転生者はシンフォギア世界でオリジナルシンフォギア装者として生きるようです 作:アノロン在住の銀騎士
初投稿詐欺も、久しぶりね……。
3月13日。ホワイトデー前日。
2課の男たち、すなわち訃堂司令、弦十郎さん、八紘さん、ウェル博士、藤尭さん、そして俺は2課の食堂に集まっていた。
全員、頭に三角巾を被り、エプロンを着ている。
そんな中、藤尭さんが声を上げる。
「えー、では? 明日のホワイトデーに向けた料理講座を始めます?」
藤尭さんがそう言った後、みんなで頭を下げて、
「よろしくお願いします」
と言った。
「いや、なんで俺が講師役なんですかッ!?」
藤尭さんの叫び。
それを冷静に返したのは訃堂司令だ。
「だって藤尭くんは料理上手だって聞いたし」
「いや、確かに上手ですけれど……」
言い淀む藤尭さんに、更に弦十郎さんが畳み掛ける。
「こういう事は藤尭にしか頼めんのだ」
「そ、そこまで、言うのなら」
藤尭さんは静かに納得した。
そもそも。
どうしてこうなったかというと。
バレンタインに女性たちから気合の入ったチョコレートを貰った野郎たちが、お返しを作ろうにも料理の経験があまり無いので、どうしようかと考えていたら。
そういや藤尭は料理が得意だったな。
と、いう話になり。
あれよあれよと藤尭さんを担ぎ上げて、ここに至るというワケダ。
「では、料理を始めますけれど」
藤尭さんが俺たちを見渡す。
「そもそも皆さんどれだけ料理出来るんですか?」
野郎たちの料理スキル【1D10】
一鳴【5】(最低保障3(一人暮らし補正))
弦十郎【6】(最低保障3(一人暮らし補正))
八紘【1】
ウェル【2】
訃堂【確定10】
藤尭【確定9】
「俺はそこそこ出来ますよ?」
前世では台所に立つこともあったのだ。
クッキングパパ片手に料理した日が懐かしいね。
一般的な家庭料理なら大体作れると言えるよ。
「俺もそこそこ出来るな」
と、弦十郎さん。
まあ、弦十郎さんも一人暮らしである。
それに身体も鍛えていて、健康的だ。
普段から、健康的な食事を心がけているのだろう。
「……私はまったく出来ん」
八紘さんが目をそらして言う。
「お主はあれだものな、絶対台所に立つな、と風鳴家全員から言われてるものな」
訃堂司令がカラカラと笑う。
八紘さんは気まずげに頷いた。
どうやら、それほどのダメさ加減らしい。
「そういう訃堂司令はどうなんです?」
「ん、ワシか?」
「ま、ワシもそこそこよ」
「一流料亭の味を再現出来るレベルはそこそことは言わんぞ親父……」
弦十郎さんの呆れ声に静かに頷く八紘さん。
どうやらそうとうな料理上手のようだ。
「じゃあ、なんで俺に料理習うんですか……?」
げんなりした藤尭さん。
「え、面白そうじゃし」
訃堂司令は笑って答える。
藤尭さんは、ははぁ、と曖昧な返答。
「いやぁ、意外と皆さん料理出来るんですねぇ」
と、ウェル博士。
そう言うウェル博士も、さっぱり出来ないらしい。
「だって僕、お菓子があれば十分ですからね」
そもそも食生活に問題があった。
「管理栄養士でも新たに雇おうかのぅ」
訃堂司令は静かに呟いた。
「……それじゃあ、料理やっていきますけれど。そもそも、皆なにを作りたいんですか?」
藤尭さんがみんなに聞く。
「俺はバームクーヘンっすね。調ちゃんたちに贈るんです」
バームクーヘン、ホワイトデーに贈ると「あなたとこれからも一緒に居たい」という意味になるのよね。
バームクーヘンの形が、年輪を重ねた切り株に似ているから、そういう意味なのだそうな。
調ちゃんたちにはこれからも恋人として、キャロルちゃんやエルフナインちゃんたちには友だちとして一緒に居たいという意味を込めて贈るのだ。
「そういうの、良いのぅ」
訃堂司令が優しく目を細める。
照れくさいわね……。
「俺は了子くんに、キャンディでも作って贈ろうかと思う」
弦十郎さんがそう言う。
どうにも、バレンタインの夜にウィスキーボンボンを貰ったのだとか。
「はい、弦十郎くん。バレンタインだもの、貴方にあげるわ♪」
そう言われて渡されたのが、手作りのウィスキーボンボン。しかも、中身の洋酒は弦十郎さんの好みの酒なのだとか。
「だからお返しに、了子くんの好きな味のキャンディを作ろうかと思ってな。了子くんの仕事は頭を使うからな。キャンディなら、仕事中に舐めて糖分を取れるからな」
「なるほど」
「と、友里くんにアドバイスされた」
「なるほどぉ!!」
キャンディ。
ホワイトデーのお返しに贈ると、「あなたが好きです」とか「あなたと甘い関係になりたい」とかそういう意味になるのだとか。
弦十郎さんは意味を知っているのだろうか?
