【完結】ONE PIECE Film OOO ―UNLIMITED DESIREー   作:春風駘蕩

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冒険漫画に出てくるオカマはなんかかっこいいですよね。
普通の男よりも漢らしいと言おうか……。


4.失くしたもの

 ふと聞こえた雨の音に、エールの意識は覚醒を始めた。

 もはや見慣れた天井だった。サニー号の医務室の天井をぼんやりと見上げながら、エールはふっとため息をついた。

 思い出した。全てを。

 気だるげにうなりながら体を起こすと、ベッドの下に見慣れた顔が爆睡しているのに気が付いた。

「……ルフィ」

 エールが呼ぶと、膨れていたはなちょうちんがパチンと割れ、ルフィは目を覚ました。

「んがっ……。あ、起きたか?」

「……あんたがね」

 ルフィもまた体を起こし、エールの座るベッドの前にあぐらをかいた。

 エールは少し警戒しながらルフィを見つめていたが、やがてルフィの表情がいつも通りであるとわかると緊張を解いて立ち上がった。

「ん。どこ行くんだ?」

「……わかっているだろう? あの男のところだ」

 ルフィはその答えににっと笑うと、ガツンと拳を合わせて立ち上がった。

「おっし!! 手伝うぞ!! おれもアイツ嫌いなんだ!!」

 鼻息荒く意気込むルフィだが、エールが返すのは。

「必要ない」

 というどこまでも冷たい渇いた返事だった。

 言葉を失くしたルフィがエールを凝視すると、エールは興味を失くしたように背を向け、ドアノブに手をかけた。

 慌てたルフィが、エールの肩に手をかける。びくりと震えるエールを、強く引き止める。

「おい!! 無理すんなよ!! お前だけで戦おうとすんなよ!! 仲間だろ!?」

 エールは肩におかれたルフィの手を恐る恐るといった手で触れる。

 だが、すぐにそれをそっと外す。

「…………仲間」

 小さな声で呟くと、エールはゆっくりと髪を揺らしながら振り返った。

 振り返ったエールの瞳に宿っていたのは、どこまでも渇いた虚ろな闇だった。

「……今の私には、もう何の意味もないことだよ………………」

 振り返りもせず、その場から立ち去るエール。

 ドアを開けて立ち去っていく彼女を、上のテラスにもたれかかるナミが、悲しそうに見つめていた。

「……なんか、前のエールに戻っちゃったわね……」

 その時、いつの間にか響いていた雫の音がやんでいることに気付く。

 

 雨が、止んだ。

 

 *

 

 コウガミの長い長い話を聞き終えたロビンは、ぐったりと疲れた様子でソファに座りこんだ。

「………全て、偽りだったのね。やはり」

「歴史とは、一部の当事者の都合のいいようにどんなふうにもゆがめられるものさ。いつの時代もね」

 グラスを片手に語り終えたコウガミは、静かに窓の外へと目を向け、ワインをあおった。

「……何が、彼らを動かしたの?」

 ロビンの問いに、コウガミは背を向けたまま深くため息をついた。

「……彼が変わったのは、親友を亡くした時からだという」

「!」

 ロビンはもたれかかっていたソファから起き上がり、コウガミの新たな話に耳を澄ませた。

「かつての王。錬金術師ガラ。そしてもう一人、同じく研究者であったマキという少年……。彼らは、幼少期から仲のいい友だったらしい」

 そういって取り出して見せたのは、もはや見慣れた一枚のセルメダルだ。

「オーメダル。この力の基本理論は、マキ少年が生み出したらしい。当初は彼らも、その力を〝守る〟ためのものと夢見ていたそうだ。……だが、時代が彼らの仲を引き裂いた。…危険な力を生み出したマキは、世界に殺された。世界を滅ぼす因子としてね。……生き延びたガラと王は、その日から誓ったのさ。親友を奪った世界に、復讐することを」

