【完結】ONE PIECE Film OOO ―UNLIMITED DESIREー   作:春風駘蕩

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6.ある男との邂逅

 人のいなくなった食事処「クスクシエ」。

 その中のテーブルに、ヒナが俯きながら座り、それを店主とチエが心配そうに見つめている。ヒナは黙ったまま、握りしめた手を見つめて肩を落とす。

 暗い雰囲気がつつむ中、とびらがバン!! と開かれ、一人の少年が飛び込んできた。

「ヒナ!!」

「!! お兄ちゃん……」

 少年は息を切らせながらヒナの肩をやや乱暴に掴む。

「知らせを聞いて飛んできた。大丈夫だな!?」

「う、うん…」

 少年の剣幕に押されながら、ヒナは弱々しく頷いた。

 それに安心したのか、少年は深く深くため息をついて椅子に倒れこんだ。

「…………よかったぁ…」

 ヒナは兄の姿に勇気づけられ、自身もため息をついた。そして、思い出したように口を開いた。

「えっと、あのね。ルフィたちが助けてくれたの。あ、ルフィっていうのは、今日来た海賊でね」

「海賊? ……ああ。あの」

 少年は納得すると、あたりを見渡した。

「…………それで、その人たちは今どこに?」

 少年が尋ねると、ヒナは首をかしげながら困ったように答える。

「えっと、なんか、コウガミさんが用があるって」

「……社長が?」

 

 *

 

「コウガミファウンデーション?」

 きらびやかなドレスに着替え、髪を結いあげたナミが、同じくドレススーツを着た伊達丸に尋ねた。ただ、伊達丸はこんな時にでも牛乳缶を手放さない。

 日もとっぷりと暮れた夜。

 謎の美女に招かれたルフィたちを迎えたのは、またも豪勢な、島の料理の数々だった。

 歓声を上げてかぶりつくルフィたちを横目に、伊達丸はグラスのワインを揺らした。

「そ。あたしらにメダルシステムをくれたオジサマ」

「そして、私たちの……もとい師匠の雇い主でもあります」

 上品な黒のドレスを着たコトが付け加える。

 男子たちはいつもの服装だが、ナミたちはもちろん、エールもきらびやかなドレスで正装して参加している。

 サンジはというと、いつものように美しいレディたちにくぎ付けだ。

「……で、そのオジサマは、あたしたちに何の用なのかしら?」

「さぁ……。結構あの人、ノリで話すところがありますからね」

 コトがため息交じりにそう言うと、突如背後から「それはなかなか心外だよ、コトくん!!」と野太い声がかけられた。

 はっとして振り返ると、そこには大きな箱を持った中年の男が、暑苦しい雰囲気とともに歩み寄ってきた。

「よくぞ来てくれた!! 〝麦わら〟のルフィ。そしてヒノ・エールくん!!」

 いきなり現れた中年の男、コウガミは傍らに立つあの美女を「その通りでしょう」とあきれ顔にさせながら、手に持った箱をテーブルの上に置いた。

「……あれは?」

 伊達丸に近づいたナミが耳打ちする。それに伊達丸も声を潜めながら答える。

「噂の、社長さん。コウガミ・コウセイ」

 コウガミはやたらと暑苦しい笑顔のまま、箱の蓋に手をかける。

「まずは、私たちのこの出会いに…………ハッピーバースデェェイ!!」

 そして置いた箱のふたをガバッと開ける。その下に現れたのは、これまたフルーツやらクリームやらがふんだんに飾られた豪華なケーキだ。そこにあるだけで、甘い香りがそこらじゅうに漂ってくる。

