カスミトアケボノ 「図書館」編   作:本条真司

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22話 最初に言っておく5

「さて、と。まずは歓迎感謝するぜ、霊斗」

8メートルの机に両肘をついて、手の上に顎を乗せた夜斗が対面に座る霊斗に声をかける

夜斗からみて右側が図書館、左側が緋月という形で机の前に座っている

「…遠くね?」

「お前の用意した机だろうが」

「これしかねぇんだよこの人数が座れるやつ…」

会議室…というよりは欧米の城にある部屋のような場所

時刻は18時半。ちょうど夕飯時だ

全員の前に食事が用意され、手をつける前に霊斗が口を開いた

「本日はささやかな食事を用意してある。まぁ、堪能してくれ」

「短いなぁ…」

天音が口を出すのを無視して霊斗から話を切り出す

「で、今回の件だが…」

「その前に食事と洒落込もうじゃないか。僕でも、ここまでの料理には胸が躍るからね」

「躍るほど胸ないでしょ」

「アイリスには言われたくないね!」

佐久間とアイリスを隣に席にしたのは間違いか、などと思いながら夜斗が料理に手をつける

「これは…。なるほど美味いな」

最初に夜斗が手をつけたのは、鶏肉のワイン蒸しだ

全員未成年ではあるが、熱でアルコールは完全に飛んでいる

夜斗はアルコールに弱いため、人よりそれがわかるのだ

「だろ?天音渾身の一作だからな」

「って言ってもレシピに書き出しただけで、作ったのはうちのコックだよ」

何故か霊斗が誇らしげに言い、天音が恥ずかしげにはにかむ

夜斗が食べ始めたのを皮切りに、アイリスや佐久間、奏音が手をつける

「ふむ、たしかに美味しいね。味付けも濃すぎず薄すぎないし」

「そうだね。私酒蒸しって初めて食べたけど、こんなに美味しいなんて」

「…美味しいわ。さすがね、天音」

天音の前に座る奏音が微笑む

その瞬間、図書館たちはざわめいた

奏音が夜斗以外に笑顔を見せることは少ない

珍しく他人に笑みをみせたことで、図書館の面々は驚きを隠せないのだ

「悪かったわね、普段笑わなくて」

奏音が拗ねたように顔を逸らし、一室に笑いが溢れた

紗奈も笑っていることで、夜斗は安堵する

(この感じだと、暴走はなさそうだな)

「過激派の件だが」

霊斗が発した言葉に、空気が張り詰める

ドアの前に控える霊斗の従者たちも、それを聞いてピリピリし始めた

「…そうだったな。俺としては、毎回奏音に狙撃させるわけにもいかんし、各地に恩恵保持者を配置するほど人員に余裕はない」

「こっちも似たような状況だ。魔族の数は結構減ってきてるからな」

「だから、魔眼使いを集めようと思う」

夜斗はチラッと桃香を見た

それに気づいていないらしく、桃香は兄たる霊斗を見ている

「それもいいが…。つまり人員が欲しいんだよな?」

「まぁ、そういうことだ」

夜斗はそういってからフォークとナイフを置き、指を鳴らす

いつものように雪音が立ち上がり、食器を片付けて入り口に待機している霊斗の従者に手渡す

「まぁ、そんな人員どこにいんだよ、って話だ。恩恵保持者は日本に偏ってるし、魔族は各国の連携がとりにくいって聞いてるしな」

「アメリカなら…まぁ、なんとか…」

霊斗は心労の祟った声で絞り出すように言った


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