【完結】ONE PIECE Film OOO ―UNLIMITED DESIREー   作:春風駘蕩

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8.堕ちた者

「………真実とは、どういう事かね?」

 コウガミは相変わらず本心を見せない笑顔のまま、ロビンに聞き返した。

「そのままの意味よ。あなたの口から、この島の真実を聞きたいの」

「それはもう話したはずだよ。この島の始まりの歴史を……」

「けれどそれは、この島の歴史であって真実ではない(・・・・・・・・・・・・・・・・)、そうではないかしら」

「…………」

 コウガミは笑ったまま、肯定もしなければ否定もしない。ロビンの説を聞くに任せている。

「最初におかしいと思ったのは、この島についてよ」

「……というと?」

 コウガミは面白がるように先を促す。

「……陽炎島。蜃気楼に包まれたこの島は、外敵から住人たちを守る役目を果たしている。けれどそれは逆を言えば、この島からも出られない監獄でもあることを意味しているわ」

「確かに……。ごく稀に伊達丸くんや君たちのようにこの島にやってくるものはいるが、この島から出よう、というものもなかなかいないね」

「それで思ったの。…この島の住人は、どこから来たのか、と」

 コウガミはなおも、「…それで?」と続きを促す。

「こんな小さな島で、人がこれほどの文明を築くことはありえないわ。高い文明というものは、さまざまなべつの文明とのかかわりの中で生まれるものよ。…けれど、外界から拒絶されたこの島で、そんなものが生まれるはずもないわ。それで思ったの。

 ―――この島の住人達は、どこかから追放され、この牢獄に繋がれていた者たちだったんじゃないかって」

「…………」

 コウガミはもう、先を促さず、目線だけをロビンに固定する。

「錬金術師は、海を渡ってやってきたんじゃない。島の住人達そのものが、故郷を追われて流れてきた民じゃないのか。私はそう思ったの」

「…その根拠は?」

歴史の本文(ポーネ・グリフ)を見たわ」

 コウガミは今度こそ身を震わせ、高らかに笑いだした。

「ははははは!! さすが〝オハラの悪魔〟だ!! わずか数日でそこまでの真実にたどり着くとは!!」

 久々に聞いた二つ名ににやりと笑って、ロビンは説明を続ける。

「島に住人たちの祖先が『彼ら』なら、説明が付くわ。オーズについても。あれは、古代の兵器の一つなのね?」

「ご明察だよ。そしてその危険性のために、国を追われ、存在を抹消された者たちがいた。それが今の彼らだ」

 コウガミの見下ろす先には、陽炎島の住人たちの姿がある。

 皆が皆、港に再び現れた化け物たちの話に恐れおののき、逃げ出していく。

 空にはいつの間にか真黒な雷雲が広がり、島を覆い尽くしていく。それはまるで、これから起こる厄災の前兆であるかのようだ。

「だが今や、その真実は当時の高官たちに改竄され、オーズを作り出したのは狂気にとらわれた王だと伝えられている。……そう、彼女のせいだとね」

 彼女、というコウガミの言葉に、ロビンの目が鋭く尖った。

「!! ……やはり、その〝王〟とは…………」

「残念ながら違う」

「!?」

 初めて否定されたロビンは、驚愕の表情でコウガミを見つめた。

「メダルを作るよう指示したのは確かに王だが、それを使っていたのは彼ではない。……ヒノ・エールは選ばれたのさ。メダルの、器としてね」

 コウガミの背後で、轟雷が鳴り響いた。

 

 *

 

 ガキン!! ガキン!!

