カスミトアケボノ 「図書館」編   作:本条真司

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10話 ゴースト・ブレーン3

夜斗は血の滴る腕を眺めた

《管理者》を起動し、腕を払いつつ血を飛ばす。時間を巻き戻し、汚れを落としたのだ

「なん…で…?」

「俺の部下のためだ。なぁ、アイリス」

「なーんだ、バレてたんだね」

物陰からアイリスが前に出て、医者だったものに目を向ける

「これが犯人?」

「ああ。黒幕は別だと思うが、実行犯はこいつだ。多額の報酬の履歴もあった」

「…ねぇ…。なんで…なんで殺したの…?」

「…別に死に切ってないよ。夜斗なら生き返らせることもできるし」

「《管理者》蘇生」

夜斗の背後に出た時計の長針が右回りに、短針が左回りに回転して10時10分あたりで止まった

医者が時間を巻き戻すかのように傷が治り、立ち上がる

「な、なんで生きて…」

「…ミリオン・レイン!」

アイリスの目が鮮血の如く鮮やかな赤に染まり、《創作者》が暴走を始める

恩恵は使用者の殺意に過剰に反応する性質がある。そのため、殺意が最大限まで高まったアイリスの恩恵《創作者》が暴走を始めたのだ

アイリスは建屋を塵に変え、医者を取り囲むように槍を形成した

その数は1万やそこらではない。さらに生成は続いているため、増え続けていることだろう

「アイリス…。そこまで憎いか」

巨大時計がギリギリと音を立てる

長針と短針を残して時計が消え、二本の針が夜斗の手元に移動し、剣に形を変えた

左手に短い剣、右手に長い剣を握り、夜斗が構えをとる

「受けてやる。俺の最強でな」

琉那が見守る中、医者を殺すか守るかの戦いの火蓋が切って落とされた

「全発射!」

「フルバースト!」

夜斗の剣がそれぞれ赤と黒に輝き、それが夜斗自身を覆い尽くす

「バーストレベル5だどうにかなれ」

夜斗は襲いくる槍のうち、人に当たりそうなものだけをピンポイントに叩き落としていく

バーストモード。恩恵保持者が霊力を何倍かに濃縮して体に流すことで、神経伝達物質の加速や反射神経運動能力の強化をもたらす

Iレベルにつき二倍。つまり最大レベルである五で三十二倍となる

神機を使わないのは、大きすぎて取り回しが効かないというのと、アイリスを殺すつもりがないからだ

「ギリギリ…だな…!」

アイリスは霊力を最大限に使い続ける、いわばリミッター解除状態

対する夜斗は霊力を微量にしか発揮できない封印状態。差は歴然だが、それでも対抗できているのは素の保有霊力量の差と、恩恵の適性度の高さによるものが大きいだろう

「仕方がない…こい、夜刀神!」

夜斗が剣を投げ捨て叫ぶ。現れたのは夜斗の神機だ

「神機、解放!」

夜斗の神機が形を変え、弓になる

解放したから変形するわけではない。変形自体は解放前にも可能だ

しかし、神機解放状態の力を使うのに最適な形状は弓。それ故に変形させたのだった

「さて、耐えてみろアイリス。《創作者》ミリオン・レイン!」

夜斗の弓から無数の矢が発射される

それはアイリスが放つ槍を一本ずつ正確に打ち砕いていく

最初は拮抗していたが、徐々にアイリスの手数が押し負けている。そのため夜斗が優勢だ

「これが《管理者》の力だ。よく覚えて置くといい」

夜斗が大きく弦を引き絞る

形成された矢は巨大で、捻れが付け加えられているのが琉那にも見えた

「《創作者》一撃必殺(ワンポイントショット)

「ワンポイントショット!」

夜斗が放った矢は、アイリスの放った巨大な槍を貫いた

それは驚きを前に形成された盾を全て貫き、アイリスの胸に穴を開ける

「…無力化(return 0)

夜斗が呟くと矢が霧散し、アイリスが前のめりに倒れたそれを受け止めたのは

「わた…し…?」

「私の体、返して。おいで、刻々帝(クロノス)

現れた少女がアイリスを受け止めつつ、夜斗と同じような時計を召喚する

逃げようとする琉那の周りに数多の琉那が現れ、行手を阻んだ

「なに…これ…!」

「私は精霊…。精霊はその身に概念武装と呼ばれるものを宿す魔族。私の概念武装は、トキを操るの。私の体を盗んだのは間違いだったね」

少女は本物の琉那、ということだろう。つまり本物の琉那が使っている体は、おそらく琉那の体を使っている存在のもの

特段見た目が悪いわけではない。むしろサキュバスとしては平均以上の見た目を持つその体を自分のもののように操る琉那は、自分の体に向けて長銃を向ける

「返して。早く」

「で、でも…脳が入れ替わってるのに…どうやって…」

夜斗が左手を前に出し、掌を琉那の体に向ける

「《管理者》テレポート・アポート」

琉那の視界が暗転し、車酔いのような感覚が身体中を駆け巡る

「…!戻っ…た…?」

「《管理者》の能力で脳を入れ替えた。同時に、俺の仲間が脳の設定を変えてそれぞれ元の体に最適化しておいてやった、感謝しろ」

夜斗は視界の隅に映る人影を見た

機械的な天使の羽で空を飛ぶ佐久間の姿を

『全く…。僕がいなければ何もできないね、夜斗』

「今回ばかりは助かったぜ、佐久間。さすがに入れ替えるだけじゃ動かなくなるしな」

『僕はこのまま拠点に帰るよ。あとはお願いすることにしよう』

「サンキュー」

通信回線で話しかけてきた佐久間から意識を外し、泣く少女に目を向けた

琉那を乗っ取っていたサキュバス。罪悪感からか体が戻ったショックからか、意図せず涙が出るのだろう

「私は精霊。だから貴女に言ってあげる」

「何…を…?」

「貴女、別に可愛くないわけじゃないからね。私が精霊だから段違いなだけで」

「なぜ傷を抉るんだお前は」

夜斗はため息をつきながら、顔を上げた少女から目を逸らした

夜斗にはこの二人より優先すべきものがいる

「生きてるか、アイリス」

「…まさかなんの躊躇いもなく私に神機解放するなんて思わなかったよ」

「躊躇ったさ。暴走を止めるのに一番最適だったろ?」

横たえられたアイリスが、差し出された夜斗の手を掴んで起き上がる

足の泥を払い、琉那を見る

「…ここに私たちはいらないね。あ、夜斗私の背中払ってよ。だいたい夜斗のせいなんだからさ」

「はいはい…わかったっての…」

夜斗とアイリスは、腕時計の文字盤を押し込んだ

それぞれの周りを数字が駆け巡り、転移装置を起動させる

「待って、冬風夜斗。アイリスを置いていって」

「何故?」

「私の友達だから。会えなくなるのは、嫌」

「…別にこいつ殺すわけじゃないんだけどな。って言ってるが?」

「んー…。琉那、また明日…ね?」

夜斗とアイリスは腕時計に霊力を流し込み、転移を実行した

その場には、琉那とサキュバスが残された

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