 語るコウガミは、どこが悲しげだった。遠い空を見つめるその目には、何かを懐かしむような色が見えた。

 それに気づいたロビンが、「……あなたは、一体……」とつぶやきかけた時。

 窓の外で、何かが光った。

 訝しげな表情で目を凝らしたロビンは、次の瞬間、目を大きく見開いて凍りついた。

「……!!?」

「もはやガラは、本当の化け物になってしまったらしい」

 呟いたコウガミと、硬直したままのロビンの視線のはるか先で、遠く離れた海上に、銀色に輝く何かが形を持ち始めていた。

 

 *

 

 銀のメダルが陽の光を反射し、ジャラジャラと金属音を鳴り響かせながら、ソレは形を成し始めた。

 銀の輝きが徐々に高く高く伸び始め、下から徐々に固まり始める。木の根のように海中に深く突き刺さった鉄柱がズン、という音を響かせ、はるか上が宮殿のような形に変わる。

 さほど時間をかけず、メダルの塊は空を突き刺す巨大な塔になった。

「な……、なんだあれは……」

「ヒィィ……」

 怯えた声で後ずさる、島の住人達。

 天敵のいないこの島に住み続けてきた彼らにとって、その塔は初めて意識する恐怖の対象だった。

 ざわざわと騒がしくなる島を見下ろし、ガラは塔の上でにやりと笑った。

 

 800年の時を超え、真の欲望の王が動き出したのだ。

 

 家屋の中にいた伊達丸が、外の異変に気づき、慌てて駆けでて行った時、外はまるで阿鼻叫喚の地獄だった。

 町は悲鳴を上げて怯え惑う人々で溢れ、互いに押し合いながら一目散に逃げていく。誰かが倒れても、助けようという気が起こることもなさそうだった。

「……いよいよ、おいでなさったってわけかい」

 遥か頭上を見上げながら、伊達丸が呟く。

 にやりと肉食獣のような笑みを浮かべているが、顔は土気色で冷や汗を大量にかき、今にも倒れそうだ。

 師の様子を不安げに見上げていたことは、ふいに意を決した表情になって伊達丸の前に立った。

「……師匠。お願いがあります」

「?」

 伊達丸が訝しげな表情になると、コトは衝撃的な発言をする。

「バースドライバーを、私に下さい」

「は!?」

 素っ頓狂な声を漏らし、伊達丸は自分よりはるかに小さな愛弟子を、目を真ん丸にして見下ろした。

 呆然とした表情の師匠を見上げるコトの目は、いたって真剣だ。

「……師匠には、死んでほしくないんです」

「バッカ!! 死なねェために今頑張って……」

「師匠は!!」

 急に声を張り上げたコトの様子に、伊達丸は一瞬押され、怒鳴るのをやめた。

「師匠は!! 私の越えたい壁なんです!! 私のなりたい目標なんです!! それを、こんなところで、……私の夢を、終わらせたくなんてないんです!!」

 息を切らせながら、言いたいことを全て言いきったコトは、硬い意思のこもった瞳で伊達丸を見上げる。

 師匠はそんなことを厳しい目で見下ろし、両者は黙って睨みあう。

 喧騒が遠くから聞こえる中、ふいにコトがふっと自嘲気味に微笑んだ。

「……勝手ですね」

「そーだな」

 呆れたような伊達丸の返事に、満足したように笑ったコトは、素早く伊達丸からバースドライバーを奪い取り、すぐに背を向けて走り去った。

「あ!!」

 慌てた伊達丸は腕を伸ばすが、もう追いつかないと判断すると、微笑みながらその手を降ろした。

「……なーんか知らないうちに、大人っぽくなっちゃったなぁ~」

 ふとした寂しさを感じながら、子の成長を喜ぶちょっとした親のようなうれしさを感じ、伊達丸はくつくつと笑った。

「……しょうがない。かわいい愛弟子のために、もうちょっと頑張りますか」

 コトに背を向けた伊達丸は、さっきまでの弱々しい足取りとは打って変わって、確かな足取りで、コウガミコーポレーションに向かった。

 

 *

 

