奏音の銃声を最後に、魔族反応が途絶えるのを確認した夜斗は、第零禁書庫屋上から飛び降りた
平然と奏音も後を追って飛び降りる
「静岡県…緋月の根城だったな」
今奏音が撃ったのは、緋月の末端と戦闘していた過激派だ
東京都から静岡まで約135キロ。風向きや湿度を全て演算し、《執行者》により実行する
音速を超えない亜音速とはいえ、普通の人間には見えない速度だ
魔族とはいえ、死角からの亜音速は感じてからでは反応できない
「よくやった、奏音」
「久しぶりに百キロ超えの狙撃したわ。これ、グレイプニルで爆撃の方が楽ね」
「あたり一面焦土に変える気かお前」
グレイプニル下部には、殲滅用近距離砲がついている
それを使えば確かに殲滅は楽だが、半径二十キロほどを焼野原に変えてしまう。そうなれば魔族と結ぼうとしている協定もおじゃんだ
「そうね。殲滅すれば楽ではあるけど、外国魔族が何してくるかわからないわ」
奏音はそういって神機の召喚を解除した
夜斗は霊斗に連絡し、過激派と戦っていた魔族のケアを依頼する
「俺だ」
『誰だ?詐欺か?』
「奏音、撃て」
『待って待って冗談だから。どうした?』
そもそも秘匿回線を使ってる以上、別人がこの回線から連絡は取れない仕様だ
「過激派と穏健派の戦闘を確認、過激派をこっちで殲滅しておいた。穏健派のアフターケアを頼む」
『マジか…そんなことになってたなんて』
それはそうだろう
正直なところ、夜斗も静岡県在住の恩恵保持者からの通報がなければ気づくことはなかった
「場所は静岡県函南町の山奥。旧ゴミ処理場だ」
『あそこか…。了解、ありがとな』
「あと、明日暇か?」
『暇…というほどではないが、用件を聞こう』
「静岡県行くんだけど案内つけてくれないか?」
夜斗はそう言いながら神機を召喚し、弓に変えた
そして矢を形成し、そこに紙を結びつけて撃ち放つ
「届いた?」
『…ああ、俺の頭上に乗っかってた林檎を粉砕して壁を貫通して地面に突き刺さったが?』
「すまん、俺狙撃苦手なんだ。その紙の通りなんだが」
紙は公的文書扱いになる旨と、明日午前九時に静岡県三島市に夜斗、奏音、佐久間、アイリスが行くといった旨の事柄が書かれている
PSとしてネタが書いてあるものの、それについては触れないでおこう
『…なんでまた急に』
「今回過激派が強硬にでたから、その対策。あと不穏な陰があるからそれの報告だな」
『わかった、予定を空ける』
「頼む」
夜斗は端末を折り畳んで通話を終わらせ、神機を構える
弦を引き絞ると、キィィィンという音が響き、弦を放つと波紋が広がった
波紋の色は鮮やかな翠だ。これはアイリスと夜斗の間で交わされるメッセージ
レッドタブレットがこれを受信すると、内容を表示するようになっている
「ま、ちょっとした旅行ってわけだ」