記者会見終了後の夜斗は、神奈川県に来ていた
ここには、過激派の魔族がいる
基本的に、緋月一族は日本政府に対等の扱いを要求しているだけだった
日本政府がそれを無視し続けて冷遇したために緋月一族が戦争をしようとしたのだが、夜斗は日本政府を破壊した。それにより、緋月は夜斗を説得すれば良いということになる
それをよく思わないのが過激派魔族だ
つまり、魔族こそ優秀であり、人間を支配すべきだという思想を持つ者の集まり
「…きたか。カメラマンはいるな」
夜斗が見たのは、神奈川県沖に浮かぶAI戦艦だ。あれは一月前のものとは異なり、夜斗の意思で動く。いわばもう一つの体と言えるだろう
そこに乗っているのは、超望遠レンズを搭載したビデオカメラを構える女だ
テレビ局を呼び、デモンストレーションと称して緋月にも人間にも嫌われているものを潰す、という舞台を作り上げたのだ
「あまり殺しに向かないんだけどな、この力。主だって使えるのは管理する力だし。こんなことならアイリスか佐久間にやらせればよかったか」
金髪美少女であるアイリスなら視聴率も高いのではないだろうか。そう考えていると、恩恵保持者を嫌う魔族が飛びかかってきた
「獣人…それも狼型か」
「お前らさえ殺せば、俺たちが国のトップだ!」
そう言って獣人は、海辺倉庫の影から出てきた仲間と共に夜斗を取り囲む
「恩恵を使うべきなんだろうな。仕方がない」
夜斗は恩恵を起動した
歯車が噛み合わざるような音が周囲に響く
「歯車は好きか?俺はわりと好きだ。機械的であり、歯が欠けぬ限り壊れることは少ない」
夜斗の背後に出てきた巨大な文字盤の上で、これまた巨大な針が時を刻んでいる
「《管理者》冬風夜斗の名において権限を施行する」
瞬間、獣人の大半が血に倒れた
ある者にはナイフが眉間に刺さり、ある者には心臓に大穴が開いている
またある者には無数の斬撃跡があり、最初に飛びかかってきた者とその周囲にいた者たち以外は既に死んでいる
「何…を…!」
「時間を割り込ませる、という管理者権限だ。お前たちには「俺が残虐の限りを尽くした」という時間を割り込ませた。今は世界の強制力で何も感じないだろう?」
「ま…まさか…!」
「俺が《管理者》を解除した瞬間に、発動していた間の痛みや絶望感などなど、全てが圧縮された襲い掛かる」
「外道めが…!」
「ふむ。日本国民を陥れようとしていた者に言われるとゾッとしないな。お前らほど外道ではない」
夜斗はそう言って、指を鳴らした
巨大な時計が目を閉じるように消え、全ての能力が解除された
同時に、最初に襲ってきた獣人は細切れになり、灰となって風に溶けた
「第一ウェーブ終了…と言ったところか」
夜斗はそう言って場所を変えるために、ゆっくりと歩き始めた
そして《管理者》で敵の居場所を突き止める。場所的に、海からならよく見えるのではないだろうか
カメラマンが、夜斗の死を撮ってしまうのではないかと冷や冷やしながら見ているのが手に取るようにわかる
「さて…どう仕留めるかな」
夜斗の胸元にはピンマイクが刺さっている
それはスマートフォンにワイヤレス接続されており、ピンマイクの音声はカメラマンの手元にあるスピーカーでカメラに録音される
つまり、カメラマンはその音声をリアルタイムで聞いているのだ
「まぁ、適当に魔術でいいや。爆裂」
夜斗がそう言って手を握ると、カメラにはザクロのように弾ける吸血鬼が映り込んだ
本来吸血鬼は、固有体積時間によって再生能力が変動する。その吸血鬼も、高いプライドを持って過激派に入っているということはかなり旧くから存在するはずなのだが、再生してこない
爆裂は心臓、脳だけではなく、存在を破裂させる魔術だ。吸血鬼という存在を破壊された以上、再生能力はない
カメラマンが目の当たりにしたのは、圧倒的すぎる夜斗の力と、夜斗にいる部下たちによるその他の過激派魔族の虐殺だった