「うおおおおお!! うまそぉぉぉ!!」

「おっさんいい人だなぁぁ!!」

「好きなだけ食べてくれたまえ!! 後払いだ!!」

「コラコラコラコラァ!! さっそく食べ物でつられんなぁ!!」

 ナミが注意する前で、ルフィたちはケーキに群がってむさぼり始めた。

「君たちをここへ招待したのはほかでもない。一つ、君たちに頼みたいことがあってね」

 コウガミは目の前でケーキに食いつくルフィたちを気にすることもなく、マイペースに話を進める。

 だが、コウガミが再び口を開く前に、ナミが待ったをかけた。

「それは内容と値段によるけど………一つ聞きたいわね。アイツらはいったい何?」

「アイツらとは?」

 コウガミはとぼけるように首をかしげ、手のひらを開いて見せる。焦らすような様子にナミはポーカーフェイスを保ったまま、不敵な笑みとともに腕を組んだ。

「わかってるでしょう? ……あの化け物たちの事よ。あいつらいったいなんなの?」

「君らももう伊達丸くんたちから聞いていると思うがね。メダルの怪物だと」

「そのメダルの怪物ってのが、そもそもよくわかんないのよ」

「つーか、なんでただのメダルの塊が動いてんだよ」

 ウソップの質問に、コウガミは予想していたとばかりに頷く。

「それもそうだ。だが説明はするが、これはあくまでこの島の伝説の付け足しにすぎない。それでもいいかね?」

 ナミは後ろを振り返り、よくわかっていないルフィ以外の全員が頷くのを見届けてからコウガミの話を促した。

「よろしい!! ……まず、メダルとは何かから話そう。現在存在するメダルは、『コアメダル』と『セルメダル』がある。セルは君らも知っている、銀色のメダルだ。その数に際限はなく、無限に増やすことができる。そしてコアメダル。これはセルとは違い、増やすことはできない。だが使用すると、爆発的な力を発揮することができる。そして、かつてこの島を蹂躙したメダルの怪人たちの力の源でもある」

「あの、今日でてきたバケモンがか?」

「いや、あれはヤミー。怪人たちの使い魔にして、セルを増やす苗床でしかない」

 コウガミは袖口から一枚のセルメダルを取り出し、マジックのように指に挟んで増やしてみせた。それに感動する三人がいたが、ナミはそれを無視して「それで?」と先を促した。

「800年前、島にわたってきた錬金術師は、伝説の通り島中の様々な動物たちの力を集めて、十枚ずつのメダルを作り出した。……そして、十枚のうちの一枚を抜き出し、空白を生み出した!!」

 コウガミの指先で、セルメダルが一枚消える。

「一杯になっていた力が失せると、どうなると思う!? その空白を埋め戻さんと、力を取り戻そうとする意志が生まれ、一つの生命体へと変貌を遂げた!! ……それがグリィィィィド」

 狂気じみた目で語るコウガミに、エールやコトはすっかり怖気づいてナミや伊達丸の後ろに隠れてしまった。

 ナミ自身もやや引きながら、何とかポーカーフェイスを保ちながら腕を組む。

「グリード、ねぇ……」

「『欲望』そのものっていうことね」

 ナミとロビンが呟くと、コウガミは満足したように頷く。ふと、内容はあまり理解してはいないが、ウソップが「はい」と教師に質問するように手を上げた。

「ところでよぉ……そのグリードってやつは、封印されたんだろ? ヤミーが何で今更出てきたんだ?」

「いい質問だ!! というより、それこそが私が君たちに頼みたいことの本質でもある」

 コウガミが指を鳴らすと、彼の背後に大きなスクリーンが現れ、部屋の明かりが消えていく。

「私がこの島に来たのは、一か月ほど前だ。もうずいぶん前からこの島の伝説を知り、そしてグリードの力を利用できないかと思ってのことだった。そう思い、私は封印の地を徹底的に調べた。……だが、グリードたちは見つからなかった。なぜだと思う?」

