「…なんて?」
夜斗がお茶を飲んでいると、アイリスが唐突に噂の話をした
それを聞いて夜斗は自分の耳を疑い、聞き返す
「だーかーらー。最近精神整形ってのが流行ってるの。その病院に行くと、人が変わったかのようにいい子になるんだってさ」
「ほーん。それがどうかしたのか?」
「おかしいと思ってさ。私の高校時代の友達が受けたんだけど、それをやったあとは本当に人が変わったみたいだった」
「それが問題なのか?」
夜斗はイマイチ論点が分かっていない
そして次のアイリスの言葉で、ハッとする
「私のことを知らなかった、って言ったらどう?昔一緒に旅行するくらい仲がよかったのに」
「…そういうことか」
要するにアイリスは、脳の移植手術が行われているのではないか、と言ったのだった
脳の移植手術は、肉体に深刻な障害がある際に、他人の体をもらうための手術だ
長らく禁忌とされていたものだが、何を血迷ったのか日本政府が許可した
それにより、裏取引ではその素材となる人間が多く取引されてしまう
「けど純粋に忘れた可能性はないのか?」
「さぁね。わかんないけど、今から潜入してみようかなーって」
「危険すぎるだろ。お前が自分で危ないって言っているのに」
「大丈夫だよ、魔術人形使うから」
アイリスの恩恵《創作者》で作った人間に、アイリスの意識を飛ばす
それが魔術人形だ
潜入捜査から買い物まで様々な用途に使われている
「それならまぁいいんだが、霊格を奪われるタイプだと戻れなくなるだろう」
「魔術人形は霊格を飛ばしてるわけじゃないよ。言ってみれば私の命令に忠実に従うだけだし」
アイリスそういう間にも魔術人形を構築する
見た目は普段金髪のアイリスを黒髪に、金の目を黒にしたようなもの。普段買い物に使う魔術人形だ
ただし、髪と目の色が違うだけで印象は大きく変わり、真面目でお淑やかな美少女にうってかわる
「で、いってもいい?」
「目的は、その友達を取り返すためか」
「うん。恩恵保持者になっても、たまに遊んでくれたし、今でも遊んでる。私から奪う者を許す気はないよ」
アイリスが静かに言う
夜斗にはわかる。完全にキレてしまっている
「一人ではダメだな。佐久間か、奏音を連れて行け」
「なんで!?」
「今のお前は冷静ではない。まぁそれはわりといつもだが、どうやって助ける気だ?相手の体もない状態で脳だけ助けたとして魔術人形にでも入れる気か?」
「それは…」
「まずはその子の体を探すところからだ。見つけたらすぐに突入させてやる」
「ほんと!?」
「二度は言わん。やれ」
「わかった!」
アイリスは空中拠点にあるヘリコプターの格納庫に走っていった
夜斗は自分の部下である雪音に、アイリスを監視するよう命じた。さらに、非常時には雪音自身の禁じられた恩恵《