転生者はシンフォギア世界でオリジナルシンフォギア装者として生きるようです 作:アノロン在住の銀騎士
邪悪な儀式の残る村で、きりしらウェルと一鳴は生き残れるのでしょうか。
あなたの過ごす暑い夜がちょっぴり涼しくなる、そんな話を目指します。
石造りの階段を一段一段登っていく。
時刻は午前二時の十分ほど前といったところか。
生い茂る木々に覆われて、星明りも月明かりも届かない暗闇。
灯籠も建っていない参道だ。
手に持った燭台のロウソクだけが頼りであった。
「みかちゃん、大丈夫? 疲れてない?」
燭台を持つ手とは反対の手で繋がった義理の娘に声をかける。
「大丈夫だよ、お母さん」
そう言うみかの顔はどこか強張っていた。
無理もない、夜も深い中、家の裏にある山中の奥を目指しているのだから。
ゆっくり歩く。
六の鳥居を抜ける。
石造りの神明鳥居。
ところどころ崩れ苔生した古い鳥居。
これまで、六つの鳥居を抜けてきた。
鳥居はあと一つ。
それを越えると、もう後戻りは───
「お母さん、どうしたの?」
みかが心配そうに聞いてくる。
私の顔を見て、恐ろしくなったのか。
私は無理に笑って、みかに話しかけた。
「大丈夫よ、みか。心配してくれてありがとうねぇ」
みか。
私が産んだわけではない子ども。
“儀式”の為に、孤児院から引き取った子ども。
どこか私に似た雰囲気の子どもだ。
外で遊ぶよりも家で本を読むのが好きな子。
自分の気持ちを出すのが苦手な子。
義理の母親である私を、お母さんと呼んでくれる子。
とても、優しい子。
七の鳥居が見えてくる。
その奥、山奥の森の中にひっそりと佇む神社が見える。
小さな社が闇の中に紛れて存在している。
その社を見ると、私の心の奥底から、恐怖が浮かんだ。
根源的な恐怖、人が獣だった頃から抱いている恐怖が……。
“儀式”は、あの神社の中で行う。
「お母さん……、こわいよぉ」
みかが腕にしがみつく。
その顔は恐怖で歪み、目元には涙が浮かんでいた。
その顔を見て、私は……。
私は、この子を守らないと、と思ったのだ。
お腹を痛めて産んだ子ではない、みかを。
“儀式”の為に引き取った子、“儀式”で使い捨てる前提だった子。
……やはり、私には“儀式”なんて出来ない。
「みかちゃん、やっぱり帰りましょう」
私は、みかにそう言うと踵を返す。
「いいの、お母さん? 伯母さん怒っちゃうんじゃないの?」
「いいのよ、いいの」
伯母さん、私の姉である
ひとえに、私のために。
だけど、あの儀式は時代錯誤も甚だしいもの。
西暦2030年になる現代では、あまりに間違えてる。
私はみかの手を強く握り直す。
「
「……うん」
「朝になったら、村を出ましょう。そして、都会で暮らすの」
「……お母さん」
「喫茶店で、美味しいもの食べましょう。パフェもパンケーキも、なんでも!」
「……お母さん、あのね」
みかが手を引っ張る。
その顔はもう、恐怖で引き攣り見ていられないほどだ。
異常な何かを感じて、そして……。
「みか、どうしたの?」
「お母さん、うしろ。もう───」
◆
毎度おなじみ発令室には、訃堂司令と八紘副司令、そしてウェル博士が待っていた。
「すいません、遅れました」
「いや、いい」
そう答える訃堂司令の言葉は硬い。
……なんというか、怒ってるね。
そう、感じ取った。
「……なにがあったんです?」
「まずは、僕から説明しましょうか」
そう言ったのはウェル博士だ。
「実はですね、僕が出資してナスターシャ教授に管理を丸投げして弦十郎さんや一鳴くんが定期的にお菓子配ってる孤児院から、一人子どもを引き取りたいという話がありましてね」
