カスミトアケボノ 「図書館」編   作:本条真司

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13話 恩恵の代償・アイリス

アイリスは立ち上がった

立っている場所は、日本でも類をみないほど危険な崖だ。過去には自殺の名所、などと言われていた

旧福井県坂井市にあるこの崖で、アイリスは両手を広げて目を閉じる

「起きて、《創作者》」

アイリスの澄み渡る声のあとで、アイリスの神機が強制的に召喚され、アイリスの右腕に現れた

そしてその神機を胸の前で持ち、左手を前に出す

「神機《レッドタブレット》」

アイリスの神機は、地球の記憶に接続することで万物を知ることができるものだ

形状は赤い半透明の板の左下に、手のひらサイズの機械が取り付けられたような姿

これから得た情報を元に、アイリスは《創作者》を使用する

一度創り出したものは神機無しに作り出せるものの、初めて何かを作るためには神機が不可欠なのだ

「んー…今度は何作ろっかな。アッシリアレンズでも作ろうかなぁ」

アッシリアレンズというのは古代の秘宝ともいえるオーパーツのことだ

空間をねじ曲げる力を持つと言われているものの、実際にはそんな力はない

しかし《創作者》は伝説を付与することで、実現させることが可能だ

「…誰?」

アイリスは虚空に向けて声を発する

何者かの気配に驚くと同時に、《創作者》にて魔術人形を数十体展開する

「あー、悪りぃ悪りぃ。こんなところに人間がいるとは思わなくてなぁ」

姿を現したのは、全身黒い服に身を包んだ青年だ

見た目年齢的には夜斗と変わらないだろう

「…君はだれ?」

「霊桜黒鉄。異能力《暴喰者(グラトニー)》を扱う非人間だ」

「恩恵保持者!?未確認の恩恵があるなんて!」

アイリスは魔術人形を黒鉄に向けて走らせる

「《暴喰者》喰い尽くせ」

黒鉄の右脚から真っ黒な奔流が魔術人形を飲み込み、丸ごと消えた

「なんっ…!?」

「…《創作者》アイリス・アンデスティアか。まぁ安心しろ、俺は貴様らの敵ではない」

「そう言われて信じるほど私が酔狂な人に見えるのかなぁ?」

アイリスは槍を形成する

アイリス自身が暴走したとき、夜斗に使ったあの量の倍

「ミリオンレイン!」

「グラトニーソード」

再度黒鉄の右脚から溢れ出した黒の奔流が、黒鉄の右手で片手剣を形成する

なんの変哲もない、ただ真っ黒なだけの日本刀のように小さな両刃剣だ。これでどう凌ぐつもりなのか、アイリスは思考を巡らせながら槍を放つ

「っしゃおらぁァァァァァァ!!」

黒鉄は走り始めた。それを追撃するために、アイリスは槍の範囲を広げる

「うおまじか、狙いを変えるかと思ったんだが…。神機解放!」

黒鉄の右腕につけられた、剣と繋がっている腕輪が魔族の魔力と同じ波動を出す

「っ…!魔族反応!?」

「…あー、こっちの世界の異能力者は魔力じゃねぇのか。まぁいいや」

黒鉄の右手に握られた剣の体積が増え、生物的な機甲が蠢くものに変わった

そして黒鉄は神機を目の前にもってきて両手で攻撃を受け止めるように構えた

「隙間から殺せるよ!」

アイリスは神機すれすれを狙って槍を飛ばす

それを阻んだのは、やはり黒鉄の神機だった

「…何それ…!」

「装甲展開しただけだ。何も驚くこたぁないだろ」

「…何も知らないんだね、君は。レッドタブレット、神機解放!」

アイリスが突き出したレッドタブレットが赤く光り輝いた

「それが神機…だと…!?」

「バーストモード」

アイリスの声が響くと同時、アイリスの目の色が物理的に変わった

暴走状態を示す赤へと

 


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