カスミトアケボノ 「図書館」編   作:本条真司

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34話 冬風紗奈は好かれたい8

「お、女の子に手を上げるとは何事ですか夜斗!」

「うるせぇ!こんだけでかいクレーター作りやがって…」

夜斗はそう言いながら恩恵を起動し、時間を巻き戻した

クレーターが作られる前の姿に戻り、久遠たちの痛みもスッと消える

「直せばいいというものではないわ。この子達には反省文を書かせなきゃね?」

莉琉と舞莉の背後に現れた奏音が、全くの無表情で立っていた

普段から無表情ではあるが、持っている神機のせいで笑えないことになっている

「奏音さん…。何故ここに…?」

「ここに住んでるからよ。今夜斗と買い物行って帰ってきたの」

神機がコッキングされたような音を立て、銃身が電磁波により甲高い音を立て始める

「奏音、やめてやれ。よくきたな、桜坂四重奏のバカども」

夜斗はそう言ってセキュリティゲートを開いた

久遠、翔、莉琉、舞莉は、桜坂四重奏と呼ばれる吹奏楽団だった

今まではアメリカにいたため、日本で活動することが叶わなかった

とはいえ、もう四人は楽器を手に取る気はないようだが

「ねぇ夜斗、アイリスさんは?」

「関西にいる」

「佐久間さんは?」

「関西にいる」

「紗奈さん」

「学校」

「あとは…うーん、他に幹部いないの?」

「Administrator Classがなかなか出ないからな」

夜斗はエレベーターにのり、32階を押した

三重の扉が閉まり、徐々にエレベーターが加速していく

「このエレベーターって油圧だっけ?」

「そんなの気にするのか…」

翔が呆れたように呟く

久遠はエレベーターに乗るたびにこうなのだ。列車マニアはよく聞くが、エレベータマニアはあまり聞かない

「もしくは吊ってるの?」

「箱にモーターをつけて、レールを挟ませてる。それを利用者の霊力で回転させて上下するから、そこらの人間では二十階にくるのも一苦労だ」

夜斗はここにいる六人分の重さを一人でカバーしている

元の容量も、回復力もAdministrator classの中でさえ群を抜いているのだ

「ふーん。なんか面白くないね。どこぞのテーマパークにありそうな感じ」

「同じように落としてやろうか?」

「ごめんなさい」

到着したエレベーターから降りると、目の前にいたのは久遠たちの部下だ

総勢二百名。それぞれに五十人の部下がいる

32階はパーティー会場となっている。一応、おもてなしをするために作ったのだ

「や、みんな久しぶりだね。元気だった?」

「「「「はい!」」」」

久遠の呼びかけに応えたのは、北側に立つ女性たち

彼女らは久遠の指導の下、諜報員として活躍している

「帰還だ、祝え!」

「「「「「yeahaaaaaaaaaaaa!」」」」」

翔の声に掛け声を返したのは、東の一角にいる男性たち

彼らは翔の統率のもとで、強襲・襲撃を担当する

「帰ったわ。みんな、生きてるわね?」

「「「「サー、イエッサー!」」」」

莉琉は男女混同で、あらゆる技術の研究・開発を行っている。アイリスが物を作る時に有用に活用できる技術を作るのが主な目標だ

「お疲れ様です、みなさん。お出迎えありがとうございます」

「「「はい!」」」

舞莉が従えるのは、アイドルとして活動資金を集める役目を持つ女性が多数を構成する西側の人員

どれも欠けてはいけない、図書館の重要勢力だ

「…毎回こんなんなのか?」

「はい。みなさん、元気に満ちてますから」

「…一周回って嫌になるわね、こんなの」

夜斗と奏音はこの光景を初めて見る

以前は、それぞれがそれぞれの活動場所で指導及び対応を行っていたため、統括を行う夜斗でさえこの騒ぎ(?)を目の当たりにすることはなかったのだ

「…まぁいい。解散させろ」

「りょーかい。総員解散!」

久遠のこえで、そのフロアにいた全員が何処かへと姿を消した

大多数は裏側にあるエレベーターで移動をするが、何人かは非常階段から飛び降りる。階段とはなんだったのか

「…今回呼び戻したのは魔族のことで話があってな。頼みというより、命令だ」

「異動?」

「ああ」

夜斗はそう言って指を鳴らし、従者たちが食事を揃えるのを待って席についた


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