「…!ここは…」
アイリスが目を覚ますと、目の前には白い天井が広がっていた
右には窓があり、そこからは東京の街がある程度見える
「図書館」は国会議事堂を潰した跡地に高層マンションを作った
無論アイリスの力ではあるが、それにより「図書館」用の居住地は限定できたのだ
関西支部は別途高層マンションを作ろうとはしているものの、未だにアイリスが気乗りしないため空中拠点と支部を行き来する生活をしている
「バーストモードに移行したことを確認したから連れて帰ってきたのよ。おはよう、アイリス」
「…奏音…また、暴走したんだね、私…」
「そうよ。最近のあなたはよく暴走するわ。連れ戻すのにグレイプニルをどれだけ飛ばしたことか」
グレイプニルというのは空中拠点の名前だ
命名は作成者であるアイリスだ。しかし動かしているのは奏音の《執行者》
つまり、アイリスが暴走を始めたのを感じ取って、自身の代償を気にせずグレイプニルを飛ばしたのだ
「…ごめん」
「とりあえずはいいわ。新しい恩恵保持者の件もあるし。あとでまたくるわ」
奏音はそう言い残して、ベッド脇に置かれていた丸椅子から立ち上がった
「…奏音」
「何?」
「…その、ありがと…」
「…えぇ。受け取っておくわ」
奏音は部屋を出て行った
この部屋はアイリスの部屋というわけではなく、仮眠室となっている
「…代償…。私の代償は、この身に受ける…過剰な呪い」
アイリスはそう言って体を起こした
検査の際の安全のために外された、転送装置付腕時計を手に取る
霊力を流して屋上へと転移し、寒さに震えた
「私ほとんど服着てないじゃん…寒いわけだね。《創作者》」
アイリスは服を構築して着た。靴も、普段は履かないようなヒールだ
「あいっかわらず歩きにくいなぁ。さて、と」
アイリスは指を鳴らして神機を召喚した
「…検索条件は〜…アイリス、恩恵、代償っと」
レッドタブレットのいいところは、アイリスが欲しい結果を短いキーワードから検索することができるところだ
それ故に、知って後悔する情報であっても正確に出てしまうのが悪いところと言えるだろう
表示された検索結果は、想像を絶するものだ
“検索結果:一件【Administrator Class保持者以外への嫌悪・恐怖・拒絶反応及び暴走】”
つまり、夜斗・奏音・佐久間以外を信用することはなく、恋人を作ることもできない
言ってみれば、夜斗以外の異性に嫌悪感まで覚える。これが《創作者》の代償だ
大きな代償には見えないだろう。しかしこれには、大きな影響が隠れている
「んー…。冬風夜斗以外への異性恐怖症、かぁ。それも重度みたいだね、私のは。だから黒鉄…だっけ、あの異端児相手に暴走した」
アイリスはそう言いながら跳び上がり、フェンスの上に乗った
神機が両手を広げたアイリスの邪魔にならないように視界の隅へと移動する
アイリスは誰かに話しかけるかのように、言葉を紡ぎ出す
「いっそ死んだほうが楽かもしれないけど、私には夜斗がいるからね。異能力者として淘汰されてた私を、圧倒的な力で救い出した夜斗がさ!」
アイリスはフェンスから飛び降りた
足元に広がるのは空、そして遥か遠くに地面だ。そして重力に従い、落下を始める
「…」
「手間のかかる奴だな、全く」
途中でアイリスをお姫様抱っこという形で助け出したのは、夜斗だ
「さっすが私の主様だね、夜斗!」
アイリスは夜斗の首に抱きつき、その頬に唇を当てた