 サニー号の上でも、外の異常は伝わっていた。

「なんだぁ……。ありゃ……」

 目の前に高く高くそびえたつ銀の塔に、ルフィは釘付けになった。

 対してエールは、さほど狼狽した様子もなく、逆に時が来たか、という表情で塔を見上げていた。

「……名指しで来いと、そういう事か」

 エールは皮肉気につぶやくと、静かに体内から紫のメダルを解き放った。

 ガシャン、とはめ込まれるメダルを合図に、ルフィたちがそれぞれの得物を構える。

「おーし! 待ってろよガラ……!!」

「来ないで」

 短く吐き捨てたエールは、意気込むルフィたちを置いて前に出た。

 そしてスキャナーを取り外し、メダルに順にかざす。

[プテラ・トリケラ・ティラノ! プットッティラ―ノザウル――ス!!]

 一瞬にして、極寒の氷の力を秘めた鎧をエールがまとい、バサリと巨大な翼が広がった。

「……この戦いは、私の手で決着をつけなきゃいけない。……お願いだから、来ないで」

 冷たく言い放つエールの肩を、ルフィが掴んだ。

「何言ってやがんだ!! お前ひとりで勝てなかったじゃねェか!!」

「そうよ!! あんた一人でどうにかできる相手じゃないわよ!!」

「もう、これ以上!!」

 肩をつかむルフィの手を払いのけ、エールは声を震わせながら言い放つ。

「…………これ以上、私の心をかき乱さないで」

 そうつめたく、だが苦しげに吐き捨てると、エールは制止するルフィたちを無視して空高く飛び立っていった。

「エール!!」

 慌ててルフィがゴムの腕を伸ばすも、辛くも、指先だけがかすっただけで、その手は届かなかった。

 

 *

 

 飛行していくエールを、コウガミは建物の上で静かに見つめていた。

「……遠い我が先祖よ。彼女の選択がどうなるか、あなたにもわかるまい」

 コウガミは興味深そうにつぶやきながら、さっきまでの事を思い出していた。

 部屋にいたコウガミのもとに、エールがやってきて、唐突にこう言ったのだ。

 力が欲しい、寄越せと。

 コウガミは、その要求を、満面の笑みで了承したのだ。

「世界が変わるこの日に、ハッピーバースデェェイ!!」

 若干の狂気を感じさせる叫びとともに、コウガミは高らかに笑った。

 

 *

 

 ―――ありがとう、ルフィ。

    本当は、すごくうれしかった……。

 

 風を切りながら、エールは内心、胸の内に感じる熱に浸っていた。

 

 ―――でも、どうしても、ルフィたちを連れていくわけにはいかないんだ。

    だって、これ以上私は何かを失いたくなんかないから。

    大切なものを守れなかった私に、一緒に戦う資格なんて、ないから……。

 

 目を閉じれば、思い出せるルフィの言葉。

 仲間。その一言だけで、エールの胸には、もう一度真っ赤に熱く炎が燃え上がった。

 

 ―――すごく、勝手なことを言うけど……。

    この戦いが終わったら、ほんとの仲間にしてくれるかな………。

 

 ふっと微笑み、そしてすぐにその笑みを消すと、エールは目の前の黒い影をキッと睨みつける。

 その先に群がるのは、数えきれないほどの異形の群れ。いつの間にかわき出ではじめた異形たちは、翼竜や鳥、昆虫の翼を目いっぱい広げ、異形たちは耳ざわりな咆哮を上げていた。

 戦斧を握る手に、力がこもる。怒りが、全身に気力を与える。

 大切なものを守るため、少女は低く轟く、激情の雄たけびをあげた。

「ああああああああああああああああああ!!!」

 

 *

 

「ふみゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 砂浜に、幼い少女の気合いのこもったうめき声が響く。

