通学中の紗奈は、兄たる夜斗のことを想っていた
「愛というのは得てして妙なものですね。お兄様を異性認識してるなんて」
紗奈は呟きながら路地裏に入った
学校までは自宅最寄駅から二駅先の駅前にある
私立だったが、夜斗が公立へと変更した
元々政府が恩恵保持者から高い金を取るために作った学校で、全課程が義務教育となっている
小学部から高等部があり、部活動も充実している。部活動の大会も、恩恵を使わないという条件付きではあるが参加していた
この路地は、紗奈が《拒絶者》を使い転移する際に使う場所だ
誰にも見られることはないため、恩恵保持者予備軍として登録されている紗奈は目覚めて以降ここを使うようにしていた
「…あれは、唯利さん…?」
生徒会長を務める同級生を見つけ、紗奈は近づいていく
と同時に神機を召喚し、恩恵にて唯利の前に障壁を張った
「唯利さん!大丈夫ですか!?」
「あなたは…高等部二年生の紗奈さん…?」
「《拒絶者》破滅ノ浄土!」
紗奈は唯利を軽く無視して恩恵を起動し、唯利の服を剥ごうと手をかけていた屈強な男に行使した
破滅ノ浄土は周囲を文字通りの地獄に変えるものだ
《管理者》たる夜斗と紗奈が使えることから、冬風に伝わる技ではないかと奏音が話していたのを思い出しつつ、紗奈は距離を詰める
「ここは地獄…貴方の言い訳くらいは聞いて差し上げますよ、猥褻犯さん?」
紗奈は驚くほど冷たい声で言い放つ
助けられている唯利でさえ気圧されるほどの濃密な霊力に、犯人は圧倒されて動けない
「唯利さん、ご無事ですか?」
「え、えぇ…なんとかね。ありがとう」
「恩恵は目覚めていないんでしたっけ?」
「あるけど使うのめんどくさくて…。まぁ使うけど」
唯利は手を犯人に向けた
恩恵保持者は自己防衛のために恩恵を行使することが認められており、またそのせいで相手が死んでしまったとしても正当防衛が認められることが多い
これは昔からそうで、政府が用意したなけなしの温情だった
「《
唯利が言うと同時に、犯人の四方八方に大型の刃が現れた。それが次々に襲いかかり、その場にはサイコロステーキのようになった男が残った
「…凶悪な恩恵ですね。処刑者、ですか」
「犯罪者にかける情けなんてないわ」
猫耳パーカーのフードを外して唯利が冷たく言い放つ
男に向ける目は冷たく、侮蔑を含んだものだ
「まぁマシな方よ。串刺しにすることもあればこんがり肉にすることもあるから」
「改めて考えると凶悪ですね。拷問器具を模した攻撃をする能力、ですか?」
「そうよ。ギロチンで微塵切りとかアイアンメイデンで串刺しとか」
唯利はそう言って落ちたカバンを拾った
「遅刻するわ。いきましょう」
「はい」