 戦斧が振り下ろされ、ガラがそれをはじくたびに火花が散り、轟音が当たりに鋭く響き渡る。

 必死の表情のエールに対して、ガラは余裕の表情だ。

 反撃とばかりに突き出された爪を後方に跳んでかわすと、エールは大きく息を吸い込む。

 フ―――っと、エールが息を吐くと、荒々しい吹雪が巻き起こりガラに向かって伸びていく。地面が凍りつき、例外なくガラも氷の監獄にとらわれる。

 と、次の瞬間氷が一瞬で溶け、噴き上がった炎がエールに襲い掛かった。

「!!? うぐぁぁぁぁ!!」

 肌を焼く熱波に、エールはたまらず悲鳴を上げて倒れる。

 必死に炎を振り払い、エールはガラを睨みつける。その時、ガラの手のひらの上でゆらゆらと揺れる炎に目を奪われた。

「………!! お前、その炎は……!!」

 エールが目を見開くと、ガラは予想していたとばかりに笑い、わざとらしく手のひらの中の炎を見せつけた。

「ああ、そうだ。お前が惚れていた男の力だ。……もはや、奴の力は私のものだ。一番の邪魔者がいなくなってよかったよ!!」

 高らかに笑うガラは、再びエールに向けて炎の塊を放つ。

 ガラの手のひらの上で囚われているような炎の存在に、カッと頭に血を昇らせたエールは、攻撃にも構わずガラに突進する。

 鎧の上で弾ける炎の暑さに耐えながら、エールはガラに戦斧を叩き付ける。

 その瞬間、斬ったと思ったガラの体が液体となって弾けた。

「!?」

 目を見開いたエールの前で、液体化したガラがまとわりついてくる。

 陸上にいながら溺死の危機に瀕したエールは、パニックになって戦斧をめちゃくちゃに振り回す。

「エール!!」

 駆け寄ろうとしたルフィたちだが、ヤミーの集団に阻まれ、近づけない。

 硬い鎧が拳と剣をはじき、引き離されていく。

「〝ゴムゴムの(ピストル)〟!!」

「〝鷹波〟!!」

「〝アルティメットハンマー〟!!」

 必死で応戦する麦わらの一味だが、殴っても斬っても蹴っても撃っても起き上がってくる怪物たちには歯が立たない。

 水の牢獄にとらわれたままのエールにも限界が訪れるが、彼女はとっさに全身から冷気を放って液体状態のガラを凍らせた。そして、カチカチに固まったガラを渾身の力で砕く。

「うらぁぁぁ!!」

 思わず深呼吸するエールだが、砕けた氷のかけらが動き出したことではっとなる。

 小さな氷のかけらは別々に集まって固まり、メダルの殻が覆い尽くして何体ものガラに分裂してしまった。

「分身!?」

 身構えたエールの背中を、分身の一体が蹴りつける。

 よろけたエールに別の分身が殴りかかり、エールはたちまち袋叩きにあった。

「うぐっ!! あっ!! あぐっ!!!」

 エールの腹に蹴りが入り、華奢な体が弾き飛ばされてようやく暴力の嵐がやむ。

 攻撃をやめたガラは、力を誇示するように手のひらを向けてみせた。

「どうかね? 私の力は。すべて、お前が捨てたものだ、姫君」

「お前のじゃない!!!」

 怒りのままに、戦斧を振り回して叫ぶエール。戦い方も何もない、ただ全力をふるうだけの攻撃を、ガラは呆れたように嘆息しながら弾く。

「何を言う。もとは私の作ったもの。ならば当然私のものだろう?」

「違う!!」

 攻撃をことごとくかわされながら、エールは猛攻をやめない。余波が地を割り、瓦礫をまき散らすのもお構いなしに、エールは憎き錬金術師へ襲い掛かる。

アンク(あいつ)のだァァァァァァァァァ!!!」

 激昂したエールは、なおもガラへの追撃を続ける。

 体が挙げ続ける悲鳴を無視しながら。

「愚かな……、実に愚かな………。実の父にも道具として利用され、挙句人のぬくもりも、甘美なるものを味わう術も、愛した男すらも失った、馬鹿な女……。よくおめおめと生きているモノだ」

「だまれぇ!!!」

 怒りの咆哮を上げながら、少女は戦斧を薙ぐ。ガラはそれを軽々と避け、エールの頬に強烈な掌底をたたきこむ。

 よろめいたエールの腹に膝を入れ、くの字に折れ曲がった体にさらに回し蹴りを放つ。

「あぐぅ!!」

 たまらず倒れるエールは、歯を食いしばって痛みに耐え、また無謀にもガラに斬りかかる。

「バカの一つ覚えが」

「ガハッ!!」

 腹に膝が入り、エールは唾液をまき散らして悶絶する。

 よろよろとふらついたエールの胸に、ガラの鋭い爪が突き刺さる。

「!!」

 鎧を貫かれ、大穴を開けられたエールの胸からこぼれ落ちるのは、小さな銀色の塊の束だ。

「………かっ」

「……メダルは、頂いていくぞ」

 貫いたままの腕をエールの中で蠢かせながら、ガラはその中の無の力に手を伸ばしていく。

 鋭い爪の先が、紫のメダルに届きかけた時。

 ドガン!!

 という轟音とともに、ガラは吹っ飛ばされた。

「――――――!!?」

 ガラは突然のことに目を見開くも、地面を滑りながら倒れずに耐えた。

 怒りを込めた目で見やると、そこには怒りで肩をいからせたルフィが呼吸を荒くしてガラを睨みつけていた。その後ろで守られるように、エールが胸を押さえながら跪いている。

「エールに……、俺の仲間に何しやがんだ!!」

 ガラは忌々しげにルフィを見やり、次いでいつの間にかヤミーの姿がないことに気が付いた。

 見渡せば、ヤミーを全滅させたゾロや伊達丸たちが満身創痍ながら鋭い目でガラを睨みつけている。

 頭上からは、ぽつぽつと大粒の雨が降り始め、すぐに豪雨となり始めた。

「……分が悪い、か」

 ガラは舌打ちし、荒い呼吸のエールを見下ろした。

「……メダルは預けておこう。せいぜい醜くあがいているがいい」

 そう言ったが早いか、ガラは液体化して地面の中に溶け、消えた。

 興奮冷め切らない様子のルフィの背後で、がくりとエールは力尽き、倒れ伏す。

 倒れた先で、泥水がはねた。

「!! エール!!」

「エールさん!!」

 慌てて駆け寄るルフィたちの声を聞きながら、エールはゆっくりと、その意識を手放していった。

 

 *

 

「真実を語るのはいいが、一つ聞きたい。なぜ、ヒノ・エールが王だと思ったのかね?」

 雷鳴と、ガラスを雨がたたく音が響く中、コウガミが尋ねる。

「おかしいと思ったのは、最初に出会った時から。彼女の格好は、この島ではもう見られそうにない、古い民族のもの。そして、体内から飛び出したメダル。体内から組織を傷つけずに物体が現れるなんて、生物としての法則を大いに破っている……。これらは、800年前の王の話と酷似するわ」

 ロビンの目に、恐れを含んだ色が混じる。

 真実を知るという行為に恐怖を感じるのと同時に、彼女はそれを止められないのだ。

「……彼女は、もう、人ではないのね?」

 コウガミはすると、小刻みに体を震わせ、豪快に笑いだした。

「素晴らしいぃ!! 君の持つ、知りたいという探究心もまた大いなる欲望!! よかろう!! それでは語ることにしようか!! 800年間、禁忌として語られることのなかったオーズの真実を!!」




本小説は、基本的に劇場版風に仕上げていきます。

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