カスミトアケボノ 「図書館」編   作:本条真司

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40話

その頃の久遠

「で、私を拘束して何をしたいの?」

チェーンで縛られた久遠が、あくまで冷静に訊ねる

覆面の男たちが口を開いたのは、本部から数キロ移動してからだった

「お前を洗脳して、本部の情報を吐かせる。同時に戦力として使う」

「んー…期待しない方がいいよ。私は洗脳の意味ないし」

久遠は紫電を起動し、車の電装を破壊した

しかしすぐには悟られないよう、紫電を使い続けて電装の動きを再現する

「刻印魔術を埋め込めばいい。その脳にな」

「ふーん。簡単に行くといいね」

男たちの拠点らしきものが見えたと同時に、久遠は電装を暴走させた

アクセルを全開にし、ブレーキが働かないように抵抗を最大にする

と同時に、高圧の電撃によりチェーンを切断した

「アクセルが!?」

「ま、私を怒らせた罰だよ。じゃあねー」

久遠は指先から電撃を放ち、ドアのロックを破壊し、ノブを引いてスライドさせて飛び出した

と同時に、図書館のメンバーが車を横付けし、久遠が飛び込む

「さっすがだね、桜音」

「当然。大型バンは私の専門」

桜音はハンドルを右に回しつつサイドブレーキを引く

大型バンが後輪を滑らせて180°回転し、その場からの離脱を図る

尚、久遠を誘拐した車両は拠点らしきものの壁に突き刺さり、久遠の紫電によってバッテリーが爆発した

「ほとんどが電気制御の車で助かったよ」

「同意。あれは電気自動車の新型。まだ公表されてから二日ほどしか経過していない」

「え?じゃあ一般販売は…」

「到底未実施。それに、発表されたものは実用に耐えうるレベルではなく、よくて街乗り程度のレベル。あれは高速道路を走行した実用可能品」

「…発表したのは偽物で、あれが本物…?だとしたら…」

「肯定。おそらくは研究所から盗まれたもの。本日のつい5分前に公表されたニュースがある」

桜音がカーナビを操作すると、久遠の目の前にあるモニターに情報が表示された

そこに記載されていたのは

「発表の前日に盗難されていた…。発表されたのは急ごしらえの、仮設機!?」

「肯定。実験用に作られたもので、実用目的というよりは試しに作ったというレベル。よって導き出されるのは」

「研究所の人が向こう側にいる、ってこと?それで発表前日に研究所から持ち出させた…」

「肯定。研究所をハッキングしたところ、監視カメラを無効化する研究所員の姿を確認した」

そう言いながら桜音は車を停止させた

目の前にいるのは奏音と霊斗だ

「や、奏音。夜斗の様子は?」

「呪術解除に時間がかかるわ。そっちは?」

「とりあえず敵拠点に車ぶつけさせてバッテリーに電撃与えて爆破してきたよ」

「少しは抑止力になるかしら」

『こちら九州支部!応答したまえ!』

「私よ、佐久間。どうしたの?」

奏音は耳に手を当てて呼び声に応えた

同時に久遠の元にも通信が入ったらしく、腕につけられた機械を操作している

「久遠だよ。どうしたの、舞莉」

『関西支部に魔族反応です!アイリスが応戦していますが、ジリ貧といったところですね…。奏音に近距離砲を使うように伝えてください!きゃあ!?』

「舞莉!どうしたの!?」

「佐久間!応答しなさい!」

「ど、どうしたんだ…?」

霊斗が恐る恐るといった様子で訊ねる

「…九州支部に敵襲よ。中国系吸血鬼と欧州型獣人が確認されているわ」

「こっちも似たような感じ。関西支部に魔族がきたみたい。奏音、舞莉の通信が切れる寸前に、近距離砲を撃ってほしいって」

「…あの子、まさか…」

「爆撃を転送する気だろうね」

久遠は歯ぎしりした。夜斗が起きていれば話は変わってきただろう

しかし夜斗は昏睡しているという。つまり、久遠たちを含む7人で対応せざるを得ない

「な、なんか大変そうだな…手伝うか?」

「…霊斗は本拠点にいたほうがいいよ。多分、ここ離れたら過激派が攻めてくる。人間と外国魔族、過激派が手を組んだんだろうね。そうなれば、各国の軍部も絡んでるよ」

久遠は状況を取りまとめようとしたが、まとまりきらない

多くのことが起きすぎているのだ

「……?雪音、どうかした?」

桜音が虚空に向けて話しかけ始めた

特段頭がおかしくなったわけではなく、彼女らの通信方法だ

「了解。こちらはなんとかするから、何とかして。………うん。主を起こす」

桜音は霊斗に目を向けて言った

「主を起こす。連れて行って」

「お、起こすったって…」

「こういったときのために、主はバックアップがある。ただそれは不完全なもので、《管理者》を起動することは不可能。けど、自体を収束できるはず」

桜音の真面目な目に、押し負ける霊斗であった


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