緋月家の当主、霊斗の妹
夜斗はそんな彼女を見た時、気づいた
「…紗奈」
「お兄様もお気づきでしたか…」
二人して小声で話す
ショーウィンドウの中のクマのぬいぐるみを眺めている緋月桃香を見て、先程見かけた緋月家の魔力を思い浮かべる
「この子だけ、魔力の質が違う…」
「異母兄弟、というレベルではありませんね…」
「様子を見るか…」
夜斗はそう言ってクレジットカードをどこからか取り出した
店の店員を呼び、一言二言話して店内に入る
「あれ?夜斗くんは?」
「トイレだそうです」
紗奈は夜斗の目的を汲んで、桃香に嘘を伝える
「嘘でしょ?私わかるもんね」
「そんなことありません」
「魔眼持ちを騙せると思う?」
「…緋月家に魔眼持ちがいましたか。レアケースですね、魔族に魔眼とは」
魔眼は基本的には人間が持つものだ
といっても純粋な人間ではなく、魔族とのハーフが持つもの
魔眼持ちは人間からも魔族からも忌み嫌われるため、その存在を隠しているものだが
「ほんとレアだと思うよ、自分でも。けど使えるなら使ったほうがいいじゃん」
桃香はそう言ってショーウィンドウから目を離し、振り向いた
「なんだ、俺の話か?」
「わっ!?う、後ろに立たないでよ」
夜斗は普通に歩いて桃香の後ろ…というよりは紗奈の前に移動してきたのだが、どうやら話に集中していたようだ
「これをやろう。なに、外交費用にツケてある」
夜斗が差し出したのは大きな赤い袋だ
桃香はそれを不思議そうに受け取る
「帰ってから開けるといい。霊斗にゃ口説くなとか言われそうだが断じてそんな意図はない」
夜斗はそう言って歩き出した
紗奈は動きを完全に把握してるかのように真横の位置で夜斗に追従する
紗奈のポケットの中で、神機がギリギリと音を立てた
「いやー、楽しかったよ夜斗!」
「アイリス…迷惑かけてないだろうな?」
「んー…それは神…じゃなくて、吸血鬼のみぞ知る、ってことだよ!」
夜斗はため息をついて、合流してきた「図書館」のメンバーを見た
旅行が好きな彼女らは、基本的にグレイプニルでどこへでも移動する
汽車できて歩いて回る、というのが新鮮なのか、緋月家の面々がグッタリするほどにははしゃいだようだ
「すまんな、霊斗」
「ああ…思ってたより…はしゃがれた…」
霊斗は疲れ切った顔で膝に手をつき荒い息をしている
どうやら走らされたようだ。魔族でも辛いということは、おそらく恩恵を使ったのだろう
夜斗は霊斗と一緒にいた二人を見て、またため息をついた