「知っとると思うか?」
訃堂司令が小声で言った。
……ですよねぇ。
「私は翼に、プリンでも作ろうと思ってな」
と、八紘さん。
プリン。
ホワイトデーに特別な意味はない。
けれど、嫌いな人も居ないスイーツである。
「翼が好物だしな」
お父さんとしても頑張りたいのね。
料理下手くそみたいだけれど。
まあ、藤尭さん居るし、大丈夫っしょ(てきとう)
「僕はマシュマロです。好きなんですよ、マシュマロ」
と、ウェル博士。
自分が食べたいだけなのね……。
「マシュマロは止めた方が良いですよ」
マシュマロ、ホワイトデーのお返しとして贈ると「あなたが嫌い」という意味になるらしい。
口の中ですぐ溶けるから、儚く消える程度の関係と暗喩させるらしい。
「そうなんですか?」
俺が教えると、ウェル博士が目を開いて驚く。
「うーん、オバハンには世話になってるしどうしようか……」
ウェル博士はナスターシャ院長に贈るらしい。
「だったら八紘さんと同じプリンにしたらどうです?」
同じ物なら教える方も楽だろうし。
料理下手にはプリン作らせとこう。
「そうですね。そうしますよ」
「ウェル博士もプリンか。同じ物を作るのもつまらないし、なにかアレンジを……」
藤尭さん、止めて差し上げろ(震え声)
料理普段からやらない人間がアレンジとかしちゃ駄目だよ……。
「ふ、訃堂司令は何作るんです?」
俺は話題をそらした。
藤尭さんは八紘さんを必死に止めてる。
俺は目をそらした。
「ワシか? ワシはバターケーキをな」
バターケーキ?
また珍しいものを作るようである。
「ワシの妻が好物だったのよ」
この世界の風鳴訃堂はヨメさん思いなんだね。
息子の嫁を寝取る外道とは大違いや!
「はぁはぁ、それじゃあ皆とにかく作ってみましょう」
八紘さんを止めてた藤尭さんはげっそりしていた。
上司に進言するのは気苦労が多かろう……。
とにもかくにも。
男たちは各自、料理を始めることにした。
材料は色々揃ってるし、まあ、問題ない。
調理場も、2課の食堂は大きめなので余裕は十二分だ。
オーブンもハイパワー。
さて、作りましょうかね!