 小さな足が一歩踏み出すと、砂浜に乗り上げたライオンヘッドの海賊船が、少しずつ海へ向かって動いていく。

 ヒナがサニー号を押してくれている間に、麦わらの一味は着々とマストをたたみ、ロープで縛っていく。

 甲板からナミが顔を覗かせ、ヒナに申し訳なさそうな表情を見せた。

「ごめんねー? こんなことまで手伝わせちゃって」

 ナミの謝罪に、ヒナはぶんぶんと大きく首を振り、弱々しく微笑んでみせた。

「私にできるのは、……こんなことでしかないから」

 そういって、町の方を見やるヒナ。

 多くの人でにぎわっていたはずの町からは人の気配が一切なくなり、ガラリとさびしくなってしまった。

「……みんな、こんなこと初めてで……。怯えちゃって…」

 目を伏せていたヒナは、ナミに申し訳なさそうな表情を向け、首をかしげた。

「むしのいいお願いかもしれないけど、……私たちを、助けてほしいの」

「……まかしといて!」

 ナミは不安がるヒナを元気づけるように、ぐっと力強く拳を握りしめてみせた。

 だが、次いで呆れたような顔になり、後ろを振り返った。

「……それはそれとして……」

「さぁ、みんな!! いっぱい食べて!! どんどん食べて!! 残さず食べて!!」

「おかわりもたくさんあるわよ~」

「どうぞ」

「あ、どうも」

 と、何故かサニー号の下で、大量のおにぎりやおかずをスタンバイさせていたクスクシエの店長、チヨ、シンゴにおにぎりを渡されて、口いっぱいに頬張っていたルフィだったが、ふと気づいて店長を見つめた。

「おっさんなんでいるんだ?」

「あんたたちの手伝いをしに来たんじゃないのぉ!!」

 聞かれて店長は、気持ち悪く体をくねらせて答えた。サンジはおにぎりをほおばりながら吐きそうになったが、料理人として必死にこらえた。

「あたしはねェ、故郷の王様からずっとこういわれてんの!!『いいこと? ヴァターシたちはね、いつだって、どんなときだって、気高く美しくなければいけないの!! たとえ相手がどんな奴だったって、決して力に屈してはいけなっキャブル!!』…ってね」

「たくましーやっちゃな」

 思わず呟くウソップ。

 店主はふとシュンと俯き、両手を祈るように組み合わせて、城の方向を悲しげに見上げた。

「……あの子が、どこか壊れちゃってるってのは気が付いていたわ。あたしの夢は、あたしの料理でみんなを笑顔にすること。…でもあの子は笑ってくれなかった。それだけが唯一の心残り」

「ずいぶん気にかけてんだな」

 フランキーがそういうと、店主はキッと睨みつけてきた。

「当たり前じゃない!! あの子にはねェ、あたしの料理をうまいって言ってもらってないのよ!! 料理人としてこのままにしておけないわ!!」

「……初めてお前に共感おぼえたぜ」

「そりゃどうも!!」

 もはややけくそ気味に返した店主は、そのままルフィにキッと向き直った。

「任せたわよ!! みんなで勝って、きっと戻ってきなさい!!」

「……行くなら、私も同行させてください」

 ふと聞こえたその声に振り向くと、そこには銃とベルトを装備したコトが胸を張って立っていた。

「……お前、そのベルトは」

 ゾロが尋ねると、コトは静かに頷いた。

「師匠からパクってき………もとい、借りてきました。後で殴られると思います」

「…大した覚悟だ」

 ゾロは呆れたような感心したような溜息をつき、コトは黙ってその隣に立つ。

 ルフィは最後のおにぎりを口に放り込むと、「しししし!!」と笑って、改めて仲間たちを見渡す。

 みんな何も言わない。だが、その目に宿った硬い意思だけは感じ取れる。

 答えは、それだけで十分だった。

 ぐんと腕を伸ばし、サニー号の鬣をつかんでその頭の上に立つと、ルフィは仁王立ちして空を見上げる。

 遥か高くそびえたつ、銀の塔を睨みながら、ルフィは大きく息を吸い、声を張り上げる。

「行くぞォ!! 野郎どもォ!!」

「おう!!」

 誓いの拳を天にかかげ、麦わらの一味は、欲望の王の下へと向かう―――――。


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