カスミトアケボノ 「図書館」編   作:本条真司

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16話 音のする方へ

雪音は路地裏を歩いていた

警備巡回…という名目ではあるが、正直なところは散歩だ

それがわかっているからこそ、夜斗は口を出さずに送り出した

「そろそろ主様を襲ってもいい頃合いでしょうかねー」

雪音には秘密がある。年頃…十九歳として生きている以上、当たり前に湧く感情

「私と子供を作ってくれたら既成事実になりますけど、まぁそううまくはいきませんね」

雪音はそう言いながらゆっくり歩をすすめる

背後から、いかがわしい目的で近づいてくる男三人の気配を認識しながらも、何も対応はしない

「遅いですよ、桜音」

「謝罪。道に迷った」

「嘘おっしゃい、です。脳内に日本地図が細部まで記憶されてるのに迷うわけないじゃないですか」

騒霊たちの脳には、日本の地理が刻み込まれている

さらにあらゆる魔術を起動できるよう、発動過程をも記憶している

「否定。人生という道に」

「人生…と言っていいのかわかりませんけどね」

雪音はそういいながら、前方から合流してきた桜音に目を向けた

桜音の髪は、桜と言われて一般的に思い浮かべるような色をしている

目は青っぽい紫で、うっすらと桜が見える

雪音の目にも雪の結晶が描かれている

それぞれの名前が思い描かせるものが目に浮かんでいるのが、騒霊たちの特徴だ

「愛音はまだ…?」

「来ていませんね。いつも通りお化粧に時間がかかっているんだと思いますよ」

そういった直後、雪音の背後で人が倒れる音が三人分聞こえた

そして

「待たせて申し訳ありません」

「遅い。もっと早く支度をして」

「一応二十歳なので、それっぽい支度をしているのですわ」

「まぁどうでもいいですけど…。主様にご迷惑をかけないようにしてくださいね」

「わかっていますわ。私たちの愛する主様ですもの」

愛音はそう言って目を閉じた

雪音は苦笑し、桜音はため息をつく

愛音の目にはハート…ではなく、四つ葉のクローバーのような模様がある

髪は淡い青で、二人と同じように長い

「そろそろ批判が高まっている。主に迷惑をかけないためにも、一度私たちで弾圧する必要がある」

三人には神機が存在しない

基本的に魔術と、ただの武器で戦うのが戦闘スタイルだ

雪音は夜斗の神機と同じくらい大きな剣、桜音はガトリングキャノン、愛音はマスケット銃を使う

それぞれ武装を拠点から転送し、掴む

「人工とはいえ、恩恵保持者ですもの。少しは痛い目を見ていただきましょう」

三人は路地から出てすぐのところにいる、デモ隊の前に転移した

「そこまで、ですわ」

愛音の声が凛と響く


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