◆
お料理ダイス(前編)【1D10】
一鳴【10】(最低保障5(料理スキル補正))
弦十郎【5】(最低保障6(料理スキル補正))
八紘【1】
ウェル【4】(最低保障2(料理スキル補正))
訃堂【確定10】
藤尭アドバイス【3】(一番低い人に数値をプラス)
俺のバームクーヘン作りは極めて順調であった。
作り方はほとんど卵焼きと一緒である。
くわしい作り方?ネットでググッと調べてほしい。
とにもかくにも。
俺のバームクーヘンづくりは順調であった。
決められた材料を決められた分量で。
決められた作り方、決められた焼き加減で。
そうすれば、一端の料理は出来るわけで。
俺はここから、調ちゃんには調ちゃん好みの、マリアさんにはマリアさん好みのといった、個人に向けた細かな調整を加えていった。
味や焼き加減、大きさなど。
調整する所は多々あるけれど。
手間ひまかけてこそ、美味しい料理は出来上がるのだ。
「うん、一鳴くんスゴク上手だよ!」
と、様子を見てくれた藤尭さんもそう言ってくれた。
褒められると嬉しいねぇ!
「あっちはどうですか……?」
俺は藤尭さんに、八紘さんとウェル博士を見ながら聞いた。
「うん。最悪は防いでるよ……(掠れ声)」
料理下手くそな二人である。
卵を割れば殻ごとバラバラになり。
調味料の分量を適当にしようとする。
そこを藤尭さんがサポート。
ギリギリ人並みの物が出来上がりつつあるのだとか。
「そういえば、藤尭さんは友里さんにどんなチョコを貰ったんです?」
俺は話を変えた。
藤尭さんの気を紛らわせようとしたのである。
友里さんのチョコレート【1D10】
1 普通にでっかいハートのチョコレート
2 普通にでっかいハートのチョコレート
3 普通にでっかいハートのチョコレート
4 ダークマター
5 媚薬入りチョコ
6 媚薬入りチョコ
7 媚薬入りチョコ
8 媚薬入りチョコ
9 ダークマター
10 友里「私がチョコよ♡」
結果【3】
「うん、友里さんからはハートのチョコレートを貰ったよ。大きさが、俺の顔くらいあったけど」
藤尭さんが恥ずかしそうに言う。
「大きな愛ですねぇ」
「……うん。まあ、そうだね」
頬を染める藤尭さん。
照れくさいようだ。
「藤尭さんはどんなお返しを贈るんです?」
「俺? そうだね。家で夕食を一緒に、と思ってね」
「藤尭さんの手料理?」
「うん」
「ええのぅ」
にゅっ、と訃堂司令が話に入る。
「うわ、訃堂司令!?」
「イチャイチャしとるのぅ。羨ましい!」
「きょ、恐縮です?」
疑問符の藤尭さん。
「15日は遅刻しても良いぞ?」
この爺さんセクハラしてきやがったぞ!?
ホワイトデーの翌日遅刻しても良いってことはつまりそういう事である。
そういう事である!!
「か、考えときます」
藤尭さんはタジタジだ。
と、ここで八紘さんのヘルプが入った。
「藤尭くん大変だ! プリンの原液が緑色になった!」
「なにがどうしてそうなったんですかッ!?」
藤尭さんは八紘さんの所に向かった。
残された俺と訃堂司令。
「訃堂司令、俺も遅刻して良いですかッ!?」
「一鳴くんはギリギリ小学生だから駄目じゃ」
それ、中学生なら良いって事ですか……?
◆
お料理ダイス(後編)【1D10】
一鳴【1】(最低保障5(料理スキル補正))
弦十郎【3】(最低保障6(料理スキル補正))
八紘【4】
ウェル【3】(最低保障2(料理スキル補正))
訃堂【確定10】
藤尭アドバイス【2】(一番低い人に数値をプラス)
お料理結果
(前編と後編の数値の平均値、小数点切り上げ)
一鳴 【10】+【5】÷2 結果【8】
弦十郎【6】+【6】÷2 結果【6】
八紘【1+3】+【4】÷2 結果【4】
ウェル【4】+【3+2】÷2 結果【5】
訃堂【確定10】
俺のバームクーヘン作りは最後の最後で少し焼きすぎてしまった。
まあ、見た目にはほとんどわからず、味も普通に美味しい。
でもなぁ。悔しいなぁ!
最初クッソ上手くいってたなのになぁ。
悔しいなぁ!!