「それは、良いことでは?」
孤児院、レセプターチルドレンだった子どもたちや、ノイズ災害で親を亡くした子どもたちが暮らしている所。
そこで暮らす子どもを一人引き取りたいというのなら、良いことであろう。
相性が、合うのであれば。
だが、ウェル博士は首を振った。
「引き取りたいっていう子どもが、切歌さんなんですよねぇ」
「切歌ちゃんを?」
元レセプターチルドレン、LiNKERを使えばイガリマのシンフォギアを纏える適合者である。
「……引き取りたいのが、どっかの国の軍部で、適合者を軍事利用したい、とかですか?」
「いえ、違います」
と、俺の邪推を否定するウェル博士。
「東京都の県境にあるっていう寒村の名士、なんですがねぇ」
「……遠いですね」
今までみたいに、気楽に遊べる関係ではなくなるのか。
寂しいなぁ……。
いや、そもそも。
遠くに引き取られるから、この場に呼び出された訳ではないのだろう。
「その名士、
そう言って、資料を見せてくれる八紘さん。
資料には、歯越深夜の顔写真や住所、経歴が書かれている。
歯越深夜、48歳。
黒い髪は艶々としており、その瞳はどこか冷たい。
肌は雪のように白く、シワひとつない。
美しい人だ。
美魔女、といったところか。
住所は……。
「……あの、これなんて読むんです?」
「みがた、だな。深潟村が、彼女の住む村だ」
潟、というのは外界と分離して出来た湖や沼の事らしい。
深い潟。山奥に出来た、人の住む小さな集落という意味でつけられた名前かしら。
それにしても。
歯越深夜の経歴は凄いな。
二十歳の頃に一流の建築会社に入社して、5年経つと独立。
その後、建築デザイナーとして多くの仕事を成し遂げてると共に、海外の石油事業に投資して巨額の富を築いた。
そして、村人の住居全て新築したとか。
そら名士になるわ。
「この人が、切歌ちゃんを引き取りたいと?」
「ああ」
問題は、見受けられない。
見受けられないのだが、彼女の目を見ると。
不安になる。
この冷たい目をした人が、切歌ちゃんと?
「……これを、見てくれ」
八紘さんが、別の資料を見せる。
深潟村の資料だ。
山奥にある、小さな村。
村民は50人いるかどうかといったところ。
名産品は特になし。
村民は、米や野菜を育てて暮らしている。
そして。
「……全員?」
村民全員が、孤児を引き取っている。
どういう事だ?
「次の資料を見てくれ」
資料をめくる。
次の資料は、村民の養子縁組と死亡届のデータだ。
村民が養子縁組を出してから数年、長くても三年以内に、その
早いものは、引き取って半年で死亡している村民もいる。
……不気味だ。
「なんです、これ」
「わからぬ」
訃堂司令の言葉は重い。
「だが、何かが起こっていると見ていい」
「で、その何かが起こっている村の名士に見初められたのが切歌さんという訳で」
ウェル博士がげんなりして言った。
「……最後の資料を見てほしい」
八紘さんの言葉に従い、資料をめくる。
それは、新聞の記事だ。
お悔やみ欄、というやつか。
◇
■■新聞2030年■月■日の記事抜粋
お悔やみ申し上げます。
歯越 千雪さん(しこえ ちゆき=深潟村■−■−■)■日■時■分、老衰で死去、36歳。葬儀は近親者で行った。
喪主は姉深夜(みや)さん。
歯越 みかさん(しこえ みか=深潟村■−■−■)■日■時■分、老衰で死去、10歳。葬儀は近親者で行った。
喪主は伯母深夜(みや)さん。
◇
「……歯越?」
十年前、切歌ちゃんを引き取りたいといった深夜の妹とその娘が亡くなっている。
死因は両者ともに老衰。
……おかしくない?
