「その点は問題ありません」
紗奈は立ち上がり言った
夜斗に目を向けて顔を伺う
「かまわん」
「ありがとうございます、お兄様。そのAI魔族ですが、マイクロチップを無効化すればただの魔族ですよね?」
「…まぁ、そうだが…。神経に流れる微弱な電流で動いてるから、バッテリー切れはねぇぞ?しかも機械っていっても電磁波防護かかってるから強制的に停止ってのも──」
「可能です。私の《拒絶者》はありとあらゆるものを拒む程度の能力しかありませんが、これを使えば一時的に封じることは可能です」
紗奈は黒鉄を見据えて言う
神機を召喚し、身に纏い、即座に恩恵を起動した
「デモンストレーションにもなりませんが…。《拒絶者》ブレイクアウト」
紗奈が黒鉄に手を向ける
その瞬間に、黒鉄は異能力が解除され、脱力感に襲われる
「なん…だ、これ…!」
「《拒絶者》の能力でもかなりリスクの高い技ではありますが、相手の能力を完全に遮断するものです。リスクは相手が死ぬ可能性があることですね。長いこと生きている存在に使うと、固有体積時間が逆流して死にます」
紗奈はそういって、黒鉄の影から出てきて倒れている吸血鬼に手を向けた
吸血鬼が灰へと変化し、あたりに飛び散る
「霊斗さんには効きにくいです。固有体積時間が100年程度までは吸血鬼でも死なないので。ですが、100年を超えると逆流によるダメージは大きくなり、1000年も生きた個体に使えばああなります」
紗奈は神機の召喚を解除し、座り直した
「そういうことだ。少なくとも、取り立てて言うほどではない」
夜斗はそういってから霊斗に目を向けた
「霊斗、いつまで唖然としてるんだ?」
「あ、ああ…。けどそれって、紗奈さんだけが唯一の対抗策ってことだろ?」
「いや、俺やアイリス、佐久間や奏音も似たようなことはできる。だから向こうが攻めてきたってだけなら、案外いけるはずだ」
「まぁ問題があるとするなら、どう攻め込まれるかってことだね。今、アメリカに行ってる図書館の人員を呼び戻してるけど、間に合うかわかんない」
アイリスがそう言ってレッドタブレットを取り出した
板の左下にある楕円形の機械にケーブルを挿し、机型モニターに投影する
表示されたのは日本地図だ。ただし、北海道と沖縄には魔族がほとんどいないために表示されていない
「私は、東北と九州に支部を増やそうと思ってる。そこに私たちAdministrator Classを配備すれば、ある程度対応はできるはずだよ。ついでにさっき言ったアメリカ出向中の子たちがそれぞれに一人ずつ入れば、もう少し対応が可能になる。魔族側の人員も二人ずつくらい欲しいかな」
アイリスはそういって画面を変化させた
現在ある拠点は二つ…と、グレイプニル
グレイプニルは基本的に自律航行しているため、無視しても問題はない
現在東京本部と関西本部にはそれぞれ二人ずつAdministrator Classが常駐しているが、一人で国と戦争できる能力をもつ彼らをまとめておくのは得策ではない、ということだろう
そのため支部を増やし、戦力を分けることで広範囲をカバーする、というのがアイリスの案だった
「反対意見はある?」
アイリスの問いかけに異議を唱えるものはいなかった