「まぁ、いいじゃないか一鳴くん」
そう言うのは弦十郎さん。
「俺のキャンディも、すこしパッとしない結果になったしな」
と、手作りキャンディを見せてくれる。
キラキラとしたキャンディたちであるが、すこし形がイビツであった。
「だが、味はいい感じだ。これが俺の精一杯のお返しさ」
「そうっすね。このバームクーヘンが俺の精一杯、ですね!」
うん。
精一杯頑張って作ったのは確かですし。
店売り出来るレベルだと自負してるし。
うん、これがお返しに一番相応しいな。
「はぁ、はぁ。こっちもなんとか終わりましたよ」
ボロボロの藤尭さんがやって来る。
その後ろにはプリンを持った八紘さんとウェル博士。
「ちゃんとプリンの形、だとぉッ!?」
弦十郎さんが慄く。
八紘さんがジト目で睨む。
「弦、お前は私をなんだと思ってるんだ?」
「いや、八紘兄貴は米を洗剤で洗う男だから」
これはしゃーない。
そんな扱いも仕方なしである。
「藤尭さん頑張ったんですね……」
「うん……」
ボロボロの藤尭さんは深く頷いた。
「なんとか、人に渡せるプリンにしたよ」
「いやあ、藤尭さんには迷惑を掛けました」
ウェル博士が笑いながら言う。
「冷やしてたプリンが膨張した時は驚きましたが」
「何混ぜたウェル博士……」
加熱した時に膨らむならともかく、冷やした時に膨らむのはおかしいでしょうがッ!
「それでも、なんとか出来上がりましたよッ! オバハンも、これなら満足するでしょうッ!」
「翼も、喜んでくれると良いがな」
「大丈夫ですよ、八紘副司令」
八紘さんのプリンもちゃんとプリンだし。
藤尭さん着いてたなら、大丈夫でしょ。
駄目だったら藤尭さんの首が飛ぶだけだ(小声)
「皆なんとかなったようじゃな」
と、訃堂司令。
その手には円盤状のケーキ。
訃堂司令の焼いたバターケーキか。
「おお……」
とても美味しそうだった。
「皆疲れたろう。これでも食べると良い」
と、バターケーキを差し出す訃堂司令。
「え、でも……」
「家でもう一個作るからええわい」
呵々と笑う訃堂司令。
俺たちは顔を見合わせて、いただくことにした。
「うまっ」
バターケーキ、中にナッツやドライフルーツが入っていて、素朴ながらとても美味しかった。
「親父のバターケーキ、相変わらず美味いな」
「ああ。そうだな。翼もこれが好きなんだ」
風鳴家では定番の味らしい。
羨ましいわね。
「おお、美味しい!」
「これ、隠し味もないのに。素材の味だけで、これだけ……」
ウェル博士と藤尭さんも舌鼓を打つ。
「皆、お疲れ様だったな」
と、訃堂司令。
「明日は今日作ったお返しをキチンと渡すようにな」
「はいッ」
訃堂司令に背中を押された。
うん、明日、みんなにバームクーヘン渡すとしよう。
喜んで、くれるといいけれど。
◆
3月14日。ホワイトデー。
「ナルくんがこれ作ったの!?」
「美味しそう……」
響ちゃんと未来ちゃんにバームクーヘンを渡す。
二人からもチョコ貰ってたのよね。
お返しよ。
「……美味しい!」
「うん美味しい。ありがとうナルくん」
二人とも喜んでくれた。
二人の次に、2課でキャロルちゃんとエルフナインちゃんに渡した。
「ほぅ、バームクーヘンか。……ありがたくいただこう」
「バームクーヘン! 一鳴さんが作ったんですか? 凄いです」
キャロルちゃんもエルフナインちゃんも喜んでくれた。
「バームクーヘン、か。アイツは意味、わかってるよなぁ……」
「意味?」
「ああ。ホワイトデーに贈るバームクーヘンには────」
そして、調ちゃんたちにも。
「ありがとう、一鳴さん」
バームクーヘンの入った包みを抱き抱えて調ちゃんがそう言う。
頬を染めて。
可愛い。
「嬉しいわ、一鳴。バームクーヘン、ふふ。そういう事ね」
マリアさんは中身を見てバームクーヘンだと知ると、微笑む。
そして頬にキスしてくれた。
「一鳴さん……。私も嬉しいです。このバームクーヘンのように、ずっと同じ時を重ねたいです」
セレナちゃんはそう言うと俺を抱き締めてくれた。
暖かいね。
皆、喜んでくれて良かった。
渡すまでは不安だったから、一安心である。
一安心して、思い至る。
弦十郎さんたちは、ちゃんとお返し渡せたかしら?
