!?」
ファッ!?
一体どうやって責任を取らせるつもりなんですか!? ここ全年齢版ですよ!?
「変な誤解しないで頂戴! ちょっと話があるだけよ! あと、ティエリアも来てくれる?」
「……了解」
いかん危ない危ない危ない……てっきりいかがわしいことを強要させるのかと思ってしまいましたよ。自分が恥ずかしいメスの身体持ってるって自覚あるの? 走者ちゃん期待してたんでしょ? 死ねよ。
さて、ではスメラギさんのお部屋で内緒話をしたり、ライルくん経由でカタロンに頼んでいた補給物資を受け取った後、アフリカタワーにて正規軍によるクーデターが勃発したという情報が入ってきました。
一般人を巻き込んでいる軍人の屑がこの野郎……ですが、首謀者のハーキュリーさんはアロウズの蛮行を世に知らしめるために断腸の思いでやってます。アロウズが正体表したね、となればすぐに解放するつもりです。
人質も含め、数万人の国民の口封じなんて現実的に不可能です。情報統制の対策のつもりですが……結論から言うとこの作戦は失敗になります。一般人が居ようと、構わず衛星兵器をブッパしてきます。お前ら人間じゃねぇ!
これで上層部は本気で恒久和平を願っているとか……なんというか、笑っちゃうんすよね(嘲笑)
ビリーくんのオッジは「全ての業を背負うつもり」とか何とか言っていましたが、ほならね、せめて犠牲者全員の人数と名前を記憶しておけと、私は言いたい。
まあ、それはもうちょっと先のお話です。
それより先に、クーデターの話を聞きつけた刹那と合流しましょう。
見れば、まーたブシ仮面に求愛行動されています。マスラオくんが赤くなってんぜ? こいつ、全身チ○コ状態に堕ちたな!
これは当時も衝撃的でした。
ソレスタルビーイングの切り札であるトランザムを、これからは敵も使ってくるようになるということを意味しています。であることを意味していますよねぇ!
まあマスラオくんは一回しか出番がないですがね。ビームサーベルにそれぞれ死んだフラッグファイターの名前を銘として入れているって設定好きだったんですけどねぇ。
とにかく、刹那は負傷しているので、長時間の戦闘はできません。サーシェスから貰った毒が体を蝕んでいます。早めに加勢して助けてあげましょう。まあ、ホモくんは大事を取ってトレミーから見守る形になりますが。ハハァ……。
さて、無事に回収したところで、ここからは二度目の衛星兵器破壊とブレイク・ピラー事件の対応になりますが、今回はここまでになります。次回もよろしくお願いします。
◇◆◇◆◇
削り取られたかのように高低差の激しい山脈地帯。人が寄り付かないような山々に囲まれた中、カタロンとの合流地点は、その中にあった。
トレミーがそのまま入ってしまうほど大きな、まるで崖を思わせるような地形が自然によって作られたことには驚いてしまう。
無事に合流を果たしたソレスタルビーイングは、カタロンからの補給物資を受け取る。この物資があれば、傷ついたガンダムやトレミーの修復は可能だろう。
イアンを始めとした整備班は総出で作業に取り組む。ミレイナだけでなく、沙慈やマリーも手伝っていた。
「二人とも、来てくれてありがとう。お茶は出せないけど、お酒なら出せるわよ」
「……貴女は近頃、飲酒を控えていると聞きましたが」
「あら、知っていたの……って、ちょっと北斗、そんな偽物か疑うように見ないでよ」
そんな冗談も交えながら、トレミーの一室に三人が向かい合っていた。ティエリアと北斗、そしてスメラギの話は、外部に話が漏れないように通信も遮断させている。もっとも、今の話をアレルヤやラッセが聞けば、Dr.モレノの診断を勧められるかもしれない。
失礼しちゃうわね、と口を尖らせながらも、スメラギの表情はすぐに切り替わる。今回、この三人を呼んだのは他でもない。ブリーフィングではあえて言及しなかった例の件についての話し合いであったからだ。
「さて、早速だけど……この話はブリーフィングではできない話だから、ここに来てもらったの。内容は──────」
「裏切り者の件、だな」
躊躇いなく発せられた北斗の言葉に、スメラギはゆっくりと頷く。
あの戦闘は、本意ではないにせよ彼が暴走した結果によるもの。しかし、その時彼が口にした言葉が引っかかっていた。
「ゼロシステムの予測で出た結果なら、艦を預かる者として無視できないわ」
「僕は正しいと思います。ゼロシステムは暴走しましたが、その精度はあの戦闘で明らかになっています。それに、これまでの敵からの攻撃で、こちらの位置を特定できるようになったことについて、裏切り者がいると鑑みれば全ての辻褄が合います」
「そうよね……」
こんな暗い話したくないんだけど、と目を伏せながら独り言が添えられる。
このトレミーにいる皆はかけがえのない仲間だ。もう失うわけにはいかないと誓った仲間たちを、こうして疑わなければいけないのは素直に心が痛む。それはスメラギだけでなく、ティエリアも同じであった。
だからこそ、この三人での内々の話にしたのだろう。戦術予報士として実質的な艦長であるスメラギと、少なくとも仲間の中では誰よりもイノベイター側の事情に詳しく、いざという時にはトライアルフィールドを使うことができるティエリア。
「北斗、もし覚えているのなら教えて頂戴。ゼロは貴方に何を教えてくれたの?」
そして、ゼロシステムを通じてその正体を看破した北斗。スメラギとティエリアは、椅子に座らずに壁に背を預けてもたれかかっている彼の証言を求めた。
