会議…とは言っているものの、実際にはほとんど進めることはできない
まだ精霊一族も神族も来ていないため、提出する案を固めることしかできないのが現状だ
夜斗は歯痒く思いながらも、進まない会議を眺めていた
何故かいる黒鉄に目を向ける
「霊桜。お前らはどういう立ち位置なんだ?」
「ん?あー…霊桜家は全員貴様ら側だ。中でも俺と夜架っつー妹は人間側、草薙ってやつと流華ってやつは魔族側だな」
アイリス曰く、黒鉄は恩恵に似た能力を持っているらしい
夜架というものにも似たような能力があると考えて間違いないだろう、と夜斗は断じた
「まぁいいが…。一応自己紹介からやっとくかね。俺は冬風夜斗。図書館の管理人だ」
「同じく紗奈です。冬風夜斗の妹にあたりますが、基本的には護衛のようなことをしています」
「アイリスだよー。図書館にある能力を作ってるのは私」
「時津風佐久間。僕は図書館を操作する権限を持っているよ」
図書館の重役ともいえる五人が自己紹介を済ませ、夜斗が霊斗に目を向ける
「緋月霊斗だ。知っての通り、世界最強の吸血鬼なんて呼ばれてる。緋月一族の当主をしている」
「同じく桃香です。兄がお世話になります」
誰一人立ち上がらなかった中で、桃香だけは立ち上がり一礼した
少なくとも、夜斗と黒鉄が緋月に好感を持つ要因になりえた
「んで、夜斗。貴様らはその、なんだっけ?AI魔族にどう対抗する気だ?」
「…AI魔族…?」
「なんだ、知らんのか。マイクロチップを魔族に埋め込んでやれることってのは何個かある。一つはバーストリミット。つまりはリミッターを破壊し、身体技能の限界を超えるパフォーマンスをするもの」
これは周知されている。そうでなければこの対策本部も構想すら出なかっただろう
「んで、これがAI魔族って名前の所以なんだが、マイクロチップを埋め込むとそいつの脳を支配できる。言うなりゃ元政府の言いなりになるってことだな」
黒鉄はそういって指を二本立てた
そしてさらに事実を告げる
「これは貴様らが政府を潰す前からある計画でな。バーストリミットした魔族を操り、他国を攻め落とすつもりだったんだ。つまりは魔族の兵器化だな」
「…ふむ。それは問題だな…」
「なんでだ?」
霊斗は夜斗に問い返す
「…魔族ってのは元々、人間並みの力まで力をセーブしている。人間の数十倍の力を持つ魔族は、普段5%ほどしか力を発揮しない。それを30まで引き上げるのが吸血鬼化や獣化といった、解放状態だ」
「それでも厄介ですが、バーストリミットというのはそれさえ超えて100を出すことになると思われます。その力は通常の魔族化の約3倍。到底人間では対応できませんし、バーストリミットしてない魔族でも苦戦を強いられるでしょう」
紗奈が夜斗の言葉を続ける
霊斗にはイマイチピンときていないようだが、桃香はわかったようだ
「しかもだ。バーストリミットの他に、オーバーリミットもある。これは肉体の破壊を前提に、魔力を筋肉に流し込むことでアホみたいに力を増強させるものだ。そこらの野良吸血鬼でも、今の緋月家に引けをとらんレベルの筋力になる」
黒鉄はそういって目を閉じた
そして指を鳴らし、黒鉄の影が揺らめき立つ
「これがオーバーリミットした魔族の成れの果てだ」
その影から出てきたのは、ボロボロに腐敗した吸血鬼だった
黒鉄曰く、マイクロチップを埋め込まれた魔族だという
「…ま、無限の再生ってわけじゃねぇが、爆発的な回復力を持つ吸血鬼がこうなるんだ。それだけ負荷がかかるんだよ、オーバーリミットってのは。それを全員が使える軍隊と、貴様らはどう戦う気だ?」
黒鉄は試すような目で面々を見渡した