◆
「了子くん、今、いいか?」
弦十郎が2課の研究室、了子のオフィスに入る。
中には了子一人だ。
「あら、弦十郎くんどうしたの?」
「ああ。バレンタインに良い物を貰ったからな。お返しを持ってきた」
そう言って、包み紙を了子に渡す弦十郎。
包みを開けた了子。
中には小瓶に入れられたキャンディ。
「あら、もしかしてキャンディ?」
「ああ」
弦十郎が頷く。
「了子くんは頭脳労働だからな。糖分をこまめに取れるように、と思ってな」
「へー、ありがと弦十郎くん♪」
そう言うと、了子はキャンディを一つ摘む。
そして、官能的に口に入れた。
「あむッ。……美味しいわよ弦十郎くんッ!」
「そうか、そう言って貰えると嬉しいな」
「ところで……」
了子が問う。
「ホワイトデーにキャンディ贈る意味を、弦十郎くんは知ってるかしら?」
「まぁな。俺だって、それくらいは知っているさ」
「そう♪」
弦十郎の答えに一つ頷くと、了子は結い上げていた髪を解く。
髪が金色に変わる。
瞳が金色に変わる。
櫻井了子が、フィーネに変わる。
「一つ言っておく風鳴弦十郎」
了子、いやフィーネが弦十郎に宣言する。
「私がお前の想いに答える事は無い。私の愛は、未だ、あのお方にのみ捧げるものだからだ」
そう言うフィーネの瞳をじっと見て、弦十郎は言った。
「それでも良いさ。想うだけなら、自由だろう?」
「……ふん、好きにしろ」
「それに……」
「?」
「脈のない相手にわざわざ、手作りのウィスキーボンボンを贈ったりはしないだろう?」
そう言われたフィーネは、静かに顔をそむけた。
「……あれは、私の中の櫻井了子がやったことだ」
「そうか」
「そうだ」
弦十郎は、フィーネの頬が微かに染まったのを、見ぬふりをした。
「……今、時間あるか?」
「ああ、あるが?」
「なら、少しお茶でも飲んで行きなさい」
フィーネが立ち上がる。
その瞬間、髪が茶色に戻る。
フィーネが髪を結い上げながら弦十郎に笑い掛ける。
「美味しい茶葉が手に入ったのよ」
「そうか、では、いただこう」
◆
「翼」
東京の風鳴家にて。
撮影から帰ってきた翼に、八紘が紙袋を手渡す。
「お父様、これは?」
「バレンタインのお返しだ」
「ホワイトデーの……!」
「ああ。私が作った」
翼は目を見開いた。
「お、お父様が……ッ!!?」
「なぜそこまで驚くッ!?」
「いえッ! ただお父様が料理をするなどとは思えなくて……」
翼は知っていた。
八紘は米を洗剤で洗い、砂糖と塩を素で間違えて、カレーを紫色にする男だと言うことを。
「まあ、藤尭くんに
八紘は見栄を張った。
翼はその見栄を見抜いた。
「後日、藤尭さんにお礼を言わねば……」
「何か言ったか?」
「いえ、なにもッ!」
翼はふるふると首を振った。
「お父様のホワイトデーの贈り物、ありがたくいただきます」
「うむ……」
その後。
八紘のプリンが、普通に食べられるプリンだった翼は藤尭への畏敬の念を新たにした。
◆
「ナスターシャ院長、この僕が、プリンを作ってあげましたよッ!」
孤児院の院長室。
ズケズケと入って来たウェルに、ナスターシャは眉を片方上げるのみであった。
「プリン?」
「ええッ! ナスターシャ院長にはバレンタインにチョコ貰いましたからね。そのお返しですよ」