 ウソップは首をかしげながら、教師に当てられた生徒のように深く考え込む。

「…………ほんとは、いなかったとか?」

「いや、違う!!」

 いきなり叫んだコウガミは、両手をばっと広げて高らかに宣言する。

「欲望の怪人、グリードはすでに復活している!!」

「!!」

「その証拠が、ヤミー。そして、オーズだよ」

 ケーキをほおばりながら、ルフィが聞きなれない名前に反応した。

「オーズ? なんだそりゃ」

 ルフィが尋ねると、コウガミの背後のスクリーンに画像が映った。そこには三枚ずつ映った円形の図柄と、中央に立つ人型の絵が描かれている。

「800年前の〝王〟は、力を行使しようにも、そのままでは力を行使できない。そのため、力を行使するための器を作り出したのさ。それが、オーズだ」

 スクリーンに映し出された画像。そこには、見覚えのあるものが描かれていた。

 ――――エールの腰に巻かれた、バックルが。

「!! これって……」

 全員がエールの方を振り向くと、当の本人も困惑しながらスクリーンを凝視していた。自らの肩を抱き、小刻みに震えている。

「ど、……どうして……」

「どういった経緯かは知らないが、君の手にあるそれは800年前この島を支配していた王のものだ。そして、今日君が使った力こそが、コアメダルの力だ」

 フランキーの脳裏に、紫の鎧の姿が浮かんだ。

「……あれがか」

 スクリーンには、三枚ずつの五種。計一五枚のメダルの図柄が照らしだされる。緑、黄色、灰色、赤、青のカラフルな絵だ。

「800年前作り出されたメダルは、五種。その組み合わせは自在で、さらに同じ色の三枚がそろえば力のコンボがそろい、強大な力を発揮する。

紫のメダルは、ほかのメダルとは根本的に異なる。ほかの五種のメダルは、無から有を作り出すプラスの力だ。だが、紫のメダルがつかさどる力は……………………無だ。ナッスィング」

 スクリーンには新たに三枚のメダルの図柄が照らしだされた。翼を広げた翼竜、三本づのの戦車のようなトカゲ、大きなアゴの狂獣だ。

「現実には存在しない伝説上の動物、あるいはすでに太古の昔に絶滅してしまった生物を、どういう原理かは不明だが錬金術師は作り出したのさ。〝有〟を破壊できる、つまり、ほかの五種のコアメダルを破壊できる唯一のメダルをね」

「……では、その紫のメダルは?」

 ロビンが尋ねると、コウガミはにやりと笑い、エールの方を指さした。

「彼女が持っている。……正確には、その体内だが」

「!!?」

 慌ててエールが胸に手を当ててみるも、メダルの存在など分かるはずもない。エールは不安げな顔のまま、コウガミを上目づかいで見つめる。

「……なんで、私に……?」

「メダルは、力を解き放つには器を欲する。記憶という中身を失った君は、器として都合がよかったのではないかな?」

 コウガミの推測に、エールは首をかしげながら残った記憶をたどろうとする。何かを思い出せそうな気はするのだが、その部分にいたろうとすると、荒いノイズが走るように乱れて思い出せない。記憶がないというよりも、何かが思い出そうとすることを拒んでいるような気がする。

 その何かが分からないため、エールはコウガミの推測が正しいのか、と無理やり納得することにした。

 エールが困惑する前で、コウガミはなおも続ける。

「私が君たちに頼みたいのはほかでもない。グリードを捕獲、もしくは仕留めてきてほしい。私が求めているのは、コアメダルを使った人間の技術の更なる進化だ。そのためになら、報酬はいくらでも出そう」

「…………わからねェな。なぜおれたちに頼む?」

 難しい話にはかかわるまいと口を閉ざしていたゾロだが、真意のつかめないコウガミに険しい視線を送って追求する。

 だがコウガミは、ゾロの人を射殺せそうな視線もものともせず、高らかに笑った。

「簡単な話だよ!! 君たちならできる!! そう思っただけさ!! エニエスロビーを墜とし、七武海を倒し、かの〝金獅子〟を沈めた君たちならね!!」

 コウガミは言い切ってから、ワイングラスを持ち上げる。

「ゆっくり考えてほしい。いい返事を期待しているよ」

 コウガミは笑顔のままそういうと、ワインのグラスを高く掲げた。


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