カスミトアケボノ 「図書館」編   作:本条真司

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19話 最初に言っておく2

夜斗は霊力で動く汽車に乗り、神奈川県を横断していた

窓からは先日過激派と戦闘した場所が見える

この汽車はアイリスが作ったもので、操作はマニュアルだ

そのため、一人恩恵保持者を乗せている

四人の護衛として、雪音・愛音・桜音、さらに夜斗の妹である紗奈が乗っている

「…大人数すぎたか」

「そうね。おそらく、こんな人数でくることは想定していないわ」

奏音はそう言いながら、じゃがいもを棒状にして揚げた菓子をカリカリと食べ始めた

アイリスはスライスしたじゃがいもを揚げた菓子を食べ始め、佐久間はどこからか羊羹を取り出して食べ始める

「遠足じゃねぇんだぞ…」

「ちょっとした旅行、なんだろう?夜斗にもあげるよ、ほら」

佐久間が懐から取り出したのは抹茶の羊羹だ。これがわりと美味しいと、図書館の中でも人気が高い

「全く…モグモグ…こんなもので…モグモグ…俺を釣ろうなんて…モグモグ…百年早いぞ」

「食べきってるじゃないか」

「しまった…!」

「そーいえば夜斗」

アイリスが新しくアーモンドにチョコレートを被せた菓子を開封し、佐久間と共にそれを食べ始める

それとどうじにアイリスは重大な事を口にした

「紗奈、恩恵覚醒したらしいよ。制御はできてない」

「…なんだと?」

「レッドタブレットによると、恩恵の名前は《拒絶者(リジェクター)》だね。万物を拒絶する能力…ってなってるよ」

アイリスはそう言って指を鳴らし、夜斗の前の空間に情報を表示した

「世界の管理権限を保有する能力である俺に対し、対抗する恩恵かと思ったんだが…」

兄妹で真逆の性質の恩恵を得るというのは珍しい話ではない

夜斗の親戚である黒淵家なんかがそうだ

長男である冥賀は冥界を支配する《支配者(ドミネーター)

弟の夜暮は万物を縛りから解放する《解放者(リベレーター)

二人はどちらも医療現場にて活躍している

「対抗はできると思うわ。《管理者》が起動する前に《拒絶者》が起動すれば、発動自体を拒めるもの」

「…たしかに。そう考えたら、やっぱ俺の妹だよな。可愛いし勉強運動気配り作法も完璧、さらに恩恵まで最高峰だなんてな」

「…ただ問題があってさ。これだけの恩恵だから、Administrator Classだと思ってたんだけど」

「違うのか?」

「うん。わからないんだよね。《支配者》とか《解放者》も未だにクラスわからないじゃん?だから同じものだと思うんだけど…」

「おそらくもう一つ未確認があるな。それと足して四つでクラスだ」

夜斗はそう言ってアイリスに目を向けた。調べてないのか?という意味を込めて

「残念だけど、レッドタブレットにもまだ載ってない。まだ未確認って感じじゃなくて、多分まだ未覚醒なんだと思う」

「それは残念だな。まぁ、恩恵保持者候補生は集めてるし…」

「それのことなのだが、確か交換留学がどう…とか言っていなかったかい?」

佐久間の言葉に、夜斗が頷く

「向こうの…緋月霊斗の御令妹と御令弟が向こうのメンツだ。こっちも、それに応じた者を送り出さねばならん」

夜斗はそう言って候補者の書かれた紙を広げた

紙は何に支えられるわけでもなく浮き上がる

「候補としては、紗奈と莱葉の二人。紗奈はほぼ確定だな、恩恵が目覚めたし魔族と対抗できるだろう。問題はもう一人だが…」

「難しい問題だね、これは。僕が思うには、エスカノールでもいいと思うよ」

「ライト・エスカノールか。あいつは神格保持者だからな、あまり使わない方がいい。身体負荷が高すぎる」

「じゃああの子は?美冬ちゃん」

「夏海に釘を刺された。行かせるなって」

夜斗の再従姉妹たちを思い出す

夜斗にべったりな春風美冬と、過保護な姉春風夏海

二人は恩恵保持者であり、静岡県伊豆市に常駐している

だからこそ通学に不手際がないように感じられたが…

「…アイリス、行くか?」

「えっ…。相手さんと学年合わせるんでしょ?私大学部だよ?」

実はアイリス、まだ学生だったりするのだ

六年制の小学部、三年制の中学部、三年制高等部、四年生大学部の四つがある恩恵保持者用の学校で、大学部にて教鞭をとる高校生なのだ

立場は高校生だが所属は大学部という、奇妙な立ち位置である

「本来の学年ってことで、な」

「んー…向こうがそれでいいっていうならいいけど…」

「あとで矢文送っとくさ」

夜斗はそう言って笑った


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