「これはこれは」
明日は大雪だな、とナスターシャは思った。
「それはわざわざありがとうございます。……ところで」
「なんですかナスターシャ院長?」
「なぜプリンが二つ?」
ウェルはプリンを二つ持ってきていた。
「え、勿論僕が食べるためですが?」
「なるほど」
ナスターシャは静かに頷いた。
たまにはこの小うるさい男と食卓を共にするのもいいだろう。
そう、思った。
◆
「藤尭くん」
「はい」
「ディナー美味しかったわ。ありがとう♡」
「はい」
「お礼にデザート用意したわ」
「……あの」
「なに、藤尭くん?」
「よく寝ながら器用に生クリームや果物を、自分の身体に盛れましたね」
「練習したもの」
「あっはい」
「それじゃあ、デザートのあおい盛り、召し上がれ♡」
「はい」
「召し上がれ(龍の眼光)」
「はい(完全服従)」
◆
訃堂は一人、霊廟に来ていた。
風鳴本邸の地下にある、神殿のようにも見える霊廟だ。
石造りの柱に、不可思議な文字やレリーフの描かれた壁。それらを蝋燭の炎が照らしている。
この霊廟は、かつて日本に来たフィーネ氏族の子孫が作り上げた異端技術の一つである。
だが、その機能は使われなくなって久しい。
その霊廟を一人、訃堂が奥へ奥へと入って行く。
手には訃堂手製のバターケーキを持って。
そして。
道の終端。
石の扉の前に辿り着く。
扉の前には祭壇が置かれている。
「久しいな、クシナ」
訃堂がそう、扉の奥に語り掛ける。
その声は優しげであり、最愛の人に語り掛けるようであった。
「これ、いつものバターケーキじゃ。お主の好物だった」
訃堂は祭壇にバターケーキを置いた。
「……お主の魂はユグドラシルに記録・保存され、ここには居ないとわかっていても、こうして時々来てしまうのぅ」
訃堂は埃で汚れる事も厭わず、床に腰掛ける。
「クシナ、前に話した一鳴くんを覚えておるか」
「ワシと同じ眼をした子ども、ワシやフィーネと同じように、輪廻を知る眼をした子ども」
「頑張ってシンフォギア、いや戦士として戦っておる」
「だが、敵は強大よ」
「シェム・ハの末裔が蠢動し、ゼウスの一族が欧州を支配し、企業は異端技術に手を出し始めた」
「今の一鳴くんでは、いずれ力尽きてしまうやも知れぬ……」
「クシナ、ワシは一鳴くんにさらなる力を与えようと思う」
「彼には死んでほしくないからのぅ」
「だから」
「ワシは殺す気で、一鳴くんを鍛えようと思う」
「この霊廟の封印、第一段階解かせて貰うぞ」
訃堂がそう言うと、石の扉の紋様が妖しく光る。
その光は次第に壁や柱に伝播していく。
そして。
ゆっくりと石の扉が開かれていく。
霊廟が、かつての機能を取り戻していく。
侵入者を殺す、殺戮の迷宮へと……。
「クシナ……」
「いつかはお主の事、ワシの事も教える日が来るかも知れんのぅ」
「このワシが、タケハヤと呼ばれていた時代の事を……」
「だが、その前に」
「渡一鳴、彼奴には一度、死んでもらおうか」
ウチの訃堂じいじは心がキレイキレイです!(強調)
そんな訳で次回は修行回です。
殺戮迷宮霊廟にて、地獄のような特訓が始まります。
頑張れ一鳴くん、頑張れ!一回死んでもらうけど、頑張れ!