(お兄様…!私は……!いえ、今は止血が先決です。恩恵起動!)
拒絶者にて、出血を拒絶する。が、止まらない
「紗奈…何をしてるかと思えば…」
「お兄様…何故手を出したのですか!」
「知らん。体が反射で駆動したに過ぎない」
夜斗は常に、呪いに縛られている
このことは紗奈には伝えられておらず、佐久間やアイリスも知らない。唯一知っているのは、奏音だけ
それは、紗奈を守ろうとするという呪縛
紗奈が命の危機に瀕した時、自動で肉体が駆動する
恩恵で防げるのであれば恩恵が起動し、防げなければ自己を犠牲にする
「紗奈は無事だな…?」
「はい…」
「なら、いい」
夜斗は骨まで切れ、皮一枚で繋がる腕をみていった
紗奈の心理状態はそれどころではない。自身の手で愛するものを傷つけたのだから
(けどこれで、お兄様は私を見てくれる…?)
「…仕方がない。スキル解放」
夜斗は千切れかけた左腕を、右手で無理やり押し込む
それだけで腕は治り、何事もなかったかのように動き出す
「…それは…?」
「冬風の人間は、スキルツリーと呼ばれる異能力を生まれ持っている。見たもの、得た知識、受けた技。全てを学習し、スキルとして登録する。そして年に一度、スキル解放の機会が与えられる。これを行うことで、登録されたスキルを習得できる」
夜斗はそういって紗奈を抱きしめた
手が震えている。特段、千切れかけたことによる後遺障害というわけではない
「おにい…さま…?」
「お前が無事で、よかった」
夜斗はベッドに投げ出された二ツ目の神機を見て、声を上げかけた
二ツ目の神機は、不可能とされていた技術だ
一つ目は問題なく使える。しかし、二ツ目を使用しようとすると人類の悪意に呑まれる、と言われているのだ
それゆえに、二ツ目の神機を持つことさえ叶わないはずだが…
「…紗奈、この神機はどこで手に入れたんだ?」
「これは…神社に、刺さってたものです」
「どこの?」
「…静岡県最北部の、浅間神社です」
「…なるほど。製作者不明の神機、というわけか」
夜斗はベッドの上に横になった
「お兄様…?」
「安心しろ、風呂は入ったあとだ。たまには兄貴に甘えてもいいんだぞ、紗奈」
夜斗はそういって手招きした
腕を横に伸ばしていることから、そこに頭を乗せろということだろう
「…では、お言葉に甘えます」
「お前が起きて離れるまでここにいてやる。ゆっくり寝ろ」
「はい…。おやすみなさい、
紗奈が寝息を立て始めるまでに、そう時間はかからなかった
夜斗は天井を見上げ、紗奈の二ツ目の神機を手に取る
「お前はなんで、作られたんだろうな。終焉氷月?」
包丁型のそれが小さく震えて、元の板型に戻った
『貴方には教えません。今は、まだ』
そんな声が、微睡の中の夜斗に聞こえた───気がした