久遠は目の前に倒れ伏す男に掌を向けた
「さよなら」
「…な…!」
久遠の掌から放たれたのは雷だ。それも、紫色の
「紫電か。神格としては弱いよな」
「翔のそれよりは強いんじゃない?」
翔の背後には女が倒れている。久遠は躊躇なく神の力である神格を行使し、塵さえ残さず消し去った
「加減してやれよ。女なんだから」
「そういうの、現代の日本だと女性差別とか言われるんだよ?昔はそれのおかげで軍役もなかったけど、もし今戦争が起きたら徴兵されるだろーねー」
久遠はそう言ってビルの上を見上げた。そこには二人の少女・舞莉と莉琉が、それぞれ屈強な男を相手しているのが見える
といっても夜の営業ではない。彼女らもまた、神格をもつ者だ
莉琉は久遠と同じように、真っ青な焔を用いて相手を灰に変え、舞莉は空間を操作し、首を切り落とした
それぞれの神格は「蒼焔」と「波乱」
翔の波紋は空間を歪ませる能力だが、舞莉の波乱は空間を操作する能力
得意分野こそあれど、似たような能力だ
「で、夜斗のお迎えは?」
「さっきメール来てただろ…。今日は直接第零禁書庫行きだ。経費でつけてタクシーでもいいらしいぞ」
「四人乗れるタクシーなんてあるかしら。割増取られそうじゃない?」
「神格で走ったほうが早いですね」
「そうだね。走ろっかって言いたかったんだけど荷物がなぁ」
「最悪なくてもいいわよ、着替えしか入れてないし」
莉琉はそう言いながらキャリーバッグを開けて、必要最低限のものを取り出してポケットに突っ込んだ
舞莉と翔もそれにならい、ポケットやポーチに必要なものを入れてキャリーバッグを消した
「むぅ…そんなに杜撰だと後々事件化するよ?」
「そんときゃそんときでなんとかする」
「全く…。神格『紫電』!」
「気にすんな。神格『波紋』」
「心配症ですね、お兄様。神格『波乱』」
「…私の神格は走るというより飛ぶなのよね。神格『蒼焔』」
それぞれが神格を起動し、久遠は派手な紫色の稲妻に包まれる
莉琉も久遠と同じように青い焔に包まれ、舞莉と翔は浮き上がる
「競争ね。誰が先に着くかしら」
「やってみないとわかんないね。よーい…どん!」
久遠が光の速度で人混みを擦り抜け、壁を蹴り、地面を蹴って文字通り光速で走り出す
莉琉は背中側から放出された高圧力の炎の反作用で空を飛び、直線距離にて禁書庫へと向かう
翔は目に映る場所へ転移していき、少しずつ禁書庫へと移動していく
舞莉は空間を破壊し、距離をゼロにする
これを使うことにより、直線距離と同じ移動速度になる代わりに姿が見えなくなる。瞬間移動は時間をゼロにすることで行うが、体力を浪費する。そのため時間をかけて距離をゼロにするやり方を取ったのだ
それぞれの到着はほぼ同時。しかし、莉琉と舞莉は地面に大きなクレーターを作った
「相変わらず威力が調整できないわね、この移動方法」
「全くです。距離をゼロにすると移動地点に破壊が発生するのは相変わらずですね」
「人んちの前ぶっ壊してんじゃねぇ!」
そんな四人に、夜斗から拳骨が振り下ろされた