「……その前に、この件について聞きたそうなヤツが他にもいるようだ」
「えっ?」
北斗はそう言いながら操作盤を操作し、扉を開ける。見れば、この場には招かれざる者が二人、身を隠していた。
「ロックオン……それに、絹江さんも!?」
「あ、あはは……すみません、つい」
「いやすまんすまん。俺は止めたんだが、な」
「…………」
どの口が言っているのやら、とティエリアは心中で毒づいた。あの戦闘時、ライルはこの件について何か引っかかることがあったことを、全体を俯瞰していたティエリアは見逃していなかった。
大方、自分も気になったから一般人の絹江を煽ってけしかけて、仮に見つかってもなし崩し的にこの会話に参加しようという魂胆なのだろう。
スメラギと北斗は特に咎める様子もないため、ティエリアはあえて注意することはしなかった。
「まあいい。それで、ゼロの予測だが……悪いが憶えていない」
きっぱり、と、北斗は断言した。
なんだよ、と露骨に肩を落とすライルと、貴方でも抜けてることがあるのね、と苦笑いを浮かべる絹江に僅かばかりムッとする北斗だが、仕方ないことだ。
ゼロシステムは、その膨大な情報を直接パイロットの脳にフィードバックされるのだ。ひとつひとつ情報の取捨選択が間に合わず、暴走していたのだから、憶えていないのも無理もない話だ。
「ただ、お前たちも目星はついているだろう」
その言葉に、再び場が張り詰めた。
……そう、ゼロシステムが導き出した予測は、その名前こそわからなかったが、それでも“裏切り者がいる”という結果は出ている。
先ほどティエリアが言葉にしたとおり、今日までのアロウズとイノベイターとの戦いの中、突然、敵勢力は自分たちの位置を正確に把握するようになった。
「ねえ、ティエリア? イノベイター同士は、お互いの位置や情報って共有できるのかしら?」
「……おそらく、ヴェーダがあれば可能です」
リジェネ・レジェッタとの会話を思い出す。
イノベイター同士であれば、脳量子波を介して意思疎通は可能だ。ティエリア自身は体験することはなかったが、ヴェーダと繋がっていれば、その能力の幅は更に広がるだろう。
では、いつからだ?
潜伏位置を割り出されることはそれなりにあったが、それは戦術レベルで読まれても不思議ではない部分はあった。こちらの万全なカモフラージュを看破したラグランジュ3への攻撃あたりからだろうか。
であれば、その間に起きた変化と言えば、それは新しい仲間が──────
「ちょっと待て。今のところ状況証拠しかねぇだろ。こいつも記憶がないって言っているし、まだ裏切り者が誰か断定するのは早いんじゃねぇか?」
そんな思考に割って入ったのは、ライルであった。
「……やけに庇うのだな。我々は君を疑っているわけではないというのに」
やや棘のある言葉だが、これはティエリアの本心からだ。ライルはあの戦闘時にゼロの標的になっていなかったし、カタロンとの繋がりはあるが、それはソレスタルビーイング側の利になっている。だからこそ、今の所ライルの言動には少しばかり不審に思えた。
「他意はねぇよ。ただ、決定的な証拠がないかぎりは糾弾するべきじゃないって思っているだけだ。ただでさえ人が少ないのに変に疑心暗鬼になって、組織が滅茶苦茶になったら元も子もないだろ?」
ライルの言っていることは間違っていない。
それを避けるためにも、こうして限られた者で話し合っているのだから。
「ならば、監視が必要だな」
証拠がないのであれば、見つければいいだけの話だ。
見つからないなら、それはそれで杞憂に終わったと結論づければいいだけ。
そんな北斗の提案を受け、スメラギは丁度いいと言わんばかりに指示した。
「ロックオン。頼めるかしら?」
「は?」
一瞬、何を言われたのかわからなかったライルだが、すぐに調子を取り戻そうとする。
「……おいおい! 俺に頼んじまっていいのかい? もし俺がその裏切り者だったり、あるいは共謀するなんてこともあり得る話なんじゃねぇのか?」
「別に貴方だけに全て任せるつもりはないわよ。それに、仮にそうだったら大したものよ。スパイとしては一流ね。尊敬しちゃうわ」
皮肉のつもりなのか、本心なのかわからない言葉に、思わずライルは視線を逸らしてしまう。
スメラギに対する第一印象が第一印象だけに、意外と腹芸も得意なのではとつい疑ってしまう。
もちろん、仮に犯人を見つけてもその人には悪いようにはしないから、とスメラギの言葉が続いたのが幸いしたのか、どうにかその任務を飲み込むことができた。
「絹江さん、この件は……」
「さ、さすがにこれは言えないですよ!」
北斗もティエリアも反対することなく、話が進む。一方で、彼の心中は藪蛇を突いてしまったことへの焦りしかない。
「皆も、今回の件は他言無用で。それじゃあ、
「……オーライ」
そう返事しながら、部屋から出ていく一同。
ライルもそれに続くが、足取りは入ってきた時より一変してしまった。
好奇心は猫を殺す。
その言葉を身をもって感じた彼は、教訓とするとともに、クソッタレ、と心中で呟く。
「………………」
彼の後ろ姿を、ティエリアと北斗は見つめる。
無意識に兄と重ねてしまう背中だが、この時は思いの外小さいと感じてしまった。
そんな物騒な台詞、敵とも断定できない容疑者程度の状況下で口にすることなんて流石にホモでも憚られますよMOW