夜斗は霊力で動く汽車に乗り、神奈川県を横断していた
窓からは先日過激派と戦闘した場所が見える
この汽車はアイリスが作ったもので、操作はマニュアルだ
そのため、一人恩恵保持者を乗せている
四人の護衛として、雪音・愛音・桜音、さらに夜斗の妹である紗奈が乗っている
「…大人数すぎたか」
「そうね。おそらく、こんな人数でくることは想定していないわ」
奏音はそう言いながら、じゃがいもを棒状にして揚げた菓子をカリカリと食べ始めた
アイリスはスライスしたじゃがいもを揚げた菓子を食べ始め、佐久間はどこからか羊羹を取り出して食べ始める
「遠足じゃねぇんだぞ…」
「ちょっとした旅行、なんだろう?夜斗にもあげるよ、ほら」
佐久間が懐から取り出したのは抹茶の羊羹だ。これがわりと美味しいと、図書館の中でも人気が高い
「全く…モグモグ…こんなもので…モグモグ…俺を釣ろうなんて…モグモグ…百年早いぞ」
「食べきってるじゃないか」
「しまった…!」
「そーいえば夜斗」
アイリスが新しくアーモンドにチョコレートを被せた菓子を開封し、佐久間と共にそれを食べ始める
それとどうじにアイリスは重大な事を口にした
「紗奈、恩恵覚醒したらしいよ。制御はできてない」
「…なんだと?」
「レッドタブレットによると、恩恵の名前は《
アイリスはそう言って指を鳴らし、夜斗の前の空間に情報を表示した
「世界の管理権限を保有する能力である俺に対し、対抗する恩恵かと思ったんだが…」
兄妹で真逆の性質の恩恵を得るというのは珍しい話ではない
夜斗の親戚である黒淵家なんかがそうだ
長男である冥賀は冥界を支配する《
弟の夜暮は万物を縛りから解放する《
二人はどちらも医療現場にて活躍している
「対抗はできると思うわ。《管理者》が起動する前に《拒絶者》が起動すれば、発動自体を拒めるもの」
「…たしかに。そう考えたら、やっぱ俺の妹だよな。可愛いし勉強運動気配り作法も完璧、さらに恩恵まで最高峰だなんてな」
「…ただ問題があってさ。これだけの恩恵だから、Administrator Classだと思ってたんだけど」
「違うのか?」
「うん。わからないんだよね。《支配者》とか《解放者》も未だにクラスわからないじゃん?だから同じものだと思うんだけど…」
「おそらくもう一つ未確認があるな。それと足して四つでクラスだ」
夜斗はそう言ってアイリスに目を向けた。調べてないのか?という意味を込めて
「残念だけど、レッドタブレットにもまだ載ってない。まだ未確認って感じじゃなくて、多分まだ未覚醒なんだと思う」
「それは残念だな。まぁ、恩恵保持者候補生は集めてるし…」
「それのことなのだが、確か交換留学がどう…とか言っていなかったかい?」
佐久間の言葉に、夜斗が頷く
「向こうの…緋月霊斗の御令妹と御令弟が向こうのメンツだ。こっちも、それに応じた者を送り出さねばならん」
夜斗はそう言って候補者の書かれた紙を広げた
紙は何に支えられるわけでもなく浮き上がる
「候補としては、紗奈と莱葉の二人。紗奈はほぼ確定だな、恩恵が目覚めたし魔族と対抗できるだろう。問題はもう一人だが…」
「難しい問題だね、これは。僕が思うには、エスカノールでもいいと思うよ」
「ライト・エスカノールか。あいつは神格保持者だからな、あまり使わない方がいい。身体負荷が高すぎる」
「じゃああの子は?美冬ちゃん」
「夏海に釘を刺された。行かせるなって」
夜斗の再従姉妹たちを思い出す
夜斗にべったりな春風美冬と、過保護な姉春風夏海
二人は恩恵保持者であり、静岡県伊豆市に常駐している
だからこそ通学に不手際がないように感じられたが…
「…アイリス、行くか?」
「えっ…。相手さんと学年合わせるんでしょ?私大学部だよ?」
実はアイリス、まだ学生だったりするのだ
六年制の小学部、三年制の中学部、三年制高等部、四年生大学部の四つがある恩恵保持者用の学校で、大学部にて教鞭をとる高校生なのだ
立場は高校生だが所属は大学部という、奇妙な立ち位置である
「本来の学年ってことで、な」
「んー…向こうがそれでいいっていうならいいけど…」
「あとで矢文送っとくさ」
夜斗はそう言って笑った