「あの、みかって子の死因、老衰なんですけど」
「ああ。そうだ」
「10歳、なんですけれど」
「異常だろう? 当時検死した者は確かに老衰と判断したらしい」
おかしい。
絶対おかしい。
この村、絶対おかしい。
子どもが老衰で死ぬってなによ。
「そんな村に引き取られるんですか切歌ちゃん!?」
「そうなんですよねぇ」
ウェル博士はため息混じりにそう言った。
「断れないんですか?」
「歯越深夜、オイルマネーでガッポガッポでしょう? 横の繋がりとやらで孤児院の支援者をせっついてて」
「……あぁー」
切歌ちゃん養子にしてあげないと支援打ち切るぞ、と脅されてるのか。
世知辛い……。
「……ですので一鳴くん」
ウェル博士が俺の肩を掴む。
「僕や切歌さんと一緒に深潟村に行きませんか?」
「なんでさ」
訳がわからなかった。
「養子にする前に一緒に暮らしてみて、相性を見る、というのがウチの孤児院にありまして───」
ウェル博士によると、こういう訳であった。
引き取り親は養子にしたい子と一緒にしばらく暮らす決まりがナスターシャ教授の孤児院にあり、最初は職員が付き添って二、三日泊まるのだという。
その制度を利用して、俺とウェル博士が切歌ちゃんと一緒に深潟村に乗り込んで、深潟村の秘密を探り出して、養子縁組を無効化してやろう、という訳であった。
「無論、二課もサポートする」
「深潟村は何らかの異端技術に手を出してる可能性があるからな」
と、訃堂司令と八紘副司令。
「そんな訳で一鳴くん! 僕と一緒に深潟村に行きましょう!!」
そういう事になった。
◆
それから数日後。
俺はウェル博士の運転する車の助手席にいた。
孤児院で持ってるワンボックスカーである。
深潟村に向かう車中。
後ろの席からは、元気な声が聞こえてくる。
「調のオンナグセワルイ、仕上がってるデスね!」
「切ちゃんのバーコードハゲも強いね」
切歌ちゃんと調ちゃんがスマホゲームで盛り上がってた。
やってるの人おじさんかしら。
本当に若い子に流行ってるんやね(震え声)
「もうすぐ着くから、準備してくださいよ」
「はいデス!」
「やっとついたんだ」
ウェル博士の言葉に従い、スマホを仕舞って降りる準備をする二人。
本来、深潟村には切歌ちゃんだけが向かう予定だった。
だが、それに待ったをかけたのが調ちゃんだった。
「いやな予感がする」
そう言って、ナスターシャ教授に泣きついて、調ちゃんはここまで着いてきたのだった。
レセプターチルドレンは、みんなフィーネの子孫である。
巫女であったフィーネの血を継ぐ調ちゃんは、本当に何か嫌なものを感じ取ったのかもしれない。
深潟村、本当に何があるのだろうか。
そうこうしていると。
深潟村が見えてくる。
人口49人。
山奥にある小さな村。
その村は、想像していた山村とは大きく違っていた。
まず、道がキチンと舗装されている。
次に家が新しい。
深夜がオイルマネーで全部建て替えたからだろう。
暮らしやすい、良い村に見える。
の、だが。
なにか、粘つくような気配というか。
嫌な感じがするのだ。
闇の中から、何かが見ているような。
粘性の液体が、身体に絡みつ様な。
そんな、嫌なナニカが。
「……デース」
「……」
切歌ちゃんも調ちゃんも、そんな気配を感じ取ったのか、テンションが低くなる。
車はどんどん進む。
村の奥。
一番奥まで。
「あれ、ですねぇ」
車が進む先に、深夜の家があった。
他の村人の家よりも大きい、木造の平屋。
家の前で、誰かが待っている。
若い男性だ。
黒い髪に鍛えられた身体。
鋭い目は、深夜に似ているが、優しい光が見える。
「あぁ、深夜の息子ですね。一緒に孤児院に来てましたよ」
と、ウェル博士。
その深夜の息子が手を振り、平屋近くの空き地を指差す。
車を誘導してくれるらしかった。
車を空き地に停めるウェル博士。
俺とウェル博士、切歌ちゃんと調ちゃんは車を降りた。
「遠路はるばる、お疲れさまでした」
と、深夜の息子。
俺に気付くと、手を差し出した。
「おや。はじめまして、歯越 達也といいます」
「これはご丁寧に、渡 一鳴といいます」
俺は達也さんと握手した。
力強い握手である。
「中々力が強いが、なにかスポーツをしているのかい?」
「ええ、格闘技を少々」
「電話で話した、僕の助手ですよ」
と、ウェル博士。
俺は今回、孤児院の職員であるウェル博士の助手、という事になっていた。
「そして、こちらが」
「こ、こんにちはデス!」
「はじめまして」
切歌ちゃんと調ちゃんが挨拶をする。
切歌ちゃんは孤児院で一度会ったことがあるらしかった。
「はじめまして、こんにちは。母も首を長くして皆さんを待ってましたよ」
そう言って、平屋に案内する達也さん。
歯越家の中で、切歌ちゃんを養子にしたいという深夜が待っている。
達也さんはその深夜の息子だという。
だが、彼が「母」と言葉にした時。
そこに、悲哀と嫌悪を感じたのは気の所為、なのだろうか……。
本当は前書きで、クリスちゃん関係のドギツイ性癖をさらけ出した怪文書を曝け出そうと思ったけれど、今回のホラー話の前に出すと情緒がハチャメチャになるので止めました。
いつか曝け出したい俺の特殊性癖。